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「第三話」

「第三話」


神奈川県立 名皇めいおう高校。


その高校は県外からスポーツ推薦での入学者も多く、県でも一般入試の生徒を含め毎年約六百人以上の新入生を受け入れている有名なマンモス校として知られている。

そして多いのは全校生徒千八百人という異常な生徒人数だけでなく当然、彼ら生徒をようする為の学校の敷地面積も大きく、運動部の競技場は、それぞれの部活動の専用の競技場があり、校舎を除いてもかなりの面積がある。

校舎全体を上から見ると悪魔の持つような三つ又の矛のような形をしており、それらは真ん中の部分が『第二学年棟』、左隣に『第一学年棟』、右隣に『第三学年棟』がある。


このお話はその名皇高校、『第一学年棟』のとある教室から始まる。



「プールぅ?」

昼休み真っ只中。この一年三組の教室の中で弁当も食べ終わり、屯野琢磨とんのたくまは机に自らの大きな上体を殆ど預けるような姿勢のまま、視線だけで頭上の男の表情を覗う。その男は屯野の気だるそうな表情を見ても意に介した風はないのか、白い歯を見せ爽やかに笑う。

「そう。明日はちょうど学校のプール開きだろ? だからその前にどっかの市民プールで泳いどこうかなって。どうよ?」

「どうって……」

屯野は机から体を起こし、頬杖をつきながら目の前にいる男を見る。

彼はこの一年三組の屯野のクラスメイトであり、入学当時からの友人。市ヶ谷渉いちがやわたるだ。

背は屯野と同じ位で、高校生にしては長身の百八十センチほど。しかし、肥満体系の屯野と対照的で市ヶ谷は痩身であるが、制服の半袖の白いカッターの袖口や胸からはスポーツ選手のような邪魔にならないほどの無駄の無い筋肉が見える。

色黒で黒の刈り込まれた短髪の彼は爽やか系のバスケットボール選手を連想させる。

市ヶ谷は頬杖をついて、気だるそうな視線を送る屯野を見ても自身の爽やかな笑顔は崩さなかった。

市ヶ谷にとって今の屯野の態度は決して自分に対して悪気があるものではないと、入学してからのこの数ヶ月の間で解っているのだ。

屯野はそんな爽やかな笑顔を浮かべる友の顔を見て言う。

「……市民プール、多分混むんじゃないか? 俺は混みまくってギュウギュウになった所で泳ぎたくないぞぉー」

運動する事に対して否定的な屯野は友の誘いを断りたかった。

だが市ヶ谷はそんな屯野の否定的な言葉にめげる事は無く、机から体を起こした屯野の目を真っ直ぐに見ながら続ける。

「だからいいんじゃねーか。 学校のプール開き前のこの時期の市民プールってのは結構女共が群れて泳ぎにんだよ。なぜなら『彼女達』は六月はじめに買った水着を早く友達やらに見せびらかしたくてしょうがねーのさ!」

市ヶ谷の周囲に対して遠慮の無い大声が屯野達のいる教室に響く。

「…………あ、あぁ」

曖昧に頷いた屯野はつい先ほどまで、主に女子たちの雑談に満ち溢れていた教室がシン、と静かになって一瞬で教室内の空気が張り詰めるのを同時に感じていた。

だが、そんな冷ややかな空気をものともせずに、いや、目に入っていないのか、市ヶ谷は続ける。

「ガキくせえワンピースやスク水なんて生易しいもんじゃねえ。あいつら殆どが上下セパレートのビキニだぞ!? そんな露出の高い、犯罪一歩手前の奴らが大勢プールでだべりながら底に足をつけて歩いてんだよ。そんな女共で込み合ったプールの中で顔を沈めてみて見ろよ? 水着姿の女の体がうようよと……ってどうした? 顔、机に突っ伏して……?」

机の上で腕を組み、その中へ頭を沈めた屯野は目の前で大声で話す市ヶ谷の顔を直視できなかった。

「市ヶ谷ぁ……俺もそう言う話は嫌いじゃないが、何でおまえはどこでもお構いなしにそういう辺りが引くようないやらしい話を大声で話せるんだよ?」

気がついてみれば、このクラス中の女子達が屯野と市ヶ谷の方へ冷ややかな視線を送っていた。

市ヶ谷はこういう女子の逆鱗に触れそうな下世話な話をすることがしばしばあった。

爽やかな外見に似合わず、こういうしもの話で興奮する市ヶ谷に対して屯野は周りの空気に耐え切れず赤面した顔を隠すので精一杯だった。

当の市ヶ谷はああ、そうか。と言い、流石に自分の周りを取り巻く雰囲気に気づいたようだ。

「い、いやぁー。俺って中学はずっと男子校だったからさー。あん時とかはこの時期になるとそー言う女子の水着トークで盛り上がってたんだよ」

言い訳にならないような言葉で市ヶ谷は照れたように言うと、何かに気付いたように屯野の首筋に手を当てる。

「……そういや お前首の後ろのこれ、どしたの?」

市ヶ谷の触れた場所には大きな絆創膏が貼られていた。

屯野は再び机から体を起こし、首筋の絆創膏の感触を確かめるように、その部分をさすりながら、

「うーん。何か解んないんだけどさ。昨日何かに刺されたみたいで、ちょっと違和感があったから今朝親に見てもらったら、赤くなってたんだよ。別に苦しいとかはないし、多分アブか何かに刺されただけだと思うんだけど」

それに気づいた時は時間が無く、絆創膏は休み時間、保健室で薬を塗ってもらった後、貼ってもらった。屯野は市ヶ谷にそう話すと市ヶ谷は暫く俯いていたが、やがてニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ屯野の方を見る。

「何だよ」

「女は寄って来ねえが、虫には好かれてんだなぁって思って。いいなぁー屯野は。俺なんか虫も寄って来ねえ」

「……虫に好かれていい事なんか一つも無いぞ市ヶ谷。それに俺は好かれるなら二次元の方カワイイ女の子の方が好きだなぁー。あーもー。誰でもいいから恋してぇなぁーチキショー」

「……お前も引くような事言ってんじゃねえかよ、萌え豚野郎」

「何か言ったか、スケベ野郎」

「何でもねえよ、萌え豚野郎」

こうして昼休み終了の予鈴が鳴り、屯野達はいつもどおり何事も無く、次の授業の用意をした。



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