トゲはツンツン、悪魔はデレデレ
「レティ、三面鳥の赤焼きプリンってどんなのかしら」
少女は喫茶店のメニュー表を眺めていました。
「三面鳥の卵から作ったプリンよ」
「卵ノ赤身ガプリンノ色ニヨク出テイルカラソウ言ウ名前ナンダ。結構美味シイヨ、ケケ」
2人がそうやりとりをしていると髑髏の仮面を被った悪魔がドアの外からやって来ます。
カウンターテーブルまで歩くとレティは悪魔に気づきました。
「あらテッド、遅かったわね」
「クオガ待ッテイタゾ」
「ああ。花畑で小鳥が怪我していたから手当してな、それで遅くなった」
紅茶をくれ、と悪魔のテッドは少女の隣に腰掛けました。
「テッドも花売りをしているの?」
「してない。それと言っておくが俺の名はティグモーレッドだ。その事も知らずに気安く『テッド』と呼ぶなよ、ヒト」
「え、ええ」
辛辣な態度をとるテッドに少女は困った顔をします。
お互いに何も喋らず2人の間に気まずい空気が流れていました。
「テッド、はいつも仮面を被っているの?」
少女は何とかその空気を打ち破ろうと口を開きました。
「被っているさ。この俺の顔を見た日には1日中気を失う事だろうな」
テッドの辛辣な態度に少女はまた口を閉じ自分の持っているコーヒーカップに目を向けました。
「それに、お前には分からないだろうが、これは悪人の愚かな傲慢と哀れな欲望が詰まった素晴らしい仮面なのだ」
しばらくすると、少女は席を立ちました。
* * *
テッドが優雅に紅茶を飲んでいるのを見て、クオはペタペタと早足で近づきました。
「ようクオ」
「ちょっとテッド。気安くだの、お前には分からないだの、そんな態度取ったらヒトが傷つくでしょ」
クオの言い分にテッドは理解できないと言わんばかりに首を傾げました。
「そんな態度って言ったって、いつもの事だろう」
「ヒトは僕らとは違うんだよ。ほら、見てみなよ」
クオの視線の先にはドアの近くで花瓶に入った白い花に顔を向けながら片手で目のあたりをゴシゴシ拭いている少女の背中が見えました。
「げっ、泣いてる」
「ほら、あの子は僕らと違って傷つきやすいんだよ」
テッドは顔を下に向け目を泳がしました。
「どうすりゃ良いんだ」
「謝りなよ、素直にさ」
「そ、そうだな」
テッドは少女の後ろに立ちました。
「なあヒト。ああ、そのな、まさかそんなに凹むとは思ってなくてだな、その、すまなかったと言うか」
テッドが話しても少女は振り返りません。
クオはムッと頰を膨らませました。
そんな天使をテッドは見ると言葉を止め、頭を下げました。
「ごめん」
「え?」
少女は振り返り素っ頓狂な声を出しました。
クオはテッドを庇うかのように自身の後ろへと追いやりました。
「あ、あのね、テッドも悪気があってやった事じゃないんだよ。その、君が泣くほど傷つくなんて思ってなかったみたいでさ」
「傷つくって?」
「え?」
「は?」
少女の言葉に今度はクオとテッドが素っ頓狂な声を出しました。
「泣いてないわよ。花がいきなりくしゃみして花粉が目に飛んじゃってね」
「そ、そうだったんだ」
テッドはクオを睨みました。
「おいクオ、つまりお前の早とちりって事じゃないか」
「ご、ごめんねテッド。てっきり僕は君の態度で泣かせてしまったんじゃないかとばかり、イテ、イテテテ」
テッドに頭を両手でグリグリとねじ込まれ、クオは痛さに軽く涙を流しながらひたすら謝り続けました。
「このドジ天使め、今日という今日は許さんぞ」
少女はその様子を見ながらカウンターテーブルの方に近づきました。
「レティ、止めた方がいいのかしら」
レティは洗い物に目を向けたままでした。
「気にする事は無いわよ」
「アノ悪魔ハタダ素直ニナレナイダケダヨ、ケケケ」
少女は首を傾げました。