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思い出のオルゴールと、姫と騎士の愛憎

作者: 下菊みこと

「姫様、国が滅びるのはあっという間でしたね」


「そうね、騎士たちの裏切りもあったし」


彼が罪悪感から、顔を背ける。


私は思い出のオルゴールを取り出して、鳴らした。


優しいメロディーが私と彼を包む。


「ねぇ、どうして国を裏切って革命軍についたの?」


「…姫様が一番ご存知でしょう」


「………そうね」


兄は王位を継承してから、狂った。


平和を愛した優しい兄は、父と母を暗殺した隣国の王へ敵討ちを宣言して戦争を起こした。


隣国を滅ぼしてからも兄が元に戻ることはなく、凶王として君臨し続けた。


優しい兄は、もういない。


「…兄様は?」


「断頭台にて、首を」


「……そう、そうよね」


これで私には、家族がいなくなった。


「次は私?」


「―…」


彼が何か呟いたけど、よく聞こえなかった。


「なに?もう一回言って」


「姫様、俺と…私と、交渉しませんか」


「え?」


命乞いでもしろというならわかるけれど、交渉とは?


「姫様、私は皆から望まれて…新しく建て直すこの国の新たな王になることとなりました」


「あら」


それはいいことだと素直に思った。


この騎士は優しく、誠実で、一途だ。


幼い頃から私を可愛がってくれた、兄。


その人を断頭台送りにした人。


それでも、この騎士以上の騎士を私は知らない。


「ですが、私は平民の生まれです」


「そうね」


「そこで…権威付のため、私と結婚していただけませんか」


「は?」


「そうすれば、貴女の命は保証できます。他国からも貴女だけは殺すなと圧力も掛かっていまして、頷いてくれれば嬉しいです」


…夢、みたいな話だ。


ずっと好きだった憧れの人。


身分違いを理由に諦めていた人。


その人が、手の届くところにいる。


―そこに愛がなくとも。


「………ええ、それが民にとっても良いことなら。けれど貴方を信頼して次の王にと推した民は、元姫との結婚を喜ぶかしら」


「陛下は恨まれていますが、姫様は変わらず民に愛されております。問題ありません」


「いいのかしら」


父と母は暗殺された、兄は断頭台に送られた。


凶王となった兄を糾すことができなかった私だけ、生きていていいの?


「姫様」


騎士が傅く。


私だけの騎士が。


「私は、貴女をこの手に掛けたくない」


「…ずるいわ」


この騎士が幼い頃に贈ってくれた、大切なオルゴールを撫でる。


そして、閉じた。


静寂が広がる。


私はただ、頷いた。


「…ありがとうございます、姫様」


嬉しそうに笑うものだから、愛されていると誤解してしまいそうになる。


この結婚は、政略なのに。

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― 新着の感想 ―
くっつくんかーい………。 そこは断って欲しかった……。
お兄さん、悪い人ではなかったんだろうなあ。 それが狂うほどの暗殺。王と王妃は一体どんな殺され方をしたんだろうか。 狂王と化した兄は殺されなければ止らかなったかも知れないが、騎士達がふたりを護れていれば…
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