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第四話「友達というもの」

人は時々、自分が本能で行う行動を自身でも理解できていない時がある。


元の世界での俺は、友達が少なかった。

人に話を合わせようと思えば話せたし、実際話し合いの時は普通に喋るようにしていた。


ではなぜ俺は友達を作ろうとしなかったのか。

多分、失うのが嫌だったんだろう。

いつか離れてしまうかもしれないとかいう重い感情があるわけではない。

ただ、嫌われるのが怖かったんだ。


少し話が合わなければ、趣味が合わなければ、一緒にいて楽しくないと思われれば、切り捨てられてしまう。

誰かにいらないと、求められていないことがたまらなく嫌だった。



「だから、友達なんていらないと思ってたんだけどな…」



ベッドから起きて外を眺めながら呟く。

気温も心地いいし今日はいい鍛錬日和にだ。



「なーシノンーきたぞー!」



あいつがいなければな。

まじで来ちゃったよ。

また明日とか言っちゃったからまじで来ちゃったよ。


俺はとりあえず外の知らない人は無視して一回に降りた。

まだ起きたばかりなのだ。

朝ごはんすら食べていないのに外には出たくない。



「おっシノン起きたか、外でお前のこと呼んでるのは友達だろ?」

「いや知らない人だよ」

「まじかお前」



このまま無視を決め込んだら流石に帰ってくれるはずだ。

それまでは騒音に耐えながら朝食を、


俺が朝食を口に運ぼうとした時、激しい音を出しながら玄関の扉が開けられた。



「シノン遊ぼうぜ!」



俺の、最悪な朝が始まった。


レオはずかずかと家に入ってきて俺に擦り寄り遊ぼうと誘う。

俺はそれでも構わず無視をし続けた。

まるでそこに誰もいないかのように話す俺に父さんはまじか、みたいな顔をしていたがそんなことは気にしない。



「なぁシノン、また魔力の操作教えてくれよー」



しかしこのバカめげない。

さっきからずっと無視してるのに椅子と俺の足に張り付いて全く離れない。

昨日のことでわかったがこいつの胆力は異常だ。

このまま無視をし続けてもあと数時間はこのままだろう。

それは何としても阻止しなければ!



「わかった、その前にちょっと2回で荷物を取ってくるからここで待っててくれ」

「ほんとか!よし待ってよう」



レオにそこで待っててもらい、二階の自室へ向かった。

さて、この状況で俺ができる策は何か。

目的は奴に気づかれずに離れること。

それを踏まえた上で俺が打つ策は…


俺は自室の窓を開けそのまま庭に飛び降りた。

庭には草が多く生えている、着地をしても音もなければ痛みもない。

元々魔力で足腰を強化すれば痛みもないけど、



「よし着地、さ塀を乗り越えて外に行こう」



案外簡単なもんだ。

今はあいつの頭の悪さに感謝しよう。


俺は心の中で全く心のこもらない感謝をしながら軽々塀を乗り越えて外に出た。

よし綺麗に着地、我ながらいい策だった。

それじゃ今日は別の場所で鍛錬を…



「あれ、シノン?」



どうやら、今日はとことん運が悪いらしい。

俺は引き攣った顔を全力で直し声の方へと振り返る。



「あ、やっぱりシノンだったのね」

「うんおはようエルフェリア」



やっぱりエルフェリアだったのか。

知り合いに会ったのは良くないが、エルフェリアは別に苦手でもないから問題はない。

手に持ってるのは果物と香草か。

お使い帰りってところだろう。



「お使いの帰り?」

「あっうんお母さんに頼まれたちゃって」



話しかけたら首を下に下げてしまった。

そんな反応をしないで欲しいものだ。

倒産の言葉がちらついてしまう。


この子が俺に、か。

実感が湧かない。



「シノンは、どうして塀から飛び降りてきたの?」

「あーそれは、」

「なぁシノン、その子だれ?」



塀の上から俺へ問いかける声が聞こえた。

俺とエルフェリアは驚きのあまり塀の上を見上げる。

そこには塀をよじ登り上から俺たちを見下ろすレオがいた。



「おまっ、何で」

「鬼はゴカン?以外も敏感なんだぜ。

 で、その子だれ?」



レオの出現に動揺する俺の横でエルフェリアがお辞儀する。

彼女の態度と所作は教育された淑女のようだった。



「名乗りが遅れました。

 私はエルフェリア・シルウェーヌ。

 この街の貿易の全てを担うシルウェーヌ家の長女です」

「俺はレオ!シノンの友達!」

「まだ認めてない」



レオに関しては置いておいて、エルフェリアは良いとこのお嬢様だったのか。

じゃあ買い物とかはメイドやらがするんじゃないのか?

いや、母親の手伝いと言っていたから何か母の仕事に必要なものなのだろう。


それにしてもこの挨拶に飄々と返すレオはどういう神経してるんだ。



「シノン、この人はシノンの友達?」

「違う。

 断じて違う。

 絶対に違う」

「そこまで言うなよ!

 一緒に遊んだ仲だろ!」



あれで友達になれるなら誰でもすぐ友達だろう。

いや、この世界には学校とかなさそうだし、遊んだり集まったりの機会があったらすぐ友達認定されるのか。


して、ここをどう切り抜けたものか。

何かレオから離れる理由がなきゃついてくるからな。

仕方ない、つけ込むようで悪いが使わせてもらおう。

俺はエルフェリアの持っている荷物を持ち、彼女の横に並んだ。


「悪いけど僕は今からエルフェリアと予定があるから」

「え!?」

「ごめん…合わせて」



俺の意図を察したエルフェリアは慌てた様子で俺に賛同し出した。

ごめんエルフェリア、でも仕方のないことなんだ。

今の俺はレオと離れるなら何だって使う。



「えーそうなのかよ。

 あっじゃあさ!」

「「?」」



何かを思い立ったかのようにレオが明るい顔で人差し指を立てた。

嫌な予感を察し、俺の顔が引き攣っていく。



ーーー



さぁ私たちは今どこにいるかと言いますと。

そう、昨日と同じ墓所の隣の森の中でございます。



「どうして、こんなことに」

「これで全員で遊べるな」



俺たちの話を聞いたレオは3人で遊べば良いという結論を導き出し、エルフェリアの荷物運びを手伝った。

そして難なく荷物を運び終わった俺たちはレオに導かれるままここに辿り着いてしまった。


俺は絶望のあまり地面に膝と手をつき、エルフェリアはいまだに状況を飲み込めていなくワタワタしている。



「あの、レオさん私はなぜここに連れてこられたのでしょう?」

「だってシノンと君ってあの後で遊ぶ予定あったんでしょ?

 それなら3人で遊んだほうがいいと思ったからさ」



この世界の文法が上手い人に聞きたい。

これは会話になってるのか?


大体、レオなしの二人で遊ぶって言ってたのに俺も入れたら面白いんじゃねとか思うのは正直言って化け物すぎる。

幼さゆえに自己中心な性格と悪意のなさが罪深い。

俺は懇願するようにレオの方を掴む。



「お前、それ絶対もうやるなよ」

「お、おう」



それにしても、ここに来てしまったからには逃げられないしもう鍛錬を始めるしかないか。

いやでも、エルフェリアもいるし、何をすればいいんだ。



「シノン君はここで毎日鍛錬?してるの?」

「昨日からね。 

 エルフェリアも、やる?」

「やる!私もやりたい!」



俺が恐る恐る提案をしてみると彼女は嬉しそうな顔に変わった。

思ったよりウケがいい。

でもエルフェリアは良いとこのお嬢様、服でも汚して帰ったら親の方からなんて言われるか。



「でもいいの?

 服とか汚したら怒られたりとかは…」

「大丈夫、お父さんたち私に少しは子どもらしく遊びなさいとか言ってくるもん」



俺はその言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろす。

よかった、彼女の家の両親はあまり堅苦しい感ではないようだ。

しかし、エルフェリアがここまで鍛錬に興味があるとは意外だな。



「なぁシノン」

「何だようるさいぞ」

「なんか当たり強くない?

 まぁいいや、その子の呼び方さエルフェリアって毎回言うの長いと思うんだけど」

「確かに、毎回言うのは少し長いか…」



毎回毎回、会話でエルフェリアエルフェリア言い続けるのは流石に疲れる。

もしかして、この世界にも普通にあだ名的なのあるのか?

みんな俺のことシノンって呼ぶから名前は普通に言うものだと。

俺の名前が短いだけだったのか?



「他の人にはなんて呼ばれてるの?」

「えっと、エルフィとか、フィリア、とか」



なるほど、短縮と少しの改変は許されるのか。

ならこの二つのどっちかだな。



「じゃあリアで!」

「まじかお前」



嘘だろ。

さらに短縮するのもありなのか?

ていうか、エルフェリアがん委託で出してくれてたんだからその中から選ぶべきなんじゃないのか?

俺がちがうの?



「シノン君が呼びやすいならそれでいいよ」

「えっうん俺も呼びやすいと思うよ」



いいのか?

本当にいいのか?

この略し方でよかったのか?



「よし、じゃあ早速始めようぜ」

「はぁ、わかったよ

 リア、魔力の扱いについてはどのくらいできる?」

「えっと、身体強化が少しと、探知も少し」



結構できるな。

やっぱり家に結構本とか置いてある感じなのか?

知的な感じはしてたしできる子は違うな。



「何かできるようになりたいこととかある?」

「えっと魔力を飛ばせるようになりたいの」

「魔力の射出か…

 よしやってみよう。

 レオも昨日の復習だ。

 やってみろ」

「あいあい!」



身体強化の流れがスムーズにできるなら簡単にできるはずだ。

見た感じ魔力量もあるし、問題はないな。



「よしじゃあ身体強化の流れで腕に魔力を移動してみて」

「うんわかった」



俺の指示通り、リアとレオが魔力を腕へ移動させる。

二人ともスムーズにできているな。

リアはイメージ通りだ、少し引っ掛かりを感じるが決して遅くはない。

そしてレオ、昨日は射出まではいかなかったもの身体強化は習得していた。

こいつも少しは成長が見えるな。

帰ってから練習したのか。



「そこから固めた魔力をさらに指先に集める」

「はい!」

「おう!」



指先への凝縮もスムーズ。

筋がいい、下手したら俺くらいすぐに追い越すかもな。

レオも凝縮まではできてる。

でも使う魔力が多すぎて今にも破裂しそうだ。



「それを頭の中で指を作って弾く感覚で打ち出す」

「やぁ!」

「はぁ!」



二人が同時に魔力を発射する。

しかし、レオの魔力は発射と同時に破裂し、リアの魔力は飛ばせてはいたが途中で消えてしまった。

二人とも、正反対の課題があるな。



「レオは使う魔力が多すぎる。

 力まずリラックスするんだ。

 リアはその逆、使う魔力が少ないせいで維持がうまくできてない。

 魔力の枯渇を恐れずにやってみて」

「は、はい!」

「了解!」



そこから少しずつ、二人は成長を見せていった。

レオも最初は停滞していたが、リアと教えあうことで急速に上手くなっていった。

二人が自由にやらせても大丈夫なくらい成長したので俺は、魔力探知の鍛錬をしていた。


今日の練習は昨日とは違い範囲を広げるものではない。

二人の前に立ち、発射された魔力弾を身体強化をした部位で防ぐ。

それも目を瞑った状態で行う。


二人の魔力弾の威力はまぁまぁ速い。

秒速とかはわからないが、少なくとも魔力強化なしの動体視力じゃ二発同時は防げないくらいの速さではある。


次は、魔力探知に映った。

これに関しては俺から教えられることは少なかった。

上達もあまりしていないので、コツというコツを掴めていなかったからだ。



「魔力探知の基礎は自分の感覚と魔力をつなげることだ。

 自分の神経を魔力と一緒に広げることで初めて探知ができる」

「なるほど」

「とは言っても、俺はそこまでしか教えられない」

「シノン君も、できないの?」

「でき、はするんだけどね。

 範囲の拡大が難しいんだよ」



もしかしたら、感覚から間違っているのかもしれない。

あれこれしても物事ごとが上手くいかないのならまず根本から疑うべきだ。

ピントを合わせる、以外のいい感覚はないものだろうか。



「私は、絵を描く時の感覚に似てると思うよ」

「絵を描く?」

「うん、輪郭を作ってその中を作っていくイメージ。

 シノン君はさ多分全体を一気に見えるようにしようとしてるんだと思う。

 一箇所一箇所やっていった方がやりやすい、と思うよ」



リアは熱心に俺に教えてくれる。

確かに、俺は全体を一気に見通そうとしていた。

戦闘では全体を一気に探知したほうがいいだろうが、それはまずできるようになってからだ。



「ありがとうリア、試してみるよ」



俺たちは三人で座り、目を瞑ってから魔力を展開した。

レオは小さめの範囲で挑戦しリアは俺と同じよう、範囲の拡大に挑戦した。


俺は範囲を25mに拡大しリアに言われたことを実践する。

絵を描くように、一気にではなく段々と…

今まで不明瞭でぼやけていた部分がはっきりとしていく。

数秒後、俺は拡大した範囲も全てが探知できていた。


すごい、リアの言う通りだ。

これならさらに範囲を広げてもいけるんじゃないか?

俺は感覚を掴み、これを忘れない内にとさらに範囲を広げる。


そこから俺は5m刻みで範囲を広げていった。

範囲を広げるにつれて一気に探知できる範囲もどんどん広がっていった。

そして俺は鍛錬に没頭し時間が一瞬にして過ぎていった。



「ん、ノン君、シノン君!」



没頭し過ぎた俺の思考はリアの呼び声によって引き戻された。

引き戻された瞬間俺の体はレオによって激しく揺らされた。



「シノン起きろー寝るなー」

「起きてるし寝てないっ!




俺は座ったまま俺の体を激しく揺らすレオを腕を掴んで投げる。

全く、優しく起こしたりできないのかあいつは、



「僕、どのくらい集中してた?」

「かなりだね。

 私たちも途中休憩してたけど、シノン君多分してなかったでしょ?」

「あー、うん」



魔力とか剣術になると夢中になっちゃうのどうにかしなきゃな。

しっかし、かなり上達したな。

最終的に75mくらいは来たんじゃないか?



「リアたちは、上達した?」

「うん、私も25mくらいはできるようになったよ」

「俺は15mもできるようになったぞ!」



リアの初期値を把握してなかったから彼女の成長度合いはわからないけど、レオは一日で15mか…

魔力探知に関してのセンスは結構あるのか?

そういえば、五感が鋭いとか言ってたな。

もしかして身体的な能力も魔力の操作では関係あるのか?



「そろそろ、昼時かもう解散にする?」

「それなら持ってきたご飯食べる?」

「俺食べたい!」



まるで予想していたかのようにリアは置いていた少し大きめのバスケットを持ってきた。

元々作ってたのか?

いや、家に寄った時に渡されたのか。



「これ、お母さんに渡されてきたの。

 近くに草がたくさん生えてる場所があるからそこで食べましょう」

「やったー俺ほんとお腹減ったよ」

「確かに、俺も疲れたな」



リアの案内の元、俺たちは一度森を抜け階段を登り、近くの草が生い茂る街が少し見通せるほどの高さの公園?のような場所に着いた。

森の中ではあまり光が入ってこなかったため体に注ぐ光が心地いい。



「この近くにこんな景色がいいところがあるなんて知らなかったな」

「私のお気に入りなの」

「いい景色!」



柵から的を眺めるレオを置いて、俺とリアは彼女が持って来た大きな布を地面に敷いた。

バスケットの中にはサンドイッチや、果物といったthe ピクニックのようなセットが入っていた。



「これ私も作るの手伝ったの」

「うんすごい綺麗に作れてるよ」



サンドイッチはとても綺麗に切られているし中の具材もバランスよく入れられている。

彼女が日頃から家の手伝いをしているのがよく伺える。

俺は街を眺めているレオを呼んで座らせた。



「それじゃいただきます」

「いただきます」

「いただきます!」



この世界は食事を始めるときに合掌ではなく手を組む。

確か元の世界でもこの食前の挨拶はキリスト教がやっていた。

どこの世界も祈りはこの動作なのだろう。


俺たちは祈りを終え、それぞれがサンドイッチを手に取り、口に運んだ。

一口食べた瞬間に野菜と肉の旨みが口に広がる。

この国特有の香草を使った味付けが俺のしらない味を作り出している。



「リア、これほんとに美味しいよ」

「よかった、こっちも食べてみて」



リアは美味しいと言われたのがよほど嬉しかったのか、バスケットの中からもう一つサンドイッチを取り出した。

サンドイッチを受け取ると俺の鼻は何やらツーンと痺れるような香りを感じた。

もらったサンドイッチを見ると中には少し赤みのかかったソースが入っていた。



「これ、もしかして辛い?」

「うん、あっもしかして辛いの苦手だった…?」



この世界に来てから俺は、辛い料理に全く出会わなかった。

両親が嫌いなのか香草で色々な味を作れるというのに辛い料理は一度もなかった。

その結果、俺はこの国には辛い味付けの料理はないと思っていた。


だがしかし、今俺の目の前にはそれがある。

俺は、我慢できずにサンドイッチにかぶりついた。

チリソースのような酸味と辛味の一体感。

これはうまい!



「っ〜〜〜!」

「ど、どうかな?

 無理しないでいいからね。

 私食べるよ」



俺は凄まじい速度でリアの手を掴んだ。

口に残るサンドイッチを飲み込みリアを見つめる。



「これ、すっごいうまいよ!

 僕辛いの大好きだからさ、こういう味付けすっごい好き!」

「ほっほんと?まだまだあるからたくさん食べてね」



俺は一つ目をすぐに食べ終わり、リアがくれた二つ目を食べ始めた。

その様子をレオはじとっとした目で静かに見つめていた。



「なーんか、俺仲間外れなんですけどー」

「うるさいぞレオ、僕の食事を邪魔するな」

「だから当たり強くね!?」



俺が悪いのではなく、無視してくてもできないレオを忘れさせるほどこのサンドイッチが美味しいのだ。

レオも食べてみればわかる。

絶対に渡しはしないが、バンの端くらいなら分けてやらんこともない。



「全く、二人の世界に行っちゃってさ、俺は除け者かよ」

「そっそんなことないよ、二人の世界だなんて…」



レオの言葉にリアが顔を真っ赤にして慌てふためく。

わっかりやすいなこの子。

父さんが初対面なのにこの子の好意を見抜けたのも納得だ。



「そういえば、シノンは10歳になったら街を出るのか?」

「街は出るけど、なんで10歳?」

「家族から聞いてないの?

 この国はね、10歳になるまでは特例以外は街から出るのは禁止されてるの」



知らないルールだ。

出れる年齢が10歳に設定されてるのは生跡が関係してるんだろうな。

なら俺は残り5年と少しか…



「僕は冒険者になろうと思うよ」

「冒険者か、危険って聞くけど大丈夫なのか?」

「大丈夫にするために、今こうやって鍛えてるんだろ」



悠長に話しているが、俺の成長期ももうそろそろ終わる。

魔力の成長に成長期が関係しているかはわからないが、成長期が終わるのは痛い。

今のうちにできることはやり切らなければ。



「そういえば、二人って何歳?

 僕は4歳だけど」

「私は4歳だよ」

「俺も」



同い年だったのか。

リアはともかく、レオは驚いたな。

正直年下かと。

年上じゃなかっただけまだよかったと思うべきか。



「二人は生跡は宿ってない?」

「僕はまだ」

「俺も、俺の父ちゃんはきっかけさえあればすぐにでも宿るっていってたけどさ、そもそもきっかけがないんだよな」

「きっかけか…」

「でも最終的には10歳までに宿るんだし、気長に待ってもいいんじゃない?」

「シノンは、そうはいかないんじゃないの?」

「そうだな」



街を出ることができるのが10歳なら、俺が冒険者になるのも10歳になる。

冒険者として外に出てから生跡を学ぼうとするのはそれだけで時間の浪費だ。

理想としては3年は生跡の鍛錬に使いたい。


きっかけ、アバウトながらこの世界の人々が信じる生跡への道。

トリガーのように作用し、生跡が宿る。

きっかけに関しても別に詳しく教えられるわけじゃない。

ただ、きっかけは本人の生き方を決める出来事であればあるほど強く作用するとだけ教えられる。



「あっこれ最後の一個」

「私はお腹いっぱい」

「僕ももう十分」



俺とリアに譲られ、レオは最後の一個は食べた。

三人で食べた昼食は案外、楽しかった。



「よし、じゃあ帰ろう」

「えーもうかよ」

「僕はこの後父さんと鍛錬があるんだ」

「シノン君、あんまり無理しないでね」



リアは少し心配そうな顔を上目遣いをしながら覗かせる。

身長差のせいか、なかなかに破壊力がある。

前に玄関で倒れたことを覚えて気にかけてくれているんだろう。



「大丈夫だよ。

 父さんがついてるから無理したくてもできないしね」



こんな軽口を飛ばしながら、俺たちは公園を出た。

帰り道、三人で見る街並みはいつもより多くのことに気付けた。

長い間友達を作ってこなかった俺にはこれはいい経験だったのかもしてない。


途中までは一緒に帰り、互いに別れ地になる噴水のあるいい広間で解散した。

別れた後の気持ちはなんだか、満たされたような気がした。

一息ついたような、何かを手放したような、そんな気持ちがあるのに不思議と悲しく感じない。

気付け俺は足を止め、自分の胸に手を当てていた。


家についてからは少し休憩してから鍛錬を始めた。

剣士になってからは、毎回の鍛錬が実戦とダメ出しの連続で自分の欠点を思い知らされる。

しかし、その分上達も感じている。

剣士と認めてもらったあの日から俺の剣は格段に速く、重くなっていた。



「どうしたシノン、今日はいつにも増して剣の調子がいいじゃねえか」



ふと剣の撃ち合いの途中に父さんが語りかけてきた。

会話を挟んでも父さんの剣は揺らぐことなく正確に、俺へ向かってくる。

だが、この程度はなれっこだ。

父さんは実戦中に会話が多い、それに長年付き合っていればこちらも慣れると言うものだ。



「別に二人と一緒に遊んだだけだよ」

「二人、というと朝の男の子とエルフェリアちゃんか」



父さんは距離を取り剣を置くと、ほぉ〜と感心するように顎を触る。

父さんが剣を置くということは一度中断するということだ。

そんなに俺の話が気に掛かったのか?



「お前に友達か、それに二人も」

「別にもっていうほどの数じゃないよね」

「それにその友達と遊んでくるなんて、父さん嬉しいぞ。

 お前は人付き合いは上手いが友達はつくらないと思ってたからな」



父さんが二人を友達と言った時、俺は自然にその言葉を受け入れていた。

自分でもすぐには気付けないほどに。


それにしても友達が二人できたけでこの喜びよう、失礼ではないだろうか?

そこまで俺って友達居なそうだったのか?

結構ショックなんだけど。



「お前に友達、か…

 それなら渡してもいい頃か」



父さんはそう溢して俺に背を向け家へ歩いていく。

ついて行こうとしたが、父さんにそこで待っていろと止められた。


しばらくして、父さんは一本の剣を持ってきた。

それも木剣ではなく本物の剣だ。

もしかして、今日からはあれで打ち合うとか言い出すのだろうか?

流石にそれは待ってもらいたい。

万に一つでも当たってしまったら大事故だ。

俺が、


これから起こることを想像していると、父さんが持ってきた剣を俺に差し出してきた。



「え?」

「お前にも友達が、守るべきものができたんだ。

 少し早いが、お前にこれを渡そうと思う」

「この剣を僕に?」

「ああ、だがいいか?

 これを使っていいのはあの二人を守る時だけだ。

 鍛錬でも、他のことでも使うのは許さない」



俺は差し出された剣を恐る恐る受け取る。

二人を守るための剣…

これは、父さんにまた認めてもらえたということだろうか。

それとも守ることの大事さを伝えようとしているのだろうか。



「お前がこの先、あの二人を守るためにその剣を使う時、それは自分の手を汚すということだ。

 他者のためにその手を血に染めるということだ。

 忘れるな、その剣は、持つことにも振るうことにも責任が伴う。

 力とは、常に責任がついてくるものだ」



俺の目を見つめ、心に訴えかけるかのように、父さんは一言一言言葉を紡いだ。

人の心からの言葉は確かに心を震わせる。

俺は父さんの言葉に胸の中で宿った小さな火の燻りを確かに感じた。



「はい、この剣に見合う剣士になります」

「よし、それでこそウィットミアの長男だ」



俺の覚悟をみた父さんはニカっと笑い俺の背中を痛いほど叩いた。

父さんの嬉しそうな表情に俺は感じた。

これこそが父さんが俺を一人前と認めるためしなければならないことだったのだ。


力量だけでは解決できない物事は多くある。

元の世界で学力や純粋な力だけではできることに限りがあったように、この世界もそれ以上に大事なものがあるのだ。

それを俺が自力で見つけること。

それができて初めて、父さんは俺を本当の意味で認めてくれたんだと、そう感じた。


何かが明確に、成長したわけではない。

だがこの出来事は俺に真の覚悟をくれた。

俺は、また一つ進んだような気がした。


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