【2話】この夜、光の大聖堂図書館へ。
【登場人物紹介】
セラン……角が無くてドラゴン形態に変身できない竜の子。鉱物が大好き。
シアン……セランの父。ガルーダと戦い、身体の四箇所が欠損している。
マスター(ユークリッド)……喫茶『トパゾス』の店主。鉱物について詳しい。
セシル……セランの母。王国空軍に在籍していた際、シアンとエースの座を巡って勝負した。
(1)Teller: Seran
家につづくルピナスの小道を歩いていたわたしとおとーさんは、カチコチに固まった。
《グルルルルルル……》
低ぅい声。いる。巨大なシルエットが、庭に……。
《買い物帰りに見たぞ……》
おかーさんだ。おかーさんがドラゴン形態になっている。あれは相当やばいやつだ。
《飲んできたな?》
「ハイ……」
飲んできたのは紛れもない、竜族には有毒と言われているコーヒー。おとーさんはだいぶ縮こまっているけど、おかーさんにバレて無事で済むわけがない。
「ごめんなさいゆるして!」
「ゆるすかバカタレ!!」
おかーさんはおとーさんをあむっと咥えると、ぶんぶん振り回していた。おとーさんの「あぁああ~~~~……」という情けない悲鳴が聞こえる。
わたしは抜き足差し足、そっと家の中に入った。
「さて、ゆーめしの準備はできてるぞ」
かわいそうに、おとーさんはぐるぐる目を回してソファに横になっている。
それはさておき、テーブルの上には絶対おいしいと確信できる料理がずらっと並んでいた。
「おぉおお……」
「完璧なメニューだ。刮目せよ」
おかーさんは自信たっぷり、腰に手を当てて胸をはっている。
今日のごはんは……
【イシュカさんちの肉食え肉ディナー】
1)うまうま厚切りベーコンと自家製ハーブのサラダ
おかーさんが庭で育てているハーブのサラダ。スターフルーツの甘酸っぱい味が、意外とベーコンに合う。
2)いつものパン屋のおいしいパンいろいろ
イシュカ家御用達のおいしいパンやさん、「ひつじのふわふわベーカリー」の色んなパン。
3)冷えても美味しいピィエピィエビーンのスープ
大粒のピィエピィエ豆を使ったスープ。ピィエピィエ豆は色んな色をしているので、カラフル。わたしの好物だ。
4)やっぱりうまいシロツノ牛のステーキ
やわらかい厚切りシロツノ牛の肉を贅沢に使い焼き上げたステーキ。でっかい!とびっくりするけど、美味しいのですぐ食べ終わっちゃう。
「今日は機嫌が良かったからドーンと作ったぞ。おいシアン、生き返れ」
ソファからがばっと半身を起こすおとーさん。
「よろしい」
おとーさんは、いつでもおかーさんに逆らえない。
「ほぉおお。そりゃ面白そうな石だな」
マスターから聞いた話も織り交ぜて、興奮気味に石のことを話すと、おかーさんも興味津々だった。
「いいぞ、ゆるす。ハンマーぶん投げたのもゆるす。ついでにシアンも許してやろう」
なんだかわかんないけど許された!わたしとおとーさんはホッと胸を撫で下ろす。
おとーさんがおかーさんの方を向いて、何やら期待に満ちた目をしていると、おかーさんが「ほれ」とお肉を差し出す。口いっぱいにステーキを頬張るおとーさんは、幸せそのものといった顔だ。右手が無くとも自分で食事はできるけど、おかーさんに「あーん」してもらうのが好きらしい。
子供視点から見ても、なかよしで微笑ましい夫婦である。
「セラン、何か視えたらかーちゃんにも教えてくれ。宝のありかとかな!」
おかーさんは、いたずらっぽくニッと笑った。
(2)Teller: Seran
わたしは宝物となったシトリンを胸に抱いてベッドに入った。なんだかこうしたほうが、望むものが視えるのではないか、という謎のカンが働いて。
ドキドキして寝れない……
でも眠気には勝てない……
わたしはしばらく、現実と夢の狭間を行ったり来たりしていたが、急にストン!と身体がどこかに落ちたような感覚があった。多分これが夢のはじまりじゃないかな。何か、教えてもらえるかな……とぼんやりあたりを見回すと、突然目の前が明るくなった。
「……光の大聖堂図書館!」
大きな大きなシトリン。想像通りだ。ところどころ星型の金雲母……スター・マイカが共生していて、星が飾られた姿は、なんだか遊園地の入口みたいで可愛らしい。
雲母の階段を登り、きらきらの扉を開く。
そこには、沢山の鉱物達が浮かんでいた。
黃水晶と藍玉の本棚……
方解石の飛び石……
天窓は紫水晶、
珪化木と翠銅鉱の葉っぱ。
「まるで夢のようだ!」
わたしは暫しその光景に見入っていた。名前も知らない鉱物もたくさんあった。わくわくが止まらない。
「何だろ?」
藍玉の本棚から、蝶のような光る物体が飛んでいる。たくさん、とてもたくさん。それは本だった。
気づけばすっかり囲まれている。なぜか、わたしに懐いているようだ。ベリルの椅子に腰掛けて、本を触ったり撫でたりしていると、ふいに、その中の1冊が頭の上に覆いかぶさるようにして落ちてきた。
痛くはない。ただ、強い目眩がする。
立ち上がろうとすると、まだ本が頭の上に張り付いている。
わたしはぐるぐるで気絶寸前だった。おかーさんにぶんぶんされているおとーさんもこんな感じなのだろうか……。
視界の様子ががらりと変わる。そこは真っ白の空間だった。その空間、わたしの手前に、何かが映し出される。映画館のように。
大きな鳥の羽根?……ううん、金属光沢がある。直感で思った。あれは『剣』だ。
ずいぶんと風変わりな形の剣。それは、持ち主の手にしっかりと握られている。強い光で顔までは分からなかった。神聖なそよ風と、ほんの少し鼻をくすぐる、百合の花の匂い。
その刃の根本には、青白い光を放つ石がひときわ目立つように嵌め込まれている。
……その石を見ているのは、わたしだけじゃなかった。スクリーンに映し出される自分にそっくりな顔。今より少し大人びていて、おとーさんの相方が遺した、フライトジャケットを羽織っている。
「あの輝きはもしかして!」
画面の中の自分と、ここにいる自分が完全にシンクロしている。
そうだ、あの石に違いない。
「……伝説の、『ホーリーブルー・アデュラリア』!!」
ふたりのわたしは、同時に声を上げた。
がばっ!と勢いよく起き上がる。
そして思わず一言。
「ほ、欲しい……」
わたしはごくりと喉を鳴らした。
(3)Teller: Seran
ふと思い出す。
わたしは小さな頃から石が大好きだった。
物心ついたときから、砂利の中や川べりで水晶のかけらや瑪瑙を拾っていた。
クリスタル・クリークは希少な鉱物が採れることで有名だけど、レアもの目当てにやってくる「水晶どろぼう」が増えたので、洞窟の奥は採掘禁止になり、表から掘り進めた坑道からは、あらかたの鉱物は取り尽くされてしまっていた。
ちいさかったわたしは、それでも美しい標本に憧れて、古めかしい鉱物の本を見ては想像を膨らませていた。
おとーさんに連れられて入った鉱物喫茶トパゾス。カウンター席の天板はガラスケースになっていて、中には色とりどりの標本が並べられている。
ちいさなわたしは恥ずかしがりながら、ハンカチで包んだ石のコレクションを見せた。するとマスターは「おぉ、綺麗だ。セランが一人で集めたのかい?」と顔を輝かせた。
「そのへんの石ころ拾って、何が楽しいのかねぇ」「地面ばっかり見て歩いちゃって。あやうくぶつかるところだったよ」と囁くおとなを見てがっかりしていたけど、おとーさんとおかーさんは、「石を拾うのは悪いことではない、セランが拾ってきたかわいい石を見れて嬉しいよ。ただ、危ない場所には近づかないようにしなさい」と見守ってくれた。
そしてわたしはマスターという理解者……同じ趣味の「ともだち」を得て、とても嬉しい気持ちになったのを覚えている。
「セランは石が好きなのかい?」
こくこくと頷くと、マスターはゆっくり頷いて、手の指を「しーっ」の形にした。
「じゃあ、とっときを教えてやろう」
マスターの声をしっかり聞くため、ちいさいわたしは身を乗り出した。
「『ホーリーブルー・アデュラリア』……その輝き蒼月に舞う聖霊の如し……。
世界を救った聖王リリィアスの剣にはめ込まれていたという、
とんでもなく美しい石だそうだよ」
ちいさいわたしは、驚いた顔をしたあとすぐに目を輝かせて「ほしい!!」と言ったらしい。
……なぁんだ。変わってないな。
いつか絶対、一目でも。あの石を見てみたい。
夢の中じゃなく、現実で。
わたしはシトリンをコレクションケースに飾って、学校へ行く用意をした。
(つづく)
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