Ⅰ 夏休み『扉』
「扉・・・?」
「そう、ここの近くの森には不思議な扉があるの」
「不思議な扉かぁ」
少し長くなりそうだから玄関に戻って座る。
「その扉は不思議な世界に通じていてね、中に入るとたくさんの物がごちゃまぜになっているそうだよ」
「たくさんの物がごちゃまぜ?」
「ガラクタとか、色んな物だよ」
「その扉の中に入った後は、どうなるの?」
するとサチばあは悪戯っぽい笑みをみせて言った。
「入ったら・・・・・・」
「入ったら・・・?」
「実を言うとそこをよく覚えてないんだよねぇ」
「なーんだぁ」
がっくりと肩を落とす。肝心の所が抜けている所がサチばあらしい。そういえばおとぎ話も桃太郎と浦島太郎が混じってたりしたっけ。
「それじゃあ遅くなるといけないからお帰り環奈」
「うん、また来るねサチばあ」
サチばあは手を振ってそれに応えた。
* * *
・・・ん?
私はふと足を止めた。
森だ・・・。
サチばあの話していた話を思い出す。
『ここの近くの森には不思議な扉があるの』
「不思議な扉・・・だったけ」
少し好奇心が湧いた。
「ちょっとだけ行ってみようかな・・・」
森の奥に続く小道に入る。
夕方の森はなんだかいつもと違って見える。
涼しい風が首筋をくすぐった。
「ちょっと寒いな」
夏とはいえ森の中は少し肌寒い。
「・・・やっぱり戻ろうかな。」
森の真ん中で呟く。誰もいない森はちょっと怖い。
そう思った、その時だった。
「あれ・・・?」
小道の右側にもう一つ道がある。その道はここから見ても解るように途中で途切れていた。
自然と足がその道の方へ進む。
「よっと・・・」
目の前を塞いでいた木の青葉をどけて行き止まりの所まで来た。
なんにもないか。
キョロキョロと周りを見回す。
「あ・・・っ?!」
思わず声を上げてしまった。
扉・・・!
そこには、茂みに隠れて古びた扉があった。
『その扉は不思議な世界に通じていてね―――――――』
サチばあの言葉が頭をよぎる。
「不思議な世界・・・」
私はそっと、扉の取っ手に手をかけた。
やっと本編みたいな・・・。