第3話 指名と使命
時々、夢にそれは出てくる。二人の男女が見つめ合い幸せそうにしている光景を。そうしている二人を祝福するように光るたくさんの星。全てが輝いて見えた。ずっとその美しい光景を見守っていたかったが目は醒めてしまう。
「…夢か」
何回も見た夢。あの男女がなんなのだろうかと思いながらベッドからセイラは起き上がる。
あの二人はなんなんだ…一体。昨日、自分は鎧と仮面の青い女騎士に変身した。そしてクラスで一番腹が立つ男子が同じような赤い戦士に変身していた。
何が、私に起きているんだ?あの怪物は?それからあの夢は…
※
セイラがライツ02になった翌日は土曜日。トリシャは晴彦とセイラにバトラーライツや戦う敵について話すと言った。その場所は、
「『常町軒』?」
晴彦の自宅近くに昔からある古いラーメン屋だった。なんでまたここ?
「ここが一番安全なのよ」
少女の姿のトリシャは入れと古い戸を開ける。
「なんで?大事な話だよね?カフェとかじゃないの?」
「店長は私達の味方だから」
店に入るとカウンター席にはセイラがいた。
「うわー、イギリスかぶれがいた」
「トリシャに呼ばれたのよ」
しぶしぶ晴彦はセイラの右隣の席に座る。店には晴彦、セイラ、トリシャ、そして店長しかいない。
「いらっしゃい」
「おっさん、久しぶり」
店の店長、中田周五郎。常町軒を一人で切り盛りしている中年男性。風貌がなかなか怖いのでカタギではないという噂もある。
「トリシャちゃん、晴彦とセイラちゃんがバトラーライツかい?」
「そうよ」
「えっ?!おっさんなんで…」
自然と話が進むのを晴彦は止める。
「だから言ったでしょ?店長は私達の味方で協力者。誰か大人の助けがいると思ったから選んだの」
「おっさん…いいのかそれで」
「よーし、晴彦が来たしトリシャちゃん本題に入って」
「話進めるの!?」
晴彦の隣にトリシャは座る。
「まず訊いていいか?」
セイラが先に始める。
「何故私は変身したんだ?それに明星も」
「そ、そーだよ!なんで俺が!」
「それはね、貴方達が選ばれた戦士だからよ。地球を狙う奴等から地球上の全生命を守るためにね」
トリシャは少し重い声で話し出した。
「え?何それ?」
かなり信じられないような話ではあるが何故か二人は真剣に聞き入れていた。
「奴等の、私達の敵の総称は『デセオブルーメ』。地球とは別の星の人間にあたる知的生命体の組織」
『デセオブルーメ』についての話が続く。
端的に言えば、宇宙人が地球を自分達の植民地にするために狙っている。
「昨日現れた怪物、『兵士』は奴等の科学で編み出した生物兵器。きっと偵察で学校を襲ったのよ」
話は一区切り着く。今度は晴彦が訊いた。
「じゃあさ、なんで俺達が選ばれたの?チェンジャーで変身したあれは何?」
チェンジャーで二人は戦士に変身した。見たこともない甲冑の騎士のような姿に。
「バトラーライツの力はね、地球の未来を支えるためにオルヴィ・テラ文明が作ったものよ」
「オルヴィ・テラって、最近ニュースでよく見るあれ?」
「ええ。文明の人達が説明の着かないような不思議な力で作った戦闘システム。地球にとんでもない災難が来た時にそれに立ち向かう唯一の手段でもあるの」
最近オルヴィ・テラの古い巻物や剣、文明に関連した遺物が発見されるようになったのはデセオブルーメ来襲を予期した現象だった。
「ま、待てよ。じゃあなんで俺や大場みたいな普通の奴が選ばれて変身したんだ?もっと向いてる人とかいるだろ?自衛官とか警察官とか、もっとしっかりした人が」
晴彦の疑問にトリシャはそうくるわね、といった表情になる。
「…これには色々事情があるのよ。他の人じゃ出来ない。バトラーライツの力が使えてチェンジャーや装備が持てるのは晴彦くんとセイラちゃんと他にこれから選ばれる人達だけなの」
二人は変身して戦うのを拒否したくても出来ないの。トリシャはこの事実に胸を痛めている。
「バトラーライツとして戦う人達には使命があるの。私達の総大将となる『王子』と共に地球を守ること」
「プリンス…とは?」
セイラが問おうとすると店の外から騒ぎ声が聴こえた。
「ま、まさか」
「デセオブルーメ!?」
晴彦とセイラは店を飛び出した。
※
常町軒近くの広場に複数の人々が縛られ紐に繋がれ捕まっている。そうしたのは熊とワニを組み合わせたデセオブルーメの兵士だ。
「おうら!大人しくしろ!うるさい!」
「ひぃ!」「やめてくれー!」
兵士は人々に叫び痛め付ける。
「テメエらには家畜として働いてもらう、その心血は俺達のために使え!」
鞭を振るい脅す兵士。明かに地球の生物ではない。
「待てー!」
晴彦とセイラはそこに走り込んできた。
「なんだテメェら」
兵士は睨む。
「その人達を離せ!人は家畜じゃない!」
「やってることが短絡的よ!」
二人はそれぞれのアイテムで変身する。
『チェンジ・オープンライツ!』
「「リミッター解除!」」
ライツ01とライツ02が現れる。
「お前ら何者だ?」
兵士達の問いに二人は答えた。
「業火の勇士、ライツ01!」
「清水の勇士、ライツ02!」
「俺達は…バトラーライツ。地球を代表して、成敗だぜ!」
二人は兵士に立ち向かう。
「みんな!逃げて!」
戦うどさくさに紛れ捕まった人々を解放し逃がす。人々は全員逃げ切れた。
「こぉら!商品を逃がすな!」
一時的にライツ01とライツ02が押したが次第に押される。そして強く蹴られ倒れる。
「邪魔なんだよ。売り出しても誰も買いもしない、奴隷に向かない奴は」
兵士は冷たくあしらう。
「奴隷じゃない…」
ライツ01はじわじわと起き上がる。ライツ02も立ち始める。
「人を奴隷に、家畜にするなんて誰にも許されないし間違ってる!生き物は、物じゃないんだよ!」
「うるせぇ!」
兵士がライツ01の首めがけて鞭をうとうとするとライツ02が攻撃する。
「スプラッシュ!」
大粒の無数の雫が銃弾になりライツ02の手から放たれる。それは兵士に効果はある。
「水は力くわえたら刃物みたいになるよ…」
「02、ありがと!」
ライツ01はしっかり立ち上がると剣を振りかざす。
「轟け炎の華!ファイアーシンフォニア!」
「ぐはあああっ!!」
剣の一撃が兵士を跡形も無く消し去った。
「…ふー、やったぜ」
変身を解除し元の二人に戻る。
「…明星」
セイラは晴彦を見る。
「あー…晴彦でいいよ。お前のことはむかつくけど一応これから仲間になるし」
「ふっ、じゃあ私もセイラと呼んで。少し見直した」
セイラはクスリと笑う。
「何を?」
「あんたのあんな姿初めて見たわ。戦って…人を助けるなんて意外と根性あるじゃない」
「なんだよ急に。俺は元々優しいしいじめっ子大嫌いだよーだ」
晴彦もセイラの笑顔を初めて見た。
すると、またあの映像が一瞬二人の脳裏に浮かぶ。星空を眺める男女の姿を。
あれ?今の何?
星空と男女。二人が繰り返し脳裏に浮かべる光景の意味をまだ世界中の誰もしらない。
続く
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〇登場人物紹介〇
トリシャ
好きなもの:パン
助言役です。正体はのちほど。今後彼女のような人と人外の二種類の姿があるキャラが多く出てくる予定です
中田周五郎
好きなもの:餃子、チャーハン(作るのも食べるのも)
ラーメン屋店主。秘密基地的な場所はラーメン屋と決めたのでラーメン屋です。なんかラーメン屋好きなんです、店の雰囲気、構造や店員の服が。実は晴彦の初変身を遠くから見ていたのでトリシャの話はすぐ信じて協力しています。ビジュアルモデルは寺島進さんです