ライスケーキが食べたくて
「探せ!まだ見失ってからそんなに経ってない!近くにいるはずだ!」
すぐ近くから怒号と、走る足音が聞こえる。
俺は一緒に隣で伏せている友人に小声で話しかける。
「おいマサシ、やっぱりこんなとこに隠れるより、そのまま走って逃げた方がよかったんじゃないか?」
「でもあのまま逃げてたらすぐ追いつかれてたよ。」
「おい、タケルもマサシも静かにしてろ!バレるだろ!」
俺たちの会話を遮るもう一人の友人に返す。
「ケント、お前が一番うるさいぞ。」
「チッ、とにかくアイツ等が通り過ぎるまで黙ってやり過ごすぞ。」
俺とマサシはその言葉に頷いて黙り込む。
ハァ、なんで俺たちは追われて逃げてるんだ。
俺はため息をついて、事の発端を思い返していた。
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もう1年くらい前になるか。
ケントの馬鹿が、マサシを連れて大騒ぎで家に来た。
「おいタケル!大変だ!」
「大変なのはお前の頭だ、とりあえずマサシを離してやれ。」
マサシはケントに引っ張り回されたのか目を回している。
「おう、すまんマサシ。」
そう言ってケントが手を放すと、マサシは玄関に倒れる。
「ありがとう、タケル。でも確かにケントの話は大変なんだ。とりあえず部屋に行こう。」
「分かった、マサシがそう言うならそうなんだな。」
「おい、それだとオレが信用ならねぇみたいじゃねぇか!」
騒ぐ馬鹿を無視して、倒れたままそう言うマサシを支えて、俺の部屋へ向かう。
「で、話って何なんだ?」
部屋について、マサシが落ち着いたところで、俺はそう切り出す。
「おう!まずこいつを見てくれ。」
そう言ってケントは背負っていたカバンから、ボロボロのノートと、細長い草の入ったパッケージを取り出した。
「何だこの草?」
「まずこっちのノートを見てくれ。それについても書いてある。」
ケントが手渡してくるノートを受け取る。
ノートにはこれ見よがしにデカデカと「マル秘!」と書いてあった。
これを書いたヤツは、本当に隠すつもりがあるのか?
とりあえず表紙をめくると、1ページ目に「これを見たものは、禁忌に触れる事になるだろう。覚悟のある者だけが読み進めてほしい。」と書いてあった。
何だこの中二病全開な出だし、誰かの黒歴史ノートじゃないのか?
思わずケントの方を見ると、無言で頷く。
読め、ということか。
俺は「舐めてんのか?」という意味で見たんだが、どうやらケントには読んでいいかと聞いてる様に見えるらしい。
次のページをめくると、「もち米の育て方」と書いてあった。
「お前これっ!?」
思わず叫ぶ。
「あぁ、そうだ。さっき家の倉庫でそれを見つけてな。」
「そうじゃねぇよ!もち米って言ったらお前、国家指定の危険食物じゃねぇか!」
「シー!声がデカい!」
そう言ってケントが口を押えてくる。
もち米、それは国家指定の危険食物。
詳しい事は国によって徹底的に秘匿されていて、一般人には何故危険指定されているのか、理由すら謎の食べ物。
噂では、幼児や老人などの弱い人間を対象に高い致死率を誇り、毎年多くの死者を出しているにもかかわらず、何故か年始になると全国民が手を出すという、恐ろしい中毒性を持った食べ物らしい。
しかも、見た目は普通の米と似ていて、知らずの内に摂取してしまう可能性のある恐ろしい生態をしていたらしい。
何十年も前に「国家食物統治機関」、通称「食機」によって、国内はおろか世界中から姿を消したはずだが。
ケントの手を退かし、小声で話す。
「おい、もしかしてその草が・・・」
「あぁ、そうだ。これがもち米の苗らしい。育て方もそのノートに書いてある。」
「ケント、まさかお前、育てる気じゃないだろうな?」
「そのまさか、だよ。」
馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが、こいつは本物の大馬鹿だったらしい。
「マサシ、まさかお前も育てようって言うんじゃないだろうな?」
俺より賢いマサシのことだ、俺と一緒にこの馬鹿を止めるためについてきただけのはずだ。
「うん、僕も育てるよ?」
俺は絶句した。
ケントはいつも後先考えない馬鹿だから仕方ない。
だけどいつも暴走する馬鹿を俺が止めて、止められなかったときは、マサシの知恵で解決してきた。
そのマサシが予想外の返事をしてきたんだ、そりゃ驚くさ。
「どうしてだ?お前はいつもこいつを止める側だっただろ?」
「僕も最初は止めようと思ったよ。でも、調べてみると噂されてるような中毒性は無かったみたいなんだ。それに、ほら、食べてみたいしね・・・?」
そうだった、マサシは知識欲が人一倍だけど、食欲も負けず劣らずだったんだ。
「協力してくれない?やっぱりタケルもいてくれた方が上手くいくと思うんだ。」
「断る。」
なんでそんな危ない橋を渡らなきゃいかんのだ。
「でもタケルも見ちゃった以上は、何もしなくても黙ってたってことで共犯だよ?それとも僕らを売るの?」
やめろ、女顔のお前がそんな上目づかいで見るな、どこでそんな技覚えたんだこいつは。
ケントはこっちを見てニヤニヤしてやがる。
こうなることが分かってたとでも言いたげな顔しやがって、絶対後で殴るからな。
「くそっ、分かったよ、協力してやる。でもやるからには絶対バレないようにやるぞ。」
こうして俺たちのもち米作りが始まった。
幸い、ここは一向にハイテク化の進まない田舎だ、育てる場所には困らなかった。
近所の田んぼの一部を、自由研究に使いたいと言って借り、実験と称して人目につかないようにバリケードを作っておくだけで特に問題もなく育てることができた。
途中、馬鹿が横着をして、危うく全滅しかけたりしたが、そこは割愛する。
そんなこんなで秋になり、無事収穫に漕ぎ着けた俺たちは、嬉々として稲を刈り、食べる分だけ精米を終えて家に帰るところだった。
遠目から家の前に見慣れない大型車が停まっているのが見えた。
よく目を凝らしてみると、車に「食物統治機関」の文字が見えたので、すぐに二人を制止して、近場の草むらに隠れた。
「マズイ、食機が来てるっぽいぞ。」
「食機?マジかよ、そんなの教科書かテレビでしか見たことねぇ。」
「もしかしたらどこかから僕たちがもち米を作ったことがバレたのかも・・・」
「なんだって!?どこのどいつだ!そんなことするのは!」
いや、近所のお年寄りが、「若い子たちが米作りに興味を持った」とか噂してたから、普通にそこから聞き付けてきたんじゃないのか・・・
田舎のネットワークは、SNS張りに早い上に、ザルどころか穴だからな。
「ともかく俺たちは一言ももち米を作ったなんて周りに話してない。まだバレてないかもしれない、近づいて様子を見るぞ。」
そう言って三人で隠れて話が聞こえる位置まで近づいた。
家の前で母親と、ガスマスクみたいなものを着けて、暴徒鎮圧でもするのかと思うような装備をした男が話していた。
胸元に皿に乗ったフォークとナイフの紋章が付いてるから、多分食機だ。
というかなんでガスマスク着けてんだ、ここは汚染地域扱いか?
「お宅のお子さんが米を作っていると聞いたのですが。」
「ええ、ウチのタケルと、マサシ君とケント君と、自由研究って言って作ってましたね。ところで何故マスクを着けてるんですか?」
よく聞いてくれた!母よ!
「あ、これは気にしないでください。」
いや、気になるよ!教えろよ!
「それで、お宅のお子さんがどんな米を作っていたかとか、聞いてませんか?」
「いえ、実験と言っていたのでよくは聞いてませんね。それで、この辺りにガスでも出てるんですか?」
母よ、地味に食い下がるな。
「そうですか。ガスは出てませんよ、これはルールで着けているだけなので。」
どんなルールだ、一体食機は普段何をしてるんだ?
ガガッ・・・
男の持っていた無線が入った。
『こちら調査班、子供たちの育てたと思われる稲の残骸を発見。指定対象"MOCHI"だと思われる。これから調査から捜索に切り替える。以上。』
ブッ、と無線が切れた。
どうもバレたみたいだ。
「お宅のお子さんに、危険食物を所持している疑いがかかりました。もし帰宅したら、バレないように家に押しとどめてください。」
「ちょっ、あの子は何を作ってたんですか!?」
「詳しくは規則で言えません。ですが安心してください、子供のしたことです。持っている危険食物の取り上げと、厳重注意だけで済むでしょう。では。」
そう言って男は車に乗り込んで走り去っていった。
どうするか・・・
捕まるようなことはないと言っていたけど、せっかく作ったもち米を食べずに取り上げられるなんて御免だ。
マサシとケントを見ると、どうやら二人も考えは同じのようだ。
「さて、選択肢は二つだ。大人しく捕まるか、逃げてもちを食べるか、だ。」
二人はニッと笑って頷いた。
・・・だよな。
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そんなわけで現在逃走真っ最中。
家で調理器具を拝借しようして見つかって、とりあえず裏山に逃げ込んだはいいけど、どんどん追手が増えて軽い山狩り状態になった。
今は裏山のキャンプ場に調理器具を調達しに来たところだった。
が、なんやかんやでバーベキュー場のデカいかまどの中で身を寄せてる破目になっている。
「で、どうするよ?オレの活躍で薪は手に入ったけどよ、いつまでこうしてるんだ?」
「そのかわりにアイツ等に見つかったけどな。」
俺は悪態をつく。
ケントが薪を見つけたところまでは良かった。
でもこの馬鹿は、あろうことかそれをデカい声で報告してきた。
勿論大声を出したもんだから、食機の奴等が気付かないはずもない、俺たちは仕方なくかまどの中に隠れる事になった。
「もういっそ朝までこうしてようよ。きっと食機の人たちも諦めてくれるよ・・・」
「弱気になるなマサシ。お前ならこんなただっ広い場所にいたら、明るくなったときにすぐ見つかることぐらいわかるだろ?とにかくアイツ等が居なくなったら、ここから離れよう。」
二人は無言で頷いた。
しばらく身を潜めていると、食機の奴等はどこかに行ったらしく、辺りが静かになった。
ケントはいい加減我慢の限界が来たみたいだ。
「なぁ、そろそろ出てもいいだろ?」
「ああ、でも気をつけろよ?もしかしたらまだ近くにいるかもしれない。それと精米してない余分なもち米は、かまどの中に置いてけ、邪魔になる。」
「分かった、勿体ないけど仕方ないよね。どうせ取り上げられちゃうんだし。」
そう言って、俺たちは音を立てないように外に出た。
幸いにも食機の奴等は見当たらない、逃げるなら今がチャンスだ。
「よし、今なら逃げれそうだ。行くぞ二人共。」
「ちょ、ちょっと待って!ノートによると、もちを作るのにウスとキネっていうのがいるはずだよ。それも調達しないと。」
「あぁクソ!とっとと見つけて逃げるぞ!」
「ケント!気持ちは分かるけどもうちょっと静かにしろ!」
クソ!騒ぎ過ぎた!遠くから足音が近づいてくる。
「マサシ、そのウスとキネってどんなもんなんだ?」
「えっと、もちを叩く棒と受け皿みたいな形してるみたい。」
「おい、早く逃げないとアイツ等がこっち来るぞ!」
「分かってる!でも道具がないと意味ないだろ!」
ケントに釣られて焦りながらも、代わりになる物がないかと調理具を漁る。
マサシの見せてくるノートには、細身のハンマーと、樽みたいなデカいすり鉢が載っている。
こんなデカい物の代わりなんて・・・いや、3人分だけならもっと小さくてもいいんじゃないか?
俺はボウルと麺棒を持って二人に見せつけた。
「作る量が少ないなら、これでもいいだろ!早く逃げよう!」
「どこに逃げる!?マサシ、いい案ないか?」
「確かこの山に無人の小屋があったよね?とりあえずあの辺りまで行こう。」
何とか見つかる前に逃げ出した俺たちは、藪の中を進む。
「きっと小屋は警戒されてるぞ、さっきから食機の奴等がうろついてる。」
「うーん、何とか追い払えればな・・・」
「ノープランだったのかよ。」
「とりあえずオレが先に行って様子を見てくる。タケルとマサシはここで待っててくれ。」
「また馬鹿やらかすなよ?」
「分かってるって、流石に一人じゃ騒がねぇよ。」
そう言ってケントが走り去る。
「しかし、どうする?仮に小屋に入れても、もちができるまでアイツ等を近付かれないようにしないと。」
「罠でも仕掛ける?ケントなら山に慣れてるし、そういうの作れそうだけど。」
「いや、そんなの仕掛けたらむしろアピールしてるようなもんだろ。」
二人でウンウン唸っていると
「ウオオォォォ!!」
と叫び声が聞こえた。
「今のケントの声じゃないか!?あの馬鹿また何かしたのか!?」
「もしかしたら見つかったのかも!?どうしよう!?」
どうする?叫び声からして何かに出くわしたんだろうけど、食機の奴等に会ったにしては、かなり驚いた声だったけど。
声のした方を見ると、「クマ出没注意」の看板が目に入った。
まさか・・・
「ウワアァァァ!!」
「た、退避、退避ー!!」
ケントの声がした方から、別の叫び声が響く。
「マサシ!ケントが危ない!行くぞ!」
俺はそう言って、声のした方へ走り出す。
「ま、待ってよぉ!」
小屋の辺りに着くと、辺りは静まり帰っていた。
食機の奴等が全くいない、やっぱりクマが出たのか?ケントは無事か?
辺りを見渡していると、背後から物音がした。
「「!?」」
思わず硬直し、マサシと顔を見合わせ、ゆっくりと後ろを向くと。
「ッッ!!?!?」
思わず声にならない叫びを上げる。
・・・そこにはクマが立っていた。
「マ、ママ、マサシ!どうする!?どうすればいい!?」
「お、落ち着いてタケル!とにかく逃げる!?いや、死んだふり!?」
ヤバイ!なんとかしないと!
「ようお前ら、落ち着けって。こいつは襲ったりしねぇよ。」
クマからケントの声が!?
「お前!ケントの声なんて出しやがって!アイツを食ったのか!?」
「アホか!クマが喋るわけねぇだろ!」
クマがそう叫んだと思うと、クマの陰から何かが姿を現した。
ケントだ!
「ケ、ケント!?どうして!?無事だったのか!?」
「ああ、こいつのおかげでな。」
クマが答える様に「グルル・・・」と唸った。
「どうしたんだよ、このクマ?なんでこんなに大人しいんだ?」
「紹介してなかったな。こいつはクマ吉、オレの友達だ。」
「友達ぃ?」
「そうだ、昔一人でこの山に来たときに出会ってな。勝負して勝った。それ以来こいつとはダチなんだ。久しぶりに会ったらデカくなってて、思わず叫んじまったけどな。」
クマは誇らしげに「ブフン」と鼻を鳴らしている。
というかこいつは俺たちの知らないところで何やってるんだ?
いくら子供のときとはいえ、一人でクマに勝って手なずけるとか、どこの世界のモンスターテイマーだこいつ。
「というわけで、さっき来た食機の連中は、こいつが追い払ってくれた。オレの姿も見られてないし、しばらくこの辺には来ないだろ。こいつにこの辺りの見張りを頼んで、小屋に入っちまおうぜ。」
ケントの豪胆さには呆れたが、確かにクマがうろついてれば食機の奴等も早々近付かないな。
「分かった、とりあえず小屋に入ろう。行こう、マサシ。・・・マサシ?」
そういえばさっきからマサシが話してないな。
マサシの方を見ると、泡を吹いて気絶していた。
小屋にマサシを運んだ俺たちは、夜の間に火を起こすとバレるということで、日の出を待った。
クマ吉の見張りのおかげか、食機の奴等が近づく気配はなく、事は順調に進んでいる。
マサシを起こして、クマ吉について説明すると、マサシのケントを見る目が露骨にヤバイ奴を見る目になっていたのも無理のない話だ。
正直、俺もケントの意味不明さに若干引いてる。
そんなこんなで、馬鹿話をしたり、休んだりしてるうちに夜が明けた。
日も出て明るくなってきたので、火を起こしもち米を蒸し終わったころだった。
ケントがバッと顔を上げ、鋭い目つきで小屋の表を睨む。
「人の声が聴こえた、アイツ等だ。」
顔を出さないように、小屋の窓から外を確認すると、食機の奴等がこちらに向かってきていた。
「クソ!バレたのか!」
ケントが悪態をつく。
俺は窓から外を確認しながら答える。
「いや、こっちにまっすぐ向かってるわけじゃない。多分明るくなったから、小屋の周りを探しに来たんじゃないか?」
「それにしたって、結局はここに来るだろ?」
「それもそうだ。チッ、あと少しだってのに。マサシ!起きろ!逃げるぞ!」
ペチペチとマサシの頬を叩いて起こす。
「悪い、二人共、俺はここに残る。」
窓から外を見ていたケントが突然そんなことを言い出した。
「どうしてだ?あと少しでもちが出来るんだぞ?」
「俺は外にいるクマ吉だけ戦わせるなんてできねぇ。すまねぇが、二人で俺の分までもちを食ってくれ。」
「そんな!ケントのおかげで僕たちここまで来れたんじゃないか!」
おいマサシやめろ、ただでさえ馬鹿が死亡フラグみたいなこと言ってんのに、これ以上フラグを建てるな!
「いいから早く!オレに構わず先に行け!」
こいつ、一番言っちゃいけないセリフを言いやがった。
「マサシ、行くぞ。これ以上こいつの相手してると取り返しがつかなくなる。」
「え?どういうこと?」
「気にすんな、ほら行くぞ!」
蒸したもち米をボウルに入れて、俺とマサシは裏口から脱出した。
後ろから「ウオォォ!お前ら!そのクマはウチの山のクマだからな!傷付けたら訴えるぞ!」とかいう、訳のわからん叫び声がしているが気にしない。
しばらく走り、追手がいないことを確認して、藪の中に隠れた。
俺がボウルを抱えてもち米を突いていると、マサシが神妙な面持ちでこっちを向いた。
まさかマサシ、お前もか・・・
「ねぇタケル、僕、もし逃げ切れたらさ・・・」
やめろマサシ、それ以上言っちゃいけない。
「もちを食べた感想を世界中に伝えようと思うんだ!」
内容はくだらなさすぎるけど、これでもフラグは建つんだろうなぁ・・・
「いたか!?」
「いや、でもこっちの方に逃げたはずだ!探せ!」
ほら見ろ、速攻で回収された。
「タケル、ボクに考えがあるんだ。タケルは先に行ってくれな
「よし分かった、後は任せる!」い?」
そう言うと同時に、俺は走り出した。
「ええぇぇぇ!?」
すまんなマサシ、こんな時にいきなりフラグを乱立する奴と一緒にはいれないんだ。
俺はボウルを抱え、もち米を突きながら走る。
確かこの先は川に出るはず・・・
そこで俺はふと気が付いて、近くの草むらに転がり込んで、川の様子をうかがう。
居た!
川辺には、他の食機の奴等と違い、重装備でマスクを着けていない、スキンヘッドのイカついおっさんが仁王立ちしていた。
やっぱりか・・・
さっきからの流れで、なんとなく俺がラスボスの相手をしそうな予感がしたから隠れたけど、どうも正解だったらしい。
馬鹿馬鹿しい、丸腰でボウル抱えて、あんなおっさんに勝てるわけないだろ。
こっちはもちを食っちまえば勝ちなんだ、そろそろもちもいい感じになってきたし、食おう。
突いたもちをボウルから、手ごろな大きさに千切って口に放り込む。
む、結構弾力があって飲み込みづらいな、一気に口に入れ過ぎた。
味は・・・なんか思ったより淡白だな、昔のヤツはホントにこれをこぞって食べたのか?
しかしなかなか飲み込めないな。
「そこにいるのは分かっているぞ!!大人しく出てこんかぁ!!!」
突然叫び声が聴こえて、ビクッとなる。
あ、ヤバイ、驚いた拍子に喉に詰まった!
「そこの草むらにいるヤツ!早く出てこい!!」
ラスボスが叫ぶ声が聴こえるけど、こっちはそれどころじゃない!
「どうした!?出てこないからこちらから行くぞ!」
ヤバイヤバイヤバイ、早く水を・・・
「おい!聞いてるのか!?・・・おーい!・・・おい!!」
あ、もうダメかもしれない・・・
酸欠で意識が遠のく中で、ラスボスが青い顔でこっちに走って来るのが見えた。
++++++++++++++++++++
翌日、俺たちは三人そろって、朝から晩までこっぴどく説教を受けた。
勿論作ったもちは没収、焼却処分された。
もち米の出所を吐かされて、ケントの家の倉庫がひっくり返されたが、あれ以外にもち米は出てこなかったらしい。
ちなみに、あの後俺はラスボスに背中を引っぱたかれてもちを吐き出し、何とか助かった。
ラスボスは、「これに懲りたら二度と食べようと思うな。」と言っていたが、そもそもアンタが叫ばなければあんなことにはなってなかったと言いたい。
騒動から数週間たったある日。
家でゴロゴロと休日を満喫していると、マサシが転がり込んできた。
「タケル!大変だ!」
あの時と逆で、今度はケントが引きずられてきた。
「どうした?マサシがそんなに慌てるなんて珍しい。」
「と、とりあえず部屋に行こう!話があるんだ!」
なんだか嫌な予感を感じつつ、俺は二人を部屋に通す。
「で、話ってなんだ?」
マサシはカバンからボロボロのノートと、パッケージされた豆を取り出した。
「何だこの豆?」
「まずこれを見てほしい。」
マサシが手渡してきたノートを受け取る。
表紙には、デカい赤丸で囲って「禁」と書いてある。
なんだろう、すごく見覚えがある・・・
表紙をめくると、1ページ目に「この本は深遠に触れることになるだろう。深淵に触れる勇気のある者のみ、この頁をめくる権利がある。」と書いてある。
昔の人は全員中二病をこじらせてたのか?
マサシの方を見ると、無言で頷く。
読んで、ということらしい。
次のページをめくると、「きな粉の作り方」と書いてあった。
「お前これっ!?」
思わず叫ぶ。
きな粉、それは国家指定の危険食物。
過去に大量の人が、気管を侵されたという(以下略
「タケルこの前、もちは味が淡白だったって言ってたでしょ?そのノート、うちの蔵で見つけたんだ。それによると、もちはきな粉をつけて食べるものだったらしいんだよ!」
「なんだって!?」
「なぁタケル、この前逃げてる時、キャンプ場のかまどの中にもち米置いてきたよな?マサシの持ってきたそれと合わせれば・・・」
散々ケントのことを馬鹿にしていたけど、どうやら俺も大概バカだったみたいだ。
俺はニッと笑って二人に答える。
「・・・やるか!」
今年の自由研究は豆づくりで決まりだ。
Twitterで#和モノ布教し隊 というタグを見かけて、テーマが「和食」だったので餅のお話を書いてみようとしました。
・・・結果、和モノとはかけ離れたよくわからないモノが出来上がりました。