「探偵と魔法使い」
「会長にね、少しだけ話を聞いた」
「…………」
「だけどそれは少しだけの少しだから真実は分からないよね。それは全てが憶測に過ぎないものだもの」
「…………」
「こうなってしまった原因が会長にあったのか。それともただ単にこうなる運命だったのか。それとも望んでこうなっているのか」
「…………」
「多分本人の口から聞いたとしても、それが真実で嘘偽りない真の現実だなんて補償もさ、ないんだろうね」
「…………」
「探偵とか言われてるけど、結局私が知ることって確実なものなんかじゃなくてさ。妄想と空想の中で構築した『私』の真実なんだよね」
「…………」
「……そういう姿見てるとさ、ちょっと空しくなるんだよ。自分がさ」
「…………」
「結局私には触れられない所にあるんだもの。頭がよくても人の行動が読めても……、先見の理なんてよく言ったものだよ」
ぽふり。
『死体に話しかける趣味があったのか、お前』
「死体じゃないでしょ」
『死体だろ』
「この病院のベッドで横たわっているこの人には生かされるための措置が施されている。心臓もちゃんと動いているわよ?」
『だけどそこにソイツの意思はない』
「なるほど。じゃあトト、何処にコイツの意思はあるの?」
『……………』
「何処にコイツの意思はいるの?」
『……………』
「テテも心配してたよ。会長も……トトじゃなくてコイツの心配はしてる」
『コイツが目を覚ますことはもうねぇよ』
「どうして?」
『コイツにはもう新しい場所が用意された。古い場所にコイツの居場所はない』
「だけど、まだ生きてるわよ」
『そのうち死ぬさ。時間が経てばな』
「体が老体化していって機能が低下していって……そうね。いつかは死ぬんでしょうね。でもコイツはそれで良いのかしらね」
『…………』
「そんな死に方で良かったのかしら。そんな終わり方で良かったのかしら。そんな人生でコイツがコイツとしての時間を終わらせて満足だったのかしら」
『……さあな』
「トト。いえ、違うわね。貴方はどうしてそこにいるの?どうしてまだそこにいるの?」
『…………』
「戻りたかったからじゃないの?」
『…………』
「帰りたかったからじゃないの?」
『……お前、探偵の癖に質問とか疑問系でばっか話するんじゃねぇよ』
「…………」
『俺がその問いの答えを知っているとでも思ってんのか』
「……そう。じゃあ私の推理で話そうかしら」




