「第二十三話」
「第二十三話」
その時、屯野を追い詰めていた牛の怪人――市ヶ谷は今いる停電し、真っ暗な町立図書館のロビーで屯野がTファージを発動させ、大きな叫び声をあげたのを聞いた。
「ゴ……グ……ググッ!」
市ヶ谷は突如訪れた轟音に慌てて、耳に手を当てる。
(豚野郎が、今更足掻きやがって……!)
己が抱く屯野に対する嫌悪に市ヶ谷は心の中で声の主に毒づく。
市ヶ谷にとって真っ暗な中で視界は利かないが、それでも牛の持つ発達した嗅覚は屯野の位置を捉えている。
屯野の叫び声はまだ続いている。
耳に手を押さえながら、市ヶ谷は自分から直線状、四メートル先にいる屯野に向かって床に着けた足を開き身構え、向こうにいる屯野の攻撃に備える。
(なるほど……この姿で初めに豚の姿になった屯野と会った時。お前の叫び声に俺が耳を両手で手で押える所を一度見られたからな。叫ぶ事で俺の腕を封じたつもりか)
――両手が耳に当てられて一部、動きを封じられた今、市ヶ谷は屯野に向かって腕を振るう事ができない。無論、屯野はその事を知っておりその隙をつくだろう。
だが――身構えた市ヶ谷は歯を噛み締め、音に苦しむ振りをしながら、牛の頭を僅かに床へ向ける。
今、市ヶ谷の額に生えている一対の角は屯野のいる方へ向けられていた。その角は突き立った槍のように鋭利で先にいる屯野の首から上――頭の高さに収まっている。
(……牛の俺には豚のお前と違って角があるんだ。楽に死なせてやる)
市ヶ谷は音に苦しんでいるように、屯野に自分の存在を更に知らせる為、大きく呻く。その中で密かに鼻を鳴らし屯野が自分の方へ一直線に飛び込んでくるのを待つ。
ロビーの床で死んだ烏城から漂う死臭に市ヶ谷は僅かに眉を寄せ、屯野のTファージの臭いに全神経を集中させる。
その瞬間。市ヶ谷の心の底から今まで感じたことのない殺人衝動が溢れてくる。その中であらゆる恐怖や罪悪感のような余分な感情が削がれ、心が戦うことのみに特化し、次第に研ぎ澄まされてゆくのが市ヶ谷自身にも解った。
(殺してやる……殺してやるからとっととかかってこいよ……!)
市ヶ谷は獲物を狩る狩人の気持ちを異常な期待と狂喜の入り混じる中で味わっていた。
ところが、目の前で叫ぶ屯野は腕の塞がった市ヶ谷の方へは向かわず、派手に足音を立てながら何処かへと走り去っていた。
「――――!?」
市ヶ谷は思わず牛の口で言葉にならない驚きの声を短く上げていた。――俺の思惑が外れた。どういうことだ?
市ヶ谷の動揺をよそに、屯野は更に市ヶ谷から距離を離しながら、どこかへ走っている。姿は暗闇で見えなかったが向かっている先は市ヶ谷から右数メートルほどの場所。烏城の臭いのする方だった。――屯野は走っているその間中も叫び声を絶やさなかった。
市ヶ谷の研ぎ澄まされた殺意が逃げられた事の怒りに歪んでゆく。
(あの豚野郎……。逃げれるとでも思ってんのかぁ!?)
市ヶ谷が体を屯野の臭いのする方へ向けるが、その距離はますます離れてゆき、屯野は闇雲に走り続けているようだった。そして、その向かった先を市ヶ谷は素早く嗅覚で察する。――しめた。屯野が向かった方向は俺がさっきまでいた図書室だ。
屯野は上半身を豚のような姿にしたまま、何とか牛の怪人の姿の市ヶ谷を振り切って明かりのない図書室奥の空間に辿り着き、壁のように立つ本棚の一つに腰を凭れさせた。
(はぁっ……! はぁっ……! お、追って来ない、か)
市ヶ谷が急いで向かってくる様子は無い。この場所は出口が市ヶ谷のいるロビーから入る扉しかなく、市ヶ谷は袋小路であるこの場所へ屯野を追い詰めたと思っているのだろう。
(ま、当然っちゃ当然だよな……はぁ……)
事実、屯野も自分が追い詰められていると思っていた。
しかし、目的の一つは果たした。
屯野は今まで胸に抱えていたそれをゆっくりと離す。
――そこには微かな烏城の臭いを持っていたものの正体。ここに来る際に屯野が掴み取った確かな重量を持つ、烏城のエアライフルがあった。
市ヶ谷は恐らく屯野がこれを拾った事を知る由はないと確信を得ていた。屯野がこれを拾い上げる時にライフルの銃身部が床を打って金属音を立てたが、それは屯野が上げた豚の甲高い叫び声によってかき消されていたからだ。
そのライフルに元々ついていた臭いも、屯野が走りながら抱えていて汗に塗れたからか、殆ど屯野の臭いに上塗りされ、微かだった烏城の臭いを放っていなかった。
しかし、――烏城の言葉では――人の皮膚を打ちぬくことの出来る威力を持つこの強力な武器を持ったとはいえども、暗闇の中、しかも回りは屯野達の動きを制限する自習用の机や本棚など数多くの障害物に囲まれている。
屯野が今居る図書室奥のこの場所へ来るまでの道のりは殆ど何もぶつからずに何とか走ってこれたのは奇跡に近かったのだ。
今、屯野が人並みはずれた嗅覚があって市ヶ谷の居場所を理解していても、『特定の場所』を離れたところから正確に狙い打てるはずがない。――そう。特定の場所。屯野は自分と同じTファージでどんな傷をも治してしまう不死身の体を持つ者には一つだけ復元不可能な場所がある事を知っていた。
(頭だ。烏城も頭を砕かれて死んだ。そして、あの市ヶ谷にとってもそれは同じハズなんだ……!)
事実、屯野がそう考えるとおり、屯野達Tファージ感染者が体に持つTファージは感染者の脳から送られた電気信号によって、その形を感染者の意に沿って変える。
つまり、制御器官である脳を重度に損傷すれば感染者は必然Tファージを使えなくなり、肉体は事実上死亡する事となるのだ。――なお、屯野と市ヶ谷の戦いを見守っているTファージの生みの親、鵠沼玄宗はこの事を知っていたが、頭ばかり狙うのは戦いの興を削いでしまうと思いあえて、彼らに教えなかった。とはいえ、既に今では市ヶ谷や屯野には言われるまでも無く弱点の察しはついていたが。
屯野は暗闇の中、改めて自分に喝を入れる。この銃を撃つチャンスは一度きりしかない。そして、その『一度』はこの戦いの勝敗を分ける分水嶺となる。
市ヶ谷は暗闇の中、足元を机や椅子に何度か脚をとられながらも、ゆっくりと屯野のTファージの臭いの場所へ歩いていた。
(屯野……動く気配がないな。よし――)
市ヶ谷は体に自身のTファージ強化させた隆起した筋肉を纏ったまま、首から上を人間のものに変え、短く息を吸う。無論、嗅覚は牛のままだ。屯野の居場所は解る――図書室の奥だ。やがて、大きく口を開く。
「おい、屯野。どうした。逃げてもいいんだぜ?」
市ヶ谷はワザと間抜けな声で言い、こんな状況でのそんな自分の声が可笑しくなり、思わず市ヶ谷は自分で笑いを漏らす。自分はこの図書室の唯一の出口である扉を背に屯野の方へ歩いているのだ。屯野に逃げれるハズがない。案の定、屯野が動く様子はなかった。
「なぁ屯野、お前は俺に殺されるのが怖いか?」
静まった図書室に市ヶ谷の嬉々とした声だけが大きく響く。やがて、その音の反響が完全になくなった頃、屯野が僅かに震えた声を出し、答える。
「……お前は……お前は本当に市ヶ谷なのか?」
市ヶ谷はその問いには答えなかった。ただ、沈黙をもったまま数秒が経つ。屯野の言葉が続く。
「俺が知ってる市ヶ谷は、いつも明るくて楽しそうなヤツで、ちょっと人に嫌がらせして怒られただけで素直に謝るような……人の気持ちが解ってやれる――俺にとって最高の友達だったんだ……!」
「…………」
「烏城を殺して、それになんの罪のない人まで――――
「ふざけるな。俺が殺したアイツはゴミ以下の変態野郎だよ」
「え?」
「屯野、アイツ――いや、アイツラは今年の五月頃から俺らの練習に顔出して来たのさ。部活のOBとしてお前らの練習振りを見に来た、とか抜かしやがってな」
市ヶ谷はそこで一旦言葉を切る。近くで稲妻が光り、中にいた市ヶ谷の顔を一瞬白くうつす。その顔には何の感情も無かった。
「でも、実際は俺らの練習を邪魔しに来ただけのどうしようもない奴らだったんだ。アイツラは俺らが真面目に部活やってるところを見ると難癖つけて殴りかかってきたりした。何の事はない。俺らは社会人になって職場に馴染めずにいるOBたちのストレス発散の元になってたんだ」
「おい初耳だぞ、そんな事……。何で誰にも言わなかったんだよ……!?」
「俺と同じ一年が顧問に言いに行ったが、結局はアイツラが数日来るのが収まっただけだった。そして顧問に言いに行ったそいつは二度と練習に来なくなったよ。全身に火傷の痕や痣を幾つも作ってな」
「…………」
奥に居る屯野は黙ってしまった。市ヶ谷は額に手を当てる。――当たり前だ。万年帰宅部だったようなヤツには考えもつかない世界だろうからな。
市ヶ谷は続けて、口を開く。
「それ位なら、俺もどうにか我慢できたさ。でも――アイツラはウチの女マネにまで手を出しやがったんだ」
「手を出した……?」
「乱暴したんだよアイツラは。カラオケに連れ込んで二十過ぎた男五人が束になってな。……お前もガキじゃねえんだから解るだろ――――つまり、そういうことだ」
「え……嘘、だろ……? で、でも……そんな事されたなら、そのマネージャーだって警察に……」
市ヶ谷は無意識の内に苛立った声を出して、屯野の言葉を否定した。
「自分が犯された何ざ親に言えるわけねえだろ。被害届が無きゃ警察も動けないんだよ。その女マネもある日を境に来なくなった。と言うか、そいつのクラスのヤツによれば登校拒否だそうだ。七月のあの日。部活の帰りに駅に着いた俺はそのOBの一人に偶然出会って、そいつはその際した事の詳細と写真とを勝ち誇るように俺に話し、見せやがったんだ。俺はその時、その女マネが来なくなった理由を知った。――その後」
そこで、言葉を切った市ヶ谷はやがてゆっくりと口を開く。
「そいつをつけて殺したよ。そして俺は残った四人全員もブチ殺すことにした。だが最後の一人がまだ残っちゃいるがな」
「……で、でも、市ヶ谷。お前が殺さなくたってどの道、そいつは社会に裁かれる。そうだ。今から俺と警察に行って事情を話せば――
市ヶ谷は屯野の言葉をもう、それ以上聞きたくなかった。
「正義ぶるなよ屯野。俺はもうTファージで人を何人も殺してるんだ。今更……止められるかよ。それにもう今の俺は、もう『誰か』を殺さねえといけないくらいに心が壊れちまってる……! 屯野、お前もそうなんだろ? だからもう、いい加減逃げてねえで出て来いよ屯野ぉ! 俺らはもう戦うしかねえんだよ!! 戦え! 戦えよ!!」
市ヶ谷が叫ぶ。そしてその怒りに呼応するように、外でまた激しい音と共に雷光が煌き、中を照らす。――屯野は部屋の奥の本棚の陰に隠れたままだ。やがて、屯野のいる方でゴトゴトと物音がした後、暫くしてそこにいた屯野が答える。
「……なら、来いよ市ヶ谷。俺はここから動かない。お前みたいなヤツ、Tファージを使うまでも無い」
自信に満ちたその言葉を市ヶ谷は理解できず、市ヶ谷は思わずいぶかしむ。
(はぁ……? 馬鹿言ってんじゃねえぞ。Tファージで体を強化しなければ無力になるのは必死だ……。脳ミソまで豚になりやがったか。……いや、でもここはとりあえず――)
市ヶ谷は出来るだけ明るい口調で屯野の言葉に答える。
「へへ、上等ぉ。その方がお前も楽に死ねると思うぜ」
そう言って、市ヶ谷は鼻を鳴らし、屯野の位置を確認しながら暗闇の中ゆっくりと屯野のいる方へ歩を進める。
歩を進めていく内に市ヶ谷は屯野の言葉が苦し紛れの虚勢から生まれた狂言だと確信を得た。
屯野は間違いなくTファージで体の形を変化させている。屯野の微かな体臭に混じって、屯野のTファージで変化させた体が放つ独特の臭いがある。屯野は恐らくその上半身を豚の筋肉を持つ強靭な体へ変化させているのだろう。
(自分は人間の姿だと言い切って、油断して近づいて来た俺を襲うつもりか。馬鹿が。そんなのに騙されるのはお前ぐらいなモンだよ)
市ヶ谷は不意の襲撃に備え自分の頭を牛に変えたのを初め、全身の骨格、筋組織をTファージで牛のものへと強化させる。
――用意は整った――
その瞬間。市ヶ谷の側面についた牛の眼が闇の中で鋭く煌く。市ヶ谷は全速力で屯野のいる部屋の奥の本棚の陰まで走っていた。
「ブオオオォォォ!!」
市ヶ谷が咆哮する。
暗闇という場所にかかわらず、市ヶ谷が走るその動きに淀みは一切無かった。
実際、何度か雷が中を照らしていたので、市ヶ谷は屯野のいる所に向かうまでのその障害物の位置を短い間にあらかた把握していたのだ。
人とかけ離れた運動速度を持つ市ヶ谷が全速力で向かう先は、言うまでも無く屯野のTファージの臭いを放っている――屯野琢磨のいるその場所だった。
突如向かってきた市ヶ谷に屯野がその場を動く様子は無い。市ヶ谷は屯野の慌てふためく姿が見えるようだった。
僅か二秒ほどで六メートル以上先にいた屯野のいる本棚の陰に市ヶ谷は辿り着く。そして、市ヶ谷はその場所に向けて、最早人のものでも牛のものですらない、不気味に歪曲した硬質の蹄が幾つもつき、巨大なハスの花托のようになった歪な拳を振り上げる。
(これで、終わりだ……!!)
市ヶ谷は容赦なくその奇怪な拳を屯野のいるその場所へ叩きつける。
だがしかし、市ヶ谷が最後の一撃を見舞った場所には屯野の姿は無く、拳を打ちつけた感触はあったものの、それはTファージで体を変化させた屯野のものではなかった。
(な……に……!? 何だこれは、硬い……!?)
市ヶ谷が攻撃を振るった場所。そこには確かに屯野のTファージの臭いが充満していた。だが、そこに屯野の姿は無い。理解の及ばない矛盾に市ヶ谷は気がおかしくなりそうだった。
その中、攻撃を振るった市ヶ谷のすぐ前でパラパラと何かが舞い飛ぶ音がする。
(ほ、本……? そ、そんな馬鹿な、どうして)
市ヶ谷はいつの間にか積み重ねられた辞書の山を殴っていたのだ。
訳の解らぬままの市ヶ谷を無視するように、目の前からカチャリと何かを引くような物音を出した。
(え――――)
そして、それが何の音なのか誰が出した音なのか、その疑問に答えるように、また雷光が部屋を照らし、市ヶ谷の前にいるその人物の姿を明らかにする。
そこには宣言どおり、Tファージを使わず、人の姿でエアライフルの小さな銃口を市ヶ谷に向け、ライフルを構えた屯野琢磨がいた。
瞬間。目の前から風船を破裂させたような大きな音がしたと共に、市ヶ谷は額に味わった事の無い激痛を感じ、意識が急速に薄れてゆく。
「グオォォォォッ!!!」
市ヶ谷は知らずうちに叫び声を上げていた。
(ガ――く、クソ、なん――――で。と、にかく、復――元を)
市ヶ谷は屯野に頭をライフルで撃たれながらも、二度目の対決の際、烏城が言っていた通り、Tファージによる自身の頭部の復元を試みる。頭部を幾らか強化したお陰で幸いまだ市ヶ谷の意識は残っている。
しかし、非情にも屯野のいる方からまたカチャリと音がし、間もなく乾いた銃声と共に次弾が市ヶ谷の額を貫いた。一秒と経たず内に、再び激痛が訪れると共に意識が薄れてゆく。
(ゴ――――グ――――グゾ……ォ)
続いてまたカチャリと音がし、もう一発が市ヶ谷を襲い、その額が再び穿たれる。
打ち抜かれた額から脳漿の混じった粘着質な血がゆっくりと市ヶ谷の顔の表面を流れ落ちる。
そして、市ヶ谷の体内のTファージが活動を停止し、市ヶ谷の顔がたちまち人間のものへと戻ってゆく。
しかし、傷は治らず、痛みも変わらず、額に空いた穴はそのままで、市ヶ谷の顔は血まみれのままだった。幾ら自分で思えど変わる事のない痛みに絶望し、市ヶ谷は目の前にいる屯野に小さく呻く。
「や……止めて……く――――」
漸く口に出せた言葉を市ヶ谷は目の前の屯野に最後までその言葉を言う事ができず、やがて市ヶ谷はそのまま前のめりに倒れ、図書室のカーペットの床に大きな血溜りを一つ作り、死んだ。
静かになり、死んだ市ヶ谷を時折雷が中を照らすたび、屯野はまだ反動の残る三発撃ったエアライフルを手にその市ヶ谷の姿をぼんやりと眺めていた。
ふと屯野は自分がつい先ほど市ヶ谷を出し抜く為、自分のTファージの臭いをそのページに満遍なく染みこませた辞書の山に目を落とす。
案の定。自身の嗅覚で屯野の位置を把握していた市ヶ谷はその場所に屯野がいると思い込み、市ヶ谷はその辞書の山を屯野のいる場所だと誤解し、その位置を攻撃した。そして、その隙を狙い同時に人の姿に戻った屯野はライフルを持ち、市ヶ谷のいる場所へ発砲した。
その時、偶然起こった雷の光で市ヶ谷の頭の位置が解ったのは屯野にとって僥倖だった。
だが、それが屯野が市ヶ谷に発砲するという決断を早めてしまい、結果。屯野は躊躇する間も無く、気が触れたように屯野は市ヶ谷に弾丸を撃ち続けたのだ。
頭を何度も撃ち抜かれ、血まみれになって動かない友の姿をただ真っ直ぐに見つめ、自分のしてしまった事を理解し、そして後悔する。やがて、屯野の手からライフルがガシャリと音を立てて落ちた。噛み締めていた屯野の口が僅かに動く。
「ち、畜生……。どうして俺がこんな事を……」
屯野が内から際限なく溢れる悔しさに思わず強く握った手の爪が皮膚を裂いて、握りこんだ屯野の掌からは血が出ていた。――その手にはライフルを撃った時の反動が僅かに残っていた。
「畜生……畜生……ッ!!」
こうして、屯野琢磨は「牛の怪人・市ヶ谷渉」との戦いに勝利した。