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鉄と異教の村

旅する騎士風の少女、ヘリルは風変わりな旅人のマミヤといつも腹ペコな女の子クル・クルに出会い共に旅をすることになった。

彼らが辿りついたのは機械仕掛けの人形がうごめく街だった。

その街は機械人形が人間を保存し、来訪者をも取り入れようとする街だった。

機械仕掛けの街から逃げ出したヘリル一行が次に訪れた村は―――?

《魔法の村》

 『科学連盟』の街から逃げ出したヘリル一行は空腹に耐えながらも無事に人の居る村へ着いた。途中、空腹の向こう側へ行ったクル・クルがマミヤの頭をしゃぶり始めた時は大騒ぎだった。


「ごはんーごはんー」

「のはーっ!? ついに歯ぁ剥き出したぞコイツ!」


 そんなことわざわざ言わなくてもゴリ、とかガリ、とか聞こえてきてるからわかる。まず探すべき場所は宿ではなく食事処だろう。ヘリルも空腹に耐えながら近くに無いか見渡す。

 この村は先の『科学連盟』のようなアスファルトで塗装されてるわけでも『帝国』のようにレンガ造りでもなく地面があるまま。建物はこの世界ではよく見かけるレンガ造りの家が立ち並んでいて、何処からどう見ても城砦都市がランクダウンした感じの所だ。変わっている所と言えば製鉄所が至るところにあり、金属音を響かせて汗が吹き出るほどの熱気を放っている事と、


「う……」


 異臭に気づいたヘリルがそちらを向くと、十字架に吊るされた肉塊が目に入る。何度も叩きつけられた為に表面の皮は裂け、肉が腐って柔らかくなり重力に負け、骨格は粉々になってるため原型が全く分からないただの肉塊。しかし原型が無くなっても元がなんであるかは予想がつく。


「熊狩り信仰ですか……」


 この大陸でかつて起こった魔族殲戦。これが熊狩り信仰の始まりだとヘリルは聞いている。


 ここでいう魔族とは魔道に堕ちたモノを指す。例えば魔法にのめり込み過ぎて禁術に手を伸ばしたり、自身の肉体を別のものに変貌させたものだ。その代り高純度の魔力を保有する個体が生まれたり、人間より遥かに高いスペックの生命体に変貌したりする。これは人間に限らず高い知能を持ったケダモノも含まれる。自分たちとは異なる力を持つ魔道に堕ちたモノ達は健全な人間から恐れられ忌み嫌われて避けられるのだ。


 また魔族には種類があり、七つの大罪になぞられた属性に振り分けられる。

 その中の熊―――怠惰に冠するある魔族が、魔族殲戦で魔族が優位になった時、突然手のひらを反したのだ。形勢逆転した人間が魔族を追い詰め、息の根を止めようとした瞬間にまたこの魔族が人間を裏切り、人間・魔族双方に甚大な被害を与え、さらに何を血迷ったか自分で軍隊を組織して人間と魔族に対して敵対行動を始めたのだ。当時の皇帝と魔王は流石にこの魔族を無視することができず、一時休戦を行いこの魔族を討ち滅ぼし、また元の戦争を始めたという。

 このことから熊は裏切りの象徴として人間・魔族共々嫌われている。

 熊狩り信仰が良い例だ。捕らえた熊を食用にするでもなく、生きたまま吊し上げ餓死して死体が腐乱するまで放置し、村に熊が寄り付かないように祈祷する。『帝国』でも一部で流行っている悪趣味な宗教だ。


「―――と、二人とも遊んでる場合じゃないですよ、ほら」


 割と本気で歯を突き立てて遊んでた(?)クル・クルがヘリルの指示した方を見ると、失われていた気力が琥珀の瞳に宿り、香ばしい香りにスンッと鼻を鳴らした後、いつの間にか男の頭から離れた口から見っともなくヨダレが垂れる。目線の先にある鉄の看板に打たれた文字にはハッキリとレストランの単語が。彼女が恋焦がれていたものに、桃色髪の少女のカッと見開いた目をぐりん!とヘリルを向け、ヘリルの突撃命令を今か今かと待ち構えている。


「はぁ……マミヤ?」

「ゴー」


 ドゴッシャッ!! とクル・クルがレストランに激突する音が響く。後々が恐ろしいことになったが、とりあえず今現在の問題は解決した。




「お別れですか? ここで?」


 レストランの責任者に謝り倒した後、クル・クルが占領したテーブルに着くヘリルとマミヤ。テーブルに並べられた鱗の生えた肉料理をガツガツ食い荒らし、皿の上に骨と鱗を残した所でマミヤがそう切り出した。ヘリルが驚いてマミヤの顔を見る。爪楊枝を咥えたままニッとイイ笑顔をする包帯男がスルスルと右腕の包帯を取り去った。数日前にヘリルが斬った腕は継ぎ目も無く、開いたり閉じたりしても特に違和感が見られないほど見事な治り方だった。

 マミヤは目を細めて楽しげに右手をぶらつかせる。


「や~っと引っ付いたぜ。この解放感が何とも言えねぇな」

「良かったですね。……一緒に居られなくなるのが寂しくなりますが」

「出会いと別れはワンセットだ。特に旅人なんてそれが常だ」

「そうですよね……二人はこの先どうするつもりですか?」


 包帯を巻き、添え木代わりにしていた剣を左腕備えたマミヤに問う。

 元々マミヤの腕が治るまでの約束だった。完治した今、共にいる必要はなくなった。


「そうだな、とりあえずはここでゆっくり羽休めて日を見て出るつもりだぜ。前がドタバタだったからな」

「ええ……。まさかあんなことになるなんて……」


 今でもはっきりと網膜に残ってる像。ゾワゾワと背筋が蠢く不快感が襲ってくる。

「……オマエが見たのはこの世界じゃ何(・・・・・・)処でもある(・・・・・)普通のことだ。『神話協会』でも『帝国』でもな。俺の左腕も元を正せば人間の機械化。機械みたいに有無を言わない忠実さと人間の柔軟な思考を兼ね備えた極上の兵隊を造れる」


 その気になれば誰にも気付かれない人間爆弾として前線に送られるだろうさ、とマミヤは嗤う。


「この世の汚ぇ部分ばかり見てると疲れるだけだ。俺ぁ別れ際までお前さんの辛気くせぇツラ見るのはごめんだぜ」


 これは……慰めてくれているのだろうか? 一応マミヤはヘリルより年上で、旅人としても自分より経験がある。人生の先輩として軽い説教を与えてるつもりなのか。


「と、話は終わりだ。所でお前さんはこれからどうする?」

「私もここに留まります。というより、ここが私の目的地ですからね」

「ふぅん? じゃあ宿をしばらく一緒にしておくか?」

「いえ、ここから先は私一人で暮らします。これ以上迷惑を掛けたくも掛けられたくも無いですし」

「……おい、いつ俺が迷惑掛けたって?」


 マミヤの静かな問いにあら失礼、とそっぽを向くヘリル。

 そこには別れの悲壮感も無い。

 これが旅人の常だと言うように。





 最後の昼餉の後、二人と別れを告げたヘリルは近くにあった質素な宿を取った。値段相当の、ベッドと鏡が立てかけてあるだけのカビの匂いが気になる部屋だった。それについてヘリルに不満は無い。元々荷物は食料とわずかばかりの金品と武器一式だけ。かさ張ることもないし狭いとも感じない。

ふと立て掛けられた鏡が目に入る。

頭の先から伸びる纏められていない金糸は背を撫でるほど伸びきっていて、北の方で見られる顔立ちにはシミ一つ無く、女性らしい起伏に富んだ体を覆う青い礼服のような薄い上着と動きやすいようピッタリと合わせたサスペンダー付きの白いスラックスには皺も無い。今は壁に立て掛けている剣を腰に差せば完璧な女騎士の出来上がりだ。

 だが、今の騎士少女の顔で街に出向いたら悪い意味で目立ちそうだ。


「……本当に、楽しかった」


 思い出されるのはあの二人と共に過ごした2週間。

 ヘリルにとってあんな風に感情を顕わにするのは本当に久しい事だった。


(御二人共、無事でいてくださいね)


 少女はふっと微笑み、壁に立て掛けた剣に手を伸ばす。

 ここからは自分だけの時間だ。



いいわけ)

リアルがかなり忙しくて更新も執筆もままなりませんでした。すいませんでした。

設定追記

この世界の科学技術は大体地球と同じぐらい。科学連盟の技術は時々ぶっ飛んでる。

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