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―Chapter 1―(前)

―Chapter 1―

―戦闘訓練―


 アルファトラム所有の闘技場。アスターレ王国の首都から数十キロ離れた山間部にひっそりとあるこの闘技場は、かつてこの世界を統治していたドーラグルの時代に作られたとされている由緒正しい闘技場だ。ドーラグル滅亡の後、十数年前にアスターレ王国に発見されるまで放置されていたためにほとんど崩壊していたこの闘技場は、改修の後に戦線協定を結んでいるアルファトラムへと譲渡された。以来、この闘技場はアルファトラムの本拠地となり、闘技場周辺の山地や森林を含めた半径数キロの土地は、所属しているドラゴニアや兵士の訓練の場として使われていた。

「おーい! サイクロンさんが戻ってきたぞー!」

 闘技場にいた兵士が上空のホールーンの姿に気が付いた。少しして、闘技場にホールーンは舞い降りた。

「よっと。ごくろうさん、ホールーン。」

「キュウ。」

 自分の背中から降りたサイクロンに顔をすりよせるホールーン。そのほほをなでるサイクロン。

「サイクロンさん、お疲れ様です。」

 闘技場にいた兵士の一人がサイクロンに駆け寄ってくる。

「あぁ、御苦労さん。ホールーン、待ってろ。今水を持ってきてやるからな。」

「キュウ!」

 ホールーンのほほを軽く叩いてサイクロンが歩きだす。

「アシュレイさんはどうされたんですか? 迎えに行くといって少し前に出て行かれたんですが……。」

「あぁ、そのうち戻ってくるさ。そういえば、アスターレから数人の兵士が合同訓練にこっちに来るって話、あれどうなったんだ? 伝令兵が来たのは三日前だろ?」

 闘技場の内部へ向かいながらサイクロンが兵士にたずねる。

「えぇ、さっき伝令兵が来て到着は明朝になると。」

「そうか。久々の合同訓練だ。お前らも気を引き締めておけよ。」

「はっ!」

 兵士を残し、闘技場の中にある井戸へと向かう。

「あ、サイクロンさん! お疲れ様です!」

「お疲れさん。」

「ご苦労様です! サイクロンさん!」

「あぁ、お疲れ。」

 通路で挨拶をしてくる兵士に返事を返しながら井戸についたサイクロンは、そばの水桶を手に取る。

「ふう……。」

 井戸から引き揚げたバケツの中の水を、最初にひしゃくで取って口に運ぶ。そして水桶に水を注いだ。

「よう、サイクロン。戻ってたのか。」

 声のほうには分隊長のボルト=エンフェスターが立っていた。

「やぁ、ボルト。調子はどうだ?」

「そこそこいいさ。」

 そんなことを言っているうちに水桶にはなみなみと水が注がれていた。水桶を抱えあげて歩き出すサイクロンの後を追うボルト。

「なぁ、いい加減お前も分隊長になったらどうだ? 実力もある、人望もある。お前が分隊長になればみんなの士気も上がるはずだ。」

「悪いけど、俺は人の上に立つなんてガラじゃあないよ。何度も言ってるだろ?」

「そんなことないって! お前は上に行って然るべきなんだよ!」

 分隊長に押すボルトの言葉をのらりくらりとかわすサイクロン。

「俺なんかにかまってる暇があったら武器の手入れでもしろよ。明日にはアスターレ兵が共同訓練に来るんだぞ?」

「もう聞いてるのか? 相変わらず耳が早いなぁ。」

「聞いたのはついさっきさ。じゃあその話は後でな。ホールーンに水やらないと。」

 サイクロンは話もそこそこに足早にホールーンのもとへと向かう。

「俺はあきらめないぞぉ!」

 闘技場に向かうサイクロンの背中にそう声をかけてボルトは闘技場の中へと戻って行った。

「ホールーン、お待たせ。さぁ、水だぞ。」

 目の前に置かれた水桶に顔をつっこむホールーン。

「おいおい、そんなにあわてなくてもいいだろ。」

 水桶はあっという間に空になった。

「だいぶ喉が乾いてたみたいだな。もう一杯飲むか?」

「キュウ!」

「ハハ、じゃあ待ってろよ。すぐに持ってきてやるからな。」

 サイクロンは空になった水桶を抱え、闘技場の中へと戻って行った。

――――――――――

 ホールーンが二杯目の水桶を空にしたのとほぼ同時に、闘技場の奥から一匹のドラゴンが姿を現す。

「おっ、戻ってきたか。」

 炎のたてがみを燃え上がらせ、銀色の角を持つそのドラゴンの背中からアシュレイが飛び降りた。

「サイクロンさん、さっきは置き去りにしてくれてありがとう。」

「別に迎えに来てくれなんて頼んだ覚えはないけどな。」

 そう言いながらサイクロンは空になった水桶を抱えあげる。

「なによそれ! 人が親切に……。」

「よしなって親分。老けるのが早くなるだけですぜ……いって!」

「バクシュート、あんたいっつも一言多いのよ!」

 そばのドラゴンの足を蹴り上げるアシュレイ。

「勝手にやってろよ。」

「サイクロンさん、水桶が自分が。」

「そうか、じゃあ頼むよ。」

 走り寄ってきた兵士にサイクロンが水桶を渡す。

「とにかく! さっきのお礼は今からたっぷりと返してあげるんだから!」

「おー、怖い怖い。」

「サイクロンさん、これを。」

 水桶を地面に置いた兵士が背中に背負っていた十文字の刃のついた槍をサイクロンに差し出す。

「おっ、俺のハイトラントか。ありがとう、気がきくな。」

「失礼します。」

 兵士が水桶を抱えて闘技場の中へと戻る。

「……さてと! 準備もできたことだし、始めるとするか!」

「キュウ!」

 頭を下げたホールーンの背中に飛び乗るサイクロン。

「ちょっと! 話はまだ……。」

「親分。」

「……分かったわよ。」

 アシュレイもバクシュートの背中に乗った。

「模擬戦闘が始まるぞー! サイクロンとアシュレイ以外の闘技場内の兵士はすぐに退避しろー!」

 闘技場の中に鐘の音が響く。闘技場内で訓練していた兵士たちが闘技場内へと戻る。闘技場の外周の観客席には見物の兵士が集まってきた。闘技場の中央でにらみ合うホールーンとバクシュート。

「貴方と直接戦うのは初めてね。サイクロンさん。」

「親分にした仕打ち、何倍にもして返してやるぜ。」

「別に大したことしてないだろ。」

「キュウ。」

 闘技場の中央にボルトが出てきた。

「これより模擬戦闘を行う! 訓練といえども実戦と何ら変わりない! 双方、全力を持って目の前の敵に立ち向かえ!」

 ボルトの声とともに観客席にいた兵士達が歓声を上げる。

「サイクロン! ホールーン! 準備はいいか!」

「あぁ!」

「キュウ!」

 サイクロンが槍を構えるのと同時に、ホールーンがその翼を大きく広げる。

「アシュレイ! バクシュート!」

「いつでもいいわよ!」

「おう!」

 バクシュートが唸りだす。アシュレイも剣を持つ手に力を込める。

「時間は無制限! どちらかのドラゴンが戦闘不能と判断されるか、降参するまで続けるものとする!」

 そういってボルトが腰の剣を抜いて空へと掲げた。

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