第8話 ミラージュガイ
「回路維持元装置で何が出来るんだ?なんでアイツらはそれを狙ってるんだ?」
豪は回路維持元装置についてトリシャに問う。
「…回路維持元装置はね、オルヴィ・テラ文明の科学を象徴する装置。登録された人物の意図に従って雨を降らせたり草木が生える土を作り出したり、生物を作り出すことや甦らせる以外ならなんでも産み出せる。登録された人物が望めば核兵器にもなるわ」
「??」
晴彦はトリシャの説明内容が難しく思い、わからない。
「つまりはな、生き物以外ならなんでも出すし天気も操れる装置だ」
「あ!そっか!」
セイラの見解でようやく晴彦は理解する。
「確か植物の種も作って出せたわ。あれは生き物って言うかDNAの情報端末みたいなのだから」
「え?植物の種って基本受精卵だろ?生き物じゃないのか?」
「問題視するとこそこじゃない」
トリシャとマキトが話を進めると豪が止める。
「…ゼテオブルーメも多分一番の狙いはそれよ」
トリシャは本題に戻す。
「装置も王子も行方知らずか…大丈夫かこの状況」
「言わないでよ」
セイラの正論にトリシャはまた凹む。
「でもその装置と王子見つけないとゼテオブルーメがまた地球に手出してくるんじゃないか?」
晴彦もさすがに危機感を感じる。スマートフォンを取り出しニュースサイトを四人に見せる。
ゼテオブルーメにまつわる被害のニュース。幸い死者はいないが怪我人や拉致された人が数名いるのがわかる内容だ。
「なんか呑気にしてる場合じゃねえかもな…」
マキトは言う。
※
翌日の昼。童洛第一高校の校庭。長めのベンチで晴彦とセイラとマキトは昼食をとっている。
「おお…確かにうまそうだ」
真ん中に座るセイラは右隣のマキトの弁当を見て目を輝かせる。
「俺も昨日初めて見た時はびっくりしたよ。食ってもうまいし」
「ひとつやるよ」
「おお、ありがとう」
マキトの弁当の玉子焼きをセイラは食べる。
「晴彦、昨日帰ってからニュース見たか?」
マキトはセイラの左隣の晴彦に訊く。
「え?…もしかしてシャドーバトラー?」
「!」
食べながらセイラも反応する。
「確か他校の近くに出た兵士を一体倒したって言ってた」
「トリシャはアイツのことなんか言ってたか?」
「アイツのことは何も知らないって。でもシャドーが出てきたのって、半年くらい前だろ?ゼテオブルーメとグルってのはさすがにないじゃん」
「…」
三人は悩む。解くべき謎は見つかったが解き方がわからない。
ふと、晴彦の視界に一人の生徒が写る。氷野花火だ。
「…」
アイツ、また一人だ。
花火の姿がどうしても目に止まる。それは入学式で姿を見て以来だ。
「アイツ誰だっけ?」
マキトも花火を見る。
「氷野花火。同じクラスだぞ」
セイラがマキトに説明する。
「…」
晴彦はただ花火を見ていた。
※
童洛市は夜も昼間のように街の明かりが絶えず光る。しかし、明かりが届かない場所で戦う者がいる。
シャドーバトラーは今日も夜空の中を戦う。初めて出くわした敵と剣で戦う。
「…君は何者なんだ?ゼテオブルーメじゃないのか?」
黒い仮面ごしにシャドーバトラーは敵に問う。
半分欠けた仮面に黒いスーツ。その右手から氷を生み出している。
「お前から戦いを挑んでおいてそれはねえだろ」
「それもそうだね。でも君の名前だけは教えて」
シャドーバトラーの問いに敵は答えた。
「俺の名は、ミラージュガイ」
ミラージュガイ。その正体をまだ誰も知らない。