第12話 冒険者見習い
そうして副業に精を出す俺に、奉公三人衆からお声が掛かった。
「冒険者ギルド、ですか」
「なんも危ないことしねェよ。薬草を採ったり、ウサギを狩ったりするくれぇだから」
年長のプリニオが俺を説得にかかる。彼はこれまで、日曜日ごとに手下のペピトとポンシオを引き連れて、ギルドに通って冒険者の真似事をしていたらしい。そういえば、彼は冒険者志望だったな。
「危なくないのは本当だよ。森を入ってすぐのところで採集するだけだから」
「俺、金を貯めて剣を買うんだ!」
真ん中のペピトは合理的な現実主義者。円満な奉公人生活のため、長いものに巻かれろ精神が垣間見える。一方年少のポンシオは、プリニオに感化されて衛兵を目指している。
「なるほど。しかし全員ナイフ装備の中衛で、パーティーバランス悪くないですか? それから防具、回復手段、野営の準備などは」
「パ……え? は?」
「プリニオにいちゃん、コイツなに言ってかわかんねぇ」
「大丈夫。先輩冒険者がついていてくれるし、半日だけだし」
どうやら引率付きのピクニックみたいなものらしい。それなら、ついて行くのも吝かではない。決して肉体労働職は目指していないが、社会勉強としてはアリだろう。
「ピクニックじゃねぇ、冒険だ!」
「そうですね。男児はそうやって夢見るものですので」
「男児ってロドリゴ、お前が一番年下なんだけど」
「だからコイツ誘いたくなかったんだよ、兄ちゃん……」
あれっ。俺、ハブられてたん?
「ひい、ふう、みい……お、新入りか?」
「はい! ペラモス家具店より参りました、ロドリゴと申します!」
「なっ、なんだァ?」
「変わった子ねぇ……」
「だから言っただろ、兄ちゃん。今度連れてくるの、変な奴だって」
「ま、まぁいいさ。俺はサバスだ。よろしくな」
「俺はセベリノ、槍使いだ」
「あたしはスサニタ、ヒーラーよ」
おお、ちゃんとパーティーやってる。すげぇな。ちなみにサバスさんは剣士のようだ。
「っつうわけで、今日も森まで行くけど、逸れんなよ?」
こんな人口密度の低い世界で「逸れるな」なんて大袈裟だと思ったが、理由がわかった。森まで結構な距離があった。靴は木靴、道は舗装などされていない。現代社会を知る俺からすれば、考えられないことだ。
「おいおい、森に着くまでにヘバんじゃねぇぞ。これだから本ばっか読んでるヤツぁ」
「プリニオ。お前だってこんくらいの年の時には泣き言吐いてたろ」
「街に住む子だとこんなもんでしょ。まだ六歳だし」
「ロドリゴ、キツかったら背負ってやるぞ?」
「いえ、頑張ります」
セベリノさんがしゃがんで俺を振り返ったが、往路から背負ってもらったのでは格好がつかない。
ウォーキング自体はいいんだ。健康のために一駅歩くとか、休日に遊びに出掛けて二万歩歩いたとか、前世でもそういうのは結構ある。だが靴がダメだ。これからどんどん成長するからしばらく木靴でいいかと思っていたが、金を貯めたら真っ先に革靴を買おう。靴に投資をケチってはならない。
しかし、長い道中にも収穫はあった。
「そうそう。あたしらはみんなポルセルの孤児院出身だからね〜」
「チビらが食っていけるように、色々教えてやらねぇとな」
「なるほど。D級冒険者の皆さんが私たちの採取に付き合ってくださるのか不思議だったんですが、そういうことだったんですね」
奉公人トリオのうち、年長のプリニオと年少のポンシオは孤児だった。冒険者に憧れるのも、孤児院の先輩冒険者に感化されてのことらしい。
この世界の就職先は様々だ。多くは実家の家業を継ぐが、属性違いで俺のように継げない場合は他業種で就職、それも叶わなければ冒険者という名の個人事業主となる。
請け負う仕事にもよるが、冒険者は常に危険と隣り合わせ。なんの生活保障もなく、基本肉体労働のその日暮らし。だが、実力さえあればいくらでものし上がれる上、ダンジョンでお宝でもゲットすれば、一生遊んで暮らせるチャンスがある。夢のある仕事だ。
「風の女神の加護持ちは、あんまりこういうの向いてねぇんだけどよ。だが、いざという時に身を守ったり、食うに困らねぇってのは大事なことだぜ」
「僕は行商人を目指してるから、仲間に入れてもらえてありがたいよ」
ペピトは孤児院出身ではないが、奉公後を見据えて冒険者見習いに加えてもらっているとのこと。そしてついでに俺にもお声掛けいただいたと。
肉体労働なんてゴメンだ、足が痛くて早く帰りたいと思っていたが、俺はもしかしたらすごくいいチャンスに恵まれたのかもしれない。




