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第一話「夢の続き」

意識が戻った。

少しの間、何もない、虚無のような空間にいたような気がした。


暗い…

ここはどこなんだ?

体の感覚がはっきりしない。

確実に、死んだはず、だよな?

もしかしてまだ生きてて上半身だけの生活に加えて目も見えない生活を送れってのか?

そんなの冗談じゃない!


精神の世界で現実の自分の姿を想像してジタバタしているとそこに光が差した。

真っ暗な海の中に差した陽の光のような、そんな光。


俺はこの光の感じを知っている。

そう思って俺は光に向かって虚無の中を踠きながら進んだ。

やっと手が届いた、と思った瞬間俺の意識は引っ張られるように別に場所に飛ばされた。


何かに弾かれるように飛ばされた意識に感覚追いつくと俺は悪夢から起きたように目が覚めた。

うわっ眩し!

まだ涙が目に溜まってうまく見えない。

くそ玲奈め、瀕死で寝てる俺の上でもずっと泣いてたのか?


手の感覚があまりないので瞬きだけで目の中の水を抜こうと何度も瞬きをする。

瞬きを繰り返す内に視界がはっきりしてきた。

はっきりした視界の中に、四人の大人が映った。


奥の方にいる二人は綺麗な茶髪だ。

見た目から見てもおじさんおばさんの歳だろうか。

年をとっても色褪せていないということは地毛なのか?


それにさっきから俺を抱き抱えているであろうこの人は誰だ?

若いな、それになんだこの薄い青色の髪は。

顔立ちも良いし胸もでかい、芸能界行けるんじゃないかこの人

よく見たら横に立っている男はさっきのおじさんたちより薄いが茶色がかった髪をしている。

しかし、いい体しているなこのお兄さんまだ二十代ちょっとだろうにこの体。

俺も鍛えている方だがここまでではない。

四人ともとてつもなく嬉しそうな顔で俺の方を見てくる。



「ーーーー&%QQ &''(O)(0」

「ーーーーー”%)?*>〜|」



今、この人たちは何て言ったんだろうか?

怪我の後遺症で耳までいかれたのか?


それはそうとお姉さんいつまで、俺を抱き抱えているつもりですか?

意識が戻って嬉しいのは分かるんですけどいつまでも抱いたままってのは恥ずかしいっていうか。

家族もこの状況見たら嬉しさが若干の面白さで薄れちゃうから。

とりあえず降ろしてくださいというために俺は声を出そうとした。



「あー、うー」

「ーーー<?LT $%%('!」

「ーーー”%&$00$!」



!?

なんだ今の声は?

…まさか、喉までいかれたのか!?

いやだ!そんな生き地獄味わいたくない!


心の中で駄々を捏ねているとふと俺の視界に小さな手が映った。

なんだ?隣に赤子でもいるのか?

いやだとしたら絵面がやばいし…


今の状況が飲み込めずにいると俺を抱き抱えていた女性が俺を一度置いて持ち方を変えてから再び抱き上げた。

今度は高い高いでもするかのような持ち方だ。

それをこの人、ニッコニコの笑顔でしている。

人の心はないのだろうか?

半身を失い、後遺症だらけの人にこのリアクションは流石にどうかと思う。


まあこの女性はもうどうでもいい。

今はここがどこかを知らなければ。

そう思い俺は辺りを見渡した。

鏡に、ベット、桶の中に入ったタオル、火を灯した蝋燭。

特におかしなものはないが、ここが病院だとするならおかしい物だらけだった。


首を曲げて見えるところはもう確認できた。

このまま後ろも見たい物だが、生憎今体の自由があまりない。

そういえば、鏡があったじゃないか。

そこから後ろを除けば…

鏡の方を再び向き俺は後ろを確認しようとした。


しかし、そこに俺の姿はなかった。

え?俺がいない?

俺は自分がどこかにいるかもしれないと思い手を動かした。

幸い先程から段々と感覚がはっきりしてきたのですんなり腕を動かせた。

腕を上げ、ぶんぶんと振ってみる。


だが、鏡の中で腕を上下する俺らしき人はいなかった。

鏡の中には腕を上下に動かす赤子がいた。

そう、俺は赤子に生まれ変わっていた。



ーーー



俺が生まれてから一週間が経った。

自分で言ってても辺な言い回しだなこれ。

生まれ変わりと早々に決めつけてしまったが、他の可能性を探っても生まれ変わり以外しっくりこなかった

ので多分そうなんだろう。


真っ白な髪、青い目、幼いうちからわかる整った容姿、前世にいたらモテるだろうな。


あと、わかったこととして、あの茶髪の筋骨隆々の人が父親で青髪の人は俺の両親のようだ。

それが分かると自然と奥にいた二人が祖父と祖母だと理解した。

でも、未だにここがどこなのかがわからない。

石造りの家で二階があるし、それなりに大きいのはわかる。

ヨーロッパだろうか?

それとも、別の世界だろうか?

もしかしたら俗に言う異世界転生という物だろうか!


ま、そんなこと考えても意味ないか。

今は早く環境に順応しよう。



ーーー



さらに一ヶ月の時間がたった。

最近俺の学習(両親にあやされながらここについて情報を集める時間)を邪魔するものがいる。

ほらまた、どこどこと階段を登ってくる音が聞こえる。

バンッと勢い良くドアを開けたその人は俺を抱える母親に近づき俺を抱き上げた。


背丈から見ておそらく6歳ほど。

母親の髪色とは少し違うグレイッシュブルーの落ち着いたイメージを放つ髪にグレーの目。

優しそうで、穏やかなイメージを持たれるであろうこの見た目もこの歳ではなんの意味も持たない。


今、俺を笑顔でぐるぐる自分ごと回転させているのは多分俺の姉だ。

かなりよく喋るし、声も大きいので結構今俺は嫌ってる。

言語がわかればこの鬱陶しさからも解放されるんだろう。


とは言っても言語に関しては簡単な単語なら覚えてきた。

日本語で言うおはようとかおやすみとあるがとうとか、そういう日常で頻繁に使う言葉は段々覚えてきた。

しかし、文章となると話が違う。

文法があったりでややこしくなるのだ。


まだまだ、俺がここになれるのは時間がかかりそうだ。

あとこの姉にも。



ーーー



十ヶ月くらいの時間が経った。

そして、長い時間はかかったが、俺は言語を完全に理解した。

ある程度理解できるようになってから本を隠れて読み漁ったことであっさり習得できた。

あと、俺が二階の空き部屋に入り浸るせいでこの歳にして自室を獲得した。


しかしこの家、かなり本が置いてある。

祖父の部屋に入れてもらった時なんかはすごかった。

壁一面に本があったのだ。

流石にあそこから盗み出すのはできないと思ったので、うっかり忘れて置いて行った本を読むか、寝る前のとみ聞かせの本を抱きながら寝ることで撮られるのを回避した。



「あら、本なんか開いてどうしたの?」



俺は本の一文をトントンと指差した。

わからないところを教えてもらうにはこれが手取り早い。


拙い言葉なら口にはできるが、何せ精神年齢は17歳だ。

思春期の精神に母へに喃語はのだ。


俺があまり言葉を発しないせいか両親は俺の将来を少し心配していた。



『あの子、将来友達とかできなかったらどうしましょう』



母たちのそんな会話を聞いて俺は少しは言葉を発しようと誓った。

それに喉を使っていないといざ話せるようになった時うまく話せないかもしれない。

なので俺は単語を口に出して隠れて言う練習をした。


もちろん一音一音を繋ぎ合わせたような音しか出ないが。



ーーー



さらに半年の時間が経った。

言語を理解し、時々外にも連れ出してもらったおかげで俺はこの場所についてよくわかってきた。

まず、ここは地球ではない。

外に出た時はものすごく驚いた。

何せ行列のようなガシャガシャと音を立てる重厚な鎧に身を包んだ騎士団の行進が横切って行ったのだから。


住んでいる街は栄えている訳でもなく、それでいて田舎、と言う訳でもない。

建物の感じからしてイタリアやフランス辺りのイメージに近いだろうか。

自然と建物がうまく共存した美しい街並み。

俺はすでにこの街が気に入っている。


まあ当然電気系統のものは一切なく、街頭にも日で明かりを灯している。

スマホや、パソコンがないとなると生活は少し不自由に感じるかもしれないが、俺はそんなこと思わなかった。


俺は外を眺めるのを止めとよじよじと床に降りて目の前にある「生跡の全集」という本を開いた。

俺が電子機器よりも魅力を感じたもの、それはこれだ。

この世界には魔力、があるらしい。

そして魔法もある。


しかし、ここではそれを魔法とは言わず生跡と言うらしい。

これがまた俺の心を動かした。

ただの異世界かと思っていたところにこの生跡が舞い降りたことで一気にファンタジーに様変わりだ。

初めてこの本の内容を理解できた時には文字通り声にならない声が出た。


この生跡というのは10歳までのうちに発言するもので個人個人に宿る特有の魔法的なものらしい。

十個の応用があり、使い方の幅も広い。

そして発動には魔力を使うらしくこれがまた面白い。

魔力は身体機能の強化にも使えるので戦闘などの基盤ともなり得るものだ。


俺が真剣に本の内容を整理しているともはや聞き慣れた階段を駆け上がる音が聞こえた。

俺はあまりの速さに本を隠せずにそのまま侵入を許してしまった。



「シノン、お姉ちゃんがきたわよ!」



勢いよく扉を開け俺のことをシノンと呼ぶ女子は俺の姉。

名前は、アリス・ウィットミア。

俺の家族、ウィットミア家の長女にして、絶賛俺の頬と自分の頬を擦り合わせているブラコンだ。



「シノンは今日も可愛いわねー!

 大丈夫、お姉ちゃんが全てから守ってあげるわ!」



赤子の頬を堪能するアリスの顔はこの世の幸せを噛み締めているような顔だ。

そして、一分ほど俺と自分の頬を擦り合わせたアリスの視界に俺の読みかけの本が入ってしまった。

アリアはバッと俺の顔を見てからほんと俺を交互に見出した。



「シノン、この本読んでたの?」



この場合、どんな顔をしたらいいのだろう。

笑えば、いいのと思うのだろう。

何だろうこの悪いことはしていないのに来る罪悪感は。

とりあえずしょぼんとした顔で下を向いておこう。



「まあ、いくら私の弟とは言え流石に速すぎよね。

 じゃあシン、私はお父さんのところに行かなきゃだから、じゃあね!」



来たかと思えば好き放題してすぐ帰って行った。

本当に、嵐のような姉だ。


姉と言えば、家族のことについて説明が遅れたかもしれない。


この体の、いや、俺の名前はシノン・ウィットミア。

ウィットミア家の長男で第二子。

家族構成は祖父のアレイと祖母のリーン

母のレディアと父のタリア。

そして姉のアリスと俺シノンだ。


両親は元々騎士団に入っていたらしく、結婚を機に辞めたとのこと。

今は魔物が出た時の対処をする街の自警団的なものに入っているらしい。


本を読み進めていると、庭の方からカンカンと何かがぶつかり合う音が聞こえてきた。

俺は本を閉じ再び窓に登るための椅子によじ登る。

この数ヶ月、飽きるほど聞いてきたこの音は姉と父が剣の鍛錬をしている音だ。

二人の木剣がぶつかり合い辺りに響き渡る音が鳴っている。


しかし、二人の動きは素晴らしいものだ。

父の方に関しては明らかに達人の動きだとわかる。

この世界に魔法と剣があるのならどちらを取るかは重要な選択になるだろう。

鍛錬が始まる前には決めておこう。


そこから数時間、辺りはすっかり暗くなり部屋を灯す灯りは蝋燭と月明かりだけになった。

今、俺は祖父の書斎で、椅子に座る祖父の膝の上に座り寝る前の読み聞かせをしてもらっていた。


今日読んでもらっているのはこちら、アルファードの魔竜退治。

これまた子供用の本当いうか何というか内容は薄くあまり面白くない。


しかし、この時間がつまらないとは思わなかった。

昔、母に英雄譚を読みきかせられた時を思い出せるからだ。

あの時の俺は毎日のように同じ本を読んでもらっていた。

そんなあの時に、少し戻れた気がして俺は嬉しかった。


全てを読み終え、本を閉じると祖父はゆっくりと語り始めた。



「シノン、世界は広い。

 色んな場所を巡りなさい」



独り言、のようなものだろうか。

幼子に言葉がわかるわけがないと流石にわかっている筈だ。

まあ俺は理解できているのだが。



「そして多くの人を助けなさい。

 お前にはきっとできる。

 いいシノン、この世界は英雄を求めている」



え……?

祖父俺言葉を聞いた瞬間、、前世のあの日を思い出した。

夢を砕かれ失意の底にいたあの日を。


そして、感じた。

今、止まっていた俺の鼓動が、再び動き出したことを。


夢、それは人を動かす最大の原動力。

人は自身の理想のために命を使う。

それを失った者は自分を見失う。

過去の自分がわからなくなってしまう。


前世の俺は、そうだった。

でも今、もう一度夢を見た。

俺はまた、夢へ向かってもいいのかもしれない。

今度は必ず、夢を、なりたい自分を目指して。

進んでいこう。

この世界を。

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