ゆめ
責任感、だったのだろうか。
俺が彼女を愛していると思い込んでいたこの感情は、そんな義務的なものだったのだろうか。
いや、そんな筈はない。だって俺がエレナを想っていたのなんて、彼女が怪我を負うずっとずっと前の事だ。たぶん。
「子供の頃のことなんか、曖昧になっちまうもんなあ」
ただ一つ言えるのは、彼女が例え怪我を負ってなかったとしても、俺は今も彼女を想っているであろうということだ。
たったそれだけ。こんな後出しの言い訳みたいな言葉で、エレナは納得するのだろうか。するわけないよな。あの頑固姫が。
「俺は、いつからエレナを…」
部屋に差し込む太陽の光を受け重さを増す瞼に抗えず、ゆっくりと意識が飛ばされていった。
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エレナが怪我をしたあの森の同じ場所で、白詰草を編む小さな女の子が何かを語りかけてくる。
声は聞き取れないが、きっと俺にとっても彼女にとっても嬉しいことを話しているのだろう。幸せそうに笑っている。
「…」
少し恥ずかしそうに頬を赤らめた女の子は、編み終わった白詰草の冠を俺の頭に乗せ、その綺麗な金色の髪の毛を風に乗せ、また微笑んだ。
ああ、そうか。これは夢だ。そして、俺の記憶だ。
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「ん、」
いつのまにか寝ていたらしい。
部屋はもう夕暮れに照らされ柑橘色だ。
「あれは、エレナだった」
夢を見た。幼い頃の、エレナと出会って間もない頃の、綺麗な思い出。
きっとあの事件に覆い隠されて、見えなくなってしまっていたんだ。
「やっぱり、俺は間違ってなんかいない」
あの時エレナが言った言葉。俺は忘れてはいなかった。心の何処かに沈み込んで、見つからなくなっていただけだった。
俺が、彼女を想うようになったのは、
ーーねえレオン
ーーもしも、これから先もずっとずっと、二人一緒に居られたら
ーーそれはきっと、すごくすごく素敵よね。
(あの時からだった)




