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社畜に異世界は生ぬるい〜奉公から始まる楽勝平民ライフ  作者: 明和里苳


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第11話 小遣い稼ぎ

 当面の投資計画が頓挫したので、俺は奉公の合間に小遣い稼ぎをすることにした。このペラモス家具店では、従業員の副業はある程度黙認されている。本業に支障をきたしたりとか、商店の不利益になるようなものでなければ。


 とりわけ、奉公の子供のちょっとした小遣い稼ぎについては推奨されている。受け入れた子供たちは、全員商店に就職するわけではない。これから先の進路を決めるにあたり、いろんな職業体験を積むのは良いことだとされている。他は知らないが、ここは良心的な店なのではないだろうか。


「いらっしゃいませ! どちらをお求めでしょうか!」


「あ、ああ。リンゴを三つおくれ」


「かしこまりました。銅貨3枚でございます!」


 俺は市場の青果店で店番のバイトを始めた。客は幼児の接客に一瞬躊躇するが、こういうのは勢いが大事だ。手早くリンゴを手渡し、銅貨を受け取る。


「ありがとうございます! またどうぞご贔屓に!」


 次々と訪れる客を捌いていると、そろそろ昼近く。仕入れた果物が残り少なくなったところで、商店主が戻ってきた。


「……アンタ、随分と手際がいいね。ペラモスさんとこで鍛えられたのかい?」


「はい! おかげさまで良くしていただいてます!」


「そうかい。まあ、ウチとしては助かるんだけれどね」


 彼女は馬車で一緒になったご婦人だ。パロマさんという。俺がお遣いで市場に訪れたとき、声をかけてくれたのが縁だ。見習いでいいから置いてくれと頼み、水曜日の午前中だけ雇ってもらえることとなった。給金は雀の涙だが、彼女は平日に自由時間ができてラッキー、俺はスキマバイトができてラッキー、Win-Winだ。


「そんじゃ、銅貨5枚に売れ残りのオレンジだよ。持って行きな」


「ありがとうございます!」


「また来週、頼むよ」


「はい喜んで! それでは失礼します!」


「……一体ペラモスさんは、こんな子供になにを仕込んでいるんだい……」


 オレンジを抱えて家具店に戻る俺の背後で、パロマさんがなにか呟いたような気がする。




 普通、副業は日曜日にやる。ペラモス家具店が日曜定休だからだ。だが日曜日は、どこの商店も休み。だから従業員の人気の副業は、自室でできる代筆や筆耕だ。もしくは、日曜でもやってる飲食店で掃除や皿洗いをさせてもらう。しかし働き口は限られていて、俺のようなチビには代筆はおろか皿洗いも回ってこない。


 一方、俺たち奉公人のルーティンは、午前中は掃除洗濯当番をローテーションで回し、その後は勉強部屋で学習時間。そして午後はそれぞれ言いつけられた用事をこなす。この掃除洗濯ローテ、休みの日はちょっと寝坊してもいいんだ。俺は水曜が休み。それから勉強部屋での学習だが、俺は既に教わることがないため、ひたすら辞書を片手に自習するのみ。というわけで、水曜日の午前中はバイトに出てもいいと許可が降りたのだ。


 もちろん融通を利かせてもらった分、賄賂は欠かさない。


「というわけで、今日はクレープシュゼットもどきです!」


「クレ……なんだって?」


 昼食後の厨房を借りて、俺は生地を薄く焼き始めた。安く腹を満たすためには、粉物。これしかない。しかも、小麦だけでなく雑穀の粉を混ぜればさらに安価。そして焼き上がった生地に、オレンジジュースを煮詰めてかける。


 多少生地が歪だろうが破れようが問題ない。そしてオレンジの形が悪かろうが色が悪かろうが問題ない。適当に形を整え、上からとろりとソースをかければ、それっぽいデザートの完成だ。


「おお……見事なモンじゃねぇか」


「カフェのスイーツみたいだよォ」


「めっちゃ美味そうじゃん! いただきまーす!」「「俺もォ!」」


 パウリノさんとペトロナさん夫妻、そして奉公人トリオがさっそく群がってくる。こら最年長、がっつくんじゃない。一枚ずつ順番に作ってやるから。


 この世界、まだ甘味は少ない。砂糖は貴重品、甘いものを毎日食べられるのは貴族や豪商くらいのもの。庶民はたまの贅沢で街のカフェに行くか、果物をそのまま食べるか、干すか。だがしかし、工夫すればそれっぽいものが作れないこともないのだ。


 こないだは、しなびたリンゴでタルトタタンもどきを作った。材料が足りないので、コレジャナイ感は致し方ない。しかし、普段甘味を食べる習慣のない彼らにめちゃくちゃ刺さった。よかった、前世で節約料理を極めておいて。ネットで流れてくる安ウマレシピを片っ端から試し、糊口ここうを凌いだものだ。ほとんどはレンチンレシピだが、フライパンやオーブンで加熱したって大差あるまい。


 大豆を粉にし、少量の蜂蜜と水で練ってきな粉棒。牛乳と片栗粉でブランマンジェ。高価な卵をもらい受け、カスタードを作った時には絶賛された。分量が適当でもなんとかなるもんだ。素人料理で味はそれなりだが、甘味の乏しいこの世界において、比較対象がないのが幸いした。


「お前、菓子を作って売ったらいい商売になるんじゃねェか?」


「いやぁ、飲食は厳しいんで」


 しかしパウリノさんの提案に、俺は即座にノーを出した。俺が知っているのは、あくまで素人向けのなんちゃってレシピだ。そして飲食業は経営が難しく、俺には向いていない。てか、俺が目指すのは不労所得からのアーリーリタイアだ。パティシエじゃない。


「ホント、難儀な子だよォ」


 ペトロナさんがぼやいた。なんで。

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