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―Chapter 1―(後)

「戦闘開始!」

 ボルトが空に掲げた剣を振り下ろす。

「行くぞ! ホールーン!」

「キュウ!」

 合図とともに空中へと舞い上がるホールーン。

「あっ! てめぇ卑怯だぞ!」

「悔しかったら飛んでみろよ!」

 上空から地上にいるバクシュートにサイクロンが吐き捨てる。

「バクシュート、飛んで!」

「俺は飛ぶのは苦手だって! 無茶いうな!」

 バクシュートは羽を持たないため、浮遊程度なら可能だが自在に空中を飛び回ることはできなかった。

「行くぞ! ホールーン!」

「キュアァ!!」

 空中から翼を大きくはばたかせるホールーン。同時に突風がアシュレイとバクシュートを襲う。

「きゃあ!」

「なんだ! こんな風!」

「キュアァ!」

 空中から一直線にバクシュートめがけて滑空するホールーン。

「来るわよ! バクシュート!」

「わかってらぁ!」

 ホールーンをにらみつけるバクシュート。

「くらえ! フレアウィンディ!」

 バクシュートの周囲の空気が熱を帯びる。

「ホールーン! 急上昇!」

「キュイ!」

 バクシュートの前で上空へと再び舞い上がるホールーン。その衝撃で、闘技場の砂が舞い上がってアシュレイとバクシュートに襲いかかる。

「うわっ!」

「くっ、さすがにウインドドラゴンは早いわね……。でも一撃の破壊力ならフレイムドラゴンであるバクシュートが上よ!」

 バクシュートの口に炎が溜まっていく。

「そろそろ行くぜ! ホールーン!」

「キュウ!」

 ホールーンが空中で姿勢を立て直し、再びバクシュートへ突っ込んでいく。

「バクシュート、ギリギリまで引き付けるのよ。」

「わかってまさぁ。」

 アシュレイがバクシュートに耳打ちする。ホールーンはぐんぐん高度を下げ、バクシュートまであと数秒というところまで来ていた。

「……今よ!」

「くらえ! オーバーストーム!」

 バクシュートの口から炎の塊が放たれる。

「ホールーン!」

 次の瞬間、ホールーンが左に体を反転させて炎の塊をぎりぎりで避ける。炎の塊は闘技場の壁に当たって砕けた。

「くそっ!」

 悔しがるバクシュートの背中に何かが降り立った。

「えっ!?」

 振り返るアシュレイののど元にサイクロンの槍の切先が突き付けられる。

「おしかったなぁ。もう少しで当てられたのに。タイミング早かったんじゃないのか?」

「うるさいわよ!」

「親分!」

「ほら、俺に気を取られてていいのかよ?」

 左側からホールーンが低空飛行で突っ込んできていた。

「げっ!」

「ウインドスパイラル!」

「キュウ!」

 バクシュートの背中から飛び上がるサイクロン。次の瞬間、風をまとったホールーンがバクシュートの左わき腹に突っ込んだ。

「うぎゃあ!」

「きゃあ~!」

 衝撃で吹き飛ばされるバクシュートとアシュレイ。空中で一回転したサイクロンはホールーンの背中に着地した。そのまま反対側の壁にたたきつけられるバクシュート。

「いったた……あ、バクシュート!」

「キュゥ~……。」

 バクシュートは目を回していた。

「勝負あり! そこまで!」

 ボルトが模擬戦闘終了を告げた。

――――――――――

 ドラゴンたちを入れておく竜舎の一角でアシュレイがバクシュートの世話をしていた。

「よしよし……。大丈夫よ、バクシュート。」

 鼻先をなでながら、バクシュートは寝息を立てている。その寝顔を見て、口元に笑みを浮かべる。

「アシュレイ、大丈夫か? バクシュートは。」

 サイクロンが竜舎を訪ねてくる。

「あぁ、サイクロンさん。大丈夫よ、大きなけがはしてないみたいだから。」

 アシュレイが眠っているバクシュートのそばを離れてサイクロンに近づく。

「けど、強いわね。あなたのドラゴンは。戦闘力の低いウインドドラゴンをあそこまで鍛えあげてるんだもの。ドラゴンブリーダーのほうが向いてるんじゃない?」

「どうだかな。凶暴なフレイムドラゴンを何匹も調教するほどじゃないさ。」

「あら、ほめ言葉として受け取っていいのかしら?」

「さぁな。」

 サイクロンが歩き出す。アシュレイも後を追ってきた。

「ちょっと待ちなさいよ。」

「バクシュートについてなくていいのかよ?」

「今は薬が効いて眠ってるから。」

 アシュレイはドラゴンに合わせた薬を調合するのが得意だった。

「はいこれ。頼まれてた傷薬。ホールーンに合わせて作ってるから、効き目は保障するわ。」

「お、ありがとな。覚えてたのか。」

「当り前でしょ。確かに渡したからね。」

「あぁ。またなくなってきたら頼むよ。」

 アシュレイから薬を受け取ったサイクロンが竜舎を後にした。


――――――――――


「サイクロンさん!」

 闘技場の中に戻ってきたサイクロンに兵士が駆け寄ってくる。

「お疲れさん。どうかしたか?」

「先ほどの模擬戦闘、お疲れさまでした。」

「あぁ。」

 闘技場の中の通路をサイクロンと兵士が歩く。

「どうやったらあんなに強くなれるんですか?」

「さぁな。考えたことないさ。」

「またまた、御冗談を……。」

 サイクロンが少し考え込んでから口を開く。

「まぁ、俺の場合はホールーンがいるからな。お前もドラゴンを手に入れれば分かると思うぜ。」

「はぁ……。そうですか。」

「明日にはアスターレから合同訓練に兵士が来るそうだから、その時にそいつらにも聞いてみろよ。」

「分かりました。お疲れ様です!」

 見送る兵士を残して、サイクロンは風呂場に入って行った。


――――――――――


 日が沈んだ闘技場には松明がいくつも灯されている。闘技場にはテーブルが並べられ、屋外レストランのようになっていた。兵士たちが騒いでいる闘技場から少し離れたホールーンの竜舎で、サイクロンとホールーンがひっそりと食事をとっていた。

「今日はお疲れさん、ホールーン。」

「キュウ。」

 竜舎の前のたき火に、サイクロンとホールーンが照らされている。

「今日の模擬戦闘はよかったな。明日にはアスターレから兵士が来る、そいつらにも俺達の絆の強さを見せてやろうな。」

「キュウ!」

 ホールーンがサイクロンの顔をなめる。

「おい、よせってホールーン。くすぐったいって。」

「仲がいいな、相変わらず。」

 じゃれあうサイクロンとホールーンにボルトが近づいてきた。

「やぁ、ボルト。」

「またこんなところでホールーンと二人っきりか?」

 そう言いながら持ってきたワインの瓶をサイクロンに投げ渡す。

「ドラゴニアだったらまず自分のドラゴンの事を第一に。俺はそう教わったぜ。」

 受け取ったワインの栓を開けながらサイクロンが言う。

「たまにはみんなと食事したらどうだ。」

「気が向いたらな。」

 そう言ってワインの瓶を口に運ぶサイクロン。

「相変わらずだな。それじゃあな。」

「あぁ。」

 ボルトは闘技場に戻って行った。

「ふぅ……。」

 ワインの瓶を地面に置いて空を仰ぎ見るサイクロン。空には一面の星空が広がっていた。

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