Ⅱ 電子世界『消えた太陽と指定席(?)』
・・・仲間に加わったのはいいけど、これからどうしよう。もうそろそろ夜だ。お母さん達心配してるだろうな。
「―――ロ、シロ、・・・聞いてる?」
耳元でハルの声がして、はっと我に返った。
「あ、ゴメン。・・・何話してた?」
「俺たちが何でこんなとこに住んでんのか、気になってんだろ?」
ゲンがたき火に薪をくべながら言う。
「それを今からボクが説明しようとしていたんですよ」
成程。
「じゃあ、お願いします」
私が言うと、セイトは足を組んで話し始めた。
「まず初めに、ボクたちの世界には『太陽がない』んです」
太陽が・・・ない?
「それって・・・どういう――――」
「まあ、とりあえず聞けってシロ」
ショウが言った。・・・そうだよね、質問は後からすればいいし。
「では続けますよ。その『太陽のない』ボクたちの世界は、一人の人物によって支配されています。その人物の名はゾイ。銀髪に赤色の目、あの顔は絶対に忘れません――――」
ゾイ・・・その人がこの世界の支配者なのか。
「そのゾイが、この世界から太陽を奪ったんです。そのせいでこの世界はがらりと変わってしまった・・・。初めこの世界は自然あふれる緑の世界だったんです。それが今となっては機械とコンピューターに埋め尽くされた灰色の世界になり、人々は外に出ようとしなくなった。『生きる』という事が感じられない『無』に成り下がってしまったんです―――――」
だから、あんなに高いビルが幾つも・・・。
「だけど、ボクたちはそれはおかしいって気づいたんです。『太陽のない』この世界が・・・『生きる』事を諦めてしまった人達が・・・」
「だから僕たちは、『太陽』を取り戻す為に戦う。皆が『生きる』事を忘れてしまわないうちに、『太陽』を取り戻すんだ」
そう言ってハルは手を握り締めた。
今気づいた。
この世界の空を見た時の違和感は、『太陽がない』事だったんだ・・・。
「オレとハルは昔からの付き合いで、それにズズとゲンとセイトが仲間に加わったんだ」
「それ以来ずっと一緒にここで暮らしてるって訳だ」
「へぇ~・・・」
そうなんだぁ・・・。
話を聞きながらさっきから気になっている事がある。ズズが全然喋らない。他の四人もその事が気になるらしく、時々ズズの方を見ているのが解る。
「おいズズ、お前なんか変だぞ?全然喋んねえし」
ゲンがしびれをきらして聞いた。
「・・・別に」
短くズズが答える。
「ズズ、お前いつもの指定席シロにとられたからスネてんの?」
ショウが面白そうに言う。
「そッそんなんじゃないしっ!」
「ムキになってるじゃあないですか」
え・・・あ、そういう事かぁ。
「あ、ゴメンねッどうぞどうぞっ」
ハルの隣のドラム缶から飛び退く。ハルの隣はズズの指定席だったのか、悪い事しちゃったな~・・・。ズズはすっと立ち上がって、私をちらりと見てからハルの隣のドラム缶に座った。
「別に隣シロでもよかったけど、なに赤くなってるのズズ?」
・・・に、鈍い。彼女とかではないんだ・・・。
「じゃあシロこっちに座れば?」
ショウがトントンと自分のドラム缶をたたく。
では、お言葉に甘えて。
「えーっと、どこまで話しましたっけ」
セイトがこほんと咳払いして言った。
「俺たちが仲間に加わったとこからだ」
「あぁ、そうでしたね。―――――ボクたちはここを拠点として、ゾイの基地を探しているんです。けどなかなか見つからなくて、そのうちにボクらの顔がクラウドにインプットされてしまい・・・。」
「外を出歩く奴なんてオレたちぐらいしかいないから、不審な動きをしてると襲ってくるようになったんだよ」
「あ!だからあの時ハルは追われてたんだね」
「そう、それが僕が追われていた理由」
やっと解った。
「あたし、もう寝る」
ズズが唐突に言った。
「早いですね、ズズ」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、オレたちも寝るか」
皆よっこらしょと立ち上がる。
・・・私はどこで寝ればいいんだろう。
「あ、そうだった。ハル、シロ寝るとこない」
ショウが気が付いて言ってくれた。
「あー・・・じゃあ――――」
・・・え。
「これでいいだろ」
ゲンが言った。
「多分大丈夫でしょう」
「うん、オレもそう思う」
「じゃあおやすみ」
ちょ、ちょっと~っ
私は今、ズズのハンモックを半分貸してもらっている。・・・き、気まずい。
「ゴ、ゴメンねズズ・・・ちゃん。狭いよね」
「・・・」
ズズは無言。寝てるのかただ単に無視しているのか微妙。
「・・・」
私も黙って、寝ようと努力。
「・・・」
そしてうとうとしてしてきた時、
「ねえ、」
・・・ん?
「あっうん、何ッ?」
いきなりズズが口を開いた。
「あんた、ハルの事どう思ってんの?」
「えっ?」
どうって・・・今日会ったばっかりなんだけど。
「い、いやどうも思ってないよ?今日会ったばっかりだし」
「そう・・・」
「う、うん」
一時の沈黙。
「・・・おやすみ、シロ」
「おっおやすみ」
ズズが眠ってしまった後も、私は一人機械の隙間から見える星空を眺めていた。
「どんな世界の星空も、綺麗だな・・・」
そんな言葉が口がら漏れた。