女子高生Tバック統一制度
〈女子高生Tバック統一制度〉
西暦20XX年、日本内閣より“女子高生Tバック統一制度”なる法律が公布された。
女子高生Tバック統一制度とは、その名が示す通り日本国内の女子高生が身に着けるショーツを、Tバックのみに限定するという悪趣味な制度である。
原案は当時の総理大臣であった下君泰蔵。彼が提唱した「JKがみんなエロいパンツ穿いてたら最高じゃね?」という思想に、日本を代表する政治家たちが揃って賛同した結果、ほぼ満場一致で両議院に受理されたのであった。
……が、しかし!
国家中枢の包み隠さぬスケベ心によって誕生したその法律は、まさに悪法!
施行以来やたらとスカートの中身を覗こうとする不届きな輩が増加したこともあって、当事者である女子高生を中心に、制度に対する女性たちの抗議の声が日本全国から殺到した。
問題はそれだけではない。
Tバック以外の下穿きの着用は、未成年飲酒や喫煙と同列の取り締まり対象に指定されたため、青少年(女子だが)の非行数も激増したのである!
果ては諸外国から非行大国だTバック国家だと揶揄されるほどになり、先進国としての日本の地位は陥落。幾度もの抗議運動・デモ活動の末に、諸悪の根源であった下君内閣は瞬く間に退陣を余儀なくされ、女子高生Tバック制度も五年と経たぬうちに撤廃された。
しかし重要なのは、たった数年の間でもこの制度が適用されていたという事実である。歪んだ欲望に塗れた大人たちが、権力を盾にしてもはや本来の役割を放棄したようなパンティーを女子高生に穿くよう強制した、恥ずかしい歴史が存在したことである!
……前置きが長くなったが。
これから語られるのは、そんな常識の捻じ曲がった一時代に翻弄されながらも自らの意志を貫徹した、ひとりの高校教師の物語である――
★
「藤木。どうして自分が呼び出されたか……わかるな?」
俺の言葉がやけに大きく響いた。職員室の中は、重苦しい空気に満ちていた。
ある初秋の放課後、校門を抜けていく生徒たちをいつものように見送った教師陣は、それぞれの机上に戻って事務作業に精を出す……フリをして、横目にこっそりと俺たちの方を窺っていた。
無理もない、今、俺の前で項垂れている女子生徒――藤木は絵に描いたような優等生。黒縁メガネに若々しい艶やかな黒髪は三つ編みにして両肩に垂らし、制服にも目立った着崩しはない。スカート丈も膝まで届いている。外見に違わず成績も優秀で、運動科目を除けば学年トップを争えるほどだ。
そんな彼女が、担任教師の俺に放課後呼び出しを受けているのだ。それも、お互い深刻そうな面持ちで。嫌でも不穏さを感じ取れてしまう状況、注目を集めるのも当然だ。
「……はい」
今にも消え入りそうな声音で肯定を示す藤木。頷いた拍子に、枝毛のない三つ編みが揺れた。
室内のどこかで誰かが息を呑む音が聞こえた。ふたりの緊張感が周囲に伝播している。
わかっているなら話は早いと、俺は腰かけた椅子から背中を離して切り出した。
「おまえ、普通のショーツを穿いているそうじゃないか」
瞬間、職員室全体が震撼した。
それは唐突に俺が生徒に対してセクハラ発言をしたから――ではない。彼女がTバック以外のパンツを身に着けている、すなわち法に違反していることへの驚愕からである。
今日の昼休み、他の男子から密告を受けたのだ。藤木がTバックじゃないと。俺はなぜ彼らがそれを知っているのか不思議で仕方なかったが、面と向かって尋ねるのは我慢した。
俺だって、この目で確認するまで――それはそれで犯罪だが――信じたくない。
しかし、呼び出されてからの藤木は、まるで罪の意識に怯えるように端正な顔を歪めていて。
理由は不明だが、本当に彼女はTバックを穿いていないのだと、教師を続けて五年間の歳月で鍛えられた直感がそう告げていた。
ならば、俺の為すべきことはもう決まっている。彼女を更生させるのだ。
とはいえ、ただ注意するだけではいけない。非行に走った原因を知り、理解し、その上で正しい方向へと導いてやる。それが教師の務めである。
熱い使命感を胸に滾らせ、けれど表面上は冷静を意識して口を開いた。
「きっと事情があるんだろう、俺は責めたりしない。ただ教えてくれ。なぜおまえは、Tバック以外を着けようなんて思ったんだ?」
藤木だって知っているはずだ。学生の身で普通のショーツを着用することは、女子高生Tバック統一制度によって固く禁止されている、と。
それなのに、きわめて真面目な生活態度を保ってきた彼女が、なぜ悪いパンツに手を染めたのか。
しばし、鼓膜が痛むほどの静謐が降りた。上辺だけは仕事をしていた教師たちもいつの間にか手を止め、その場にいる誰もが固唾を呑んで藤木の返事を待った。
そして――
「っ! どうした!?」
不意に彼女が、膝を崩して倒れ込んだ。
慌てて助け起こそうとする――が、それを手で制したのは、他でもない藤木自身だった。
室内を埋める困惑の中、涙混じりの声で彼女はぽつりぽつりと呟く。
「ごめんなさい……いけないことだって、頭ではわかっているんです……でも……っ!」
面を上げた彼女は耳まで真っ赤に染め、まるで縋るような眼差しを俺に向けていた。
咄嗟にかける言葉が見当たらず唇を噛み締めていると、藤木が喉の奥底から、いやもっと奥から、赤裸々な気持ちを吐き出した。
「――恥ずかしいんです! あんなエッチな下着を穿くことが! スースーして、常に誰かに見られてるようで不安になって……。そんなのが毎日続いて、あたしもう耐えられなくって……」
そこまで言って、藤木は再び目を伏せた。
最後まで聞いて、ようやく俺は理解した。いや、きっと全部は理解できていないのだろう。当事者でないとわからない苦悩が、間違いなくそこにはあった。
羞恥心。それが藤木を非行に走らせた悪魔の正体だった。
――そうか、彼女はずっとひとりで苦しんできたんだ。
Tバックへの羞恥と、罪を犯す負い目に板挟みにされながら。両親や友人、教師……誰にも打ち明けられず、孤独に戦っていたのだ。
重すぎる。まだ十代の成長半ばの少女がたったひとりで背負うには、あまりに荷が勝ちすぎる。
今の藤木に必要なのは、指導なんかではない。偉そうに高説を垂れるだけで解決するほど、事態は単純ではなかった。
……そして俺は、胸中でとある覚悟を固めた。
「少しだけ、待っていてくれ」
そう告げて椅子から立ち上がると、様々な感情の籠もった視線を背中に受け、俺は職員室を出た。廊下に佇み、藤木を救うための準備をする。さほど時間はかからなかった。
一瞬だけ、心に迷いが生じた。しかし、不安や葛藤は気合いで捻じ伏せる。藤木が飲み干してきた辛酸に比べれば、こんなもの屁でもない。
――藤木のためなら、なんだって耐えてやる。俺は彼女の担任なのだから。
まるで戦地に赴くような心持ちだったが、もう恐れることは一切なかった。勢いよく扉を押し開き、拳を固めて雄叫ぶ。
「これを見ろ、藤木!」
再度、数多くの視線が俺に、その一点に集中した。
そして……地球上の時が止まった、気がした。
俺はズボンを脱ぎ捨てていた。
トランクス一枚の下半身を曝け出し、真剣な表情で仁王立つ。職員室は少し空調が強くて、太ももに鳥肌が浮く。股間に注目を浴びて気分が高揚する。
そして絶句する藤木に親指を立てると、反転して背中を向けた。俺の真意はここにある。
薄いトランクスの布地が、尻の谷間に食い込んでいた。実は少し自信のある引き締まった尻が、衆目に晒される。
突如、職員室の一角から悲鳴が上がった。振り向くと、声の主は丸山さんだった。丸山さんは今年入ったばかりの新任教師で、柔らかい物腰から生徒たちに人気があった。どうやら彼女には刺激が強かったらしい。悪いことをした。
だが、些事に構っている暇はない。俺は両手を振りかざして藤木に熱く語りかける。
「藤木、もうひとりで恥ずかしがらなくたっていい。悩まなくたっていい。これで先生も一緒だ!」
羞恥心を吹き飛ばすように、俺は尻を突き出して左右に振った。何度も、リズミカルに。
「いいや、先生だけじゃないさ! 他の女子だってみんなTバックだ。誰だってお尻を出してる。だから……全然恥ずかしくなんてないぞ!」
知らぬ間に口元に笑顔を浮かべて熱弁する俺をじっと見つめる藤木の瞳から、一筋の滴が流れ落ちた。朱に染まった頬を伝っていくそれは、夕陽を反射してきらきらと輝いていた。
それが合図となったように、藤木は俺に駆け寄って、くしゃくしゃに歪めた顔を胸に埋めた。そんな彼女の華奢な背中を、両手で優しく包み込む。
呼び出したときから、ずっと堪えていた涙。けれど溢れ出す頃には、そこに溶け込む感情はすっかり色を変えていた。
藤木は嗚咽を交えながらも、はっきりとこう口にする。
「あたし……ひとりじゃ、なかったんだっ……!」
後頭部を撫でてやると、彼女は大声を上げて泣いた。
――ああ、最高だ。
こうして大事な生徒を抱き締め、その心を癒してあげられた。まさに教師冥利に尽きる、至福の瞬間だ。
それから彼女が泣きやむまで、俺はその小さな身体を抱き締め続けた。
思い切りパンツを食い込ませた尻を露出したままで――
――Fin
読んでいただきありがとうございます!
執筆当初、この制度は“女子高生の二の腕なめなめ法案”というものでした。
しかし、本当にこれで女子高生が恥ずかしがるのか微妙だったので、結局Tバックの方に落ち着きました。
機会があれば二の腕舐めたいです。