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08 奇妙な食物に添えられしは追憶

 石川和奏。

俺は、彼女のことを知っている。


 彼女と出会ったのは、三年前、中学一年生の頃だ。

三年前。その時の記憶を明確に把握はしていない。だから、今思い出せるのは断片的な記憶と、後は都合よく書き替えられたであろう、もう思い出せられない記憶だけだ。

それでも、彼女のことを忘れるわけにはいかない。

だから、少しでもあの時を思い出そうと思う。丁寧に、丁寧に、割れないよう大事に。


 一人で公園のベンチに座っていた時だった。

何の挨拶もなく、何の素振りも見せず、まるでそうすることが前々から決まっていたように、彼女は隣に腰掛けた。

 そして、俺が聞いた第一声は


「おめでとう。君は世界を救う勇者となった。だって私が認めた男だからね」


 意味が分からなかった。


「なにとぼけた顔してるの? って、ああ! ごめんね急に変な話しちゃって!」


 頭をぶんぶん縦に振って謝り倒す。

そこまでされたら、許す以外何もできないと思うけど、公園にいる子どもが全力でこっちに興味津々な眼差しを向けてくる。見世物じゃないから、ほらこっち見ないの!


「まあ、私がさっき言った通り、君はいずれ世界を救うよ」


「えっと…… 同じクラスの石川さん、だよね?」


「そうだよ。こう見えて友達は結構いるから安心して! 変な子とかじゃないから!」


「ごめん。そういう気分じゃないんだ」


 確かこう言って彼女の話を遮った気がする。今思えば、急に名前を確認するなんて頭おかしい奴なんじゃないか、と思うけど、当時の俺はそんな些細なことを気にする心の余裕なんて無かった。


「どうかしたの? 悩みなら私が聞くよ」


「聞いたって何も変わらないだろ。俺が欲しいのは同情じゃなくって解決策と安心していられる世界だし」


「私に考えがある。世界は変えられる」


「そう言う奴は大抵失敗するぞー」


「いいよ、だって私は君の力になればそれでいいし」


「あのなぁ…… 救いの手を差し伸べてるつもりだろうけど、結局は『人助けしてる私凄いな』ってのを実感したいから出来る行いだろ。自分の価値がそんなことで上がるんだったら誰も苦労しなさそうだけど」


 言っていることが支離滅裂だった。

多分その時は、ああ言っておきながら期待していたんだろう。

世界が変われば、救われるのならば、安心していられる世界が待っているんじゃないか。

なんて思ってたに違いない。


「──で? 知ってるの、知らないの?」


 おっと、今は話の途中だった。

結論から言うと、知っている。けど、彼女のことを、彼女との思い出を話すには、まだ少し抵抗がある。


「もし、知らないって答えたら……?」


「その場合は、貴方に用は無いと判断して元いた世界に返すわ」


 知らない、なんて答えて日本に戻ったら異世界での話終わっちゃうじゃないか! まだ人生は続くけど! 一つぐらい輝かしい思い出とかは残しておきたいな! 例えば……

って変な方向にしか向かないぞ、落ち着け俺。


「知っている。以上」


「へぇ、えっとそれじゃあ……」


 口をもごもごさせながら何か喋りたそうにしているセシル。どうした、やっぱ熱でもあるんじゃないか。


「キ…… 接吻はしたのかしら……?」


 なんだ、何を言い出すかと思いきや接物はしたのか、って話か。


 ……接物!?

え、え、接吻ってあれだよな、キ…… キスだよな!?


「最後にしたのはいつか! 誰としたのか! 回数もやり方も教え…… や、やっぱり恥ずかしいぃ……」


 一瞬インタビュー受けたような錯覚に陥ったけど絶対違うよな。

てか、ただの接吻にそんなこだわりがあるのか謎だ。


「え、ちょ、黙秘したいんですけど」


「駄目よ。如何わしい質問だけど、そ、その、回数ややり方で今後の貴方への処置が決まるわ……」


 うわっ、みるみる顔が赤くなってきている!

こういう時、鈍感な男子は熱があるとか何とか考えるかもしれないけど、カズヤ知ってるよ。今絶対恥ずかしがってる。


もしかしてウブなのかもしれない。こういうウブなキャラの攻略方法は分からないのでwikiで調べるか。

載ってないしネット使えないけど。


「回数とか覚えてないんですけど」


「それは『数えられないぐらいした』のか、それとも『やったことがなさ過ぎて覚えていないのか』、どっち?」


「前者が正答だ」


「では次。誰としたの?」


「察しが付いているかもしれないが、和奏とが一番多い」


「まあ分かっていたわ。貴方みたいな人が彼女以外の女と接吻なんて出来そうにないし」


「ファーストキスは母親だぞー」


「産まれた愛情から行われる接吻は数えないわ。そもそもそんなことする人は人間だけだし」


「そ、そうか……」


「はい、じゃあ次。最後にしたのはいつかしら?」

 

 なんか段々如何わしいビデオのインタビューっぽくなってきてません?


「最後にしたのは…… いつだっけか。 いなくなったのが一月だったから、三ヶ月前かな」


「じゃあ最後。どのような接吻だったか。えっと…… 単なる口づけか、それとも、その、もっと深い愛を確かめ合うようなものか……」


「後者だ」


「……なんでそんな淡々と答えられるの!?」


これは質問の内に入るのか!?


「……何処かの誰かさんみたいにウブじゃないからな。どちらかと言えば真逆だと思うし」


「仕方ないじゃない! 私、そういうのとは無縁の生活を送ってきたし……」


「別に知らないことが悪いことではないだろ。むしろ、知らない方がいいってもんもあるだろうし」


出た!! 人生で一度は使ってみたかった言葉第3位!!

『知らない方がいいこともある』!!


こんなセリフを言える日が来るなんて……

ありがとう異世界! ありがとうウブなセシル!


「そう。まあ、少しなら知ってるけど別にいらない知識よね。というか、それにしても不味いわね……」


 顔をしかめ、そのままじっと睨み続けられている。

訪れる沈黙。インタビューはこれで終了らしい。

それと鼻孔を刺激する良い匂い。


「……いい? カズヤは食後、さっきまで居た部屋にもう一度来て。出来ればエレナとネーフも来て欲しいのだけれど……」


「良いですよ、ちょうど料理も出来上がった頃ですし! ネーフちゃんは?」


「ボクもいいよー! キミの体がどうなってるか興味あるし!」


 良い匂いがしてたと思ったら料理作り終わってたのか、意外と早いな。ましかして手抜き…… って、淫乱メイド(自己解釈)に限ってそれは無い。はず。


 出された食事は、パン、トカゲみたいな謎の生物を丸焼きにしたであろう謎の食べ物と、これまた奇妙な紫色をしたスープ……かもしれない何か。色で濁って見えないけど、多分この中に命がらがら取り返した蕪が入っているはず。


「じゃあ、まずは食事をしましょうか」


「そうね、話は食べ終わった後…… 美味しそう……!」


「うん! 良い匂い! ボク最近奪ったもので食べ歩きしてたから、久しぶりに座って食べられる!」


 うん! それ犯罪だよな! 大丈夫かこの世界!

盗人を野放しにするとかどうなってんだよこの世界!

しかも食べものが大参事になってる気がするんだけど! これ美味しそうって普段何食べて生きてんの!?


「……んじゃ、俺も腹減ったし、有り難く頂くかな……」


「あら、やけにテンション低いですね。私が『あーん』して差し上げましょうか?」


「是非お願いします」


「嫌です。何で無償でそんなことしなくちゃいけないんですか」


「なら初めから話振るなよ…… それと一瞬でも期待した時間返して」


「ま、そんな事はさておき。それでは皆さんご一緒に!」


「「「いただきます!」」」


「……いただきます」


 消費されるものに対する感謝の言葉を言うタイミングが分からず逃したけど、誰も気にしていないみたいだ。


 問題は、いかにこの見た目から危ない匂いがする食べ物から逃げ切るか、ということだよな。


 はぁ…… こんなことなら日本に返してもらうべきだったかもしれない。






余談ですが、夜間に小説を書いていたりすると必ずと言っていいほどお腹が空きます。

それだけです。オチなんてありません。

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