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第六話「向き合う時間」

息子の友達が攫われた。

その事実を聞いた時、心が締め付けられた。

あの二人に出会うまでのシノンに戻ってしまうんじゃないかと思ってしまった。


会いに二人に出会ってから、シノンは変わった。

よく笑うようになり、細かい気遣いもできるようになった。

そして、毎日が楽しそうになった。


そんなシノンの幸せを無くしてはならない。

俺は決意を固め、捜索に向かおうとした時、リビングから扉の隙間から風が入り込む音が聞こえた。

恐る恐るリビングへ向かうと、そこには何もなかった。

壁に立てかけたシノンの剣がなくなり、庭への扉が開け立てていた。

理解した時には、もう考えないようにしてもその考えが出てきてしまう。

もし、さっきの話をシノンが聞いていたとしたら?

急いで2階へ駆け上がり、シノンの部屋を開ける。

しかし、自分の願いは叶わず、そこにシノンの姿はなかった。



「シノン…?」



ーーー



最近、過去と向き合う時間が増えた。

そうする度に、見ないようにしていた過去も思い出してしまう。

あの日、俺の夢が壊れた日の記憶、俺はまだ、一番大事なことに向き合っていない。


家を抜け出した俺は、街の中央へ向かっていた。

自分にも聞こえるほど鳴り続ける心臓が焦燥を加速させる。

瞼を閉じれば、嫌な未来が映し出される。

呼吸も荒く、見える視界もぐらついてしまう。



「はぁはぁはぁはぁはぁ…!」



どうして、なんで二人が攫われるんだ。

なんで二人が一緒に、あの時俺たちはそれぞれの帰り道に別れたはずなんじゃないのか?

あの二人を狙った誘拐?

いや、リアだけならわかる。

この街の最高権力者とも言える家の娘、人質として使うなら十分の効力がある。

それならレオは?

レオの家庭は平凡だ。

特筆するべき点は家にない、あいつに血筋以外は…

鬼族の血筋はツクモ之国にしかいない。

ハーフでさえもリオナス大陸に二桁いるくらいの数だ。

考えられるの人身売買、鬼の希少性を使った金稼ぎだ。


いや考えが頭をよぎると、さらに走る速度が上がる。

動き出した騎士団と会わないよう通路を選びながら走り続ける。

屋根を、路地を、使えるもの全て使い中央広場へ向かう。

到着した時、そこに人の影は一つもなかった。

不気味なほどに人気のない夜、俺は周囲の警戒を行いながら魔力を展開する。


今の俺ができる最高範囲200mで魔力を展開する。

来る途中も魔力探知を100mで展開しつづ、見落としをなくしてきた。

ここから、すべての通路をしらみ潰しに探っていく。

そんなことをしてる時間はない。

俺は魔力探知の範囲をさらに大きく、広くしていく。



魔力探知は広範囲に展開した時、探知を明瞭にできていなくとも、魔力が多い場所、密集している場所は探知できる。

誘拐犯が一人ではないなら、この探知が必ず反応する。

街の外に出るのは不可能、出る前に必ず一度検問を挟むしそこで殺しがあった場合は常駐の騎士団がすぐさま取り押さえる。


俺は、思考を止めず探知の範囲を広くしていく。

考えられる可能性を全て考えながら、最善種を探し続ける。

魔力探知の展開範囲が自分の限界に迫り、眩暈がし出す。

揺れる視界と頭痛に耐えながら、それでも俺は範囲を広げる。

精神的な疲労が限界に達し、立つことさえも難しくなった時、、俺の探知が魔力の密集地を発見した。


展開した範囲は1km近くにおよび、そこから入ってくる情報だけで、倒れそうなほどの情報が流れ込んでくる。

見つけた。

場所は街の南東部、地下水路の先にある地下通路、今回のために作り出したであろう大きな空洞の中にいる。

すぐさま走り出し、誰よりも早く二人の場所へ向かった。


俺はまだ決めきれない覚悟を腰に携えた剣を、握り確かにする。

父さんは俺の行動に怒るだろう。

大人の出る幕で勝手に行動をし、死ぬかもしれない場所に向かう。

成績すら持たない子供が無謀ん真似をするなと、俺のことを叱るだろう。

それでも、俺はあの二人を守りたい。



ーーー



意識を取り戻した時、体の自由が効かないことに違和感を感じた。

はっきりとしない意識を覚醒させ周りを見渡す。

自由に動かない手足を見ると、私は拘束されていた。

手足に縄が巻かれ、口にはしゃべらせないために縄が当てられていた。

叫びたくなる心を抑え必死に心を落ち着かせる。

一瞬にして気絶で忘れていた記憶が想起される。


彼の、シノンへのプレゼントを買いにシノンと解散した後、私とレオは再び集合し露天に向かった。

しかしその道中で私たちは何者かに攫われてしまった。

隣を見れば、まだ眠ったままのレオがいた。

どちらも無事なことにホッとするも、何も良くはないこの状況に焦りと恐怖を感じる。


外の時間も、ここがどこなのかもわからない。

見えるだけで、誘拐犯の人数は九人と少し、騎士団が来ればどうにかなるけど、私たちを人質にされればそうはいかない。

不幸なことに、ここにいる被害者は私とレオの二人だけではない。

私たち以外にも、少なくと十人近くの子供が攫われている。


誘拐犯たちは全員が男、腰には剣を装備してるし見たところかなりの付き合いだと見える。

親しげに話す様子から互いに向けられる信頼は確かなものだとわかる。

この人数が連携をとりながら人質を使い攻めてくるとなれば、騎士団も手を焼くはずだ。

タリアさんなら、どうにかなるかな…


シノンがここに居ないってことは、攫われてないってことだよね。

よかった、シノンが無事でいてくれてよかった。

安堵のいきを漏らした時、周囲から唸り声が聞こえ始めた。



「ん、うぅ…」

「ここ、どこ?」



他の子供達が起きたようだった。

周りが起きるのに反応して、感覚が敏感なレオも意識を取り戻す。

覚醒直後、大きな声を出しそうになったので肩でレオをこづき状況をわからせた。

しかし、レオだけが理解しても意味はない。



「きゃー!」

「パパー!ママー!ここどこなのー!」

「助けてー!」



パニックになった他の子供たちが口々に叫び出す。

子供達の叫び声は当然誘拐犯たちまで届き、私たちの起床を知らせた。

私たちが起きたのを確認した誘拐犯の一人がこちらに歩み寄り今もなお泣き叫び続ける女の子の前に立ち黙った。

泣いていた女の子は、誘拐犯が前に来るとさらに大きな声で泣き出す。

その様子を何の感情も持たないような目で見つめ、腰に携えた剣を抜いたと思えば一瞬にして女の子の首を刎ねた。




「ぁあ…」



声にならない声が私の喉からなる。

刎ねられた子供の首は地面に転がり、私たちの方を向いた。



「ガキども、喚くんじゃねえ。

 喚いたやつは全員こうなる、いいな」



誘拐犯は冷酷な声で淡々と告げ、元いた場所に戻って言った。

隣を見れば、刎ねられた首を見て凍りついたような顔になったレオがいた。

目は見開かれ、今起こったことにまるで理解が追いつかないかのような様子でレオは凍りついた。

レオが状況を理解した時、彼は誘拐犯に向かって行こうとした。

私は、起きあがろうとする彼を全力で止めた。

レオは止められたことに納得いかないというように転がった首と私を交互に見てうう耐えかける。

それでも、私は首を横に振った。


目の前で人が死んで怒るのもわかる。

自分の無力が許せないのはわかる。

でも、無力なのがわかっているのに向かっていくなんてダメだ。

それはただの無業だから、


私は必死に首を横に振る。

レオは私の必至の制止に体の力を緩めた。

歯が砕けそうな程食いしばり、悔しさを押し殺している。


レオを諭した私だって、今も目には涙が溜まっている。

恐怖で泣きそうで、震えそうで今にも叫んで逃げたいけれど我慢するしかない。

この人たちの目的は、私たちを売ることだ。

そんな未来を考えると、震えが止まらない。

初めて命が脅かされる恐怖に晒されて、頼っちゃいけないとわかっていても彼の名前が出てきてしまう。

あるはずのない理想を、願ってしまう。


助けて、シノン…




ーーー



街の南東部、目的地の周辺を探索すると水路への入り口を見つけた。

中から感じる気配は大したものじゃない。

でも、嫌な予感はひしひしと感じている。

体を弄ぶような悪意に満ちたような気配、俺の予感は確信へと変わる。

この中に、いる…


自分でもわかる程に俺は怒気を帯びていた。

静かな怒りを力に変えて、俺は水路へ足を踏み入れた。


長く整備されていない水路の匂い、滴る水が水面へ落ちる音、その全てが俺の緊迫を強める。

常に攻撃されてもいいように剣に手をかけてはいるがいつどこから来るかはわからない。

常に探知を5mで展開しているが、相手が先に俺に気付けば踏み込みで詰められる範囲だ。

もっと広く展開すべきだが、魔力操作に使う精神力は無駄遣いできない。


警戒しながら前に進むと、誰かが前方から歩いてきているのに気づいた。

魔力探知の範囲に入ったのに攻撃してこない?

俺の魔力を感じ取らなかったのか?


居合を構え魔力と気配を極限まで抑え相手を待つ。

一秒一秒が引き延ばされた時間の果てに姿を見せたのは一人の男だった。

男はひどく酔っていて、まだこちらに気づいていない。

これは好奇だ。


俺は剣を素早く抜き、男の足っての間接を素早く切る。

男は何が起きたかもわからずその場に跪き間抜けな声をあげた。

俺は無防備になった男の胸ぐらを掴み首に剣を押し当てた。



「ひぃ!な、何だお前!誰なんだ!?」

「騒ぐな、お前は誘拐犯の仲間か?」

「何言って」

「答えろ!」



怒りを抑えきれず、俺の剣は男の首に傷をつけた。

首に走る痛みが男の恐怖を増長させる。

ガジガジと口を震わせる男は俺の問いに答え出した。



「そ、そうだ」

「攫った子たちの中に金色の髪の男と暗い青色の髪をした子供はいるか?」



男は口をうまく動かせず、それでも死にたくないと懇願するように首を縦に振った。

やっぱり二人が、いる。



「その子達をどうするつもりだ?」

「じ、人身売買に、使う」

「生きたままか?」

「そ、そうだ…」



男の言葉を聞いて安堵する。

生きたまま売りに出す。

つまり、下手なことをしなければ今殺すことはしない。

二人は生きている。



「お前を含めた仲間は何人だ?

 全員今どこにいる?」

「仲間は十一、全員、この先の大空洞にいる…」

「そうか」



聞きたい情報は手に入れた。

仲間は十一、この先の空間ということは、俺が探知で捕捉した位置に全員いる。

情報を引き出し終え、俺は男の首を掻き切った。

男は助かると思っていたのか、俺の服を掴み地面に伏した。


容赦をするつもりはない。

関わった奴らは全員殺す。



「あと十人……ぐっ!」



再び歩き出そうとした時、頭に頭痛が走った。

脳裏には見覚えのある、しかしはっきりと思い出せない景色が写しだあれた。

記憶の中には汚れる手の平、地面に倒れた誰かを見下ろす俺がいた。



「これは、俺の、記憶なのか?」



頭がひび割れるような痛みに襲われ続け、俺の足取りはふらつき始めた。

ふらついた足で、倒れないように壁に手をつきながら足を進めた。

足を進めるにつれて、痛みに慣れていき足取りも落ち着いてきた。


そうして少し進んだ後、一つの通路に着いた。

明らかに街の職員が作ったと思えない道、俺はここが誘拐犯のアジトに繋がる場所だと察した。

改めて覚悟を固め、その道の足を踏み入れる。

道を進むにつれ光は無くなっていき進む方向すらわからなくなりそうだった。

数分進み、正面に光が見えた。

この先に広がる景色を受け入れる。

そう心に誓い俺は剣を抜き暗い道を抜けた。


目に入った景色に、俺は絶句した。

男の発言通り、ここにいる大人は十人、そいつらは男児を殴り、女児の身包みを剥いでいた。

あまりにも惨たらしく、残酷な行為に俺の名kの大事なものが切れた。

心の中で、やり直せるかもしれないのなら、取り押さえるだけで終わろうとも考えていた。

だが、今はもうどうでもいい…


誘拐犯たちは俺に気づいていない。

注意を俺に向けるために、俺は力と魔力を全力で込めた拳を思いっきり壁に打ちつけた。

殴られた壁は大きくひび割れ轟音を鳴らす。

誘拐犯たちの注意が一瞬で俺に向いた。

まだ戦闘態勢に移っていない誘拐犯たちに俺は剣を向けただ怒りのままに言葉を放った。



「構えろ、皆殺しだ」



構えた剣を振り下ろし、砂埃による煙幕を上げる。

やっと状況に気づいた誘拐犯たちが慌て出し剣を抜いた。


煙幕の中を素早く移動しながらも砂埃を上げ続け俺の姿を捕捉させない。

相手は俺の位置がわからないが、煙幕と共に使った魔力探知で俺は全員の位置を把握している。

俺は煙幕の中で、右端に立っていた男を捕捉した。



「死ね!」



踏み込んだ足を解放させ、一瞬で距離を詰める。

子供がここまでできるとは思っていなかった、そんな顔をし男は慌てて剣を振る。

油断から繰り出した貧弱な剣を受け流し俺は男の顔を真っ二つに切り上げた。



「あと九人」



止まることなく、俺は二人目へ移った。

殺した一人目が持っていた剣を投げ二人目を殺害。

そのまま、二人目の死体を盾にし三人目の攻撃を防ぎ死体ごと心臓を貫いた。

殺した二人目の死体を四人目に投げ続け死体砲弾を防いだ一瞬を狙い細切りにした。

煙幕の中で半数を削り切るため五人目に襲い掛かろうとした時煙幕が晴らされた。



「チッ、煙幕が晴らされたか」

「お前さん、ちょっとやりすぎちゃいねぇか?」



声の方を見ると剣の風圧で煙幕を晴らしている男がいた。

風圧だけであの範囲の煙幕を無くすとは…

こいつが頭目か?



「何が言いてぇ」

「お前、歳は?」

「今日で六つだ」

「はっそりゃおめでたいことで、誕生日が命日にもなるとはな。

見たところ生跡は発言してないな」



飄々とした、重みのない言葉で男はシノンへ話しかける。

その軽い言葉にシノンはエモ言われぬ嫌悪感を覚えた。

いかにも舐めたような言葉遣い、でもさっきの剣捌きだけでこいつは強いと理解できる。

残った敵は残り七人…俺一人でいけるか?



「クソガキが、たった一人で勝てると思ってんのか」



男の周囲の空気が一瞬にして重く、暗くなった。

俺の剣を握る手にも、自然と力が籠る。

男との死合いが始まる、そう感じ権を構えた時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。



「シ、ノン?」



息が詰まった。

息が吸えなくなるくらい思うように呼吸ができなかった。

俺の視線の先には身包みを剥がされ、体中に傷を作り、地面に倒れ伏しながら必死に顔をこちらに向けるリアがいた。

そしてその横には、リアは守ろうとして負ったであろう怪我で血まみれになったレオがいた。


二人の姿に記憶が重なる。

守れたと思っていた妹が、地面に倒れ伏し、俺を見上げたあの日のことを…

刹那、俺の頭に鮮明に、あの日の記憶が流れ出す。


あの日、夢を壊され、目の前で妹を殴られ、ボロボロになった妹の前で無力を感じた。

そこまでで閉じていた、記憶の扉が今開いた。

俺は、妹の姿を見た時、怒りに身を任せ台所にあった包丁で、父を殺した。

守れなかった現実に絶望して俺は解放される道に逃げたんだ。

父の腹に突き刺した時の感触が鮮明に思い出せる。

手についた血に熱を感じて、人の命を犯したんだと理解した。

呆然と血に染まった手を眺める俺の前で、父た倒れ息絶えた。


そうして、俺は父を殺したことで少年審判から刑事裁判で懲役を課されるはずだった。

でも、捕まったのは母さんだった。

俺を庇った母さんが警察に連れて行かれた。

当然の母さんは有罪判決を受けた。

警察も殺したのが子供だとは思わず誰も母さんが犯人ではないなんて思わなかった。


そこからの生活は、驚くほど何もなかった。

祖父母の家に引き取られ、不自由なく暮らした。

妹は父を殺す直前に気を失い犯人が母だと思い込んでいた。

俺は、妹に本当のことは言わなかった。

もう、幸せを壊したくなかったから。


それでも、俺は忘れられなかった。

守れなかった無念を、手を染め、母を終わらせた罪を…

何度も目を逸らそうとした俺は、いつの間にかその記憶に蓋をした。

その記憶が今、目の前で再現されたように思い出された。


自分の過ちを思い出した俺は、過去の俺の幻影を見た。

目の前にいるのは、死ぬ前、ここに来る前の俺だった。



「また、諦めるのか?

また。守れないと決めつけて、現実から逃げるのか?」



記憶の幻影であるシンが、俺に語りかける。

あの時のようになるのかと、また、同じ轍を踏むのかとそう問いかける。



「また間違って、自分の非力を呪うのか?

やり直したんじゃないのか?

もう同じ真似はしないんじゃなかったのか?」



そうだ。

俺は、もう同じことはしない。

ここで二人を諦めたら?

自分も死んで、永遠に二人への償いと自分への恨みに呪われる。

二人を救えないのも、二人を理由に自分を呪うのも、俺はしたくない。

そう思えるなら、俺は…



「ありがとうシン。

俺、やり直すよ。

もう、間違わないように、間違えた先でも悔いがないって言い切れるように」



俺は自信を持って、胸を張ってそう答えた。

その答えに、シンはふっと笑い、何かを言って消えていった。

何を言ったのかは聞き取れなかった。

それでも、口の動きで理解はできた。


止まっていた時間が動き出す。

不思議と、今は何も迷っていなかった。

恐怖も怒りも、何かも感じずただ、彼から受け取った意思がこの手の中で輝いていることだけを感じた。




「頑張れよ、か」

「あ?急に何言ってんだガキ?」



きっかけさえあれば、それは目覚める。

人の生きる道が作られ、その者の人としての指針が決まった時、そこに至る力を世界は与える。

生きてきた道を証とし、生きていく世界を夢とする。

だからこそ、この力は生跡と呼ばれるのだと、そう感じた。


俺は手の平を地面につ教わったわけでもなく、ただ言葉を発した。

まるで知っていたかのように、その力の使い方が理解できた。

地に触れた手は魔力を地面に流し、その事象を引き起こす。



再構築(ディフトロシア)



瞬間、俺の前方、誘拐犯たちのいる方向の地面が崩壊した。

砕かれた地面は無数のビー玉より少し小さな粒子状になり、俺の元に集まった。

何が起きたかわからない状況に誘拐犯たちは慌てて俺から距離をとった。



「お前、何をした!」

「まさか、こいつ…」

「ガキ、まさかお前、今発言したのか…?」



白色の粒子たちがまるで生き物かのように俺の周りを泳ぐ。

不思議な感覚に体が包まれる。

体が浮くような、全能感に溢れた感覚が体を包む。


さて、煙幕が晴れて、互いに構えた状態…

単純にやりあえば、知識が少ない俺の方がやられる。

なら、先手必勝、相手が発動する前にその手を全て潰す。

俺は構えた剣に粒子を纏わせ空中を横に一閃する。

振り切った剣から軌道に沿うような粒子の三日月が放たれる。



粒剣斬(りゅうけんざん)



姉さんとの戦闘での出力の低さを克服し、魔力の枯渇を恐れず連発する。

生跡での発動と出力の上昇によって格段に威力が上昇した斬撃が誘拐犯たちに直撃する。

着弾と同時に上がった煙で当たったのかよくわからないが、手応えは確かに感じた。


今は完全に相手も冷静だ。

強襲時みたいな闇討ちはもうできない。

相手の生跡の方が練度も高ければ踏んできた場数も違う。

思い立った策を実行するために、俺は飛ばした粒子を手元に集め技と魔力探知を行い自身の位置を晒す。

敵は餌だとわかっても必ずやりにくはず、奴らはまだ慢心している。

俺は、そこを狩り取る。


俺は剣を抑え、俺の剣術と言えるほどになれた動作で居合の構えをとる。

しかし、今回は動かない。

周囲に粒子を周回させ敵への攻撃素早く察知と防御をし、体制が崩れたところを切る。

煙が上がらない限りは仲間が被弾するリスクを考えてあいつらも袁虚子の攻撃はしづらい。

人質を使おうとしても、背後にいるリアが知らせてくれる。

隙は、ない。


研ぎ澄まされた感覚が、音を、揺らぎを、全てを拾う。

木剣と違い、今の剣は鞘がある。

鞘の中でためた魔力を爆発させれば、奴らでも反応できない速度で切り込める。


段々と、聞こえる足音が多く、大きくなっていく。

周りを全員でどこから切り込むのかわからなくする作戦か?

上手い連携、これほどの連携が取れて遠距離の攻撃がないということは遠距離持ちはいないということだ。

最後の問題は、どうくるか。

一人づつ、隙を狙ってくるか?

それとも、全員で襲ってくるか?


そして、その瞬間は訪れた。

鳴り続けていた足音が止み、一瞬の静寂が流れた後、煙の中から七人が同時に現れた。

やはり全員での一斉攻撃、そしてうまい、それぞれが別の場所へ攻撃している。

本当に、見事だ。

そして、何より残念だ。



「君たちが騎士団に入っていたら、その強さは輝いただろうに…」



鞘の魔力を解放させることで爆発的な加速で剣を抜く。

足に力を使わないため剣を引き抜く右腕に全魔力を纏い放つ七連撃、奴らの攻撃が俺に届くよりも早く、俺の剣は奴らを切った。



「居合・粒操(りゅうそう)万華七弁(ばんかしちべん)

「ぐふぉあ!」


剣速と魔力の衝撃で地面さえ剣の衝撃で割れる。

七方向に走る剣閃が誘拐犯たちの胸を裂き、血飛沫をあげる。

とてつもない風切り音を上げ吹き荒れた旋風が止んだ時、その場に立つのは血で濡れた少年だけだった。



「はぁはぁ、ぐっ…ははっ無理、しすぎたな」



無理に剣を振った反動で俺の右腕は筋繊維が切れ、骨が折れていた。

壊れた腕で剣を持つことはできず、剣が右腕からこぼれ落ちる。

体力余ってれば、この子たち運ぼうと思ってたんだけどな。



「怒られるよなぁ…」



限界の体は地面に尻餅をつき、そんな言葉をこぼす。

後ろを見れば、人質に子供たちは気絶しているのか、それとも眠ってしまっているのか全員眠っているようだった。

俺ももう、止めを刺しに行ける体じゃない。

せめてもの手段として慣れない左腕で剣を拾っておく。



「早くきてよ、父、さん…」



俺は、父さんの到着を待とうとしたが、意識を落としてしまった。

この時、窃盗犯の全員はすで死んでおり、その場の安全は確定していた。

そして、俺が意識を取り戻したのは、一週間後の夜だった。



ーーー



俺は今、犯人のいる水路を必死に走っている。

敵のアジトへ繋がる水路、時間はかかったが魔力探知で見つけ出せた。

頼む、生きていてくれ。


心の中で子供たちの生存を願いながらも、本心では息子が巻き込まれていないかを心配していた。

シノンが家を出て、二人を助けに向かったと知り、息が詰まった。

騎士団の団員たちは子供がたどり着けるはずがないと言っていたが、俺は無性に嫌な予感がしていた。

あいつの才能があっても、助けに行くことは自殺行為だ。

もし、シノンが先に辿り着いて、死んでいたら…


その時はもう、終わらせよう。

最悪の事態を想像してしまいさらに足が早まる。

すると道中に何かが転がっているのが見えた。

近づき目を凝らすと、それは死体だった。

ひどく泥酔した男の死体、でも誰が殺した?


俺の頭は答えを出しているはずなのにそれを認めなかった。

アジトへと繋がる道を見つけその中を入った。

持ってきた松明すら忘れ、俺はシノンのことだけを思い走った。

辿り着いてしまったのか?ここに来てしまったのか?

頭の中をを埋め尽くす息子の死体から俺は必死に目を逸らした。

そして見えた光明、その先にある景色を想像し息を荒くしながら俺は道を抜けた。


見えた光景は、全てが終わった後だった。

至る所に死体があり、すぐにそれが誘拐犯のものだとわかった。

誘拐された子たちを、シノンを血眼になって探すと奥に人が倒れているのが見えた。



「誰かいるのか!?」



急いで駆け寄ると、それは首を切られた死体だった。

念の為服の下を覗くと体に怪我は見られず、おそらく見せしめで殺されたのだとわかった。

そして、そこからもう少し進んだ先で俺は見つけた。

十数人の子供たち、そして、その子たちを守るかのようにボロボロの体で剣を持っているシノンがそこにはいた。



「シノン!」



シノンの元に駆け寄り体を揺らすと、バランスを崩したシノンが俺の方に倒れ込んできた。

倒れ込んだシノンの顔が肩にかかり、耳元でシノンの寝息が聞こえた。

俺は安堵で全身の力が抜けた。

あまりの喜びに、右腕の傷を忘れて抱きしめてしまっていた。


その後はシノンが生存していたことの安堵を胸にしまい、誘拐された子供の安否確認を行なった。

幸いなことに最初の子以外死亡者はおらず少しの打撲で済んでいた。


誘拐犯の死体は廃棄にし、子供たちは騎士団が預かり病院へ送った。

全ての物品が押収されもぬけの殻になったアジトを去りながら、俺は背中ん胃もたれかかって眠るシノンに語りかけた。



「あれ、全部お前がやったのか?

 だとしたら、発現したんだろうなぁ。

 嬉しくもあり、複雑だよ」



当然、この会話にシノンの言葉は返ってこない。

正直、間違っていたと思ってしまった。

こんなことが起きるのなら、あの剣を渡すべきではなかったと思ってしまった。


だが、それはシノンの覚悟を汚すものだと、そう思った。

こいつは、俺の言葉を守り、二人を守り救うためだけに剣を振るったのだ。

その姿には誇りしかない。

それでも、こんなに傷付いたシノンを見て言葉漏れてしまった。



「シノン、ごめんなぁ…」



涙と共にこぼしたその言葉は夜の街に消えていった。



ーーー

事件簿「サリオン幼児誘拐事件」

容疑者 十一名

被害者 十三名

死傷者 十二名

救助者 十二名

事件内容:昨日、子供が行く不明になったと言う家庭が多数報告され捜査を行ったところ地下水路の違法増設された空間での誘拐監禁であることが判明、騎士団が退所に向かうもすでに容疑者は死亡しており、現場の状況から元騎士団副団長タリア・ウィットミアの息子、シノン・ウィットミアによる殺害で断定、当人には戦闘後と思われる右腕に重症あり。

被害者は病院に搬送後治療、その後完治次第退院。しかしながら、事件から3日経った現在もシノン・ウィットミアに目覚めの兆候見られず、引き続き入院と治療を行います。


以上、元騎士団副団長 タリア・ウィットミア


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