第25話:壊れた杖と誓い
本作は自分の考えた世界観やキャラクターをもとに、小説の文体化をChatGPTにサポートしてもらいました。物語そのものはすべて自分の手で作っています。
動き回ったせいで体がふらつき、足元が定まらない。もう体力の限界だった。かすかに口が動き──
「……この……体力バ……」
言い切る前に、意識がぷつりと途切れた。真っ暗な中に倒れ込み、体はそのまま黒い底なし沼へ沈むみたいに、ずぶずぶと落ちていく。
あれ……? 俺、なんでこうなったんだっけ。体が重い。とにかく重い。指一本すら動かない。──まあ、いいか。このままでいるのが一番楽だ。
何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。何も考えなくて済む。ただ沈んでいく。眠りに落ちていく。
やがて、どこからともなく光が差し込み、周囲がじわじわと白く霞んでいった──。
「うえぇぇぇぇぇん……」
母さんにしがみついて、幼いカティアが泣いている。足元には、誕生日に渡されたばかりの大きめの杖が転がっていた。
「おかしいわね……」
母さんも理由が分からないらしく、カティアを抱きしめながら困った顔をしている。
「スヴェお爺様……どうしてなんでしょう? 魔力はあるはずなのに……」
「……うむ」
スヴェじいさんはカティアを見つめ、長い沈黙のあとで首を横に振った。
「すまん。私にも分からん……」
「そう……ですか……」
その背中越しに、カティアの泣き声が続いていた。俺はただ立ちつくして見ていることしかできなかった。──本当は知っていた。でも、言えなかった。言いたくなかった。泣きじゃくるカティアを見るのが辛くて、俺はその場から走り出した。
「サーシャ?!」
母さんの声が聞こえたけど、振り返らなかった。
森の奥、いつも来ていた場所。込み上げる感情のままに、地面へ杖を叩きつけた。
「くそっ……! くそっ! くそ!!」
いつもなら鬱陶しいほど話しかけてくる精霊たちが、今日は一言も喋らない。
「なんで黙ってんだよ……! いつも煩いくせに……なんでカティアの言うこと聞かないんだよ……! いつも勝手なことばかりする癖に……ふざけんなよっ!!」
怒りのまま杖を叩きつけると、乾いた音を立てて粉々に砕けた。その瞬間、精霊たちの声がぽつぽつと響いた。
“サーシャ……”
“カティアはダメなの”
“カティアの言うこと聞いちゃダメ”
“王様、ダメって言ったの”
“王様、カティアに魔法使わせてあげないの”
“カティア、サーシャの宝物だからダメ”
“王様ヤキモチ”
“内緒、内緒……シー……内緒”
「……な、んだよそれ……」
悔しさと怒りと罪悪感が一気に込み上げて、涙が地面に落ちた。
「サーシャ」
振り向くと、スヴェじいさんがゆっくりと近づいてきていた。砕け散った杖に視線を落とし、俺へ優しく手を伸ばす。
「あ……ごめ……んなさい……!」
溢れる涙を袖で拭いながら謝ると、スヴェじいさんは俺の頭をそっと撫でた。
「やはり……カティアが魔法を使えないのは、精霊が応じないせいか……」
その言葉に、俺は堪えきれず嗚咽が漏れた。分かっていた理由が胸の奥で重くのしかかる。
勇気を振り絞って言葉を吐き出す。
「カティアが……俺の宝物だから……。精霊の王様ってやつがヤキモチなんだって……。だから……魔法を使わせてあげないって……。もう……魔法なんて嫌いだ。精霊も嫌いだ。精霊の王様なんて……大嫌いだ!!」
言い切った瞬間、涙が止まらなくなった。スヴェじいさんは俺の手を強く握り、優しい声で言う。
「サーシャ。魔法も精霊も嫌いで構わない。だが──魔法使いにはなりなさい。カティアが困った時、お前が助けてやれるようになれ。それがお前のためであり、カティアのためでもある」
そして続ける。
「好きになる必要はない。利用してやればいい。精霊に人の理は通じん。ならばお前も、お前の都合で使えばよい。精霊とお前は別の存在なのだから……」
そう言って、スヴェじいさんは俺を抱きしめてくれた。涙が止まらなかった。大切にしていた杖を壊したことを後悔した。だけど、心の奥で決めた。
──魔法使いになる。そして、カティアの分までたくさん魔法を使えるようになる。
もう二度と、魔法のことでカティアを泣かせない。
……それなのに。なのに俺は、また……カティアを傷つけた。
ごめん……。
気付いたら部屋のベッドで寝ていた。
【暗穴の墳墓】に行って、床が抜けて大量のモンスターと戦っていたところまでは覚えている。カティアが泣き喚いていたのも覚えてる。なんか、イヴァンをくるくる回してるとか精霊が言ってたのも覚えてる……ん? なんだそれ? 訳分からん。
なんでそっからの記憶がないんだ? どうやって帰って来たんだ?
“くすくす”
“くすくす”
“サーシャ、可愛い”
“可愛い。くすくす”
うん? 何が可愛いんだ?気になって鏡を見てみると、何故か頭にリボンが付いていた……。
「あ! お兄ちゃん! 起きた?!」
無言でカティアの頭を殴った。痛がって騒いでいたが無視だ。
まったく、なんなんだよ。訳がわからないし、やけに腹が空くし身体はだるい。とりあえず服を探して着替えようとした。
「ん? なんで俺の服ないんだ? 洗濯したのか?」
「あー、あれ……あれね。ボロボロになってたから捨てちゃった♡」
「はあ? なんでお前が勝手に捨てるんだよ……。まあ、いいけど、他にも服はあるし」
「えへへ」
なんだこいつ、怪しい。もしかして、俺の服を洗濯しようとして破いたのか? ……ありえそうだ。
まあいいや。腹が減ったので、いつものパン屋でパンを買い、食べながらギルドへ向かった。
ギルドに入ると、なぜか視線が俺に集中する。いつもはカティアに向いているはずなのに、しかもその視線がやけに痛い。
「な、なあ? カティア……なんで──」
そう言いかけて振り返ると、カティアの後ろにイヴァンが立っていた。
「ん? なに? お兄ちゃん?」
カティアが言い終わらないうちに、イヴァンが猛スピードで俺にタックルしてきて、容赦なく体にのしかかる。
「うわっ!!」
こいつ、こんなことするキャラじゃなかったはずだろ?! くそっ、捕まった! 今日は一体何なんだ!
「サーシャ、すまない。しかしこうしないと君は逃げるだろうからな」
「当たり前だろ! お前が勝負だ勝負だってうるさいからだろ!」
「いや、今日はそれじゃないんだ……」
「は?」
訳が分からないまま、イヴァンの話を聞くことにした。
それにしても、こいつの鎧、かなりボロボロだな。【暗穴の墳墓】でかなり無茶をしたのか。そんなことを考えながら話を聞いていたが、その内容はとんでもなかった。
「はあ? 何言ってんの? 俺がアーマーゴーレムを倒せるわけないだろ」
「しかし! 本当に君が倒したんだぞ?! その報酬と名誉は君が受けるべきだ!」
「いや、受け取るわけないだろ! 倒してないんだから! なんなんだよ、これ! 新手の嫌がらせか?!」
「カティア嬢! 君からも何とか言ってくれ!」
「えー。んー……えへへ♪」
何だ、この笑いは……。こいつ、誤魔化してるな?
「カ、カティア嬢? そうだ! 剣を! あの剣を出してくれ!」
「なんだよ、剣って……?」
俺が尋ねると、カティアはしばらく黙ってからにっこり笑った。
「……なんですか? 剣って」
「くっ!」
イヴァンがものすごく悔しそうだ。何なんだ、この会話は?
「あ、そうか! サーシャ、俺の剣を持ってくれ!」
その言葉が飛んだ途端、一斉に周囲の視線が俺に集まった。
は? 何これ? 怖いんだけど。うん……もう逃げよう。
「イヴァンさん、だーめ♡」
「カ、カティア嬢……」
なんだか知らないが、カティアがイヴァンの手をぎゅっと握りしめた。力が強すぎて、イヴァンがちょっと痛がっているようにも見える……いや、喜んでいるのか?あれは。
その隙をついて、俺はさっと逃げ出した。
それから数日、イヴァンとのこんなやり取りが何度も続いた。
しかし最近は訳の分からない勝負を挑んでくるやつもいなくなり、パンも気軽に買えるし、ギルドの掲示板を見ても絡まれなくなった。
ただ、どこにいても痛い視線が感じられるのと、カティアが最近コソコソしているのが少し気になるけど……。
とにかく──
「なんか知らんけど、だいぶ平和になった!」




