第31話 地位の失墜
散々だった。森から帰るまで、エルマノスの皆さんからはひたすらスルー、プリニオとポンシオからは絶え間なく囃し立てられ、ペピトからは可哀想な生き物を見る目つきを向けられた。そしてペラモス商店に帰ってからは、さらにプリニオたちが今日の顛末を触れて回ったため、寮内の空気が一変してしまった。
「変わった子だとは思ってたけどねぇ……」
「空想ばっかしてると、いい大人になれねぇぞ」
ペトロナさんとパウリノさんに嗜められ、他の住み込み店員にもヒソヒソされている。ひしひしと肌で感じる、著しい地位の失墜。てか俺、寮ではなにもやらかしてないんだが?
そして一夜明け、月曜日の事務室。寮での評判は、既に上層部にも伝わっていたようだ。
「風で傷を治そうとしていたそうじゃないか。ええ? これまで他愛のない妄想に皆が振り回されていたが、とうとう馬脚を現したな」
普段は挨拶をまる無視するくせに、今日に限ってポルフィリオさんから声がかかる。まるで鬼の首を取ったようだ。てか、六歳児相手にその態度はどうなのよ。
「個人の特性は、何事も強みにも弱みにもなる。良い方に働かせるように精進しなさい」
しかし、プロスペロさんのお小言は最小限。普段の賄賂が効いている。
「まあ仕事は真面目だし、計算も早いしな。落ち込むことねぇって」
「ピオ。言葉遣いは正せと何度も言っている」
「ひえっ。すんませーん」
ピオさんも俺のフォローに回る。てかこの人、俺たちの教育係の時には偉そうに先輩風を吹かしているんだが、事務室では一番下っ端なので、雑魚っぽい喋り方をする。普通、事務室でこそクールキャラを演じるべきじゃないのか。
だがしかし、この失敗はいい方に作用した。これまで、勉強好きな変わった子供、計算機の使い方を知っている利発な子供、レシピの開発をした商才のある子供と、少し目立ち過ぎたのだ。そのせいで、チャクラ騒ぎの時にはギルドに目をつけられた。それが、風を当てて傷を治そうとしたアホの子に一気にクラスチェンジだ。なんだ、たまたままぐれ当たりしてたのかと思われたら、チャンス。
「おっ、元気にやってるな」
「あら今日ももう売り切れ? ざ〜んねん」
水曜日。パロマ商店でバイトを終えようとしていると、トマスさんとトリニダードさんがやってきた。
「聞いたぞ。ウィンドで傷を治そうとしたんだって?」
「うふっ。新しいことを試すのはいいけど、無茶はダメよぉ?」
「そうだよぉ、お二人さん。もっと言ってやっとくれ。ロドリゴ、小さい傷でも侮れないんだからね」
今日何度目かのお小言。娯楽のない世界だ。もうパロマさんだけでなく、買い物客まで俺のやらかしを知っていた。当然、ギルドの手先のトマスさんとトリニダードさんもだ。
「まあ、ロドリゴはまだ小さい子供だ。未知のことに興味を持つのは仕方ないな」
「そうよねぇ、叱られてばっかじゃ可哀想。はい、保存食のクッキーあげる。硬いけど栄養あるのよ?」
「あ、ありがとうございます」
トマスさんは俺の頭をヨシヨシし、トリニダードさんは大きな葉っぱに包まれたクッキーをくれて、去って行った。今回は耳と指は光らなかった。彼らのマークから外されたと判断していいのだろうか。
「これに懲りたら、自分で自分を傷つけるような真似はおよし。さあ、うちの分に取っといたオレンジをやろう。帰ったらお食べ」
パロマさんにオレンジを渡され、ちょっと反省した。俺のやらかしに呆れただけじゃなく、ちゃんと心配して叱ってくれた人もいるんだ。これからはもっと慎重に収入源開発に勤しまなければ。早期リタイアは一日にしてならず。




