第14話:【プロローグ】小さな光の誕生
本作は自分の考えた世界観やキャラクターをもとに、小説の文体化をChatGPTにサポートしてもらいました。物語そのものはすべて自分の手で作っています。
深い森の静寂の中、幼い声がぎこちなく呪文を紡いでいた。小さな体には不釣り合いな大きな杖の先で、光が細い円を描く。次の瞬間、円を裂くように炎が弾け、踊るように周囲へ広がった。
「うわあああああっ!」
炎はまるで遊び相手を探す子どものようにあちこちへ散りはじめる。
「水の精ヴォーダよ、眠れる蛇となりて燃え盛る焔を呑み込み、静寂をもたらせ──《清蛇》」
落ち着いた声が詠唱を響かせると、水で形づくられた蛇が現れ、暴れる炎を滑らかに飲み込んでいった。
「大丈夫か、サーシャ。また詠唱を噛んでしまったようだな」
声を掛けたのは、年老いたエルフ──スヴェトザールだった。幼い少年サーシャは、不満とも戸惑いともつかぬ表情で口を尖らせる。その顔を見てスヴェトザールは首を傾けた。
「どうかしたのか?」
「……精霊が邪魔するんだ」
サーシャが搾り出すように言うと、スヴェトザールは眉根を寄せた。
「いつもいつも煩いし……」
言葉の最後は涙に震え、少年の目は潤んでいた。スヴェトザールは小さく息を吐き、その小さな肩に視線を落とした。
「そうか。お前には精霊の声が聞こえるのだな」
サーシャは黙って頷いた。
「どんなことを言ってくるんだ?」
「やっちゃいけないこと……やろうって言ってくる……」
「そうか……」
スヴェトザールは重く頷き、サーシャと同じ目線になるようにしゃがみこんだ。
「サーシャ。精霊というものは、自然と似た存在なのだ。時には恵みを与えることもある。しかし、価値観や善悪が人とは違う。それ故に、人に害をなすこともあるのだ。精霊は人と同じ場所に存在しているが、同じ世界の存在だとは思ってはいけない。例え分かち合うことはできても、決して分かり合うことはできない。精霊に人の理を押しつけてはならない。彼らは己が理に従い、在るがままに生きているのだよ」
語り終えたスヴェトザールの顔をじっと見つめながら、サーシャは不思議そうに首を傾げた。
「今は理解できなくてもいい。ただ……これだけは覚えておいてくれ。精霊を信じすぎてはならない。彼らは……そう、動物のように気まぐれで、人の思う通りにはいかない。」
スヴェトザールの言葉が空気に溶けきらぬうち、森の奥から声が響いた。
「サーシャ! スヴェトザール様!」
「あ、父さんだ」
振り返ると、サーシャの父ルスランが大きく手を振りながら駆けてきた。
「おお、ルスラン。もしや……」
「はい! 産まれました!!」
「サーシャ。今日からお前は兄だぞ。さあ、見に行こうではないか!」
嬉々とした声でスヴェトザールは少年の頭を優しく撫でた。サーシャは表情こそ淡いものの、その胸にはまだ見ぬ存在への期待が弾んでいた。三人はそのまま家へと向かった。
家に辿り着くと、出かける前のあの慌ただしさが嘘のように、屋内は静けさに包まれていた。
父とスヴェトザールに促され、サーシャは母ヴァレリアの部屋へ入る。
そこでは、ヴァレリアが柔らかな包布にくるまれた赤ん坊を胸に抱き、ベッドの上で優しく微笑んでいた。
「サーシャ! ほら、こっちに来て」
しかし、サーシャは動かなかった。呆けたように目を見開き、立ち尽くしている。不思議に思ったルスランが覗き込むと、少年の口から小さな息が漏れた。
「……すごい」
「え?」
反応の理由が分からず、ルスランは目を瞬かせた。その間に、サーシャはゆっくりベッドへ歩み寄る。
「どうしたの、サーシャ?」
ヴァレリアは戸惑いを隠せなかったが、それでもサーシャの喜びに満ちた顔に気づいた。
「すごい……赤ちゃん、キラキラしてる。……それに、小さい……」
「そうね。サーシャも生まれた時は、こんなに小さかったのよ」
「今日からサーシャはお兄さんだ。この子を守れるように、強くならないとな」
サーシャが「キラキラしている」と言った理由を、両親は理解できなかった。だが、彼の目に宿る幸福は、一家を温かく包んだ。
「スヴェお爺様。この子は女の子です。名前は決めてあるのですか?」
「名前、スヴェじいちゃんが決めるの?」
「そうよ。私の名前も、サーシャの名前も、スヴェお爺様につけてもらったのよ」
ヴァレリアが穏やかに告げると、スヴェトザールは赤子へ歩み寄り、そっとその顔を覗き込んだ。そして微笑みながら小さな頬に指先で触れる。
「もう決めてある。この子の名前は──“カティア”だ」
「……カティア」
サーシャはその名を胸の内で反芻した。
光を宿しているように見える赤子から目が離せなかった。溢れるきらめきは宝石のようで、その小さな命は触れただけで壊れてしまいそうに思えるほど儚かった。
壊さぬように、そっと触れよう。温もりを大切に守ろう。
サーシャはそう心に決め、初めて見る小さな妹を、ただひたむきに見つめ続けた。




