第5話 デセオブルーメ
入学式の日、慎ましく美麗な少年を見かけた。黒茶色い髪で大きめの瞳。左目は前髪で隠れている。一度見たら忘れられなかった。しかもその少年と同じクラスなのだ。晴彦は時々彼が目に止まる。
「あ、」
音楽室に向かう途中に彼、氷野花火を見つける。姿を見てはいつも不思議な雰囲気を晴彦は感じていた。
花火は晴彦など気にせずに歩いて先に音楽室に向かう。
「早く行け、早く」
「うわ!」
花火に見とれているとセイラに小さく注意された。
「あ、そうだ!今日放課後、豪つれてゲーセン来いよ。すごいの見せてやる」
「すごいの?」
※
『王子が誰か?』
「ああ。前々から気になっていたんだが、王子とは何者なんだ?」
休み時間の女子トイレの個室。セイラと人形のトリシャは二人で話していた。
トリシャは以前話した王子について話す。
『…私達の戦いに一番重要な人よ。そしてゼテオブルーメの一番の狙いでもある』
「一番の狙い?」
『詳しい理由はまだわからないけどね。王子の特別な力が目的よ』
「力?」
『…いずれわかるわ』
「それと、なんで晴彦抜きでそんな重要な話を…何故だ?」
『まだ晴彦には言わないほうがいいの』
「?」
晴彦の名を聞くとトリシャは何故か気まずそうに見えた。
「そういや晴彦、放課後ゲーセンにこいって言ってたわね」
※
童洛第一高校近くのゲームセンター。晴彦はここに来ればまずユーフォーキャッチャーにかじりつくが今日は違った。今日はセイラと豪を呼び、見せたいものがあった。晴彦は自身のスマートフォンに写るものを見せた。
「じゃあーん!バトラーライツのホムペとSNSアカウント作りましたー!!」
「どういうこと?」
晴彦の作ったネットのホームページとは、ゼテオブルーメの情報を集めるためのものだ。ホームページを見た人にできる限りの情報提供をさせたい。
「あとSNSのハッシュタグは『ゼテオブルーメ注意報』って決めたぜ!これで危険や注意を呼びかけやすくなったじゃん」
バトラーライツがゼテオブルーメを探るのはもちろんだが奴等が潜伏している地域から避難させたり各自で身を守らせるのも大事だ。
「俺らに出来ることにも限界があるだろ?だから身を守る方法を教えたりしないと」
晴彦の言い分に間違いはないが、リュックの中から人形のトリシャは裏があると思いリュックから顔を出す。
「もしかして自分で奴等を見つけたり守ったりするのが面倒だから?」
「う」
トリシャの発言に晴彦は素直に反応する。サイトやハッシュタグを考えたのは、めんどくさいからである。
「で、でも世の中ネット時代だし上手く使ったほうがいいよ?」
一応晴彦は誤魔化す。
「いいんじゃないか。アイディア的には」
セイラは褒める。
「すごいな。しかし、アカウントやホームページにいたずらで嘘の情報が来たらどうするんだ?」
豪が晴彦に訊く。
「情報が嘘かどうかは豪の力で確めるんだよ!できるだろ?」
「あ、ああ…それは簡単だ」
僕に頼るのかと豪は内心呆れるのだった。
「サンキュー。じゃあこれあげる、さっき300円で取れた」
晴彦は猫のぬいぐるみを豪にあげる。先程クレーンゲームで入手したのだ。
「セイラもな」
「なんだこれ」
セイラにはアサリの貝のぬいぐるみをあげる。
「なんで私はアサリなんだ」
「お前はアサリで上等。ちなみに100円で取れた」
「だからなんでだ?」
※
「『シャドーバトラー、誘拐された十人の子供を全員救出』か…」
ラーメン屋『常町軒』。カウンター席で豪はタブレットでシャドーバトラーの情報を見る。豪もシャドーバトラーのことは前から知っている。
「シャドーやっぱりすげえよな!」
横から立って晴彦もタブレットを見る。
シャドーバトラーは晴彦がライツ01になる前に現れた謎の戦士だ。
「シャドーは私達の仲間か?どことなく格好は似ているが」
豪の隣に座るセイラは反対隣に座る人間の姿のトリシャに訊く。
「まだ彼についてはなんとも。私もまだわからないことがあるから…」
トリシャは悩んでいるように見える。
「シャドーは敵じゃないだろ」
厨房で餃子のあんを作りながら中田も意見する。
※
地球は青く海が拡がる星だと知っていたがそれは間違いなかった。地球を大型戦艦型の要塞『アンヴォカシオン』の大きな窓から彼は眺めているのはゼテオブルーメの軍師だ。名をリチュオルと言う。鋼鉄のような皮膚に銀眼で頭部はカメレオンのような容姿、軍服を着用して地球人から見れば明らかに宇宙の生物だとわかる姿だ。
「ふーん。海は青いまんまかぁ…しっかし、都合よく生き物が生まれて育つように出来てるんだなぁ。首領の言ってた通り、いくらでも利用の価値あるみたいだな…」
リチュオルはゼテオブルーメの首領から『かつての地球』の話を聞いていた。しかし地球も姿を変えたんだと知った。
「さぁてオーロラ様の機嫌でも取っとくか。なんせ首領の跡継ぎの婚約者だしな…」
リチュオルは窓から離れ歩き出した。
※
『こちらが、ゼテオブルーメの戦艦です。上空で停止したまま現在は動きを見せていません。奴等の目的は未だに不明で…』
暗く狭い部屋で彼は、氷野花火はテレビを見ていた。ゼテオブルーメの情報だ。
「…」
何もしないまま座り込み、花火はただテレビの前にいた。
続く
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