第二話「はじめの一歩」
生まれてからかなりの時間が流れ、この世界にも慣れてきた。
今の俺は2歳、できることも増え不自由もなくなってきた。
言葉を話せるようにもなり、行ける範囲は限られているが外にも自由に出られるようになった。
今もこうして、本を読みながら魔力についての知識をつけているところだ。
「なるほど、魔力を纏うことで体を強化できるのか」
つまり、姉さんと父さんが常人以上の速度で動けていたのは、魔力による身体の強化があったからなのか。
この魔力の扱い方は上手くなっておいた方がいいのかもしれない。
「じゃああの二人を見たら」
今も都合よく剣の鍛錬をしている二人をがいる。
剣術を知るために始めた二人の鍛錬を覗くのはもはや日課だ。
俺は椅子をひょいと登り魔力を目に集中しながら二人の動きを追った。
「おぉ…!」
やはりだ、踏み込みの時に足に白いもやが移ったり、剣が当たる時に腕を通して剣にもやが写っている。
それに目に魔力を集めているおかげでいつもより二人の動きがよく追える。
魔力の存在を知覚したのはこの本を読み初めて初めての実戦の時。
最初は本に書いてある自分の体に重なっている何かの自覚とかいう意味のわからない工程に困らされた。
備考欄を読んでみると、大抵の人は魔力を自覚した時には重なるのではなく魔力が体外に出ている状態なのでこの工程は通らないらしい。
ムカついて本を投げた。
それでも一度感覚を掴むと早かった。
体という器の中にある限られた水を身体中に送ったり一つの部位に集中させたり自分なりの練習をすることで俺の魔力操作はみるみる成長していった。
魔力操作を理解してから俺は窓から見える二人の鍛錬を観察しながら、父の魔力操作に連動するように魔力を動かす練習を始めた。
それに並行して俺はもう一つの練習を始めた。
魔力放出、それは生跡を使う前段階の訓練。
生跡の出力を上昇させるための練習でこれをしているが、これが本当に難しい。
指の先から魔力を固め、勢いよく発射する。
ただそれだけのはずなのに発射の感覚が掴めない。
「はぁ!」
その気迫とは裏腹にポスっと弱々しい白い球が出ただけだった。
俺はどうやら知覚できない感覚を掴むのがとてつもなく苦手らしい。
こうゆうものは感覚で探ってもうまくはいかない。
本をもう一度読もう。
そこから夜まで俺は本を熟読し続けた。
最終的に辿り着いたイメージは、ホースだった。
まず、俺は一つの誤解を抱えていた。
それは出力を増やすには魔力を出す穴を大きくすればいいというものだった。
だが違った。
威力を出したいだけならその穴を小さくすればよかったのだ。
さっきまでの俺の考えで出力を上げるならホースに流す水、つまり一度の放出で使う魔力量を増やさなければいけなかった。
しかし、今の俺のやり方なら出口を小さくすることにより多少大きさは縮むが無駄なく出力を上げられる。
そしてここからは実践だ。
俺は部屋の壁目掛けて指鉄砲を構える。
まずは魔力を指先に集める。
そこからホースの口をつまんで勢いを高めるイメージで魔力を出す穴を小さくする。
そしてそこから出てきた魔力を放出。
「今だ!」
俺は十分に溜まった魔力を指先から放った。
放たれた魔力は最初とは比べ物にもならない速度で飛び壁に弾痕を作った。
「おぉ…これは、人に使っちゃダメだな」
友達との遊びで使いでもしたらとんでもないことになる。
友達はまだいないけど。
これは、一人の時だけにしておこう。
ーーー
俺が生まれてから3年と半年の時が経過した。
そして、俺はこの家の本をほとんど読み尽くしてしまった。
今は机に向かいこれまでに読んだ本の内容を書きまとめている。
俺はいつか、冒険者になり外の世界を旅すると決めた。
そしていつかは夢を叶える。
この夢を再び抱くことができたのは間違いなく、この世界と祖父の言葉のおかげだ。
家を出る時はハグと頬にキスでもして出よう。
でも、ここに来ていい事づくめだった訳じゃない。
元の世界においてきた家族を考えると少しモヤモヤした気持ちになる。
「玲奈、前向いて生きてくれてるかな…」
母さんと玲奈には時々申し訳ない気持ちになる。
玲奈が俺の死を引きずっていないことを願いたい。
「はぁー…」
いやいや、何をしみったれた気持ちでいるんだ!
この世界では夢を叶えるって決めたんだ。
まだほんの内容をまとめ終わってすらいない!
俺は自分の気持ちを叩き直し再び白紙の本に読んだ本の内容をまとめた出した。
本にまとめる内容は単純、俺が冒険者として外に出た時に役に立つ知識だ。
まず種族について、この世界には種族は大きく分けて十種、細分化すると二十五にもなるという。
俺は当然ながら人族、と言いたいところだが両親曰く母が特殊な種族らしいので俺はハーフとのこと。
母は星還族という遥か北の大陸に住む種族らしく、寿命が最低でも1000年はあるらしく今は31歳だという。
俺も500年くらいは生きるのか?
父はよくこの母を捕まえられたものだ。
と思ったが捕まったのは父の方らしく父に助けられた母が猛アタックをしたらしい。
やはり母は偉大なのだ。
他にも、魔族、妖精族、竜族、獣族、虫族、などいるがそれはあってからにしよう。
さっき話に出たついでに大陸についてもまとめよう。
大陸の数は六個だ。
俺たちがいるこの大陸はリオナス大陸といって人族の半数が住んでいる。
そして妖精族、竜族ってのもこの大陸にいる。
「竜族か〜いいなー会いたいなー」
本によると現代の竜族はもはや竜の面影は鱗しかないらしい。
もちろん竜族というぐらいだから馬鹿みたいに強いのだが、それでも遥か昔に生きた古代竜族には敵わないそうだ。
世界中の大陸を回るのも当分の目標だな。
この世界日本に似たところもあるらしいし。
それに気になるのはこれだ。
俺は気になって折り目をつけておいた本のページを開く。
そこには元の世界でもあった名前があった。
「ブリタニア…」
今はもうないこの大陸は元の世界にも存在した。
ブリタニア、架空の伝説アーサー王伝説の舞台にもなる地でブリテンとも呼ばれていた。
まあ現代で言うイギリスだ。
なぜこの名前がこの世界にあるのか…
もしかすると元の世界と関係があるのかもしれない。
それに歴史書に記されているブリタニアに関する分は違和感しかない。
初めて出てくる言葉でも詳細な説明がついていないし、それにブリタニアがもうなくなっているのは理解できたが言い回しがおかしい。
この本にはブリタニアは消えた、と書かれているからだ。
何かの戦争や災害で亡くなったのなら滅んだと書けばいいところを消えた、だ。
明らかに何かある。
両親に聞いてそう言うものだと言われるし、もしやこの記述に関しては何かしらの暗黙の了解があるのだろうか?
「まあ何にせよ自分の目で見たものこそが真実だ」
俺は背中を伸ばすように椅子の背もたれに寄っかかる。
冒険者になって世界中を飛び回れば知識も増える。
その途中でブリタニアのことだっけ聞けばいい。
冒険者になって目的を家を出るためにも、まずすべきなのは一人前として認めれることだ。
姉さん曰く、父さんとの剣の鍛錬は4歳ごろから始まるらしい。
あと半年、今のうちにもっと魔力操作の腕を磨いておこう
ーーー
「シノン、今日からお前にも剣を教える」
「へ…?」
そう思っていたのも束の間、翌日の昼時、俺は父さんに呼ばれ庭で木剣を渡された。
全くわからない。
アリスは、姉さんは4歳から始まったと言っていたのにどうして?
まさか男尊女卑的な思想があるのか?
「アリスが思ったより覚えがよくてな、それならお前もいけるだろうと思ったんだ」
「な、なるほど」
違った、普通にできる姉なだけだった。
期待されているだけだった。
全く、現代人の思考で汚れたこの考えはどうにかしなくては…
「それで、父さん、鍛錬が始まるのはわかったけど一体何をするんですか?」
「シノン、お前隠れて本を読んでるだろ」
俺の方がビクッと反応してしまう。
ヤッベバレてたのか!?
本読んだしてる時の口調元の世界のやつだからバレたら結構詰めれるぞ…
「やっぱりな」
「ご、ごめんなさい」
ここは正直に謝るべきだろう。
何か悪いことだったとしても謝罪をすれば罪は軽くなるはずだ。
「何を謝っているんだ?
お前が学習に熱心なのは嬉しいことだ。
それに正直その歳でそこまで学習する姿勢は褒めるべきことだろう」
「そ、そうなの?」
「ああ、お前は将来立派になるぞ」
父さんがしゃがんでわしゃわしゃと俺の頭を撫でる。
不思議な気持ちだった。
父が俺の頭に触ること、それは俺の中では暴力以外の経験ではあり得ないことだった。
ただ、頭を撫でられただけ。
それなのに俺の心はとても安らいでいた。
「ま、そこでだ。
本を読んでいるなら当然魔力の扱いとかも覚えたんだろ?
お前の部屋にこの前本が転がってたしな」
「う、うん」
「基本的な剣術を教えたらもう実戦に移ろうと思う」
「え?」
いやいや、多少魔力の扱いを覚えていたとしてもそれは子供のお遊びレベルの話だろう!
その程度の練度で実践なんてしてみろ!
…想像したくない。
「でも、僕は剣の扱いは全く…」
「それは今から教えるって言ってるだろ。
まあ、やれば慣れるさ」
一度、やってみるべきか…
経験すらせずに逃げるのはよくない。
剣術の指南には興味もあったし。
「いいか、剣術には流派というものがあって大体の人間が自分にあった流派を使う。
しかし上位に実力者になればなるほど我流になっていく。
つまり、実力の伸びに合わせて独自のスタイルも入れろってことだ」
「なるほど」
独自のスタイル、剣道とかやってたら俺にも我流のスタイルとかああったのだろうか。
実戦を踏まえて欠点をカバーできるスタイルが理想だな。
「父さんはどんな流派なの?」
「いい質問だ。
流派ってのは多くあるが主流なものは五つだ。
人神剣、魔神剣、獣神剣、星神剣、竜神剣この五つが主な剣術だな。
そして俺は人神剣、星神剣、魔神剣の三つだ」
結構多いんだな、名前からして種族ごとに主流なものが違う感じか。
それにしても父さんは三つも流派を習得してるのか。
やっぱりかなりの達人なのかもしれない。
「僕は何を覚えるの?」
「もちろん人神剣だ。
と、言いたいが同時に星神剣も覚えてもらう」
「二つも!?」
二つの剣術を覚えるのは時間がかかりそうだ…
しばらく魔力の鍛錬は中止かな。
「まずは人神剣からだ。
基本的なところから説明していくぞ」
そこから夕方まで俺の鍛錬は続いた。
途中姉さんと母さんが買い物から帰ってきて夕食を作りながら窓から鍛錬を覗いていた。
今は鍛錬を終え一階のリビング?で食卓を家族6人で囲んでいた。
机の上には鴨肉を高そうで包んだ料理といくつかのソースが人数分置かれている。
ここの料理は美味しい。
ソースが多いおかげで味のバリエーションが豊富。
味に飽きることなく食べることができる。
「やっぱり母さんの料理は美味しいね」
「あらそう?
シノンがそう言ってくれて嬉しいわ」
「シノン、この料理私も手伝ったのよ」
「うん、姉さんの頑張りも伝わってくるよ」
「あぁ〜もうほんと可愛いんだから!」
隣の席に座る姉さんが俺を胸に抱き寄せる。
食事中だから危ないというのにこの人は…
「これアリス危ないぞ」
「っごめんなさいお爺ちゃん」
ベタベタとくっ付く姉も祖父の言葉に身を剥がした。
俺としては愛されているのがわかるのはいいんだが妹しかいなかったおかげで対応の仕方がわからない。
「そういえばシノン、剣術の鍛錬を始めたって本当かい?
ちょっと心配だねえ」
「大丈夫だよおばあちゃん。
父さん教えるの上手いんだよ」
俺の言葉に父は鼻を高くする。
実際、父の指南はわかりやすい。
体のどこを、どう扱うかまで細かく教えてくれるため言われたことをやればうまくいく。
そこから体に覚えさせるために反復を行う。
理論、と体験で覚えさせる、しっかりとた教え方の一つだ。
騎士団でも後輩たちからの信頼はそこそこあったのだろう。
「今は漠然と剣術を教えてるが、シノン、お前将来やりたいこととかないのか?」
「僕は、冒険者になりたい」
俺が言い切った途端全員が少し黙ってしまった。
え?もしかして冒険者っていけない職なのか?
そもそも冒険者になると決めてはいたけどこの世界の冒険者がどういうものか俺あんまり知らないぞ…?
「なるほど、冒険者かぁ…」
「だ、だめだった?」
「いや、冒険者を目指すのはいいがお前、それがどういう職なのかわかってるのか?」
「わ、わかりません」
そんなに変な職なのか冒険者って…
もっとドラクエとかにある様なやつだと思ったんだけどな。
「いいか、冒険者というのは過酷な世界だ。
やるクエストによっては危険が伴うし命もかかる。
そこまでして金と自由、そして名誉を追うのが冒険者だ」
「シノン私たちとしてはあなたの夢は尊重したいわ。
ただ、あなたが冒険者として生きる覚悟があるのかそれだけ教えて欲しいの」
冒険者が異端職って訳ではなかった。
なるほど、過酷な世界で生きる上での覚悟を聞きたいわけか。
決して俺が夢見ているような世界でないのは理解している。
その現実に直面した時、俺が諦めずにいられるか。
そういう面も問うているのだろう。
だが、こんな問答は不要だ。
覚悟ならとうの昔に決まっている。
「大丈夫だよ父さん、母さん。
僕は諦めない」
「…そうかならいいだろう」
「あなた…」
「いいじゃないかレディア、ここを旅立つまでにできることを私たちもしてやろう」
「そうよ、シノンの背中を押すのも母としての役目よ」
母は心配性だ。
俺の覚悟を認めても最後まであまり気乗りはしてくれないだろう。
これで母は落ち着いた。
次は俺の横で洪水の様に泣いている姉さんをどうにかしなければ
「姉さん、一生会えな苦なるってわけじゃないんだから泣かないでよ」
「だってぇ、日課の起きる前のシノン吸いができなくなちゃうじゃない!
そんなの生きてけないわ!」
「姉さん今のは聞かなかったことにしておくからとりあえず泣き止も?」
俺が起きる前に何してたんだあこの人…
そういえば起きたら首元が少し濡れてた時があったような…
これ以上、考えるのはやめておこう。
「シノン、冒険者になるというなら剣術の基本を教えてからはペースを上げて教えていくぞ」
「うっうん」
「そうと決まれば今日は早く寝るんだぞ。
明日からはもっときついからな」
今日でさえ結構限界きつかったのにさらにやるのか…
本当に早く寝よう。
ごめんよ本たち、今日はもう触れられなさそうだ。
「ごちそうさまでした」
食べ終えた俺は足早に2回の自室へ向かい。
魔力出力の練習をしてから寝た。
その夜、レディアとタリアが二人で酒を飲んでいた。
「あの子、少し焦りすぎじゃないかしら」
「まあ、そうだな。
だが、それを許せるほどにあいつは才能に満ちてる」
シノンは天才だ。
あの歳で本を読み言葉を流暢に話し難しい言葉すら使える。
魔力の扱いも覚え、剣の習得も早い。
今日の鍛錬だって、あいつは無意識で体の動きに合わせて魔力の操作を行なっていた。
無意識の魔力操作は2年以上鍛えることで習得できる術だ。
俺が本を読んでいるのを知ったのは半年前だ。
それより前は、まずあり得ない。
ならシノンは半年で無意識による魔力操作のできる域にまで達したのか?
俺は息子の出来にため息をこぼしながら頭を書いてしまう。
「俺たちの息子はどうなってくんだろうな」
「アリスもよ。
あの子シノンと離れるのが嫌でついていきそうじゃない」
「…否めないな」
アリスのシノンへの溺愛っぷりは凄まじいからな。
シノンが家を出るとなったらあいつもついていきそうだ。
「その時までには弟離れをさせよう」
「そうね、私たちはあの子たちが立派になれるように育てましょう」
「ああ」
ーーー
翌日の朝食後、すぐに鍛錬は始まった。
宣言通り鍛錬の激しさは増していた。
軽い説明を終えたら他の動きと併用した使い方、対処法を叩き込まれる。
人神剣だけなら良かったが星神剣を同時にやっているのも負担がでかい。
各流派には理念があり、それに合わせた動きと技ありが各流派で大きく異なる。
人神剣の動きはまさに剣術という感じ。
攻守ともにバランスがよく言うなれば万能型の剣。
そして、星神剣は調和と軌跡の剣。
美しくも隙はなく隙を逃さない、流れる様な剣術。
この二つを同時にというのが難しい。
人神剣は硬い動き、星神剣は柔らかい動き、この二つの相反する件を使い分けるのは初心者の俺には難しい。
しかし、甘えは許されず俺は必死に喰らい付いた。
失敗しては起き上がりを繰り返し死ぬ気で体に叩き込んだ。
それが昼まで続いた。
「疲れたー!」
俺は疲れに身を任せ庭の芝生に倒れ込んだ。
汗をかいた体に拭いてくる風が心地いい。
俺の疲れっぷりに父さんがふっと笑いながら横に座る。
「今、父さん俺見て笑ったよね」
「悪い悪い俺も昔師匠との鍛錬の時こうしてたなって思ってよ」
「父さんはどのくらい強いの?」
「難しいこと聞くな、まあまあ強い方だとは思うぞ?」
なんかはぐらかされた気がする。
でも弱いなんてことはないだろう。
この人の剣術は洗練されている。
初心者の俺が一目見ただけで強いとわかるほどに。
俺がジトッとした疑わしい目で父さんを眺めていると。
木剣を目に突き出しながら父さんはこちらを見ずに話し始めた。
「シノン、お前生跡はもう理解してるのか?」
「うん10歳目でに発現するっていうやつでしょ」
「そうだ、最初にも言ったが強者ほど剣は我流に近くなる。
それは生跡にあった戦い方を生み出しているということだ
お前もいつか生跡を手にいれ旅に出る。
多くの戦いを経て自分の戦い方に正解を導き出そうとするだろう
その時に型に囚われた剣術は邪魔だ。
何が言いたいかというと、常に自由な剣を持て、ということだ」
自由な剣、ねぇ…
何百とある手札から最適を選ぶのではなく手札なんぞ持たずにその場にあったことをしろ、ということか。
生跡が俺に宿るまで残り最大で6年、それまでに今の二つは実践レベルにしたい。
俺はバッと起き上がり剣をもって振り返った。
「休憩終わり!」
「もう、いいのか?」
「早く強く何なきゃでしょ?」
「…ハハッ自分でさせていて何だが、お前のような4歳は世界中探しても滅多にいないぞ?」
ここから俺と父さんの鍛錬は日課となり、俺が人神剣と星神剣を習得したのはそれから一年後のことだった。
ーーー
シノン・ウィットミア、4歳の冬。
今俺は父さんとの実戦の鍛錬もとい人神剣と星神剣の習得を認めるための試験を行なっていた。
庭の隅では家族四人が神剣な眼差しでこちらを見つめている。
俺と父さんの間に言葉はなく、互いに構えを取った状態で隙を伺っている。
向かい合い相手の一挙手一投足を感じ取ろうとするこの時間はその他一切の動きを遅くした。
そして一瞬、たった一瞬同時俺と父さんの体に雪が降れ体が反応した。
その一瞬を同時に察知し刹那二人の剣は、ぶつかった。
初手は人神剣、予想通りだ。
俺がどっちの流派でも来ていいようにした。
でもそれはこっちも同じ。
俺は鍔迫り合いになった剣を流し父さんの剣を地面に押さえた。
そして流す時の勢いをそのまま利用し空中で一回転し父さんの顔目掛けて剣を振った。
しかし、父さんは身を屈めて回避していた。
そこから起き上がると同時に切り上げで隙を無くす。
俺はギリギリで受けるが力の差により飛ばされる。
空中に浮いて無防備な俺を見逃さない父さんは一気に距離を積めるが切り上げでのけぞった状態からの加速では足りず俺の着地までには間に合わなかった。
至近距離、互いに片手持ちに切り替えた剣。
そこから始まるのは一つ、星神剣での撃ち合いだ。
俺たちの剣戟は激しさを増すが美しいまるで戦いの中で織りなす舞の様になっていた。
攻撃を出し弾かれればその勢いを使いまた攻撃か防御に移る。
父さんが手加減をしているとはいえ俺もよくここまで動ける様になったものだ。
しかし、この技の出し合い、絶対に油断してはならない。
なぜなら、互いにいつ人神剣に移るかを探っているからだ。
父さんも正確に俺が人神剣に移れる機会をつぶしに来ている。
このままの状況が続けば体格差で負けるのは俺。
そこで、俺は人神剣への移行を諦めた。
思い出せ、父さんの言葉を、自由な剣もて。
その言葉で得た経験今、発揮するんだ!
俺は父さんの攻撃が俺に届くまでの時間で腰を捻り、剣を腰に構えた。
向かってくる攻撃を体の小さな動きだけで避け俺は、居合の構えへ移った。
父さんは俺の構えを見た瞬間教えていない技が来ることを察知し目を見開き剣を盾にした。
俺が知ってる、唯一の剣技。
自由な、剣。
「居合・空撫で」
防御を捨て、足底、剣を持つ右手、剣にのみ魔力を集中した一撃。
研ぎ澄ました速度と攻撃力は防御をの上からでも父さんを大きく退け反らせた。
まだ終わってない!
父さんなら追撃をしてくる!
父さんの追撃を読み俺は素早く振り返り剣を構えようとした。
その時俺の木剣がメキッと音を立て破裂した。
「「え?」」
予想していなかったことに俺と父さんは素っ頓狂な声をあげる。
しかし、すでに父さんの剣は俺の目の前まで来ていた。
当然剣が壊れてしまった俺に防御する術はなく、顔面に思いっきりくらい俺の体は宙を舞った。
「シノーン!!」
あぁ、空が、雪が気持ちい…
肌に触れる雪の感触を感じながら俺はどさっと地面に落ちた。
こうして俺は今世で初めて気を失った。
ーーー
気絶してから俺は割とすぐ目を覚ました。
起きた時俺は母さんに膝枕されていた。
そして横には泣きながら俺を吸う姉さんと、おそらく母さんの拳骨を数発くらい頭にタンコブを作った父さんがいた。
「シノン、起きたのね。
大丈夫?傷まない?」
俺は母さんのあまりにでかい胸で会話している本人の顔が見えないため起き上がった。
「大丈夫、魔力で固めたからあんまり傷まないよ。
ちゃんと起きてるから姉さん離れて、あと吸わないで」
「ダメよまだ補給が完了してないわ」
「そっちメイン目的にしないで心配してよ」
いくら力を込めて引き剥がそうとしても姉さんの顔は離れない。
何でこの人こんなに力強いいだほんと!
俺は引き剥がすのを諦めそのまま話すことにした。
「し、シノン、本当に、大丈夫なのか?」
「大丈夫だって、でも痛かったのは事実だけどね」
「おい悪かったって!」
「冗談だよ」
別に痛みはあったがもう引いているし怒ってはいない。
俺の横で静かに怒り続けている母のことは気にせず笑顔でいよう。
普通に怖い。
「ま、まあ、あそこまでできるならもうお前の習得を認めざるを得ないな」
「ほ、ほんと!?」
「ああ、正直あそこまで動けるの想定外だった。
そして、最後の技。
俺の教えを活かしたな」
最後の技、俺が咄嗟に思いついた技。
日本の剣、いや刀術、居合・抜刀。
あれこそ、俺の導き出した自由な剣だ。
生跡もない俺が父さんの期待に応えるにはアレしかなかった。
今でもそう感じている。
「居合、かいい技を持ったなシノン。
今日からお前を剣術において人神剣、星神剣で一級剣士として認める」
「……へ?
いっ、きゅう?」
「まさかお前剣士の階級制度を知らないのか?」
俺は図星を疲れて顔を背ける。
父のじとっとした目が刺さってくる、痛い。
「剣士の階級制度ってのはいわば熟練度だ。
習い始めは三級、あり程度の技を覚えたら二級、実戦で使うことができて一級だ。
もちろんここから上もある。
上から順に、剣鋭、剣匠、剣鬼、剣聖、剣皇だ」
「そう見るとかなり下だね」
「初めて一年経たずだぞお前、普通は実践レベルにするまでに2年はかかるんだからな。
ちなみに俺は剣鬼だ」
やっぱり、かなりの達人だった。
しかし、まだまだ天井が高くて少し安心だ。
「剣皇までの道は遠いか…」
「言っとくがそこで終わりじゃないぞ」
「え?だって剣皇までしか言ってなかったよ」
「いい具合に区切ったんだよ。
剣皇の上、最上位の使い手は剣の文字の後の極めた流派の名前が入る」
剣人とか剣星とかなと、父さんが霊をあげて説明する。
そこまで、行くには後どれくらいの時間が必要なんだろう。
「先は長そうだね」
「何もそこまでになれとは言ってねえよ。
ま、とりあえずシノン、一級剣士認定おめでとう」
そう言って父さんは座っている俺へ手を差し伸べた。
俺はその手を取って笑顔で起き上がった。
「うん!ありがと父さん!」
俺は今日、この世界に来て初めて夢への一歩を進んだ。
この一歩を大切にしよう。
どんな時も忘れないくらい。