4 不穏
如月祐介は眼前の光景に愕然とした。
幼少の頃から過ごしてきた馴染みの屋敷は炎に包まれ、跡形も無くなろうとしていた。手入れされ四季折々の花を咲き誇っていた美しい庭園は、既に見る影もない。
辺りには顔馴染みの者たちが幾人も倒れており、すでに息絶えていた。
(一体何が…………!?)
ほんの数時間出かけていた間に、何が起きたのか。
朱雀院家分家の屋敷であるここには、朱雀院家が司る水の能力を扱える人物が幾人かはいた。本家の力には劣ると言えど、軟な修行などしていない。
つまり、襲撃されても撃退し得るだけの力を持った人々がこの場にいた筈なのだ。
しかし、現状を見る限り、彼らの力では対抗できないほどの力を持った者に襲撃されたとしか考えられないのだが。
襲ってくるとすれば名家の出身でない能力者に限定できる。
何故なら名家同士が争うことは禁じられているからだ。禁を破れば、一族皆がその責を負うことになる。そのため、名家出身の能力者が他家の者を襲うことはまずあり得ない。
名家出身でない能力者―――名家出身の者は彼らを“はぐれ能力者”と呼ぶ―――が発見された場合、能力の扱い方や、能力者の義務などを教えるために一度保護することになっている。しかし、名家に権力があると言えど、全国どこで生まれるか分からない“はぐれ能力者”を全て保護することは難しい。時には、その“はぐれ能力者”達が幾人も集まり、自分たちで組織を作り、反政府活動を行うこともある。
現在、その“はぐれ能力者”の組織は幾つか存在しているが、特に反政府活動を行っていたり、暴動を起こしたりといった攻撃的な組織は無かったはずだ。
そうなると、新しく組織が出来たか、新たに強大な異能力を持つ“はぐれ能力者”が現れたかになるだろう。
屋敷への襲撃から幾つかのこと考えながら、生存者がいないか辺りを見て回る。生きている者がいれば、本家への報告がより正確にできるからだ。
辺りを見回しながら、奥へと進んでいったその時だった。
「まだ、生き残りがいたのか」
声が聞こえたため振り返ろうとしたが、うまく体が動かせなかった。
(………あ、れ…?)
襲撃が終わったものと考えていた如月祐介は完全に気を抜いたまま、警戒することなく屋敷であったところを歩き回っていた。そのせいで反応が遅れてしまった。
気が付いた時にはすでに遅く、彼は喉の奥からせり上がってくるそれを吐き出した。
(……ち……)
吐き出すと同時に自らの腹から生えているそれに目を見開く。
「………ほ……のお……」
赤く煌々と燃える腕が、彼の腹を貫いていた。
その腕が引き抜かれると、ゆっくり地面に倒れていく。
焔の能力を持つ何者かが、この屋敷を襲ったことは分かったが、如月祐介はどうすることも出来なかった。襲撃者がいることにも気が付かず、本家にその手がかりを報告もできず。意識が遠のきかける中、ぐっと歯を噛みしめる。そして、うまく動かない体を動かし、襲撃者が立っているだろうところに目を向ける。
「……!!…お、まえは………」
見えた襲撃者の顔に瞠目し、何事かを呟く。
まさか、何故お前がこんなところに。言うなればそんな感じだろうか。
しかし、彼に残された時間はほんの僅かであった。
腹を貫かれ、大量に失血していた彼は、その言葉を最後に呟くと息絶えた。
「こんなところに俺を知った人間がいるとはな」
如月祐介を葬った襲撃者はひっそりと呟いた。けれど、彼に興味があるわけではないようで、すぐにその場から立ち去った。
そして、屋敷をすべて見渡せる門の上に立つ。どうやら、屋敷にいた人間を全て抹殺できたようだ。
「すべてを、焼き尽くせ」
襲撃者の目が、異様に紅く輝く。
その言葉により新たに生まれた焔は瞬く間に屋敷を包み込んだ。
久々更新。でも短めorz
やっとこの人が出てきてくれました。
この人いないと話進まないんです。名前はまだ出てないですけど。