「兄と弟」
「その原因がなんなのか。俺には分からない」
「ただアイツは眠り続けたし、今も眠り続けてる」
「植物状態の人間は生きていて死んでいる。アイツが何を望んでいるのかも、俺には分からない」
「傷付けたのが誰で守ってあげたのが誰でそれを成したのが誰でその原因がもし俺で……」
「悪化もしなければ改善もしない。進みようもなくて後退するすべもない。アイツから聞かないと本当のことなんて結局分からないんだ」
「どれだけ考えても、どれだけ誰かに話を聞いても。真実なんて見えてこないんだよ」
「だけど不思議だ」
「アイツと俺は双子、だからかな」
「顔も似てないし性格も似てないけど」
「だけどアイツが今本当はどうしたいのか。アイツがあの日どうしたかったのか。俺自身と重ねて考える事は出来るんだ」
「病院に行って暫くアイツの顔を見て」
「まだ寝てるのかって。いつまで寝てるんだろうって」
「時間が経つにつれて色々考えてた事も薄れていって」
「あの子を見た時に思ったんだ」
「アイツとは面影も何もないんだけど。そんなことあるわけないんだけど」
そこにいるのかな、って。
『兄貴とは比べられたよ』
『双子でもさ、全てが全て同じな訳じゃないし』
『兄貴には兄貴の意思があって俺には俺の意思がある』
『双子だからって、同じようなDNAで構築された人間だからって心まで同じなわけじゃないし』
『でもやっぱり似るんだよな』
『くせも好みも考え方さえも』
『さっきも言ったけど全てが全て同じなわけじゃないけどさ』
『あの日したこと、俺は後悔してないよ』
『違うか。後悔する間も無かったのか』
『願いを叶えてあの子は幸せになりました。それで終わり。それが終わり』
『帰る術のない片道切符。留まることしか出来ない終着駅。戻れない自分。そこにはもういない存在』
『兄貴のこと、嫌いなわけじゃないよ。嫌いになった訳でもない』
だってさ、兄貴と比べられることが当たり前なことなんてずっと前から知ってたんだし。




