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ノアークβ  作者: ニセモノノシキ
プロローグ
3/21

商業都市 ディルグリース

 転移ゲートを抜けると潮風が頬を撫でていく。適正レベル20前後、商業都市ディルグリース。

 商業都市というだけあって、この街にいるNPCは何らかの店のオーナーという設定が多い。しかしこのノアークというゲームのユニークシステムとして、NPCとの売買は出来ないように設定されている。武器や回復アイテムなど、冒険に必要なものの殆どをプレイヤーが作成しなくてはならないという少し面倒なシステムである。

 また、作成にはそれに対応したサブスキルを習得している必要があり、多種多様に用意されているサブスキルを全て習得するには現在設定されているカンストレベル以上のサブスキルポイントが必要であるという事もわかっている。

 そこで出てきたのが作成代行者、つまりプレイヤーによる武器屋や道具屋。

 ポイントを一点に集中させる事で効率的にサブスキルのレベルを上げて、作成したアイテムを高値で売る。

 冒険が楽しくてゲームにハマった俺にはよく理解が出来ないけど、知り合いの薬屋によると経営シュミレーションみたいで別の楽しみ方が出来ると大好評なシステムらしい。

 そしてこの街にはそういう商人プレイヤーを対象としたクエストが数多くある。その為、設定上だけでなく事実上の商業都市としてこの街は機能していて、最前以外の多くはここを拠点としている事が多い。

 ついでに街中央の巨大な噴水が待ち合わせ場所として有用であり、この街に集まる人を多くしている要因の一つでもある。


「さて、どうしようかな」

 一応待ち合わせ場所まで来てみたものの、当然の事ながらクロッドの姿は見つからなかった。

「お?」

 噴水の端で見知った頭を見つける。燃えるような真っ赤な髪の毛を頭の天辺で一つに結わえる大きな黒いリボン。

 ハンター最前組のアンネ。そのトレードマークの黒いリボンも超が付くほどのレアアイテムだったはず。

 攻略の最前組と違って、彼女らはレア度の高いアイテムを探す事に熱を上げている連中で、誰も見た事がないという都市伝説のような頼りない噂を信じて何日間も同じダンジョンに篭る事も珍しくないそうだ。

「よう、アンネ。何してんだこんなとこで」

 最前組の殆どは拠点を高レベルマップの商業都市に移動してしまう為に、この街には来ない事が多いんだが。

「あらー、トールじゃない。あんたこそ何してんのよ」

「クロッドと待ち合わせ」

 胡坐をかいて座っているアンネの前に敷かれた麻布の上には、様々なレアアイテムが投売り同然の価格で並んでいる。

 そのうちの一つ、真っ白でキメの細かい粉が入った透明な小瓶を手に取る。

「シラサキチョウの鱗粉じゃん。どうしたのこんなに」

「ああ、アカシラサキチョウを捕獲したくて乱獲してたんだけどねー。もー全然! んで、インベントリがいっぱいになったから捌きに来たのよ。あの街じゃむりだけどここなら売れるかなーって」

「アカシラサキチョウって…お前攻略投げてたんじゃなかったっけ?」

 このノアークというゲームに運営から設定されている目的は二つある。一つは運命の塔と呼ばれる昇降型のダンジョンを攻略し、最奥にある神座まで辿り着くこと。もう一つはゲームタイトルにもなっているモンスター収集。

 ノアークとはNOAH'S ARK(ノアの方舟)が由来だと公式HPにも記載してあった。

 プレイヤーは初回ログイン時のチュートリアルでアークと呼ばれる収集用結晶を渡される。それにモンスターのデータを収集していくと種類に応じてステータスアップなどの恩恵が受けられる仕様となっている。

 ただそのモンスターの種類が莫大で、しかもβで実装しているのは2割程度というから驚きだ。

「んーアーク攻略には興味ないんだけどね、アカシラサキチョウの収集報酬はレア遭遇率っていう噂を聞いてね」

「なるほどな、アカシラサキチョウ自体も相当なレアなくせにな」

「ホントだよー。もう3日篭ってるのに全く出会えないなんて未実装なんじゃないかと思ってきた」

 全く懲りてなさそうにアンネは笑う。そもそもトレジャーハンター系列なんて忍耐力の勝負だとよく聞くけど、俺なら発狂してしまう。

「3日もか」

「うんー。後2日で出なかったらやめるつもりではあるけどねー」

「後2日もか……」

「女は待つ生き物なのよー! ってちょっと違うか」

 声をたてて笑うアンネに手を振って別れる。同じ場所に5日も篭るとは正気の沙汰じゃないとしか思えないが、それくらいレア遭遇率が低く設定してあるのだ。

 加えてレアモンスターからのレアドロップなんて天文学的な数字に違いない。考えられない。考えられない。

 軽く頭を振って転移ゲートへと歩く。


 クロッドとの待ち合わせまで一時間弱。ソロダンジョン攻略にちょうどいい時間と踏んで移動し転移ゲートの前でユーザメニューを開く。

 ダンジョンへの侵入経路は主に二つ。フィールドから直接侵入するタイプと、入手している転移用データの組み合わせで生成されるダンジョンに転移ゲートから転移用結晶を使って移動するタイプ。

 転移メニューからダンジョンを選び、タイプをソロに設定する。結晶ケースから適当に2つ選び出しメニューにはめ込むと周囲が光に包まれる。

 未だに転移する感覚は慣れない。この不思議な温かさ、体が軽くなる感覚。現実世界では絶対に感じることの出来ない奇跡のような感覚。

 やがて光が弱くなり、足が地面についている感覚が戻ってくる。

「よし」

 視覚が戻り、目的のモンスターがいる事を確認すると雑魚モンスターは無視して走り抜ける。

 ダンジョンのモンスター配置には一定の法則性があり、例えばモンスターA種族がいればそのダンジョンのボスモンスターはB種族である確率が高い、というように慣れてくると入り口付近のモンスター種族でボスモンスターが大体わかる仕様なのだ。


 向かってくるモンスターを倒しながらマッピングを進める。この世界のインスタンスダンジョンの殆どが都度ランダム生成のインスタント制なのでマッピングに意味はあまりないのだが隅々まで探索しなくては気が済まないのはオフラインRPGで培った癖のようなものだ。

「ん?」

 マップ上の行き止まりに光が見えたような気がして立ち止まる。近づいてみるとゴツゴツとした岩の壁に明らかに人為的だと思われる真っ直ぐな切れ目が入っていて、光はその向こう側から漏れているようだった。

 隠し扉の類なのだろうけど、そんな性質を持ったダンジョンは初めてだ。

 敵の数もそこそこ多く暗い、しかも攻略には何も関係ないインスタントダンジョンの中で、行き止まりとわかっていて進むプレイヤーがそう多くはないせいだろうか。ダンジョン内にマップ外のエリアがあれば最前である自分のところには情報くらいきてたっていいはずなのに。

 群がるモンスターを一掃して、切れ目に手を当てると重なった部分が熱を伴って赤く光り始めた。

「うわ、うわわっわああああああああああああああああああああ」

 そしてそのまま吸い込まれるようにして中へと落ちるように誘われていった。

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