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【1話】角無し竜は水晶谷で石を採る。

(0)Teller: Leif



――人は何故、こうも空に焦がれるんだろう。





 竜騎士として何度も空を飛んだ。しかし、その答えはなかなか出ない。


 ある日、相棒(ディア)に聞いてみた。

『俺の初恋も、空だったよ』

 静かに笑って、言葉を交わさず俺達は見上げる。


 遠く果てまで染まる、世界一美しい青色。

 燃える不死鳥を思わせる、夕日の緋色から紺色のグラデーション。

 星の散らばる宵の天蓋。手を伸ばせば届くような月は、じらすように雲に見え隠れする。

 そしてけぶる暁の匂いが、そっと夜のおわりを告げる――





 

 ……重力は、無慈悲だ。

 誰しもが地へ還る。それが道理。

 だけど、最期に空だけは見たかった。残念ながら、それは偽物の光に遮られていた。

 目を閉じる。あの高度から堕ちたのだ。もしかしたらもう目なんて、形も残ってないかもしれないが……。




 ――悪くない、夢だったな。



 走馬灯はあまりに短く、少し名残惜しかった。










(1)Teller: Seran


 カンカンカン。トントン、カンカンカン。

 古い坑道に響く、ハンマーの音。


「もう少しな、気がするっ!」

 汗を拭って、気合を入れ直す。ここには絶対何かがある。

 わたしのカンは必ず当たるのだ。……ええと、うん、78%くらい?

 タガネとハンマーを使い、再び石と土との間を掘り進めていく。土の匂い。大地の匂い。わたしのグローブは、もう真っ黒だ。


 カンカン……ペキッ!!


 これはっ!手応え、アリ!

 タガネが空洞に突き抜けたのだ。狙い通り、手つかずの晶洞(ジオード)がここにあった。

 晶洞というのは、地面の中、山の中にできた空洞のこと。長い年月をかけて、石たちが成長する、『鉱物の卵』のようなものと習った。


 中を早く見たい!何が入っているのだろう。水晶かな?蛍石かな?もしかして、もっとレアな石?

 覗くにはまだ小さすぎる穴を、道具を使って慎重に拡げていく。大物を傷つけないよう、繊細に作業する。ドキドキとワクワクで心臓が踊ってる。

 そろそろどうだろう、と光灯で奥の方まで照らしてみると、キラキラと輝く手のひら大の鉱物が、そこにあった。

 なんだ、これ……?と、手を伸ばす。中の鉱物を傷つけたり、折ったりしてしまわないよう、息を止めて取り出した。


「わ、わ……わ!!」

 いくつもが光が反射して輝いている。柱面がたくさんあるのだ。柱面とは、結晶を形作る平たい面のこと。この石は例えるなら、お城や教科書で見た大聖堂みたいだ。幸い、破損した部分は無いようなのでホッとした。

 わたしは土まみれのグローブでその石を抱え、坑道を出て太陽の下へと飛び出すと、改めて”獲物”を日の光に照らしてみた。輝くような黄色。今まで掘り出した石の中でも、ばつぐんに明るい色をしている。


「すごい!これは今まで見たことない形の黃水晶(シトリン)だ!」

 グローブを外してぺたぺたと表面を触ってみる。太陽に照らされたシトリンは、まるで光の精霊の神殿だ。下の方にちょこっと金雲母がついていて、神殿に入る階段のようにも見える。ここから中に入って、石の中で遊びたい。

 ……おっとと、いつものように自分の世界に入りそうになってしまった。


 早く家に帰って綺麗に洗いたいな!

 シトリンを新聞紙に包んで大事にしまっていると、頭上からギャワギャワ騒がしい鳴き声が聞こえてきた。ディリータたちが帰ってきたのだ。ディリータ、イークス、イサの3人はいわゆる”いじめっ子”で、人の短所や失敗をすぐ馬鹿にする。


 彼らは今、ドラゴンの形態だ。わたしたち竜族(ドラクゥン)は、人と同じような姿から、幻獣のような姿のドラゴンに変身することができる。人と交流しはじめてからは、人型を竜族の言葉のまま「ドラクゥン」、幻獣のような形態を「ドラゴン」と呼ぶように決めたらしい。


 100と数十年前まで、竜族はその他の種族との交流を絶っていた。竜族は希少で、さらわれて売り飛ばされたり、おそろしい事に食べられたりもしていたらしい。竜族が身を隠すように生きてきたのは、そういった危険から身を護るためだ。


 しかし、竜族存亡の危機は突然訪れた。西からやってきた空飛ぶ奇妙な魔物に、竜族のみならず様々な種族たちが住む都市や小さな村までもが襲われたのだ。そいつらは翼を持ち、全身が白くのっぺりした皮に包まれている。

 授業で模型を見た瞬間、わたしは体中の毛や鱗がぞわっとする感覚に襲われた。白い顔の部分には、真っ黒な目と口のような穴が開いている。あれを見ただけで失神してしまう生徒が毎年何人かいるらしい。

 色んな大きさや形態があるらしいが、もっと見たい!とは思わない。


 奴らは独特の鳴き声……『ホォーーーーー……』というサイレンのような音を出す。その音が竜族には耐えられず、反撃ができなかった。


 ガンの侵攻に王国と竜族の危機を感じた”リリア姫”さまが、それまで絶対に姿を表さなかった竜族の長と対話することに成功し、すべての種族達がみな手を取り合ってその奇妙な魔物”ガン”と戦うようになった。


 その中でも空を飛べるドラゴンはガンとの戦闘の要。ドラゴンと絆を結び、騎乗して戦う騎士たちは"竜騎士(アリム)"と呼ばれ、竜騎士を乗せるドラゴンは戦闘竜(ファルガー)と呼ばれる事になったのだ。竜語でアリムは『生きるもの』または『親しい友人』の事を指す。ファルガーは『勇敢なもの』『守護するもの』を意味するらしい……合ってるかな。次のテストに出るらしいから、覚えておかなきゃ。


 私たちの住むこの国も、アリム・ミュスタと名付けられている。ミュスタは『竜の子』の意味。

 アリム・ミュスタの竜達は、もはや竜語を使わなくなった者が多くて……学校でちょっと教えてもらうくらい。わたしは竜語の響きがすきなので、もっと知りたいなと思ってる。





(2)Teller: Seran


 ここ「クリスタル・クリーク・ヴィレッジ」は、竜騎士や戦闘竜を目指す若者や、退役した軍竜などが住む村だ。そのため、「ファルガー村」と呼ばれることもある。

 

 普通学校には、竜族であることや軍に入りたい者などを問わずに入学できるが、履修科目には竜族限定で「飛行訓練」というものが含まれている。

 

 クリスタル・クリーク空軍基地に併設された「竜騎士養成・訓練学校」は、空軍に志願するひとたちが進む学校だ。……わたしには、関係ない話だけど。



 いじめっこ3人組は現地解散!で飛行訓練が終わって帰るところだろう。

 宙返りしたり急にスピードを上げてみたり、急旋回したりと、やりたい放題で飛んでいる。


「相変わらず下手くそな飛び方。見てらんないね!」

 あいつらは、難しい飛び方やスピードを見せびらかして、自分たちこそ空軍最強のエースになってやるんだと思っている。だめだめだめ。そんな飛び方じゃ騎士(アリム)を乗せられないよ。


「よし帰ろ! 今日はさいこうの日だ」

 わたしは腰のポシェットに入れた石の重たさを感じてにまにまと笑いつつ、帰路についた。





「お?そこにいるのはどんくさいセランくんじゃないか」

 なんとなく予想していたのだが、例の3人が道で待ち伏せ。しょっぱなからやーな感じの挨拶だ。

「何か用?」

 むっとして返事をすると、3人はくすくすと笑った。

「セランくんはどうして飛行訓練に参加しないんですかぁ?」

 一番背が高く、火竜の血をもつディリータが、嫌味をたっぷり含ませて腕を組む。

「おーい、言ってやるなよディリータ。こいつ角無し竜なんだぜ」

 イークスは緑の髪の上で人差し指を立て、角を模した仕草をする。こいつは嫌味が一番うまい。

「かっわいそーに、僕、ママに聞きました。

みなさん!角無し竜は変身できないんですぅ!飛べないんですぅ!」

 イサは、本当は弱虫だ。ディリータ達と一緒にいればいじめられない、という悪知恵。氷のような透き通る角をいつも自慢している。


 これくらいの嫌味は日常茶飯事だ。わたしは無視して帰ろうとしたのだが……

 ……イサが言った。

「弱虫戦闘竜(ファルガー)の子には角が生えないってパパも言ってたですぅ~~~!」

 おとーさんの、悪口を言っている。

 ……ふつふつと怒りが湧き出てきた。

「あーっ!! だから穴にこもって石ころ拾ってばっかなんだな! わりー! わりー!」

 わたしが鉱物採集をしているのは趣味だ。なんと言われようと構わない。それよりも……

「毎日フラフラ散歩してるだけの、なさけねーシアンの子供だもんなー!」

 3人の笑い声が、なんだか遠くに聞こえる。あ、これはもうだめだ。


「なにが情けないって?」


 俯いていたわたしは、腰のハンマーに手を伸ばす。

「あれー?どうしたんです……か!?」

 油断している3人めがけて、ハンマーを、投げた!!

「うわー!!ヤベェ!セランがキレた!!」

 タガネも、投げた!!水筒も投げた!!

「イークス、イサ、逃げろーー!! 」

 石も投げたし、なんなら予備のハンマーも……投げた!!

 

「お、俺達はお前の父親(オヤジ)みたいな

負け()には絶対ならねーからな!」

「セランてめぇ覚えてろよ!!」

「ママに言いつけてやる~~~!!」


 な~にが負け()だ。

「『スティブナイトのシアン』がどれだけ速かったか知らないのか!

この腰抜け竜トリオ!!」


 3人の逃げていく姿にイ~~~~ッと口の端を伸ばして、ふぅ、と一息ついた。

 ハンマーを投げたのは、ちょっとやり過ぎだったかな……。


 投げたものを1つ1つ拾いながら、まだむすむすと怒りが溜まっている。

 こんなもんか。他に拾い忘れているものは……あれ?


 ない!!


 今日の戦利品、シトリンのお城がない!!

 どうやら怒りに任せて一緒に投げてしまったようだ。わたしの顔は怒り顔から一気に泣きべそ顔になった。

「どこ行った~~~!?」

 こっちのほうに投げたはずだが、茂みが多い。この中から見つけることなんて、できるだろうか……。

 ガサゴソ茂みを抜けると、爽やかな風が頬を撫で、ぱっと視界が広がった。きれいな小花達が咲いて、まるで「ピクニックにおいで」と言っているような場所。

「おー、キレーキレー」

 座って切り株に寄りかかっているのは、おとーさんだった。

「よー。いいモン、採ってきたじゃん」

 その手にはさっき投げてしまったシトリンが乗っている。おとーさんはあちこちの角度から見て目を細めていた。

「!?おとーさん!!」


 長い銀髪に黒い角。右目に、アイパッチ。わたしのおとーさん、シアン。

「やー。どうなることかと聞いていたら……ハンマー飛んでくるわ、石降ってくるわ、おまけにとーちゃん自慢されるわ、うれしーねー」


 のんびりと話しながら、石を渡してくれる。

「だってあいつら、またおとーさんの事!」

 むっむっと再び怒りが込み上げてくる。

「あれ、ブチ当たってたらやべーぞー」

 一応ブチ当たらないようにはしていた……と思う。一応は……。


「むぅう。あんくらいかわせないで、どーやって魔物の攻撃を避けるんだよ!

戦闘竜(ファルガー)になる前にそのへんのクマに食べられちゃうね!!」

 尻尾で地面をびたびたと打つと、頭の上にぽこぽこと、『おこりむし』が出てくる。ちなみに『おこりむし』はおかーさんが作ったへんてこ言葉だ。

「おお、かなりピカピカになったな」

 無意識のうちに石を布で磨いていたらしい。

 さっきよりも輝きを増した石を見て、にっこり。おこりむしはどっかに行ってしまった。

「それ、なんかスゲーじゃん。今まで無い感じの」

「そうなの!ヤバい、これは絶対ヤバいよ!」

 わたしが興奮して尻尾をぶんぶん揺らす。おとーさんは微笑ましそうにそれを見る。


「マスターんとこに石の事聞きに行くんだろ?俺も行くよー」

 よっこいせと姿勢を変えて、傍らに置いてある杖を取る。

「えー……。おとーさんは目的がアレでしょ?」

 察したわたしは、ジト目でおとーさんを見下ろす。

「まーまー。かーちゃんには内緒なー」

「……わたしがハンマー投げたのも内緒なら」

 よし、取引成立だ。

「よっと!」

 おとーさんが、杖に仕込まれた『魔法』を発動させる。

 おとーさんには左足が無い。それをサポートしてくれるのが、この杖だ。

 『虹魔法』というらしいけど、竜族の間ではあまり好まれない魔法だそう。発動すると、虹色の小さな光が密集して、おとーさんの左足を形作る。これで歩行ができるというスグレモノなのだ。

「どーれ、村に戻ろうぜー」

 おとーさんの隣を歩いていると、とっても幸せ。腰抜け竜トリオが言うような、情けない奴なんかじゃない。


 おとーさんは、わたしが生まれてすぐ、ファルガー村を救うために戦い、身体の色んな部分を失った。左足の他、右手も、右目も……尻尾もだ。


 戦いの事は詳しく聞いてない。おとーさんもおかーさんも、深くは語らない。

 それでいいと思っている。

 でも、わたしはおとーさんの椅子にかけられた、相方(ディア)だった騎士が遺したフライトジャケットを見ると、なんとなく悲しいような、恋しいような、不思議な気持ちになるのだった。

 



(3)Teller: Seran


 カランカラーン、とベルが鳴って、喫茶店の扉が開く。

「おやいらっしゃい。二人で来るのは久々だね、シアンにセラン」

 喫茶店『トパゾス』のマスターは、こちらを見てお皿を拭く手を止めた。

 モコモコのボリューミーな髪に、髭と丸いメガネ。パイプで煙草をふかしていたが、わたしの姿を見て火を消し、カウンターの裏にある灰皿に置いた。


 マスター……ユークリッドさんは、ヒュウル族。竜族のような角や尻尾はなくて、耳も丸い。

 おとーさんと同じ、アリム・ミュスタ中央空軍基地に務めて、給食を作ったり基地内にあるカフェを担当してたんだけど、わたしが生まれる前、自分の喫茶店を持ちたくてこっちに引っ越したんだって。鼻の上に、横に一筋傷痕があるんだけど、でっかいトパーズを採ろうとして切っちゃったそうだ。


 マスターは鉱物のことなら何でも知っていて、わたしが採ってきた石の名前を教えてくれる。

 店内にもいろんな鉱物が飾られていて、ひときわ目立つのが大きな透明のトパーズ。外からも見えるように飾ってある。わたしの背丈……ほどはないけど、どうやって運んだんだろう……。あまりに大きすぎて、泥棒も持っていけないと……思う。


「シアンはいつものかい?」

「うん、頼むよー」

「わたしリレッツサイダー!」

 リレッツは大好きな果物で、薄い皮に実は柔らかく、とろけるような食感だ。そのままでも美味しいけど、サイダーの刺激ととろんとした甘みの組み合わせがクセになる。

 さて、おとーさんの前には、予想通りいつものコーヒーが。どこどこ産のなんとか豆らしい。全然覚えてないや。


「……おとーさん、コーヒーとお酒は、竜の身体には毒だって習ったよ」

 わたしがジロリと見ると、おとーさんは笑った。

「だいじょーぶだよ、ホラ、この通り死んでないだろ?

世間様が言うほどのモンじゃないのさ」

 本当かなあ。でもおとーさんがコーヒーを飲んでも体調が悪くなる、といった事はなかったそうなので、うーん。いいのかな。おかーさんは怒るけど。


「飛行隊に入った竜は新歓パーティーで、飲み物はコーヒーが酒か選ばせられるんだぜ」

 ひぇっ……。何、それ……。竜族虐待禁止法違反じゃない?

「お前がいたとこの隊だけだろ。悪習だよ全く。普通はそれでこりごりになるが、たまにこいつみたいなバカがいる」

 マスターが肩を竦める。

「こーいうバカのためにお店やってくれてるのがお前じゃん!」

 わはは、そりゃそうだなと二人は笑った。

「ま、退役軍竜の楽しみってやつさ。こーやって過去に浸れる場所が、必要なわけ」

 そーいうもんなのかなぁ、と思いながら、サイダーをかきまぜる。

 マスターが小さいため息を吐いた。

「だがなぁ……煙草をやる竜はお前くらいだぜ、シアン。セシルも心配してるだろ」

 おとーさんがおかーさんに隠れて煙草を吸っているのは知っている。

 コーヒーとお酒は竜族の身体に悪いが、煙草はもっと悪い。命を削るようなものだと先生が言っていた。

「……それはまー、うん」

 おとーさんはどこか遠くを見るような目をしていた。


 それより!


 それよりも!!


「……石の話」


「そうでした!!」

 おとーさんもマスターもひたりすぎ。

 わたしはポーチから採りたての石を出す。そしてガラスのテーブルを傷つけないように、ハンカチを敷いて上に置いた。

「ほうほう、ほほう!」

 石を見るなり、マスターが声を上げる。


「触っていいかい?ありがとう。……これはすごいぞ。こんなに美しいカテドラルはついぞ見たことがない!」

 マスターはかなり興奮しているようだ。わたしもドキドキが止まらなくなってきた。

「カテドラル?!」

「うん。《カテドラル・ライトブラリー》と呼ばれる形状の水晶で、とても貴重なものなんだ。

カテドラルは聖堂、ライトは光、そしてライブラリーは図書館。称して、『光の大聖堂図書館』だ」

「ひかりのだいせいどうとしょかん!!」

 こんなことを聞いて、興奮しないはずがない。椅子の尻尾穴から出た尻尾が勝手にパタパタ動く。


「24英雄は学校で習ったかい?」

「んーと……いっぱいいすぎてまだ覚えてない……」

 歴史上、大災害から世界を救った英雄たち。1回目は12人、2回目も12人……なので、合わせて24英雄と呼ばれている……まで覚えてる。

 マスターは続けた。

「その中のひとり”囁きの君”が持っていた8枚の鏡……」

「あ!世界中のどこでも見れる鏡だ!そこだけは覚えてるっ!」

「そう、そしてその鏡の欠片から生まれたと言われているのがこいつさ」

 世界を見渡せる鏡……その欠片。

 手の中の『大聖堂図書館』の中が、チカっと光った気がした。


「―カテドラル・ライトブラリーは、持ち主を光の大聖堂図書館にいざない、

知りたいことにとどまらず、世界にまだない情報や主人の宿命

果ては世界の行く末までも、視せるのだというよ」



(4)Teller: Seran


 夕方になり、家に帰ることにした。わたしはマスターの言ったことを頭の中で繰り返す。

 知りたい事……。

 頭の中がいっぱいになって、石を手に、俯いてしまった。

「……ん?どした?」

 おとーさんが気にかけてくれる。

「セランは……その石に教えてもらいたいこと、あるの?」

「……」

 抑え込んでいた疑問。家族の前では聞いたりしたことはないし、きっと理由もわからない。

「わたしにはどうして、角がないのか」

 わたしはこの問いを口に出したことはない。おとーさんとおかーさんが悲しむ、と勝手に思い込んでいたのだ。

「そうな」

 おとーさんはゆっくりと語りだした。


「お前は角が無くて鱗は逆さまに生えてる。


 俺はねえ セシルからそれを聞いた時

 早く会いたくてたまらなくなったの」


――そうなんだ。

 ふたりとも困ってしまったとばかり、思っていた。


「俺が死にかけで村に運ばれた時、セランがこっちに手を伸ばして笑ってたんだよ。

 キラキラした目でさ、それ見て、『あ、生きなきゃ』って、思った。」


 わたしの目から、うる、と少し涙が出た。 



「……俺、思うんだよね。

『無い』って事が プレゼントだってことも

あるんじゃないのかなって」


「うん……」


 わたしはぐしぐしと少し泣いた。

 おとーさんの目は、とっても優しかった。


「さー帰ってかーちゃんのメシ食お!」

「……そうだね!」


 もうすぐ日が沈みそうだ。空は、緋色と紺色の綺麗なグラデーションに染め上げられていた。




(つづく)





【キャラ設定】

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


※この作品は、作者の一次創作「ホーリーセルリアン」から派生した物語です。インターネット上には有志がデータ入力をしてくださったwikiが存在しますが、そちらの設定内容とは異なる場合があります。wikiは現在、編集できる方がおらず、編集・消去等ができません。その点、ご留意の上閲覧をお願い致します。

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