【9話】竜は語る、航空祭の悪夢と希望を。―1(※挿絵や設定イラスト等あり)
Teller: Cyan
十三年前のその日、レイフと俺は非番だった。とはいえ、どこに行こうとするわけでもなく基地内をぶらぶらしているだけだったのだが。竜騎士たちが二騎、飛び立っていくのが見える。ここはアリム・ミュスタ中央空軍基地。首都から少し離れたところにある、国で一番大きな基地だ。
「今日ってクリスタル・クリークの航空祭だっけ」
「確かそうだったな。お前も早く子供とセシルに会いたいだろ。ソワソワしてるのが分かんぞ」
俺の相方、レイフ・ヴォルフは月夜見族だ。狼のような灰色の耳と尻尾を持ち、真紅の髪を後ろで結っている。
「行きたいけどさ、ほぼ蜻蛉返りになる。たぶん俺は、名残惜しさで死んでしまうよ」
「そうだな。死んじまう。なんせフロウライト通信でデレッデレだもんな」
「聴いてたのかよ……。悪い耳だよな本当に」
フロウライト通信とは、石を使ったジェム・ツールの一つ。遠くにいる相手とも声で連絡を取り合える。航空無線でも使われているものと大体同じ仕組みだが、個人向けのものもある。気軽に買える値段ではないが、俺とセシルは有り余るお給料と退職金で購入した。
当時、セシルは生まれたばかりの赤ん坊と一緒にクリスタル・クリークの家に住んでいた。
その家は、別荘として使われていたのを売りに出されていたものだ。二人……いや三人で住むにはかなり大きいが、セシルと俺は大層気に入って、結婚当初に買ったのだ。
子供が産まれてからは、まだ一度も会っていない。産まれた日にセシルと通信した内容はよく覚えている。
《シアン、聞いて驚け。この子は特別な子だ。……生まれつき角がないんだ。医者があとから生える可能性もあるとは言っていたが……それから、まだなんとも言えないが尻尾を見ると逆鱗の兆候があるんだってよ》
竜の子は本来ならば、産まれた時から頭の上に2つの盛り上がった角の芽がある。成長するにつれその芽の所から角が伸びていくのだ。そして小さく滑らかな尻尾には、うっすらと鱗が見えるようなのだが、逆鱗の子が産まれるのは本当に少ない。「幸運の証」または「忌み子」などと噂されているが、実際に見た者はそういないだろう。噂は単なる尾びれ背びれだと俺は思っている。
《……それは本当に特別だな。会うのが本当に楽しみだ。もちろんセシルにも》
《あぁ。休暇をぶんどって来いよ。早く来い。なるべく早くだ。この子にこいつがとうちゃんだぞと自慢してやらなきゃいけない。名前を考えておいてくれ》
《あぁ、分かった。特別な子を産んでくれてありがとう。ゆっくり休みな。……愛してるよ、セシル》
《オレも愛してる。お前に会いたい》
《ちゅっ》
《ちゅ!》
俺とセシルは、お決まりの「キス」で、通信を終えた。
……という一連のやりとり、多分この回のみならず他のも……レイフに聞かれていたというわけだ。
「毎回めちゃくちゃ嬉しそうだし、デレデレのデレ。妬いちゃうねェ」
レイフに小突かれる。……もちろんレイフにも会わせてやりたい。彼は俺の大事な相棒だから。
「……煙草吸いてぇな。お前も来るか?」
「行く」
「そこは『子供ができたからやめた』だろう?」
「……そう言いたいところだけど……。まぁ……うん」
なんともバツが悪い。『竜族が健康を害する恐れがある、三つのものを答えなさい』というのはお決まりの試験問題だ。「コーヒー」「酒」「煙草」。中でも煙草は他の種族にもかなり害があると聞くが、俺は、コーヒーと煙草がやめられなかった。
俺はレイフと煙草を吸うのが好きだった。
人通りのない建物の裏でこっそりと。……悪い事をしてる感じが良かった。俺に煙草の味を教えたのは言わずもがな、この男である。まだ幼体だった俺に良くも吸わせたものだなと。負けず嫌いだった俺は「吸わなければ負ける」と思って吸ってみせた。げほげほする俺を見てレイフが「ホントに吸いやがった」とゲラゲラ笑っていた。
『竜族に煙草を勧めたり、強制的に吸わせる行為は竜族虐待法違反である』……この男はとんだ虐待をしたもんだ。俺は大人の男であるレイフに対して、勝手に対抗心を持っていた。煙草を吸う=大人だと思っていたので、それからもずっと二人で吸っていた。
「煙草は良くない。コーヒーくらいにしとけよ」
「ばーか。煙草の味を教えたのはあんただろ?俺はあんたと吸うのが好きなんだ」
「じゃあ俺がいなければ吸わない、と。この寂しがり屋め」
「……なんか微妙に勘違いしてるな」
「ん?」レイフの耳がぴくりと後ろのほうに向けられる。「誰か来た」……足音に気づいたようだ。咄嗟に煙草を隠す。
「お。ゲオルグ。お前も一緒にやるかい?」
レイフの視線の先にいるのはゲオルグ・チェリーレーン中佐だった。中佐は、かつてレイフと同じ部隊にいた仲間だそうだ。今は竜騎士を引退し、中央基地での任務に携わっている。
中佐も煙草を吸う。三人で吸うことも時々あった。
「……いや、それどころじゃなくてだな、」
「なんか用だった?」
「あぁ。お前たちがいるとすればここだなと思って来た。非番なのに悪いのだが、クリスタル・クリークまで飛んで欲しい」
俺達二人は顔を見合わせ小首を傾げ、笑いをこらえた。
「……とりあえず煙草を消せ。それでなんだが……。クリスタル・クリークの航空祭で曲芸飛行する予定だった竜騎士が風邪を引いてぶっ倒れたらしくてな。あぁ、竜と騎士とどっちもだ」
「…………はぁー……。……言いたいことは分かった」
俺達に、行って来いと。……そういう事だろう。
「代わりの竜騎士はいなかったんですか?」
「いたんだが、そっちも竜が熱を出してしまったらしい。風邪が流行っていてな」
本当かよ、とレイフがぼそっと呟いたのが聞こえた。
「二人でクリスタル・クリークに行って、欠員を埋めて欲しい。ショーは十三時からだ」
「は???今から急スピードで飛んでもギリギリだぞ。舐めてんのか!?」
さすがのレイフも噛みついた。耳がびりびり立っている。
「……リハ無しですよね」
「そうだ。適当に合わせておけ。お前らなら余裕だろ」
「「拒否します」」
二人で呼吸を合わせたようにそう言うと、チェリーレーン中佐は腕組みした。
「これは命令だ」
「うわ~~~~断れないやつだ」
「卑怯」
「職権乱用」
「ひとでなし」
俺達が抗議すると、中佐がこう付け足した。
「……なお、命令に従えば、五日間の休暇を与える」
「えっ?」
中佐は意味深な笑みを浮かべている。
「分かった行こうぜシアン」
「おい、待てよ」
レイフが俺の腕を掴んで引っ張った。
「いたいいたい。自分で走るから!」
中佐はフフ、と笑って煙草を咥え、大慌ての俺達を見送った。
「……行って来い。観客をアッと言わせてやれ」
早く飛ばないと、それだけ遅れる事になる。
全速力で走っていると、レイフがニヤっと笑った。
「全く、いい職場だよ」
クリスタル・クリークで5日間の休暇。俺はやっと意味が分かった。
「本当にね」
レイフは竜騎士の正式な装備に着替えに、俺は離陸前の義務である身体検査を受けに行く。指定されたのはネスト4。検査室へ入る。
「シアンさん、お急ぎですか?」
両面に扉がついた部屋へ入ると、係に尋ねられた。
「うん、すぐ出る」
「じゃあパパっと終わらせちゃいますね!」
俺は服を脱ぎ捨てて、チェックを受ける。ドラゴンに変身する時に服を着ていると、もれなくビリビリに破けるので、裸になる必要があるのだ。着陸後はもちろん服を着るので、服は荷物として騎士が預かる。
「お身体オッケーです!脱いだお洋服はロッカーに入れておきますね!グッドラック!」
「ありがとう。行ってくる!」
入ってきたドアの逆側を通って、ネストへ。
ネストというのは、離着陸時に待機する半円筒形のドーム。『巣』を意味する言葉だ。
ここで戦闘竜たちが、ドラゴンに姿を変える。
目を閉じて空を飛ぶ自分の姿をイメージする。……変身する時は、なぜか少し暖かく、上の方から光がやってきているように感じる。――その感覚は『空の祝福』と言われている。全く、ぴったりとした名前を付ける奴がいたもんだ。
スティブナイトのシアン。俺はいつしかそう呼ばれていた。この身体で加速した時、銀色の帯のように見えるらしい。スティブナイトとは銀色の剣のような風体で、毒を持っている鉱物だ。
毒があるという所が気に入っていたのは、俺が若かったからだろうか。
俺が変身したのを確認すると、身体に装備や荷物が取り付けられていく。程なく戦闘服に着替えたレイフが駆け寄って来た。
「ちょっとしたスクランブルだな、これは」
「その通りだ」
レイフが飛び乗ると、その足元に反応した土の魔法が広がる。これは疑似の大地。騎士が竜の背に乗っていても安定して座ったり立ったりできるようになる。たとえ俺が高速でロールしても、大地は常に足元となるわけだ。相当の無茶をしなければ、落ちることはない。
「フェイクグラウンドの起動問題なし。キャノピースフィア展開」
次に、レイフを中心にしてバリアが広がる。これは攻撃や接触から身を護るためのもの。キャノピースフィアの生成には貴重なダイヤモンドが必要だ。これは緊急時のもので、使い続ける事はできない。騎士の魔力が空っぽになってしまう。
「キャノピースフィア、問題なし」
起動を確認してからスフィアを消す。最後に通信用のツールを起動。レイフの頭には、竜の角に似た形の光が灯った。
《管制塔、こちらシューティングスター。FG/CSのチェックが終わった。単騎での離陸許可を求む》
《シューティングスター、こちら管制塔。ラジャー。滑走路の使用は必要か?》
《ネガティブ。ネスト4のプラザから直接離陸する》
《シューティングスター、ネスト4プラザからの離陸を許可する》
ネストの大きな扉が開かれた。プラザとは、助走を必要としないドラゴンが直接飛び立つ広場だ。外に出て、そちらに移動する。
《シューティングスター、こちら管制塔。空は雲一つ無し、風の機嫌よし。グッドラック!》
「よし、行くぞ相棒」
〔いい日にしよう、相棒〕
俺は大きく翼を拡げて、愛しの青い空に飛び立った。
「ヒュー!今日の加速度は格別だな。落っこちそうだ」
〔落っこちるな。……このくらいの速度なら間に合うはずだ〕
「早く逢いたい一心なのが良く分かるぜ。お前が父親になると聞いた時は人生で一番驚いたけどな。お前がなるのは母親のほうだと思ってた」
〔なんだよそれ。俺はずっと男になりたかったんだって言っただろ。身長だってあんたより高くなった〕
「チビだった頃のお前といったら、クソ生意気だったなぁ。『あんた、本当に俺を乗りこなせると思ってるのか?』」
〔やめろやめろ。黒歴史を思い出すのはやめろ。恥ずかしい〕
レイフは意地悪だ。俺と飛ぶ前はクリスタル・クリークの竜騎士養成・訓練学校で教鞭を手に取っていたらしい。なんでも、『調教師』などと呼ばれていたようだ。調教+教師。……理由は分かる気がする。
教官になる前は、アリム・ミュスタの西の果てブラックソーン基地に勤務していた。そこで竜騎士として飛んでいたのだが、相方の竜を失ってから飛ぶのを辞めたらしい。
……レイフについての詳しい話は、またいつかしようと思う。
クリスタル・クリークの話や他愛もない話、下らない話をしながら、心地良い風に乗り、目的地へ向かって飛行する。しばらくしてクリスタル・クリークの山並みが見えて来た。余裕で到着しそうだ。
《クリスタル・クリーク基地管制塔、こちら中央基地所属のシューティングスター。着陸許可を……、
……………………なんだ、あれは》
レイフが息を飲んだ。何事かと見回すと、前方右手の空に輝くものを見つけた。鳥のような形だ……あれは、まさか。
〔まずい、あれは……、…………う……ッ!〕
突然息が詰まった。体中の鱗がビリビリする。頭の中で、警告音が鳴っている。逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ、……
「シアン、どうした!?」
〔はぁ、はぁ……あれは……。間違いない、ガルーダだ……〕
「最悪だ……、シアン、お前ガルーダと戦った経験は?」
レイフが唸るような声で問う。
〔ない……〕
そう答えるのに精一杯だった。頭が混乱しているのが分かる。ガルーダを見かけたことすらないが、これは竜の本能か、とてつもない恐怖を感じた。
「俺はブラックソーンに所属してた時、小さなヤツを一匹やったことがある。弱点を突けばあっという間に堕ちるぞ。簡単だろ?」
〔お前が言う『簡単』はいつも難しいんだよ。調教師〕
《シューティングスター、こちら管制塔。どうした、応答せよ》
《こちらシューティングスター、お祭りしている場合じゃなくなったぞ。……ガルーダだ。東から村に向けて飛行中の模様。大きな発行体だ。確認してくれ》
《ガルーダだって……?……今目視で捉えた。金色の……、くそ、頭が痛い。「ガルーダと思しきものをレーダーで捕捉」「目標が到着するまでの時間を割り出せ」「住人を速やかに避難させるんだ」「スクランブル!スクランブル!ショーは中止だ!エルルーン隊、ノルニル隊、各騎速やかに離陸せよ!」》
……現場の声が聞こえてくる。そうだ、あの村には……あの村には家族がいるんだ。その気持ちが理性を取り戻す。
〔……レイフ、ガルーダ付近まで飛ぶ。俺達が囮になって、少しでも村から遠ざけよう。あいつは竜族が大好物だ〕
「やっと正気に戻ったか、シアン。よし分かった、派手な魔法を打ち上げてやる」
少し落ち着いたが、心と、頭……全身を絞られるような恐怖感は消えない。――それでも。
《管制塔、こちらシューティングスター。俺達が囮になり、村へ到達する時間を稼ぐ》
《シューティングスター、作戦の内容を把握した。こちらからの援軍が間もなく飛び立つ》
《ラジャー。》
ガルーダの正面に向けて加速。レイフが花火のように派手な火の魔法を撃つ。こちらに気づいたようだ。
〔おい、ガルーダ。ここにお前の好物がいるぞ。食ってみせろ〕
空中で停止し、自分の身体を見せつける。クァアアアアアア……、耳をつんざくような鳴き声に、鼓膜が振動し、バランスを失いそうになる、が、どうやら俺を食うことに決めたらしい。一度離れ、旋回して再びガルーダの頭付近を横切る。
「奴の進路が変わったぞ。どうやらお前は極上のランチみたいだな。こっちに着いてくる。
……あいつは思ったよりものろまだ。離れすぎないように速度を調節してくれ。尻尾に食らいつかれるなよ。お前の一番うまそうな部分だ」
〔了解。あぁ、なんて嫌な日だ……〕
「いい日にしようぜ。あいつを沈めて、村へ向かう。お前は家族に会って幸せを噛み締めるんだ」
きっと、レイフにだって恐怖感はあるだろう。一歩間違えば、二人揃って奴の腹の中だ。
《管制塔、こちらシューティングスター。ガルーダを村から遠ざける事に成功している》
《シューティングスター、了解。エルルーン隊とノルニル隊が離陸した。各隊14名。十分な距離を取ったら彼らと合流せよ》
《ラジャー》
村の方から竜騎士達が向かってくるのが見える。総力戦だ。
「よし、村からだいぶ離れたはずだ。あいつらの合流を待とう」
〔ちょっと待って。嫌な予感がする。レイフはガルーダから目を離さないでくれ〕
「……分かった、お前のカンを信じる」
〔ああ。少し高度を上げる〕
「……なんだ?ガンがいるぞ。どこから来た」
白くブヨブヨの飛行体。なぜガンも一緒にいる?
奴ら独特の不快な鳴き声。白い肌。目と口らしきものはがらんどうで、黒く見える。……いつ見ても嫌な魔物だ。
「チッ。こっちに寄ってきた」
進行方向を妨げるように、ガンが三匹ほど襲ってきた。
レイフが腕を上げ、手のひらを天に向ける。
「邪魔するんじゃねぇ!『荒ぶる雷の力よ、三本の槍となれ!』」
魔力を束ねた槍が、その手のひらの上に生成される。
「雑魚共、堕ちろ!」
ガンに向けて腕を振ると、三つの槍が稲光を纏いながら、それぞれへと飛んでいく。
パァン!と弾ける音。槍が命中し、ガン達の身体が霧散した。白い皮が灰になって散っていく。
〔編隊を組んだガンが来た。俺に任せろ〕
急上昇して、左から右へ、奴らに青い炎のブレスを浴びせる。五、六匹が一掃されて灰になる。
「ヒュー!これだけ埃があると、お掃除が気持ちいいな」
〔調子に乗るなよ、レイフ。一回で三本も撃つのは無茶だぞ〕
「無茶を通さないといけない状況だろ?…………シアン、カンが当たっちまった。ガルーダの背中を見ろ。怖がるなよ」
レイフの声色が変わった。……覚悟してガルーダの背を見る。
〔……分かってる。〕
《こちらシューティングスター。ガルーダの背中に無数のガンが取り付いているのを確認》
……背中に白いものが密集してうごめいている。レイフの報告通り、おぞましい数のガンがいた。……血の気が引く。あいつらは雑魚だが、集まれば脅威だ。
《ガンの数が尋常じゃない。まるでカエルの卵だ》
《シューティングスター、こちらエルルーン隊。ノルニル隊と共に合流する。そちらの高度に合わせて問題ないだろうか》
《問題ない。今奴の背中を見ていたところだ。……かなりエグい。各隊失神しないように覚悟しろ》
援軍が上がってきた。彼らもガルーダへの恐怖心をなんとか抑えているのだろう。そして、絶対に村を守らなければならないという気持ちが一つになっているのが分かる。
ガン達はぶるぶると震え、「ホォオオオーーーーー」という不気味な鳴き声を発しながら、一体、また一体と飛び上がって来る。大きさはまちまちだが、ドラゴンよりも少し小さいものが多いと見受けられる。
彼らがここまで上がってくると、にわかに無線がざわついた。すこし動きがフラついているドラゴンも何体かいる。
《こちらシューティングスター、各隊落ち着いてくれ。みな正気を失わないように必死でいることだろう。生きて帰って、お祭りを再開しようじゃないか》
《……了解。リンゴ飴を食いそこねたんだ。この恨みをぶつけてやる》
《こちらエルルーン1、最悪だ。背中からガンが次々飛び出している。その数、不明》
《こちらノルニル1。我々だけでは倒しきれない怖れがある。援軍を要請してくれ!》
《そこまでのものか……ラジャー。ロードサイド・ツリー基地へコンタクト。援軍を要請する》
素早い判断で援軍を呼んだのは正解だ。この数では竜騎士たちの体力も魔力も、そして気力も足りなくなる。
《各騎、ガンと交戦せよ。一匹残らず堕とすんだ》
《管制塔、ノルニル隊、ラジャー。ガルーダ本体はどうする?指示を求む》
《こちらシューティングスター。我々がガルーダの魔脈を探す》
魔脈はガルーダの唯一の弱点だ。心臓に似た脈打つ器官。見た目ですぐ分かるようなものもあれば、見つけるのが困難な個体もいるらしい。このクジラのような巨体のどこにあるのかは検討もつかないが、だからといって諦めては何もかもおしまいだ。
「さて、大見得切ったのはいいが、どうしたもんかな」
〔旋回しながら奴の身体の隅々まで見ていくしかないな……喰われないようにしながら〕
「そうしよう。どう加減しながら飛ぶかは任せる。俺はいつでも槍を撃てるようにする」
大昔の竜騎士は実物の槍を使って戦ったらしいが、今はほとんどの騎士が魔法の槍を作って撃つ。ただ、万が一の魔力切れが起こった場合に備えて、実物も装着されている。
《どれだけのガンが飛び出すか分からない。魔力と体力をなるべく残すため効率良く倒せ》
エルルーン隊、ノルニル隊が次々にガンを撃ち落としている。俺達はガルーダの身体を一通り見てまわった。
〔全く見当たらないな……〕
「米粒くらいの大きさだったりしてな」
〔……嫌なこと言うなよ〕
背中の上のガンは、まだたっぷり残っている。
ほどなくしてロードサイド・ツリーの援軍が到着した。各隊が懸命にガンを撃ち落とす中、俺達はギリギリまで接近しながら弱点を探す。
周りではロードサイド・ツリーの竜騎士達が、俺達に寄ってくるガンを始末してくれている。
《ありがたい》
《任せてくれ》
どのくらい戦っていただろうか。いつの間にか暗い雲が空を覆っていた。戦場では、負傷者や戦えない者が増えてきている。
《管制塔、こちらエルルーン8。負傷した。戦闘の継続は不可能。帰投する》
《了解。救護隊を総動員している。戦線を離脱せよ》
《こちらバルドル4!戦闘竜の右翼が折れた。飛行はなんとか可能。着陸許可を求む。……おい、相棒、大丈夫か!?くそっ、気を確かにしろ!……バルドル4、落下中!》
《……こちらバルドル2、バルドル4の墜落を確認》
《エルルーン12だ!戦闘竜が発狂して暴れている!》
《ノルニル11、奴らの灰を吸いすぎて……、うっ……、げほ、ごほっ……》
阿鼻叫喚の末、ガンの射出が止まった。全てのガンが飛び立ったようだ。
《こちらシューティングスター。ガンの射出の停止を確認》
上空から見回すと、ガンがひしめいていたその下に臓物のようなグチャグチャが露出していた。
吐き気をこらえて高度を下げ、その上を通過する。
《はあ……はあ……、残りを倒せばようやく終わりか……》
《いや、これからだ。デカブツの魔脈がまだ見つからない》
仲間が墜落していくのを見てしまうと、恐怖への制御が効かなくなりそうになる。
《……戦闘可能な騎士を報告しろ。基地は負傷者でいっぱいだ》
《エルルーン隊、六騎》
《……ノルニル隊、隊長が墜落。残り五騎》
《バルドル隊、生存七騎!うち負傷者多数!》
《シューティングスター、生存。引き続き魔脈を探す》
《各隊、シューティングスターを援護しながら魔脈を探せ》
《ラジャー》
「あのグチャグチャ臓のどこかかもしれないな。もう一回探そう。……シアン、大丈夫か?」
〔吐き気がして頭痛もひどい……だけど、こいつだけは倒さなきゃいけない〕
「ああ、そうだな」
《ノルニル10!接近しすぎている!危ないぞ!!》
背中の方に向かった一騎に向けて、誰かが声を張り上げた。
《これだけ探しても見つからないのであれば、近くで観察する必要がありそうだ、……うわ、なんだ!!??》
《背中がまた蠢いている!早く逃げるんだ!》
上空から様子を見ていた俺は総毛立った。
ノルニル10が飛ぶのを追いかけているのは、背中から伸びた赤黒い触手だった。その手がノルニル10の尻尾に絡みついて強く引く。
《キャノピースフィア展開!あぁだめだ、奴らの狙いはドラゴンだ……!!》
次々に現れた触手が、彼らに絡みついていく。そしてガルーダの背中が、口のようにぱっくりと開いた。
《助けてくれ!喰われる!喰われる!!》
竜の悲痛な鳴き声。牙がびっしり生えた口が、二人を飲み込んだ。悲鳴と生々しい咀嚼音。
〔――ッ!!〕
喰われる、喰われる、喰われる!
逃げろ、逃げろ、
逃げろ、逃げろ、逃げろ、……
〔……あぁああああああああ!!〕
……俺はついに耐えられなくなった。
レイフは素早くそれを察知して叫ぶ。
「シアン、上空へ飛べ!雲を突っ切れ!」
じょうくうへ。くものうえに。そこにはガルーダはいない。
「逃げるんだシアン。逃げろ、逃げろ!!」
考えることができない。でも反射的に、レイフの言う事を聞いて飛んだ。
どこまでも、上へ。どこまでも……
――この暗い雲を突き抜けるために。
(つづく)
銀色ベースで黒が差し色。尻尾が立派(強調)
マークはシアンとレイフとともに、TACネームの「シューティングスター」を表す星が描かれている。
レイフ大尉、とパッチ案。ちなみに竜に階級はない。
航空服(騎士の服)デザイン。
フライトジャケットデザイン1。通称ブルージェイ。
モコモコの部分は取り外し可能。
フライトジャケットデザイン2。通称スカイシャード。
主に冬や寒冷地用。モコモコの部分は取り外し可能。
フード部分は種族の角や耳などにカスタマイズされる。




