第4話 長田宮豪の見たもの
少年は幼少から不思議な力があった。動物や草木の声が聞こえたり幽霊の声が聞こえたり、それは少年の長年のコンプレックスだった。しかし高校生になったある日、その力が「誇り」となった。
※
学校の教室。トリシャに渡されたブレスレット『ナイトチェンジャー』。セイラは自分の席に着きそれを見て自分に何が起きたかを再確認する。自分は自分ではない女に変わっていたと感じたのだ。黒い紐に繋がれた青い宝石がボタンになっておりそれを押せば変身する。
しかし、トリシャの言っていた王子とはなんだろう?こないだ聞きそびれた疑問がひとつセイラにはあった。
「晴彦」
「何?」
近くに立っていた晴彦に話しかける。
「トリシャの言っていた王子とはなんだ?」
「え?トリシャそんなこと言った?」
「言った。小さく言っていたが少し気になる。何か知ってる?」
「さあ?俺は知らないけど?」
「…」
「何話してんだー?」
二人の間に佐々木が入ってくる。
「どうしたの二人共」
「なんもないけど。別に」
「佐々木くん何…?」
「最近二人仲良くなってない?こないだまであんなだったのにどうした?名前で呼び合ってるし」
クスクス笑う佐々木を見て晴彦は慌てる。
「ち、違うって!ただの気まぐれだって」
笑い誤魔化しながら晴彦は歩いて場を離れた。
「…言っておくけど佐々木くん、気まぐれだからね」
「大場さん?」
セイラも同じように佐々木に言う。
※
放課後。晴彦とセイラはまた常町軒で話すことになった。晴彦は正直元来の性格上、かなり面倒に感じる。
「なんで会議とかするんだよー?」
「しないと駄目だよ。あんたアイツらが許せないんでしょ?」
「だからって…出てきたら倒す!でいいだろ?」
正門で鞄を持ちながら揉めていると、一人の他校の制服の男子が通り過ぎた。
二人は彼に気付き見る。そして見とれた。
彼はこれでもかと言うほど、文句を言えないくらいの美少年だった。眩しすぎるくらいだ。彼の背が見えると晴彦は小さくセイラに話かける。
「すっごいな、めちゃめちゃイケメンじゃん」
「あの人制服、名門の川崎男子のだわ」
「ええっ!あれが!?」
川崎大学付属男子高校。都内で一番の名門。黒黄色のネクタイに水色のブレザーがその印だ。
「晴彦くん、セイラちゃん」
晴彦のリュックサックから人形のトリシャが顔を出す。
「トリシャ?」
「さっき彼から気配を感じたわ。もしかしたら…」
トリシャは先程通り過ぎた少年が気になった。
「気配って何?」
「晴彦、追いかけなさい」
「ええっ!?」
晴彦とセイラは追いかけることになった。
※
少年の後を追い、晴彦とセイラと人間化したトリシャが来たのは小さな会社の建物だ。
ジェムジェネラルコーポレーション。建物にはそう刻まれている。セイラには見覚えがあった。
「ここ宝石商じゃないか…」
「セイラ知ってるの?」
「童洛市で売られてる宝石やアクセサリーは全部ここで集められて各専門店に流通されてるの」
「あー!問屋か!」
「まあ、そうだな…」
セイラの説明に晴彦は適当に納得する。
「彼は出てきたわ」
入り口から先程見かけた少年が出てくる。トリシャは二人と共に建物の影に隠れる。
「ばあちゃん、あれはどうしたんだ」
少年は老いたスーツ姿の女性と出てくる。
「…もう高月さんに譲ったわ。どうしてもって訊かなくて」
「あの水晶は危ないんだよ!危険な気配がするんだ」
少年の発言にトリシャは引っ掛かった。
「水晶が危ないって何?」
少年は更に続ける。
「これを詰んだトラックが来る途中に事故にあっただろう!輸送していた船もエンジントラブルで危うく船員が死にかけて」
「…」
女性は困ったような顔だ。
すると二人の元に一台のトラックが向かってきた。
「「危ない!!」」
晴彦とセイラは二人にトラックが衝突するのを瞬時に予測し二人の元へ向かい庇う。晴彦は少年、セイラは女性を押すように走り、なんとか最悪の事態にはならなかった。四人とも無事だ。
トラックは二人を通り過ぎると何事もなかったかのように走っていった。
「…大丈夫?」
「あ、ああ…」
少年はいきなり現れた晴彦に少し驚く。
「さっきの水晶って何?」
「な、なんですか?」
「あ、ごめん!俺は晴彦。さっきの話聞かせてくれよ」
少年は晴彦の一言に更に驚く。
「ぼ、僕は長田宮豪。豪です…」
「豪か。君のさっきの話聞かせてくれよ。水晶がどうって…」
「無理に話をさせて悪いが教えてくれ。私からも頼む」
セイラも豪を頼む。
「…僕は、邪気が見えるんだ」
豪は晴彦達に自分の力を話すことから始めた。
※
晴彦とセイラは豪と共に現在水晶がある高月邸に歩いて向かっている。歩きながら豪は自分の力について語る。
「小さい時から、悪い予感が当たってしまうんだ。次の地震で何人亡くなるかとか、いつどこで交通事故が起こるか」
豪はこの力が疎ましかった。この力で見たものを誰も信じてくれないかつ自分が悪者にされたことだってあった。信じてくれたのは祖母と父だけだった。
「すんげ!なにそれ!」
「え?」
「だって悪いことが起こる前にそれがわかるんだろ?すごいじゃん!」
晴彦は豪の能力に興味津々だ。
「…頭がおかしいとか思わないのか?」
「なんで?俺だったらその力大切にしたいって思うよ。もしかしたら、人の命だって救えるんだぜ?」
晴彦が笑う。祖母と父以外で自分の力に対し優しい言葉をくれたのは彼が初めてだ。
「君の能力にはまだ疑問はあるが君が嘘をついているとは思わない」
セイラも豪を信じている。
「あ、ありがとう…」
歩いていると高月邸に到着する。古い作りの豪邸の前には初老の家主がいた。家主は豪の姿を見ると疎ましくなる。
「…またあんたか。あの水晶は私が買ったんだぞ!」
家主は豪の目の前に来て怒り出す。
「でたらめばっか言ってると警察に突き出すぞ!」
「…」
家主の言葉が豪の胸に刺さる。
「なんだよ…」
その言葉に反旗を翻したのは晴彦だ。
「なんでコイツが嘘つきだと決めつけるんだよ!それでも大人かよ!!」
バリーンッ!! バリッ!!
晴彦の叫びが周囲に響いたと同時に高月邸の窓が破裂するかのように全て割れた。
「「!?」」
そして高月邸の屋根を突き破り何かが出てきた。豚とイルカを組み合わせたデセオブルーメの兵士だ。
「なんだあれ!?」
豪は兵士を見上げる。
「わ、私の家がぁぁ」
家主はよろけながら兵士に脅えて逃げ出した。
「地球の宝石の中は窮屈だな」
兵士の言葉にセイラは見上げながら気付く。
「あれが悪い予感か」
「兵士が水晶の中に隠れてたんだ」
晴彦とセイラは荷物を置くとそれぞれのアイテムで変身する。
「「リミッター解除!!」」
豪の目の前にはライツ01と02がいる。
「業火の勇士、ライツ01!」
「清水の勇士、ライツ02!」
二人は剣の先を兵士に向ける。
「貴様らか我々の邪魔をするのは…」
兵士は二人の元に降りる。そこで戦闘が始まる。
兵士は強い。以前相手にしていた奴等よりも。徐々に二人が苦戦するのに豪は気付く。
「なんなんだあれは…」
豪は先程から驚くばかりだ。
「豪くん!これを!」
晴彦のカバンから人形の姿のトリシャが出てきて豪に『ナイトチェンジャー』を手渡す。
「に、人形が…はっ」
トリシャよりも自分の左手の甲に魔方陣が浮かび光ることに豪が驚く。
「お願い、二人を助けて。リミッター解除って叫んで」
「…」
豪は立ち上がり、指示通りにする。
「…二人が僕を信じてくれたことにお礼するよ」
『チェンジ・オープンライツ!』
「リミッター、解除」
ブレスレットの光が豪を包み、弾ける。そこには黄色い甲冑を纏う戦士、ライツ03がいた。
※
「あ、あれは…!」
ライツ01はライツ03を見て驚く。
「彼が、三人目だったか」
ライツ02は立ち上がる。
「迅雷の勇士、ライツ03!」
ライツ03は兵士に向かって走り剣を振るう。
「うわああっ!くっそ!」
兵士は最初互角だったが、徐々に押され、追い詰められていく。
そして、真っ二つに切り裂いた。
「ぐあああっ!!」
切られた兵士は遺体もなく消える。
「…」
01と02はライツ03の元に駆け寄る。
「まさかお前が三人目だなんてな」
仮面越しに01は微笑む。
「僕が戦士…邪気が見える力はもしかして戦士に選ばれるためにあったのか」
三人目の戦士が見つかった日、それは豪の人生に一筋の光が刺した日でもあった。
〇登場人物紹介〇
長田宮豪/ライツ03(ゼロスリー)
好きなもの:推理小説、占い、昆布
彼の不思議な力についてはまたいつか詳しく。晴彦やセイラと同級生です。
彼の通う高校、川崎大学付属男子高校の名前は川崎重工から。
戦闘シーン苦手過ぎて申し訳無いです。
序盤は戦闘はあんまり重要じゃないんだと思ってやってください。