Ⅰ 夏休み『サチばあの願い』
私、藤城環奈は家にいた。
中学校生活最後の夏休みはまだ一週間も経っていない。
「暇だ・・・」
今日は久しぶりの大雨。外に出れば傘を差していようといまいと、ずぶ濡れ間違いなしだ。だから、家からは出ないし出れない・・・。
受験勉強すればいいじゃん・・・と思うかもしれないけど、うちの中学は高校と繋がっていて進級制。何もしなくても繰り上がりで高校に入れるのだ(中学に入るのには苦労したけど・・・)。
「ふあ~」
あくびをしてベッドに倒れこむ。その時部屋のドアを叩く音がした。
「はーい?」
「あ、環奈?お母さんだけどー」
「どーぞー」
返事をすると、ドアが開いた。
「環奈・・・あ~またこんなとこに靴下脱ぎっぱなし」
「片付けるから。・・・で、何?」
そう聞くと、お母さんはハッとしたように言った。
「あぁそうそう。サチおばあちゃんがね、環奈の制服姿見たいんだって」
「え?サチばあが?」
サチばあは私の家の近所に住むおばあさんで、小さい頃毎日遊びに行っていた。今でも二週間おき位に遊びに行っている。
「うん、見たいんだって」
「でも私の制服姿、サチばあたくさん見てると思うんだけど」
中学に入学した時も、学校帰りにも、サチばあの家には寄っている。サチばあ、ボケたのかな?
「違うわよ、サチおばあちゃんが見たいのは高校の制服を着た環奈」
「え、高校?」
まだ進級してないのに何で?
「うーん・・・」
ま、サチばあの事だから何か考えがあるんだろうな。
「分かった、行くよ」
「そう?じゃあサチおばあちゃんに電話しとくわね」
ドアが閉まった。
「さてとっ」
ベッドから起き上がってクローゼットを開く。そして新品の高校の制服を取り出す。
「ちょっと着づらいかも・・・」
制服は新品独特のごわつきがあった。
「よし、と」
鏡の前に立って紺色のネクタイを結んで着替え終了。中学の時の制服と違うのはネクタイの色とシャツの色位だ。
「いってきまーすっ」
・・・ああ、外は雨だった。
傘立てから傘を取り出して差した。
「冷た~・・・」
サチばあ、何もこんな日に呼ばなくても・・・。
そんなことを思いながら、サチばあの家に向かった。