花はトゲトゲ、天使はオドオド
カフェの中が盛り上がっている中、少女は装飾品を見て回ってました。
ここに来たばかりの時レティに声をかけられ絵画以外じっくりと見れませんでしたが、ドア近くの棚にはウサギの人形にチェス盤と色んなものが置いてありました。
その中に植木鉢に生えた赤いバラが置いてありました。
「普通のバラとは何か違うような気がするわ」
少女は花が気になって手をゆっくりと伸ばしました。
ーーすると。
「えーと、触らない方が、いいよ」
後ろから声が聞こえ少女はびっくりして伸ばした手を引っ込めました。
「その花はね、あまり人に触られる事をね、好まないんだよ」
注意したのは花カゴを片手に持ち白くフワフワした髪の毛と羽を持つ天使でした。
天使に気づいたレティは声をかけました。
「あらクオじゃない。花売りの調子はどう?」
「えっと、うーん、まあまあかな。それより飾りにってこの花を持って来たんだけど、どうかな?」
天使のクオは花カゴの中から白くバラのような花をいくつか取り出しました。
「綺麗な花ね。是非飾らせてもらうわ」
「店ノ装飾品ガ少シ寂シイト思ッテタンダヨ、ケケケ!」
レティは青い花瓶を取り出しクオからもらった花を入れました。
「その、なるべく高すぎない所に置いて欲しいかな。この花はそう願ってるみたいだから、ね」
「花が願う?」
少女は思わず声を出しました。
「花は何も言わないでしょ」
「ううん、どう飾れば綺麗で美しく見えるのかはね、花が一番知っているんだ」
クオは花カゴの中から一本の花を取り出し続けて言いました。
「ここに飾ってある花はね、どれも『ここに飾って欲しい』って花が言ったから置いているんだ。花はみんな『綺麗に咲きたい。誰かに美しいと思われたい』って、一生懸命なんだよ」
だからね、とクオは少女の方に顔を向けました。
「その、綺麗だからって無闇に触っちゃダメだよ。花だって触って欲しい時と触ってほしくない時が、あるんだ」
少女は親に怒られてしまったかのような顔をしました。
「ごめんなさい」
少女が謝るとクオの方も「いや、えーとね」、と申し訳なさそうな顔をして片手で頭の後ろを摩りました。
「まあ、その、触ってみたくなる程花が綺麗だと思ったんでしょ?それなら、花の方も嬉しいって思うよ、きっとね」
クオが頼りなさげにエヘヘと笑うので、少女は反省と笑いたいという気持ちが両方出たような表情をします。
そのあまりにおかしな顔を見られないようしばらく下を向いているのでした。
* * *
一方その頃、レティはクオからもらった花を花瓶に入れて置き場所を探していました。
「玄関近くの棚辺りが良いかしら」
場所を決めたレティは花瓶をコトッと音を立てて置きます。
すると花はユラユラと揺れてレティの指に棘がチクリと刺さりました。
「痛っ」
レティの指から血がプクッと流れ出しました。
「花の機嫌がちょっと悪いみたいね」
「置き方が乱暴すぎるだけニャ。もっと優しくしニャきゃいかんね」
レティの足元で様子を見ていたククロはフフンと鼻で笑いながら右前足で顔を擦りました。