はじまり
ねえ―――。
ぼくはいつか、もっともっと強くなるよ。
だからその時は
「はあい。遊びに行きましょ?」
「父上殿に叱られるぞ」
「とか言いつつ準備万端じゃない」
地面から少し高い所にある窓に白い腕を置いて頬杖にした彼女は、良家のお嬢様とは思えぬいかにも動きやすさを重視したであろう衣を纏っていた。
「今日は何処に行く?」
「私小耳に挟んだのだけどね、どうやら王都から離れた所に洞窟が発見されたらしいのよ」
「楽しそうだな!悪のモンスターが住みついてたりすんのか?」
「もしかしたら魔王かもよ?」
「さすがにねーよ」
そんなん絵本でも展開早すぎ。と頭を小突いてやれば、彼女は持ち前の綺麗な金糸髪を指で梳きながら「まあね」と言って笑った。
「ほら、ちょっとそこどけ。ぶつかんぞ」
「やあね、華麗に避けて見せてよ」
「俺に何を求めてんだよ」
この若干暴君なところも昔から変わらない。悪戯っぽく八重歯を見せて笑うところも、こうして暇な時必ず遊びに来るところも。
それから、俺の気持ちも。
「よっ、と」
「窓から出るなんてお下品ねー」
「おまえこそ窓から誘うなんて、賊かよ」
「失礼だなあ。こんなに可愛いお姫様捕まえて」
想っている分否定は出来ない。俺が微妙な表情を浮かべていたのを引いてると勘違いしたらしい彼女は、笑顔を引きつらせさらに肩を竦めた。
「顔はなー、可愛いけどなー」
「何よ」
「いって、怒んなよ」
素直になんてなったら溜まったもんじゃない。赤面特急だ。もれなく俺もおまえも。誤魔化すでも弁解するでもなく、話を逸らすことを選ぼうと思う。
「で?本当に行くの?洞窟」
「行こうよ」
「魔王居たらどうすんの?」
「貴方をあげて逃げる」
「それ普通おまえの役割じゃねえ?攫われるとかさ」
「私が攫われたら両親が心配しちゃう」
「俺にしたって親心配すっから!」
イマイチ何を考えているんだかわからないこのお嬢様に臭いツッコミを入れて立ち上がると、俺は手に持っていた古い剣を腰にぶら下げた。
そういえばこいつは丸腰で大丈夫なのだろうかと彼女に視線をやると、よく見れば背中になにやら物騒なエモノを担いでいる。
「お嬢様、それなに」
「猟銃」
「なんでそんなもの」
「エクスカリバーってやつ?」
「何言ってんのおまえ」
どうやら屋敷にあった野犬用の猟銃をかっぱらって来たらしい。とんだお嬢様だ。




