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2 契約

 久々に会ったというのに、穏やかに会話することは出来なさそうだ。引きずられるままぼんやりと思った。

 ずんずんと歩を進め、どこかへ向かっている弓月の背を見つつ、燐は必死に足を動かした。

「……きゃ……ッ…」

 目的の部屋に着くと、強引に部屋に押し込まれた。体勢を崩してしまい、畳で掌を擦る。指先が痛んだ。

「話をしようか、燐」

 締め切った障子を背に、弓月は冷たく笑んだ。

 こんな風に笑う方だったろうか。

「戻られたばかりでお疲れなのでは?」

「お前が気にすることじゃない。……それで、何故依頼を断る?」

 この場で話すのは不利だと感じ、話は後日にしませんかと持ちかけたが、一蹴されてしまった。更に言えば、本題が直球で投げられた。本当にやりにくい方だ。

「……私が女であるからです」

「ああ、そういうことか」

 流石、百年に一人の逸材と言われた頭脳の持ち主だ。燐が答えた瞬間、全ての理由を悟ったらしい。

「では、依頼を撤回して頂けますか………ッ」

 燐は思わず息を呑んだ。

 障子越しに明かりがさしこんでくるが部屋は薄暗い。しかし、その中で弓月の目は蒼く煌々と光っていた。

 恐怖を感じるものの、それは畏れのようなものなのだろう。彼の蒼目はとても美しい。

 異能の力を継ぐ名家がこの国にはある。それは“焔”であったり、“水”であったり、“風”であったり。特殊な名家の人間は、これら自然の力を身の内側から生み出すことが出来るのだ。

 そしてその名家の一つである朱雀院家が使える異能の力は“水”。それ故、力を使うと目の色が蒼く染まるのだ。

「撤回はしない。僕の契約相手はお前だ―――――燐」

 弓月は低く呟いた。

 燐は表情を歪める。これは既に依頼ではない。命令だ。契約しろと、命じられている。

 従エ。主ノ命ニ従イ、ソノ頭ヲ垂レヨ―――――と何かが脳内で囁く。体中の如月の血が騒いでいるのだ。

 古の誓約があるせいか、朱雀院家の次期当主の命令に如月家の血はとても喜んでいる。

(………わたしでは、役不足なんだから…。黙ってて!)

 「御意」と動きそうになる口を閉ざし、意に反して動きそうになる体を押さえつけ、弓月を睨むように見つめる。

「大変申し訳ございませんが………、辞退させて頂きたく。どうか、お許しくださいませ」

 何とか、深く頭を下げた。許可がでるまでは、頭を上げるつもりはない。

 ふと視界の隅に、弓月の足が見えた。燐のすぐ目の前に、片足をついているようだ。

「この命令は撤回しない。お前がどんなに拒絶しようと、僕はお前と契約する」

 燐にとって望まぬ言葉が聞こえた瞬間、顎を掴まれ、顔を上げさせられる。

 秀麗な面差しがやけに近づいてくる。何故、弓月様は顔を近付けてくるのか。

 ふと、先ほどの言葉がよみがえった。

(……『どんなに拒絶しようと』…?)

 本来、契約は双方の同意の下、簡易な儀式を行うことで成立する。しかし、その儀式を行えなかった場合の、つまり非常事態時のための契約の成立をさせる方法がある。

 異能の力を持つ者が、契約相手に自らの異能の力を摂取させればいいのだ。

 朱雀院家の次期当主である弓月が、そのことを知らないはずはないし、体内で“水”を生成できないはずがない。

「……弓月様!!」

 弓月がしようとしていることに気付き、燐は弓月からはなれようともがく。しかし、燐の危惧している男と女の力の差のせいか、弓月の手はびくともしなかった。

 蒼い目が一際輝いた瞬間、唇が触れ合った。

 絶対に、“水”を受け入れるわけにはいかない。弓月から離れようと、もがきつつ、唇を堅く閉じる。

「………!…」

 何かに、唇をそっとなぞられた。それは、口を開けと言わんばかりに優しく刺激を与えてくる。

 ともすれば、唇を開いてしまいそうになるが、必死に力を込めて耐えた。力を込めることに集中してしまい、息が上手く出来ない。

(はやく、離れて……ッ…!)

 そう念じたのが届いたのか。弓月が離れた。そのことに安堵し、息を吸い込んだ。

「そういうところが甘い」

 弓月の苦言ともとれる発言を聞き返す間もなく、再び唇を塞がれた。

「……ッ!!」

 気を抜いていたせいで、あっさり舌が口内に侵入してきた。そして“水”が口内に流し込まれる。

「………んん…ぅ…!」

 首を振って逃れようとするが、顎を掴む手が緩む気配はない。逆に、口を閉じられないように顎を固定されていしまった。

 間近にある弓月の目と、目が合った。

 飲み干すまで放さない。そう言われた気がした。

 “水”を飲ませるためか、容赦なく唇を覆われて、更に顎を上に持ち上げられてしまってはもう逃れられなかった。

 燐は弓月に与えられるがまま、“水”を幾度も嚥下した。


うーん、無理キス?

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