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角無し竜セランのぼうけん  作者: 光石ひかり
一章 ――それは空と大地のものがたり。
8/11

【7話】闇の大聖堂図書館の守り人たち。

(1)Teller: Seran


「し、知りたいことがあります!たべないでください!!」

 わたしは謎の者たちに命乞いするように、ぎゅっと手と手を組んで、目を閉じていた。


「食べないよ食べないよ。ボクたちは、土と岩しか食べない」

「また腹が減ったと言って、レムラ・シードを食べたりはしないだろうな?この前はよく噛んで食べなかったから、胃がものすごくもたれたぞ」

「だって~。ティマさん、めずらしい石は全部棚にしまっちゃうじゃん。土と岩より、結晶のほうがおいしいし、頭が冴えるんだ」

 何やら二人……あるいは二人以上が話しているらしい。天詞が光の明るさを上げると、見たこともない種族が、そこにいた。わたしは水晶よりも固く……文字通り固まってしまった。


 身長は二メール以上あるだろうか。首を真っ直ぐにしたら、もっとある。幅の広い身体の上にはトカゲに似た、二つの頭が生えている。どちらも学者さんが被ってる帽子のようなものを頭の上に乗せ、ナマズみたいな長ーいヒゲがあった。ローブの下からは竜族に似た尻尾が二本、のぞいている。


「ヒュドラ族を見るのは初めてかね?小さな竜の子。それから、大きなウサギの子」

「は、初めてです……」

 天詞の後ろから、恐る恐る顔を出す。

「……ヒュドラ族か。あぁ、初めてだよ。『三つの頭を持った、トカゲのような長寿の種族』という知識だけある」

 無意識に天詞の後ろに隠れていたわたしは、不思議に思った。

「でも首、二つだけじゃない……?」

「ウサギの子、賢いね。賢いね。きっと絶滅したとか、なんとかかんとか言われてるんじゃないかな」

「不思議だろう、竜の子よ。3()()()は、ここにある」

 ヒュドラさんは、首と首の間を指さした。

「……近づいて見てもいい?」

 恐る恐る聞いてみる。恐さ四割、見てみたい欲は六割。

「いいとも」

「食べないよ食べないよ」

 ヒュドラさんは気を使って、屈んでくれた。さっき指さしたあたりを覗いてみる。なんだか乾いた牧草のような香りがした。

「ぴゃぁあああああん!」

「ひゃ!?」

 突然鳴き声……いや泣き声がした。びっくりしたけど、よく見るとわたしの拳くらいの小さな首が生えている。

「かわいい!」

 赤いリボンを付けた小さなヒュドラの目が、ぽろんぽろんと涙を落としている。

「これ、泣くでない。どうやらこの二人は、我々の害にはならないようだ」

「ぷあ」

 ぴたりと泣くのをやめて、三つめの首はうんうんと頷いた。

「我々は、三人であり二人……大きな首のどちらかが死ぬと、三つめの首が大きくなり、またこのような小さな首が生える」

「成る程……、そうやって生と死のサイクルを回しているのか」

 天詞が顎に手をやり、頷いた。

「そうだよお。賢いね賢いね」


「そうだ、名乗るのを忘れたな。わたしはティマイオ。こっちの鉱物狂いはクリティア。そして小さいのがプラトンだ」

「狂ってなんかいないよお。ティマさんだって鉱物が好きで研究をしてるくせにい」

 ティマイオさんは指差し確認のようして自己紹介(と、他者紹介……?)をしてくれた。えーと、眼鏡をかけているほうが、ティマイオさんで、かけてないほうが鉱物狂いのクリティアさん。ちいさいのが、プラトンちゃん。

「わたしはセランだよ!こっちの、大きなウサギさんは、天詞!」

「宜しく。……大きなウサギねぇ……」

 天詞は納得行かない様子だった。


「さっき『鉱物狂い』って言った気がするけど、クリティアさんは鉱物が好きなの?」

「だぁい()()だよお。ところで、さっきからずっと美味しそうな鉱物の匂いがするんだけど、もしかして……」

「持ってるよ!ここに来るまでにゲットした、水晶とかカルサイトとか」

 ヒュドラ族って、石の匂いが分かるのかな?ごそごそポーチをあさって、石たちを取り出す。

「ひゃぁああ!ふわああ!食べたい、食べたい!ボクはカルサイトが大好きなんだ!」

 よだれを垂らしながら首を伸ばし、石の匂いをくんくん嗅ぐ。「こら。汚い。失礼をするでない」とティマイオさんがたしなめる。

「ねぇねぇ、ねぇねぇ、それ、それくれない?ボクお腹空いてるんだあ」

「さっき岩を食べたばかりじゃないかね?」

「結晶のほうが、断然おいしいよ~。ティマさんも、そうでしょう?」

「それは、そうだが……まぁ、大事な研究対象を食べられるよりはマシか。ここで立ち話もなんだ。入るがいい」

 ティマイオさんの首は奥を向いている。クリティアさんの首はわたしの鉱物たちに釘付けだ。「失礼をするでないと言ったであろうが」と怒られて、クリティアさんは仕方なく首の行き先を合わせる。



(2)Teller: Seran


 わたしと天詞は、椅子とテーブルがある場所へ通された。火の玉状のオレンジがかった光が、部屋を少しだけ明るくしている。

「茶を淹れてこよう。まっておれ」

 わたしと天詞は椅子に腰掛けたが、ちょっと違和感を感じた。

「……この椅子、ティマイオさんたちが座るにしては、小さいよね?それに、しっぽ穴もついてる」

「たしかに。あっちにはドワーフが座れるような、さらに小さい椅子もあるな」

「なんでだろ?もしかして、魔法で出したのかな?……はっ、もしかして彼らが、隕石を落とされた魔法使いなのでは!?」

 興奮していると、ヒュドラさん達が戻ってきた。

「違うよお。……色んな椅子があるのは、この場所に誰が来てもいいようにだよ。ここに来てくれたのはキミたち二人だけだけどねえ!」

 クリティアさんが小さなティーカップにコトリと何かを落とし、その上からお湯を注ぐ。ふと思う。石を食べている人たちの紅茶、飲んで大丈夫かな……わたしは緊張しながらカップを手にとる。

「あれ、いい匂いがする」

「ん。ローズの香りがする」

 毒々し匂いではない。とてもよい香りだ。わたしたちは勇気を出して紅茶に口をつけてみた。

「……これは……」

「おいしい!甘い味がする!」

 こんな洞窟の中で、薔薇や砂糖なんてあるんだろうか?

「ふふふ、それはねえ、ローズクォーツ茶だよ。カップの中にローズクォーツが入っているから、飲み込まないように気をつけてね」

 見てみると、ピンク色の金平糖みたいなものが入っている。これ、もしかしてローズクォーツの結晶じゃないかな!?


「水についても心配することはない。この近くに、地底湖があるのだ。生き物が飲んでも大丈夫なように、入念にろ過してある」

「ボクたちの研究の成果の1つだよお。ヒュドラ族は鉱物を食べるから味が分かるけど、他の種族は分からない。そもそも、食べられないからねえ。この味や香りを知ってもらいたくて研究してたけど、ここには誰も来なかった。今日ついに願いが叶ったんだ!」

 ヒュドラさん達は、嬉しそうに笑っている。なんて素敵な魔法なんだろう!


 話を聞きながらティースプーンでローズクォーツらしきものをすくい上げようとするけど、なかなかうまくいかない。ローズクォーツは通常、岩のような塊で採れる。綺麗な結晶になっているものは、とてもレアなのだ。

「ロマンティックな研究だね。でも、ずっと洞窟の中じゃ……」

「そうなんだあ。来てくれる人がいないんだあ」

「地上にはここに通じる入口があって、こっち側は立入禁止になってるんだ」

「ええ~~~!?ヒトが入れないんじゃ、研究の意味がないよお」

「……とれた!」

 スプーンに乗ったローズクォーツの結晶を、お皿にのせる。


「やっぱり結晶だ~!きれい!」

「竜の子ちゃん……セランちゃんは、なかなか通なコでしょう?わかるよ~。それは、あげる。魔法がかかっている限り、おいしいお茶が飲める」

「やったー!ありがとう!……そうだそうだ、この石たちは三人にあげるね」

「ほんと!?」「ほんとうか!?」「ぷあ!」

 三人は首をにゅっと長くして、目を輝かせた。


「はぁあ~、このスコレス沸石の、繊細な口溶け……。黄色い方解石はひんやりしていて、中はジューシー……」

「煙水晶のビターな味がたまらん」

「ぷあ!」

 三人は至福の顔で、鉱物をつまんでいる。もっと採ってくれば良かったかな。


「ティマさんはいつも、珍しかったり身目好い結晶が出ると棚にしまっちゃうんだ。『研究対象』としてね。ボクはレアな石も食べてみたいんだけど、絶対ダメって……」

 まさかね……と思いながら、首から下がっているセラン石を、クリティアさんに見られないようにそっとベストのポケットに隠す。まだ気づかれていない……ようだ。多分。

「ところで、全部食べちゃったけど、なんかすごくいい匂いが残ってるんだよね。キミたち、まだ石、持ってる……?」

 ふんふん、とクリティアさんが匂いを嗅いでいる。「卑しいやつだ」と、ティマイオさんがため息をついた。

「え、えっと……」


「竜の子、セランよ……」

 ティマイオさんに話しかけられて、びくっとした。

「……ポケットに隠した石を、見せてくれまいか」

 声はさっきと比べて妙に低く、目がギラギラと光を反射している。

「え、えっと……」

「やっぱり。なんだかワクワクする匂いがするって思ってたんだあ……」

「これは……」

 にじり寄るヒュドラさん達の目がやっぱり恐い。

「よかったら近くで見せてくれまいか。我々は少し目が悪くてね」

「そうなのそうなの、近くじゃないとうまく見えないの」

 うう~~っ。クリティアさんがまたよだれを垂らしているのを見て、わたしはセラン石を握った。

「食べないよ、食べないよ。それを食べたらティマさんに首を狩られちゃうよ。めずらしい石を食うなーーーー!!って」

「本当?本当に食べない?」

 ティマイオさんは頷いた。

「とても貴重な石だ。私達が手に入れたのは、不透明なオレンジ色のかけらだけ。……こいつの口を塞いでおこう。さあ、見せておくれ」

 そういうティマイオさんも、鼻息荒く釘付けだ……でも、わたしは見せてあげることにした。ヒュドラさん達が研究している鉱物の魔法は、とても優しい魔法だ。自分たち以外の種族にも、石の香りや味を知ってもらいたい。用意されている色んな大きさの椅子を見て思った。


 首からかけていたセラン石を、そっとヒュドラさん達の前に差し出す。

「おぉ……ありがたい。……これはなんと美しい!宝石質でこんな大きさのものがあるなんて……信じがたい。しかも原石とは!……ここについてるのは沸石だろうか?僅かゆえ、なんとも言い難いが」

「へへ……わたしが見つけたんだ。持って帰ったら、新種かもしれない。名前を付ける権利があると言われて……安直だけど自分の名前をつけたの。だからセラン石」

「――ありがとう、早く首にかけるといい。こいつがいまだかつて無い量のよだれを垂らしているものでな」

 クリティアさんはよだれをローブで拭った。「汚い!」ティマイオさんがまた嫌そうな顔をする。

「お主は()()がいい。石の方から見つけて欲しがられるタイプだ」

「うらやましい、うらやましい!ボクもその能力が欲しい」

「ところで、ここには何を求めて来たのだ??金銀財宝の在り処か?それとも古代文明の遺跡か?」


 あっ。


「「あああああ~~~~~~~~~~~!!」」


 わたしと天詞は重要な事を思い出して情けない声を出した。

 カーレトナイト……制限時間……忘れていた……天詞が時計を見てまずいな……と呟いた。


「実はね……。わたしたち、カーレトナイトを探していて……」

 ……戻る頃には時間切れではないだろうか。わたしも天詞も、しおしおになってしまった。そもそも戻れるかどうかも分からない。

「ほう。一時期、そいつを求めてやってくる者が絶えなかったな……ここでしか採れない石だ。何か魔法に使うのかね?」

「わからない。……これは試練なんだ。水晶谷でカーレトナイトを採ってこいという」

 天詞も焦りを隠せない。

「そう、お日様が沈むまで……」

 わたし達を交互に見て、ティマイオさんが静かに目を閉じる。

「ふむ……。我々が『持っている』と言ったらどうする?」

「えっ……!!持ってるの!?」

()()()()()()()()だ。

そしたら、どうする?」

 クリティアさんも、試すような視線をこちらに向けている。

「……交渉して、譲ってもらう、かな」

 天詞が先に口を開いた。

「それしかないよね……」

 わたしは大した考えが浮かばず、困惑したままだった。

「なるほど、では、少し待っておれ」

 ヒュドラさん達は、部屋を出て、奥のほうに歩いていった。



(3)Teller: Tenshi


「……どう思う?」

「かけるしかない!」

 この季節、日が沈む時間は18時前後。しかしセランは諦めていなかった。……セランを護る役割を受けた手前だ。俺だけが無理だと思うのはやめにした。

 

「さて……」

 戻ってきたヒュドラ族は、何かを袋に入れて帰ってきた。……袋の中の石が秘めた神聖さを感じて、俺は確信した。これは紛れもなく――


「でっ――――――――――」「かい……………………………………」


 ……声が出ない。俺の知ってるカーレトナイトの大きさじゃない。

 本来、豆粒より小さい石のはずだ。ミカン大のカーレトナイト。それはキューブ型の透明の箱の中に、もう一つ青い箱があるという特徴そのままの、美しい、石。

「ひ……ぇ…………」

 セランはというと、ぐるぐる目を回して失神寸前だった。

 ……声も出ないとはこの事だ。呼吸、止まってるじゃん。

「セラン、気を、確か、に!」

 肩を持って揺さぶると、セランの呼吸はやっと元に戻った。

「は、はひぃ」

「落ち着いたかな?」

 ヒュドラ達はカーレトナイトを前に座ると、こう言った。


「この石と、そのセラン石を交換したい。どうだ?」

 セランはハッと我に帰ったようだった。……そう来たか。

「えっと……えっと」

 セランの指先は、だいぶ震えていた。

「……セラン、それは大事な石なんだろ」

 なるべく落ち着いた声で話しかける。

「うん……」

「じゃあ、手放さないほうがいい」

 自分で言うのもなんだが、俺は真剣だった。

「え、でも……。カーレトナイト、持って帰らないと、天詞とルイ、お仕事できなくなっちゃう。おとーさんにお話聞けなくなっちゃう」

 セランの目に涙が浮かんでくる。

「そしたら俺達は帰るだけだよ。シアンさん、聞かれるのはしんどいんだと思う。だから俺と師匠は結界のチェックだけして、帰る。情報はどうした、と多少怒られるかもしれないけど、そんなのはどうでもいい」

 ヒュドラ達は、目を細めて尻尾を揺らし、こちらを見ている。

「うう……」

「……自分の石と交換してきた、って言ったらシアンさんもセシルさんも悲しむ」

「……そう……だね……」

 答えを出すのは俺ではなくセランだ。静かに答えを待つ。

 長く感じる静寂の時間を、セランは自身で抜け出した。

「ごめんなさい、セラン石は、わたしの石。交換はできません。天詞も、ごめんね……持って帰れなくて……」

 セランの目からぽろぽろと涙が溢れている。言いようのない罪悪感が湧き出てきて、苦しい。

 そもそも俺と師匠のための試練だ。自分と同じ名を付けた、自分だけの石を手放す必要はない。きっとシアンさんも分かってくれる。

「でも……」

 ぐしぐしと涙を拭きながら、顔を上げる。


「でも、その石、ほしいです」


 セランの言葉にヒュドラ達は目を丸くして、そしてわははははは、と笑った。

 俺もあやうく吹き出しそうになった。

「いいねえ、いいねえ!!とっても素直だねえ!!」

「泣かせてしまったな……申し訳ない。これ以上いじわるはよそう。持って行くといい」

「えっ、」

「……どうやら芝居にハメられたらしい。悪い冗談だよ、これは」

 俺は割と本気で怒っていたのだが、セランは突然がたんと立ち上がった。

「くれるんですか!!????」

 ぐしゃぐしゃになったセランの顔に、希望の笑みが浮かぶ。

「ああ、あげよう。もっと必要かね?最低セランと天詞の分と思ってもう少し持ってきたのだが」

 ヒュドラの袖から、ごろごろとカーレトナイトが出てきた。またセランが失神しそうになっている。

「いっぱい採れたんだ。ボクも1つ食べてみたけどおいしかったよ」

「やっぱりお前が食べたのか」

 なにやらモメそうになっているが、一刻も早く帰らなければ。

「みっつください!」

 セランがにこにこ顔でお願いしている。

「天詞と、ルイさんと……あと、我が家の分」

「……セラン、意外と貪欲なんだな」

 やっぱりセランは元気なほうがいい。安心した……。

「いいよ、いいよ。貪欲に生きよう。学者も知識には貪欲だ」


「……そういえば、『闇の大聖堂図書館』って……?」

 セランは大きなカーレトナイト3つを新聞紙で包みながら訊く。

 『闇の大聖堂図書館』……出会い様、脅し文句のように言っていた気がする。

()()()()()()()()()()()()()……とも」

 記憶の限りでは、こんな意味深な言葉だったはずだ。

「……我々は、学者にして『闇の大聖堂図書館』の番人」

「変な人が入らないようにしてるんだ。この先の図書館に」

 ティマイオとクリティアが、顔を見合わせ頷いた。 

「そうだ!わたしね、『光の大聖堂図書館』って呼ばれる石を、見つけたんだよ!」

「なんだって……?」

 その場に緊張感が走る。

「シトリンのね、綺麗なやつ。その図書館と何か関係があるのかなあ」

「……セラン、またここに遊びに来ないか?」

「ね!ね!カテドラル・ライトブラリーを持ってね!!」

 ヒュドラ達が身を乗り出す。

「いいよー、また白い看板を追えばいい?」

「そうしようそうしよう。今日は急いでいるようだから、後日。闇の大聖堂図書館を見せてあげよう。お茶にかけた魔法を、セランにも教えてあげよう」

「ほんとに!?やったー!!」

 盛り上がっているようだが、この面々、止める役がいないと永遠に石の話をしていそうだ。

「セラン……おしゃべりはそのくらいにして、帰らないと」

「あっ、そうだった……」

「帰るのかい。それじゃあ、『おかえりの扉』に案内しよう。立入禁止看板の手前に出ると思うよ」

 廊下を歩いて案内された先には、質素な扉があった。

「そうだ、セランに天詞。この石の秘めたるちから……そのキーワードを教えてあげよう」

「それは『希望』。『希望』だよ。セランは希望を捨てなかったから、カーレトナイトを手に入れることができた」



――『でも、その石、ほしいです』


 泣きべそ顔でそう言っていたセランを思い出す。

 そうか。セランは諦めなかったんだな。


 ヒュドラ達に別れを告げ、扉の向こうへ。

 立入禁止看板の外だ。真っ赤な夕焼けの空。セランと俺は、全速力で走る。

……間に合わないかもしれない、いや……間に合わないだろう。でも、こんな時こそ『希望』を捨てないで進む。


 暗くなりそうな空を飛ぶものを見つけた。こちらに向かってくる。

「……セラン、見て」

「えっ?あ!!おかーさんだ!!」

 河原に降り立ったドラゴンはセシルさんだった。……なぁんだ。やっぱり。

《いい汗かいたようだな。二人とも。……さあ乗った乗った!日が沈んでしまう》

「おかーさん!!ありがとう!!天詞、背中に乗るよ!」

《あぁ。その様子だと、いい収穫ができたようだな》

「みっしょんこんぷりーと!RTB!」


「……天詞、大丈夫?」ふらついた俺にセランが駆け寄ってくる。

「え?あぁ……、あれ、……、」


「わ……危ない!!」セランの声が遠くで響いた気がする。足がもつれて石につまずいた。


 ……ここからの意識がない。




(つづく)

Tips……


【鉱物】

❖スコレサイト(スコレス沸石)

 ゼオライト(沸石)グループの一つ。白く、流れ星の尾のようなスプレー状に結晶したものが人気。

 他の石と共生しているものも多い。壊れやすい石なので、取り扱いには注意。


❖ローズクォーツの結晶

 ローズクォーツは塊での産出がほとんどだが、稀に水晶のような結晶となるものもある。


❖カーレトナイト(カーレトン石)

 カナダのケベック州モンサンチレールでのみ産出されるレアストーン。

 作中のカーレトナイトは、透明なキューブ型の中に、さらに青いキューブ型が入っているもの。


【ミリタリー用語】

❖RTB

 Return To Baseの略。「帰投する」にあたる。

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