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第三話「出会い」

冬も明け、雪も全て溶け切った頃、俺は一人で街の出ることにも慣れてきた。

心配症の母さんと姉さんの圧に負けて木剣を常に持たされているが、まあ年頃の男の子に見えているはずだから問題はない。


ここの街は美しい。

石造りの建物に大通りに並ぶ露天商、街の中から見ても存在感を放つ大河、確か名前はサリオーン大河だったか?

あの大河がこの国を大きくした最大の理由だ。


この国、ベルウィック王国はリオナス大陸最大の国で大陸中央部に位置している。

五つの代表的な都市がありそれぞれ得意な分野を持っている。

ちなみにこの街は大河を利用した交易で発展した都市、サリオンの一部だ。


交易都市というだけあり露天商には明らかにこの地域じゃ取れない魔物の皮や鉱石まで売っている。

物珍しいものを見ようと露天商をのぞいていると店のおじさんが話かけてきた。



「よう坊主、気になるものでもあったか?」

「はっはい、このネックレス何か特殊な鉱石でも使ってるんですか?

 帯びている魔力が少し変な気がするんですけど」

「まさか坊主おまえ、そんな小さな魔力の差も見えるのか?」

「?はい」



俺の目から見たらまあまあわかりやすい気がするが?

それにしてもこのネックレス、通常の鉱石に宿っている魔力と少し違う。

普通なら鉱石の中の魔力が外に逃げようとしてゆらゆら揺れて見えるのだが、これは球体上のまま全く動かない。



「驚いたな、今いくつだ?」

「4歳です」

「4!?

 嘘だろ…」

「そんなにですか?」

「坊主の年でそこまで魔力が鮮明に見えてる子供は俺の人生の中じゃ見たことがねえな」



なるほど、魔力の見え方って人によって違うのか。

俺はかなり前から魔力を視認する練習はしてたし、そりゃそうか。



「練習のおかげですよ」

「ほー強い子供だ。

 よし、坊主、それやるよ!」

「え!?いいんですか?」



こんなに高そうなものもらっていいのか?

鉱石の透明度もそうだが装飾もかなり凝っているように見える。

主張は優しくそれでいて精巧、素晴らしい作品だ。



「おう、坊主みたいな才能あふれる子供に持ってもらった方が、価値があるってもんだ。

 ほらよ」



そう言っておじさんの首にネックレスを下げてくれた。

俺はおじさんへの感謝を込めて深々とお辞儀をしてから店を離れた。



「ありがとうございます!」

「おう、これからも頑張れよ」

「はーい!」



おじさんの声に振り返り手を振って応えた。

やっぱり俺は、この街が好きだ。


そう思ったのも束の間、遠くから悲鳴が聞こえてきた。



「きゃー!盗人よ!」



声が轟いた瞬間辺りが騒めき出す。

声の方向から前方向の店なのはわかるが人が多くてよく見えない。

こういう時は、魔力の応用だ。


体の魔力を、周囲に大きく広げる。

より広く、より早く。


魔力の応用、魔力探知。

周囲に魔力で作り出した円を展開することでその範囲内に入った魔力を持つ全てを捕捉する技。

でも今の魔力総量だとできて20mが限界。

その中にいてくれ!


意識を探知に集中し怪しいやつを探す。

街の隅々まで探すんだ。

路地裏も、補足できる全てを見逃すな。


…いた!

この先真っ直ぐ、二つ目の路地裏か。


俺は捕捉を完了すると騒ぎで開けた通りを疾走する。

4歳の身体能力といえど俺の魔力操作はかなり腕が上がってる。

瞬時に路地裏まで辿り着き窃盗犯を見つけた。


足に力をため窃盗犯の上を飛び越え跳躍する。

突然目の前に来た少年を前に窃盗犯は足を止めた。



「盗みはダメだよ盗人さん」

「っち、ガキが邪魔すんじゃねえ!」



追い詰められたことに焦った男はおおきく振りかぶって殴りかかってきた。

腰も入ってなければ大振り、完全に素人だな。


俺は持たされていた木剣を抜いて相手の足を剣で払ってから跳躍し、首元に剣を振り下ろした。



「ガハッ!」



星神剣の基本の動き、相手の疎かになった部分を崩しそこから決める、一連の流れだ。

相手が素人で良かった。

もし剣術の心得がある者なら危なかった。


俺が相手が起きて逃げないように上に乗っかって抑えていると追いついた大人たちが向かってきた。



「大丈夫か少年って、え?」

「あっこっちです」



大人の応援に俺は窃盗犯を指さし捕らえたことを主張した。

大人たちは状況が飲み込めないらしく目を擦ったり頬をつねったりしていた。



「これ、君がやったの?」

「はい見つけたので」

「怪我は?」

「ないです」



まずい、見てくる人の目が痛い。

やめてその未だに信じきれないけど驚きが滲み出てる顔、複雑なのはわかるけど。


この空気も耐えられないし、盗まれたものを返して去ろう。

俺は窃盗犯のポケットから取り上げた盗品を差し出した。



「これはどなたのものですか?

 鉱石の入ったブレスレットなんですけど…」

「私の、私のです!」



そう応えながら人混みをかき分けて出てきたのは同い年くらいの少女だった。

綺麗だと、初見でそう感じた。


綺麗なナイトブルーの髪に凛とした顔立ち、癖毛を活かした短めの髪、女子にしては少し低めな声が合わさりその容姿で早くも大人っぽさを醸し出してる。

俺は少しの間、無意識に彼女の顔を見つめてしまった。

じっと見続けられた彼女はだんだん顔を赤くしてバッと俺の手元を指さした。



「あ、あのそれ、私の…」

「え?あっはいこれ!もう、盗まれないようにね。

 君ぐらいの子が一人で外に出るのは危ないから」



見惚れていたところでハッと我に返り、思わず変なことを言ってしまった。

俺の言葉に彼女は俺の全身を見回して見てからふっと笑い出した。



「あなた面白いこと言うわね。

 あなたも同じくらいの歳でしょ?」

「ぼっ僕はほら、あのくらいならどうにかできるし」



周りに大人もいるはずなのに、この空間には二人だけのような気がした。

それほどまでに彼女の笑顔は俺の心に深く刻まれた。



「じゃあ、僕行くね」

「ま、待って!」



一言言って去ろうとした時彼女の声に止められた。

振り返ると彼女は少し頬を赤ながら俺の目を見つめていた。



「名前、あなたの名前、聞いてない!」

「シノンだよ、シノン・ウィットミア!

 またね」



そう言って俺は踵を返しその場を去る。

彼女の最後の一言を聞かずに、



「まだ、私の名前教えてないのに…」

「なるほどあの子、ウィットミア家のこだったのか」

「ウィットミアってタリアさんとこの?」



少女がしょんぼりとしていると周りの大人が彼の正体に納得し出した。

少女は顔を素早くあげ大人たちの顔を見つめた。



「あの子の家、どこですか!」



ーーー



彼女の元を去った後俺は街の端っこまで行き、ランニングを始めた。


父さんとの鍛錬で力はついてきたとはいえ、主に鍛えているのは剣術の腕だ。

このままでは二つのバランスが崩れ、剣術に体が釣り合わない状態になってしまう。

それは避けたい!


そこで俺は本格的に身体能力も鍛えるべきだと考え、街の端まで来た。

これから毎日外出の時間に走り込みを行う。

4歳にしてこのストイックさはどうかと思うが生跡が宿るまでにできるだけ他の完成度を上げておきたい。


幸い、街の端まで来ても街を囲む形で聳え立つ市壁が魔物を中には入れないので安全だ。

壁沿いまで歩きそこから俺は走り始めた。


この城壁は一周はだいたい9kmくらいのはず(城壁一個の長さから算出)。

これを魔力で身体強化をしながら一周一時間以内のペース(俺の体内時計)で続けられるまでやる。


俺の今の身体能力に魔力強化を合わせれば時速10kmくらいは出るはずだからうまく魔力のコントロールすれば長く走れるはずだ。



「はっはっはっはっは」



魔力で肺を強化することで疲労を軽減、足を強化することで走力を強化。

本当はこれをしながら魔力探知もできたら良かったが流石にスキルが足りなかった。


俺の疾走は日の入り少し前まで続いたが、4周で断念。

身体強化に綻びが生じ徐々にペースダウンしてしまった。


今は疲れを取るために市壁に寄りかかって息を落ち着かせている。



「はぁはぁ、流石に初回はこんなもんか」



思った以上に長時間の操作は疲れるし精神力を使う。

後半、うまく魔力を動かせなかった。

身体強化で魔力は消費しないのにこの疲労感…

精神力も鍛える必要があるのか。


足りないものをカバーするために新しい鍛錬をしてるって言うのに、さらに足りないものが見つかったら終わりが見えないな。

俺はバキバキの体を起こし家への帰路についた。

家へ着き、扉を開けると夕食のいい香りが漂ってくる。

帰ったことの報告と晩御飯を見に行くために俺はフラフラとした足取りでリビングへ向かう。



「ただいま帰りました…」



俺の声を聞いた母はいつも通りの優しい顔で俺の方を振り返る。

しかし、いつもと同じじゃない部分が一つあった。

横に、俺の知らない人がいる。


誰だろう?

見覚えがある気が済んだけど、思い出せない。



「そうそうシノン、この子、あなたを待っていたのよ」



そう言って母さんが隣に立っている女の子の背中を優しく押す。

疲労視界がぼやけていてよくわからない…



「あ、あの昼間はありがとう。

 あのブレスレッドお母さんからもらったものだから、あなたが取り返してくれた時すごい嬉しかった」



ああ、昼間のあの子か、そういえば俺の名前は教えたけど彼女の名前は聞いてなかったな。

それできたのだろうか?



「昼間の、あの子か…ごめんちょっと、あとd」



言い切る前に俺は倒れてしまった、

どうやら、思った以上に体は疲れていたらしい。

俺の意識は疲労の海に落ちていった。



ーーー



窓から差し込む星あかりで、俺は目を覚ました。

…見たことある天井だ。

ここは、俺の部屋か、てことは、今ベットにいるのか


状況を確認し起きあがろうとすると俺の頭は何かによって押さえつけられた。



「まだ起きちゃダメ」



声の方向を向くと俺の頭を抑える、彼女の姿があった。

彼女は椅子に座って俺の部屋に置いてあったであろう本を読んでいた。



「君、何してるの?」

「エルフェリア」

「?」

「エルフェリア・シルウェーヌ、私の名前」



そっか、やっぱり名前聞き忘れてたからだったのか。

…それだけで家にまで来たのか?


それにしても綺麗な顔だな。

月の光でよく映える。

大人になればもっと美しくなるだろう。



「そんなにずっと見つめられると…

 私の顔、変?」

「あっごめん、綺麗だと思うよ」

「え!?」



綺麗だと言ったら突然顔を赤く染めてしまった。

姉さんなら普通は抱きついてきたするんだけどな。

こういうのが正解じゃないのか?


顔を赤くしてワタワタと挙動不審になるエルフェリアは目についた本を一冊取り自分の顔を隠した。

そして、隠した本の裏からチラッと顔を出してくる。



「ここにある本、全部読んだの?」

「うん、いつか冒険者になってここを出るからそれまでにやれることはやろうと思って」

「冒険者になりたいの!?」



驚きと興奮を孕んだ様子でエルフェリアは身を乗り出し顔をずいっと近づけてきた。

俺は一気に縮まった距離に驚き後退してしまう。



「冒険者ってすっごい危険な仕事なんでしょ?

 お父さんが言ってた。

 冒険者として名を残せるのは真の強者だけだ!って」

「そ、そうらしいね」

「冒険者を目指してるからシノン君はあんなに強いのね」

「いや、僕はあんまりだよ」



俺の言葉によくわからないという様子でエルフェリアは首を傾げる。

彼女から見たら俺は十分実力があるように見えるんだろう。

俺は机の上に置いてあったもう一冊を取って彼女に渡す。



「この本は?」

「英雄譚、俺は彼らみたいになりたい。

 そのためにはこの程度の力じゃ足りないよ」



実際、世に名を残した英雄たちは最低でも単独で竜の群れを壊滅できるレベルの力を持っている。

今の俺では竜一匹にでさえ到底勝てない。



「エルフェリアは何か夢とかないの?」

「私は、まだないかな」



まあ、この歳からあるのは少し早いか。

俺は他の年代の子に比べれば生き急ぎすぎているのかもしれない。



「そういえば、もう夜だけど帰らなくていいの?」

「あなたが起きたら帰るってあなたのお母さんに伝えてあるわ。

 私のお母さんは最悪泊まってこいって言ってたしね」



彼女との話の時間を過ごしていると部屋のドアが開き、母さんが顔を覗かせた。



「シノン起きたのね」

「うん、今さっきね」

「エルフェリアちゃんありがとうね」

「いや、私も話せて良かったです。

 それじゃ私はここで」



エルフェリアは立ち上がり帰る準備を始めた。

その彼女を制止するように母が手を伸ばした。



「泊まっていってもいいのよ?

 もう外は暗いし」

「いえ、長いし過ぎるのも悪いので」

「そう?ならあの人に送ってもらおうかしら」



話しながら二人は部屋を後にした。

しかし、エルフェリアがひょこっと扉から顔を出してきた。



「シノン君、またね」

「うん、また」



そう言って手を振る彼女に俺は手を振り返した。

手を振り返された彼女は少し嬉しそうな顔をして部屋を後にした。


彼女が完全にいなくなったかを注意深く確認する。

いなくなったことを確信した俺は、彼女の前で装っていた平静を崩した。

体中から疲れがどっと溢れだす。

俺は疲れのままにベッドに再び倒れる。



「あーきっつ」

「無理な運動はするものじゃないぞ」

「いけるかなって思ったんだけどね…!?」



俺は動かない体の代わりに首だけを動かし声の方を向いた。

父さんがいた。



「エルフェリアを送りに行ったんじゃないの父さん!」

「あの子はうちのご近所さんだ。

 送るっつっても家の外から見送るぐらいの距離だぞ」



まじかよ。

そんなに近い家の子だったのか。

そりゃ会いにくるか。



「お前、あの子とどこで知り合ったんだ?」

「知り合ったっていうか…」



父さんが俺の元まできて椅子に座る、

俺は父さんにエルフェリアとの出会いを一通り話した。

父さんだんだんニヤニヤし始め普通に話すのがちょっと嫌になってきた。



「なるほどな、そりゃお前、一目惚れだろう」

「どうしてそうなるの父さん」

「考えてみろ、街中で助けられた少女がその場のお礼だけではなく、名前を聞いてなkったという理由だけで家にまでくるか?」



それは俺も思った。

たとえ助けられたことに恩を感じていたとしても名前を聞くためだけに家にまできて、そしてその人の帰りまで待つなんて普通はない。


そう考えたら、父さんの言っていることも普通にあるのか?

でも生まれてこの方、前世でも恋愛なんかに触れることはなかったしな。

バレンタインにチョコをもらったりはあったし、初対面の女子になぜか話しかけられることもあった。


でも、恋愛というものの経験は一切ない。

ここは、結婚という恋愛の終着点にいる父さんの意見を信じるべきなのかもしれない。



「まあ、今はそういうことにしとくよ」

「なんだお前、いじりがいがないな」

「息子の恋愛をネタにしないでよ」



俺が恥ずかしくなって慌てふためくのを期待していたのだろう。

だが、残念なことに俺の精神はもう21歳になっている。

そこに義務があってももう拳で抵抗できる年齢だ。

子供扱いは効かない。



「それはそうと、なんで気絶したんだ?」

「走り込みの時に魔力操作をずっとしてたら疲れて倒れた」



父さんは呆れたと言わんばかりに頭を抱えため息をこぼす。

まさかそんなに体に負担がかかるものだったのか?

魔力操作を長時間するのは人格に影響が出るとか?



「俺は時々、お前」のそういうところが怖くなるよ」

「そんなに僕おかしいの」

「当然だろう。

 普通の子供は魔力操作もあまり上手くなければ、剣術も三級止まり、気絶するまで走らない。

 明らかにお前は異常だ」



まあ確かに、焦っている節はある。

生跡をいつ得るのかがわからないせいでより早くあらゆることを俺は身につけようとしている。



「俺は放任主義だ。

 別にお前がどう生きようと悪事さえ働かなければそう口は出さない。

 だが、お前はもう少し普通の子供として生きるべきだと最近感じている」



机に立てかけてある俺の木剣を撫でながら父さんはそういった。

いつもは対等に話しかけてくれる父さんは今は家族の父として話しかけてくれている。

普通の家庭を持たなかった俺でもタリアは立派で良い父親だとわかる。


だからこそ悲しく思う。

父さんは本気で俺のこの先を案じている。

その思いを切らなければならないのはとても残念だ。



「ありがとう父さん。

 でも、ずっと夢見てきたんだ。

 俺はもう、諦めたくない」



…初め、息子に抱いたものは期待だった。

俺の教えたことをそれ以上にして身につける息子は俺の誇りにもなっていた。

人との関わり方もうまければ、自信を棚上げすることもない。

時には冗談も言ってくれる。

俺には、できすぎた息子だと。


あの日、シノンの夢を知った時、本当は少し乗り気じゃなかった。

それでもあいつの目に魅せられてしまった。

その瞳の中にある覚悟に動かされてしまった。


シノンの成長が嬉しく、そして少し怖い。

夢のために生きるお前は今、他のものが見えていないんじゃないかとも思った。

そのまま夢に人生を使い続けて叶わなかった時、お前がどうなってしまうのか、怖くてしかたなかった。


でも、そんな心配要らなかったんだな。

お前はもう全てを賭ける覚悟をしてたんだな。

その目が俺にそう思わせるよ。


俺はゆっくりとシノンの頭に手を載せた。

子供の成長は早い、いつかすぐ俺手から離れてしまう。

それまでの幸せを噛み締めていこう。



「はーうちの息子と娘は出来すぎて困るよ。

 アリスはアリスで剣鋭になりそうだしお父さん困っちゃうよ」

「すぐに追い越されるかもね」

「おいなんてこと言うんだお前」

「そう言えば何でエルフェリアはここがわかったの?」

「?そりゃあ俺は有名人だからな」

「これまたご冗談を」

「何だとお前〜!」



俺はシノンの髪をわしゃわしゃと撫で回した。

シノンはやめてよと言いながらも笑顔で笑っていた。


少し(じゃ)れてからシノンの疲れを休めさせるてめにベッドに寝かせた。

シノンをベッドにつけた俺は部屋の蝋燭を消し出ていった。


今日は少しだけ、多く酒を飲もう。



ーーー



起きて感じたのは昨日疲労感からは考えられないほどの解放感だった。

少し筋肉痛はあるけど疲労感は全くない。


いつもの通り窓を開けて空気を入れ替え階段をおりる。

リビングで朝ごはんを食べ、二回に戻り本を少し読んでから父さんとの鍛錬と言いたいが昨日のことがあったので今日はなしと言われた。

解せぬ。


まあ無理をしてまでする鍛錬で得られるものは少ない。

今日は休もう。

そう決めた俺は今街の中にある墓地近くの林で魔力出力の鍛錬をしていた。


一撃の魔力を増やしたり、速度を上げたり、継続発射にしてみたり、色々試してかなりの慣れを感じてきた。



「そろそろレベルを上げるか。

 発射口を二つにするとか?」



思い立ったらすぐ実行だ。

俺は指を二本出し指鉄砲を作る。


ホースを二つに、いやそれだと威力が下がる。

蛇口に繋ぐホースを二本にするんだ。

そして同時に、発射!


指先に込めた魔力が二つ、同時に射出される。

目標の木にぶつかりその弾痕はしっかりと二つ残っていた。



「おおやっぱり出来たぞ!

 この調子でいけば一気に十個ぐらいもいけそうだな」



最初はあまりなかった魔力も成長と鍛錬によってかなり増えてきた。

今の総量を街の通行人と比べてみたが騎士団員のざっと二倍くらいはある。

なぜここまで爆発的に増えているのかはよくわからない。

成長期だからだろう。


さて出力の鍛錬はこのくらいにして、次は魔力探知の鍛錬だ。

魔力探知の練度は魔力操作の精密性に依存している。


昨日の俺は20mしかできなかったがもっとできるはずだ。

範囲を広げれば認識度が下がっていく。

ならどうすれば認識度を損なわず範囲を広げられるか、それはつまり慣れだ。


段々とピントを合わせていくかのように魔力の展開範囲に感覚を合わせていく。

ここからは少しずつ増やして慣れていこう。


林の中心にまで移動しそこから展開、探知が少しぼやけるくらいの範囲になったら止めてその範囲で慣れるまで繰り返す。

今の限界は22m、集中してる状態ならこれが限界ってことか。

とりあえずは目標を50mに設定してやっていこう。



ーーー



「…全っ然出来ねえ」



あれから結構な時間繰り返してるのに感覚を掴むどころか変化すら感じない。

全くどうしたら良いんだ。

あの本出鱈目書いてるんじゃないだろうな。


いや落ち着け、めげずにやることこそ成長に秘訣だ。

一日で成果が出るなんて甘い期待がいけないんだ。


俺は心を入れ替え再度魔力を展開した。

すると俺の後ろに何かの気配を感じた。



「誰だっ!」



俺はすぐさま振り返り探知した方向に魔力弾を飛ばす。

魔力弾は数秒飛んだ後音を立てて何かに当たった。



「いって!」



…?

人の声がした。

俺は慌てて声の方へ駆け寄った。


そこいたのは痛みで悶絶しながらおでこを抑えている少年だった。

金髪の同い年くらいの少年、彼はオーバーリアクションすぎるくらい地面に転がりのたうち回っている。



「えっと、君大丈夫?」

「これ見てそれ言ってるぅ!?」



すっごいうるさい。

自分でやってしまったことの申し訳なさを消し去るぐらいうるさい。

この歳の男児ってこんなうるさいもんだっけ?

姉さんよりうるさいぞ。


そして少年は一頻り(ひとしきり)騒ぎ終わると飛んで起き上がった。

見た感じ魔力での身体強化をしていないのになんて起き上がり方するんだ。

運動神経がものすごいな。



「あー痛かった。

 あれお前の?何も見えなかったのに急にバーン!ってすごかったやつ!」



起き上がった少年は崩れた髪を掻き上げて語彙力のない質問を問いかける。

そこで気づいた、彼のおでこには二つの突起物、(つの)が生えていた。



「あれは、魔力弾だよ。

 それより君、鬼族?」

「ん?あーいやハーフだよハーフ。

 鬼族と人族のハーフなんだよね俺」



鬼族、種族についての本で見たことがある。

確か、ツクモ之国という日本に似たこの大陸の西側にかなり進んだところにある小さな島国にいると言われる魔族の派生種。



「鬼族、てことはその角も本物?」

「そうそう、どうよ?すごいだろ」



彼は自慢げに俺に向かって角を向ける。

これは触って良いのだろうか?


よし触ろ気になるし。

俺はゆっくり手を伸ばし、彼の角に触れる。



「うわっ!?なに触ってんだよ!」

「あごめんダメだった?」



触れた瞬間彼の体はビクッと揺れ、一気に距離をとった。

一瞬で数m離れた。

やっぱり凄まじいな。



「やめろよここくすぐったいんだからな〜

 んでここでなにやってたんだよ?」

「魔力の操作練習だよ」

「魔力!?」



少年はずいっと顔を前に出す。

いちいち動きも声も大きいなこいつ。



「いいなー俺バカだから上手くできないから羨ましいよ」

「だろうね」

「え?」



あっまずい、つい口に出ていた。

いや、ここまでツッコミどころしかない奴に我慢しろと言う方が酷だ。



「な、何でもないよ」

「嘘つけ!お前だろうなって言ったろ!」



チッ、鬼族の血があるせいで聴力もいいのか。

最近こうゆう出会いばっかだ…



「じゃあ教えてくれよ」

「え?」

「魔力の使い方、教えてくれよ。

 それでバカにしたのは許してやる」



…何と幼稚な。

まぁ、断ればうるさそうだし乗っておくか。



「はぁ、わかったよ」

「よっしゃじゃああれ教えてくれあの透明な弾!」

「あれはまだ早いよまずは魔力を感じるとこから」



見た感じ魔力の量も普通、俺の半分より下くらいか。

でも十分知覚できる量はしてる。



「あっそうだ!」

「何」

「俺ら名前知らないじゃん」



今更か、聞かなくてもいいと思っていたんだがな。

気づいてしまったならしょうがない。



「シノン・ウィットミア」

「レオ・シグヴァルド!

 よろしくなシノン!」



そう言って彼は手を差し伸べた。

よくわからず首を傾げると、さらに手を前に出してきた。



「えっと、なに?」

「握手だろ!

 あ・く・しゅ!」

「あ、あー握手ね」



俺は渋々、手を差し出した。

嫌い、というわけではないんだけどこの感じ少しやりづらい。

こいつの人となりというより、ノリが苦手だ。


そう言えばこいつ鬼族のハーフなのに名前はガッツリ洋風なのかよ。



「よしじゃあ始めようぜ!」

「いいけど、レオはどのくらい魔力使えるの?」

「腕とかにぐーってためたら腕が強くなることくらい?」



何で自分のことなのに疑問系なんだろうか。

とりあえず身体強化は感覚で理解してるのか。



「じゃあ一回腕にそのぐーてやつやってみて」

「おう、まかせろ」



レオが腕に力を入れると段々と魔力が腕に集まってきた。

おっせぇ…



「よしストップ、レオの操作は色々問題が多い」

「え!?」

「まず、力むのいらない。

 魔力の操作っていうのは重心の移動と同じだ」

「ジュウシンのイドウ?」

「いいか、まずは自分の体を…」



そこから俺は説明をしては実践で体に叩き込むのタリア式指南法で習得を試みた。

そして二人の激闘の末…



ーーー



「はぁはぁ、どうだシノン!これならできてると言えるだろ!」

「どこがだ!こんなんじゃ到底実戦で使えるレベルなんて言えねえよ!」



できなかった。

身体強化はスムーズにできたが射出に関しては一切できなかった。

こいつに教えては実戦を繰り返してもう時間は昼のいい時間。

何回教えてもできなすぎて途中から実践じゃなくて実戦にしてやろうかと思うほどにできないこいつ。

俺は呆れを通り越し、いつの間にか口調も気遣った話し方じゃなくなっていた。


…もうやめたい。

このバカに教えるの、もいやめたい。



「もい帰っていい?」

「ダメ!俺まだ完全にできてないんですけど!」

「お前の覚えが悪いからだろ!」



帰る!と言って俺はその場所を離れようとした。

しかし、レオは俺の背中に抱きつき、断固として離れようとはしなかった。



「お前レオ、離れろよ」

「いーやーだーもっと教えてくれよー」



あー面倒くせぇこいつ。

本気で回転したら遠心力で吹っ飛ばせないかな。

いや、このまま家に帰ってれば、どっかで剥がれて帰ってくだろ。


そう、思っていた時期が俺にもありました。

俺は気づいたら到着していた玄関の前で膝をついていた。


ただ着いただけなら本当によかったのに…



「どうしたんだよシノンまさか疲れちゃったのか?」



何でここまできてるんだこいつは!

何で帰りの時間俺の体に張り付いていられるんだよ。



「なぁもう帰ってくれないか」

「え。何で?」

「ここもう家なんだよ!」



俺の訴えにレオは納得したように手をポンと叩く。

そして俺の家のドアに手をかけ、開けた。



「お邪魔しまーす」

「邪魔するな!」



玄関からの声に母さんがリビングから顔を覗かせた。

母さんは玄関を開けたのが俺じゃないことに一瞬驚いたが何かを察したのか俺に問いかけてきた。



「シノンおかえり、そこにいるのはお友達?」

「はいそうです!」

「断固として違う!」



だめだ、うちの家族は絶対にこいつを迎え入れる。

何としても帰ってもらわないと。



「お友達なら、ご飯でも食べてく?」

「いや母さん、今日は挨拶だけしたかったらしくてさ今日はもう帰らなきゃいけないんだよこいつ」

「え、全然そんなことn」



俺は余計なことを言う前に母さんの前から下げドアを閉じた。



「頼むから今日はもう変えてくれ」

「何でだよー

 まだ魔力の操作俺完全にできないじゃん」

「また、明日があるだろ」

「え、明日もあるの…」



あ、とんでもないことを口走ってしまった気がする。

後先を考えずに言ってしまうなんて俺は何てことを…



「とりあえず明日だ明日。

 それでいいだろ!」

「おう、じゃあ明日な!」



説得が完了しレオを何とか家に帰らせることができた。

が、これは問題を先送りにしただけだ。

俺は何とかして明日、あいつから逃げなくては…


明日のことを考えながら俺はドアを開けた。

母さんが一緒に食べなくていいか聞いてきたが俺は無言を貫き高速で頷いた。



これ以上現実を考えると頭痛が痛いため俺は今日はすぐに寝ることにした。

父さんも姉さんも昨日のことが関係していると勘違いして俺のベットから離れなかったので引き剥がしてから寝た。


明日のことは、明日の俺に任せよう。


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