店主はバケモノ
ふと気がつくと、少女は真っ暗な空間に居ました。
「ここはどこなの」
後ろを見ると木造りの小屋があります。
気になった少女はドアの前まで足を進めました。
『〜レティの喫茶店〜只今オープン中』
他に行くところもないし、と少女はドアを開けます。
中を見ると丸いテーブルにイス、奥にはカウンターテーブル。
その空間を壁掛けランプやシャンデリアの黄色い光で包んでいました。
「この絵は何かしら、不思議な感じだわ」
少女が見ている壁の方には暗く、少し赤みがかった空に覆われた西洋の街を描いた絵画が飾られていました。
すると、カウンターテーブルの方から声が聞こえました。
「いらっしゃい」
声をかけた女性は顔の右半分が焼け焦げたかのように赤黒く、まるで化けの皮が剥がれているかのようでした。
「そこに立って居てもしょうがないでしょ、こっちに来なさい」
「ケケケ、ジュースデモ飲ンデイキナ!」
左半分の顔が眠たそうに言うと右半分が喋ります。
二つの声は全く別の生き物なのかのように異なっていました。
少女はカウンターテーブルの席に恐る恐る着きました。
「ヒトのお客様なんて珍しいわね、何か飲んでく?」
「ブラッドオレンジジュース飲ンデケ、コーヒーモ良イゾ!」
「……じゃあコーヒーで」
「あいよ、ちょっと待ってな」
「1分ハカカルカラナ!」
* * *
「…美味しい」
出されたコーヒーは今まで飲んできた他のそれと比べにならないほど美味しいものでした。
「それにしても貴女、何故このカフェに迷ってきたのかしら」
少女は何も答えずまだ若干残っているコーヒーカップを見つめるだけでした。
「まあ、良いわ。ここでゆっくりしていきな。ケーキもあるわよ」
「レティ特製マタタビケーキ、ココノオススメ!」
少女が返事する間も無く店主レティは奥の部屋に引っ込んで行きました。
「やっぱり美味しい」
もう一口飲んだコーヒーは熱いだけでなく何か別の暖かさを感じるのでした。