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2014年/短編まとめ

視界の壁

作者: 文崎 美生

「………うーん」


鏡の中の自分を覗きながら前髪の一部をつまむ。


伸びたなぁと思う。


目が隠れるくらい長く厚くなった前髪。


邪魔じゃないかと問われればイエス。


切ればいいと言われればノー。


長い前髪は視界不良になりがちなのだが、私本人としてはその方が落ち着く。


人と人との壁みたいな。


視線と視線の先に壁がある。そんな感じで落ち着くんだよ。


「鬱陶しい」


友人にバッサリと言い切られた前髪だけど、私としては何ら問題ない。


問題点を挙げるとするならば視力低下だろうね。


人と人との壁は私にとって心の距離を測るためのもの。


普段から前髪を下ろして行動するため、周りからしたら鬱陶しいだろう。


でも私は真っ直ぐ何かを見れるほど聡明じゃないの、純粋じゃないの単純になれないの。


綺麗な世界も汚い世界もこの目で見なくてはいけないのならば、少しでも見にくくして壁を作り上げる。


前髪を上げる時はきっと心を開いた時。


正面から真っ直ぐに見える時。


「………ねぇねぇ、れーたん」


隣で読書をしている友人の肩を揺する。


すると邪魔するなとでも言いたげな目で睨まれてしまった。


じっとれーたんを見つめる。


透き通る肌に涼やかな瞳、前髪はいつだって横わけで視界良好だ。


きっと彼女の見える世界は綺麗だ。


そんな綺麗な彼女の綺麗な世界に私は存在しているのだろうか。


「いつか、もっと、ちゃんと、れーたんを見たいなぁ」


そう言うと彼女は訝しむように眉を寄せた。


見てるじゃないと言う彼女に対して私は曖昧に笑う。


見てるけど見てないんだよなぁ。


前髪を整える様に指先で弄ると彼女は私の腕を掴んだ。


読みかけの本はいつの間にか閉じられている。


近付いてくるれーたんの不機嫌そうな顔に驚き、僅かに身を反らす。


椅子の硬い背もたれが当たる。


ギュッと目をつぶるとシャキッなんて軽い音。


「………えっ」


シャキシャキシャキッという音。


はい、なんてれーたんの声に嫌な予感しかしなくてゆっくり目を開けると、視界良好の世界。


体を元の位置に戻したれーたんの右手には、青い持ち手のハサミが握られている。


伸ばされていた前髪が、サッパリ目もと程までに切りそろえられているのだ。


流石にこれは酷い。


ちょっと涙が滲む。


れーたんはスッキリとした表情で私の顔を覗き込む。


「これで見えるでしょ?」


強行手段って言葉をれーたんは知っているのかな。


短くなった前髪を撫でながられーたんを見つめる。


楽しそうなれーたん。


夕日が差し込む教室で笑うれーたん。


「まぁ、うん、程々に綺麗だよ」


彼女と私の前の壁が取り払われた。

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