神樹
ある夜、こんな夢を見た
私は少年だった時代、田舎の山中に住んでいた。
何もない田舎だったが、私は知っていた。この山に神様が住んでいることを。山の中腹にどうしてか樹が一本立つ他に、土が剥き出しになっている土地があった。樹のてっぺんにはいつも紅蓮のように真っ赤な鳳がとまっているのだ。
派手な色をした大きな鳥だというのに、見たものは何故か少なかった。
私はその鳥が山の神様であることを知っていた。自転車で山道を登る途中で、私は何度も神鳥と出逢った。特に神々しいとも思わなかったが、なぜだか樹と鳳を見に行くのが好きだった。
やがて月日が経った
都会の大学に行っていた私は、久々に樹の前を通った。樹はあったが、鳳はいなかった。
大人になったから見えなくなったのか、鳳そのものがいなくなってしまったからなのか、私にはわからなかった。