04 頼み事
「カズヤさん!こっちです!」
突然エルナに名前を呼ばれ、ばらばらになっていた意識が元に戻っていく。
いつの間にか開かれていたドア、そこから見える人影。
腕を摑まれ、少し貧弱な声を上げたあと、そのまま部屋の外へと連れていかれた。
「ど、どこに向かっているんだ?」
訳が分からなすぎる。
何が何だが分からない、状況が何一つ伝えられていない。
しかも頭が痛い。
寝すぎたかな。 あれ、今日は休日だったか。
「ふっふっふっ、今からカズヤさんにはおつかいをしてもらおうと思います……」
彼女は、まるで意地悪をする子どものような表情を浮かべ、笑っていた。
だが、その笑顔は、嬉しさから出たものでも何でもなくて。
……行き止まりだ。
彼女が笑っていたのは、これか。
夢中で走ったからか、今まで来た道を覚えていない。
が、ここが城内の廊下であることは流石に分かった。
目の前に見えたのは、手入れをしていなさそうな髭が特徴の————
知らない人だった。
先頭に立つ男は、少しウェーブがかかった長い金色の髪、吊り上がった目の男。
他の奴は、頭に甲冑、顔に派手なタトゥー等、所謂”イカつい”集団である。
その数、6人。
廊下に群がり、ここを通さまいと俺たちを阻んでいる。
……逃げるルートを考えなくては。
だがしかし、進行方向には人が、まして部屋の位置も知らないので、憶測でこの城内の間取り図を考えてみた。
廊下を進み、少し右に行くと階段がある。
それを下れば、悠々と並び立つ肖像画が目立つ一階の大広間へ。
階段を下るのが安全策だが、それを行うには彼らを倒さなければならない。
ここからでも飛び降りれば行けないことはないが、この高さだと骨の1,2本は折れるだろう。
ということは、多分正門から入ってきたのだろう。
いや警備薄過ぎるだろ。
「よぉ。 初めまして、かな? お嬢さん」
そう声をかけたのは、先頭に立つ金髪の方。
「そうですね、初めまして。 で、何しにここにやって来たんですか」
隣で丁寧に礼をし、彼女が笑う。
「カズヤさん、この後パーティーを開こうと思うのですが……」
何故ここでそんな発想できんだよ。
「いやいや、あいつら6人もいんだぞ? いくら2人、いや、実質1人でこの数の相手をするなんて、そんなの詰みゲーだろ」
「そうですね、難攻不落のデスゲーム、楽しそうじゃないですか。 無理だと思ったらそこでゲームオーバーですけど、こういうのって燃えません?」
燃えるかよ。
これはゲームなんかじゃない。
やればやっただけ結果が付くから、それがゲームなのであって、いくらやっても結果が付かない現実とは大違いだ。
命も1つしかないし、元から選択肢があるわけでも供用されるわけでもなく。
つまんねえよ、やっぱり。
「カズヤさん、ちょっといいですか?」
考え事していたら周りが見えなくなってたよ、怖いね。
「ん?」
「パーティーに出す食事のために、おつかいを頼みたいのですが」
「この状況で!?」
「うっせえよ、行くぞお前ら」
盗賊の奴等がこちらに向かって走り出す。
足が小刻みに震える、心臓の鼓動だって早くなってきた気がした。
怖い、死ぬ。
このままじゃ死ぬ。
スキルとか一切貰わなくて死ぬ。
ここで死ぬ。
するとエルナは、俺の手を掴み————
飛んだ。
浮遊、ということではなくちゃんと落下した。
となると————
「「うわああああああああ!!!!!!!!!!」」
そう、飛び降りたのだ、大広間へと。
怖い怖い怖い死ぬ死ぬ死ぬいや死ななくても骨折れる折れる折れる。
目を瞑った。
ポキッ、とも、ましてボキボキッとも鈍い音はせず、聞こえたのは静かな、それでいて美しい着地音だった。
お姫様抱っこ、という形で抱かれ、空中から落下し、浮き上がるスカートに視界を奪われる。
いい匂いです、女の子特有のあの甘い匂い。
舞ったスカートにより、上からなら下着が見えただろうと悔やむ。いや見えてないかもな。
「カズヤさん、ここからは私のターンです。 ずっと私のターンです。 だから、カズヤさんにはその間、おつかいに行ってほしいのです」
にっ、と白い歯を見せ、笑う。
その笑顔で、気づいてしまった。
俺は、彼女の役に立っていない。
知っている。分かっている。理解している。
だって、そんなことは明白で、明確で、明瞭だから。
事実を知って後悔はしてない、でもただただ自分が憎い。
だから、これぐらいはしてやらないと。
そうして渡されたのは、布で出来た袋。
言いつけは、野菜の蕪を1玉買う、あと、余ったお金は勝手に使って良し。そして注意されたのが、帰るまで何も食べるな、と。
逃げるようにそこから走り、外へと出る。
久しぶりに見た太陽が眩しくて、つい目が霞んだ。
瞼を上げると、両の目に映った雄大な景色が、目に有り余るほど広がっていた。
次回は、早ければ一週間後に更新します




