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始まりは森の中

 旅は道連れと言う言葉があるが、口うるさい道連れはごめんだ、と少女は思った。事ある毎に文句を呟き、問題が起こっても我関せず、問題解決に時間が掛かればまた文句を垂れる。

 だが、こちらから何も言うことができない。何故ならば―――

 

「ああ、くそっ! 左じゃ食いにきぃ! こら拾うな食うな!!」


 体中に包帯を巻いた男がポロリとスプーンに乗ったジャガイモを落とし、すぐさま隣にいた桃色髪の女の子が転がったジャガイモを奪い去る。

 ―――山賊と間違って腕を切り飛ばしたこちらが悪いのだ。




 彼女らの出会いは森の中。

 とある事情で旅をする金髪をたなびかせた騎士風の少女は国境に立ちはだかる森へ歩を進めていた。森というのは何かと物騒なもので、追いはぎ目的の盗賊はもちろん森に潜む獣や魔族といったのが付き物である。例に漏れずこの森も右の道か左の道かを選んだだけで盗賊に追い剥がされる場所だった。

 普通ならばや旅商人の護衛団などに加わって集団で歩いていくものだが、腕に自信のある少女は単独で森に入った。何が出るかわからない中、周囲への警戒を忘れずに進んでいくと木々が拓けた場所があり、そこに人影が見えた。自分と同じ旅の者かと声をかけようとした時、ピタリと歩みが止まった。


 人影は自分より丈が大きく性別は男だと分かった。長袖長ズボンと隙の無さそうな格好のくせに胸の辺りがバッサリと開き、腕と頭、はだけた腹部にかけて包帯が巻かれ、ワラで編まれたサンダルを履いていた。旅人の割に変わった格好だと思った。さらにおかしいのは護身用の剣が差された位置。腰や背中にあるはずの剣は何故か骨折時の添え木のように左腕に包帯と一緒に巻かれている。そして、少女の足を止めた原因はもう片一方の腕に掴んでいる物。いや、()


 それは丈夫な縄で縛られた5歳ほどの女の子だった。

 このあまりにもシュールな光景に固まっている少女に気づいた包帯男は、嫌なものを見られたというような表情で同じように固まった。

 少女は考える。何故ぐるぐる巻きにされた女の子を掴んでいるのかよりも、そもそもこの男はいったい何者なのか? 格好から言って一般の旅人とはかけ離れているし、包帯の巻き方を見ると大怪我というわけではなく古傷を隠すような巻き方だ。

 旅人とは思えない恰好。

 傷を隠すような包帯。

 捕らわれた女の子。

 ここから導き出される答えは―――この男は人攫いなのではないか?


「あー、話」

「問答無用!」


 女の子を掴んだ腕はバターを切るように少女の白銀に輝く剣の刃をすんなりと通した。




 桃色髪の幼女が語るには、お腹が空いたから食糧を食い尽くしたらなんでか怒って簀巻きにされたと言う。つまり、子連れの旅人のよくある失敗だったのだ。……まあ、オシオキとして年端もいかない女の子にスマキは如何に?

 そういった経緯で男の怪我が完治するまでの間、謝罪の意味を込めて少女は彼らの護衛を買って出たのだった。


「ヘリル嬢、水あまってるか?」

「はいはい。無駄遣いはやめてくださいよ」


 金髪の女騎士、ヘリル・イスラードはただ溜息を吐くだけだった。




「次の都市までどれぐらいだ? ヘリル嬢」

 ある日、ヘリルの同行者である包帯男が腕吊り(アームリーダー)の位置を調整しながらそう訊ねた。

 ヘリルの冴えわたる剣捌きでちょんぱされた右腕だが幸いにも包帯男自身元魔法医師だった為、切断された腕程度なら二週間ほどでくっつくそうだった。


「……そうですね、地図通りの経路を辿っていたなら半日か遅くて明日の昼頃には着いているはずですが」

「食糧は?」

「節約すれば明日の朝の分までは取ってます」


 そう。節約すれば。

 ちらりと包帯男の肩に乗るものを見る。そこに居るのはヘリルにとってもう一人の同行者。器用にも手で押さえず肩に乗っけているそれは、ぐでんっと力無く手足と桃色の髪を垂らし、ピクリとも動かないので何も知らない人が見たらきっと人形か死体を運んでるようにしか見えないだろう。その合羽を羽織った幼女の名をクル・クルという。

 この幼女は空腹度が限界まで来ると食糧を貢がない限り指先一つも動かさないというおかしな習性を持っている。そして解放された食欲は金貨5枚(一般家庭の生活費約1週間分)では賄えない。

 さらに言えば、ここには大食いが二人いるのだ。言わずもがな包帯男に担がれたクル・クルと――――恥ずかしい話、ヘリル自身である。

 時折くるるぐるるぎゅるるるると腹の虫が鳴く声が聞こえる。

 今日一杯、燻製肉入りうす味スープで我慢しろと彼女に言ったところで、


「……食い尽くすだろうなぁ……」


 ヘリル自身、肩に担がれる幼女によって引き起こされる災いを味わったことが無いのでわからないが、今隣に居る男の表情がこれからのことを如実に語っている。


「ほらマミヤ! ボーっとしないで足を動かしてください!」


 そう言ってちゃかちゃか足を速めるヘリルを、マミヤは溜息を吐きながら歩いて着いていく。

 そして思うのだ。

 ――――旅は道連れと言うが、慌ただしい旅の共はごめんだ、と。

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