異動なんて望んじゃいない。
『営業部 鈴木殿 本日付で技術部技術3課での勤務を命ずる』
それはあまりにも突然のことだった。
「まあ、そういうことだ。お前はまだ若いんだ、新しい環境でもうまく動けよ」
そう言いながら俺に異動命令書を渡す上司。
毎日外回りで飛び回る生活から、社内でのデスクワークへと変わる。肉体的な疲労は軽減されるかもしれないし、営業から技術屋にかわるということ自体、個人的にはうれしく思う。ただ…
「技術的な知識なんて全くないけど大丈夫なのか?」
不安に駆られながら荷物を整理し、営業部を出る。大丈夫ではない。
「そもそもなんで部署を移動しなければなんないの、俺、そんなに営業向いてなかったか?」
移動中に愚痴を漏らす。まあそんなに重要な仕事は任されたことはないが。
「おはよう」
技術棟へ向かう通路で、声をかけられる。
「おはようございます。あ、技術部ってこのまま進めば着きますよね?」
「おう。このまままっすぐ行って階段を上がれば着くよ。新人さんかい?」
「新人ではないんですけど、今日から技術3課に異動することになったんです」
そういうと、声をかけてくれた方が驚いた様子で
「技術3課だったらこっちじゃないね。あれは反対側の棟にあるんだ」
「えっ」
まじか。普通に技術部のある棟に向かっていた俺は、その言葉を聞いて焦る。
「1課と2課はこの先だけど3課はちょっと作業の質が違うからね。
とにかくこっちじゃないから早く向かいな?」
「あ、はい。ありがとうございます」
つたない礼をしつつ、来た道を戻る。まさか技術棟とは別の場所で作業しているとは考えもつかなかった。
「ちゃんと社内地図覚えておけばよかったな」
呟きながら、教えてもらった場所に向かう。スマホを取り出して時間を見ると、もう作業開始時刻を過ぎてしまっていた。
異動初日に作業遅刻はまずい。俺は慌てて場所へと向かった。