第十七話「迷宮胎動 一」
学校だるいー
都市へと繋がる大きな橋を潜りながらシノンとジャンヌは目の前に広がる景色に目を輝かせている。
白い壁に赤茶の屋根を使った建物が並ぶ街並み、そしてその中で一際、いやそれ以上に目立つ巨大な城はこの都市の象徴として聳え立っている。
「ここがミラーナ…!」
「リスティアの中心ですか」
「前来た時よりかなり発展してるんだね」
ここに来るまでに、ジオにミラーナのことを説明してもらった。
まずミラーナはこの湖の上に浮かんでいるらしい。ではどうやって浮かんでいるのか。
それはかつてこの地に巣食っていた魔物タラスクの魔石を使った技術だ。
本来幾年も湖の上に都市が浮き続けるなんて不可能、では何故それが可能になるのか?
それはまだタラスクが生きていることにある。
タラスクは存在維持が困難になった瞬間、心臓を覆うように魔石を構築した。
当時の学者たちの解析の結果、魔石の魔力を利用して体を再生させようとしていることが判明それを阻止するためにタラスクの魔石を動力にした浮遊装置を設計した。
心臓の鼓動が続き限り魔石への魔力蓄積する。無限に等しい動力で永久に浮遊し続けることでこの都市は成り立っている。
「よく考えてもすごい設計だな」
「ですね」
普通に考えてたら魔石を動力にして都市を浮かせようなんて考えないだろ。
と言うよりかは莫大な魔力生成に追い付けるレベルの消費量がこれしかなかったんだろう。
っと、街を見て回っているが何か騒がしくないか?
シノンは人が幾つかに纏まって何かについて話ている様子にシノンは疑問を感じた。・
たしかに今ミラーナはボルナックとは違った騒がしさに満ちている。
人々が何かに焦りを感じているようなそんな空気が漂っていた。
「空気があまりよくないね」
「やっぱりか?」
「確かに、良くない空気ですね」
ジオとジャンヌさんも同じ空気を感じているみたいだな。
この街の空気はおかしい。賑やかではなく騒がしい。
話す人たちの顔もどこか不安で安心しきれてないのがわかる。
「何か気になることがあるなら、まずはギルドに行こうか?」
「ギルドに?」
「ギルドは情報の集積場さ。大体の事はあそこでわかる。
それに魔石の換金もね」
「そっか忘れてた」
「じゃあ行きましょうか!」
そこから俺たちはジオの案内で冒険者ギルドへ向かった。
道中でも人々はずっと同じ様子だった。
ーーー
ジオがギルドの扉に手を掛け開ける。
ボルナックと違う。シノンは一瞬です認識した。
扉を開けた瞬間にギルドにいる冒険者全員が緊迫した空気が途切れたようにシノンたちの方へ振り返った。
シノンたちを確認した冒険者たちはすぐに自分たちの会話に戻る。
「な、なんだったんだ?」
「一昔前って感じだ。とりあえず受付で話し聞こうか」
シノンはジオの一昔前の規模に頭を傾げながらカウンターへ足を運んだ。
到着したカウンターから奥を見ても、受付嬢たちが慌てて資料を運んだり書いたりしている。
あきらかに様子がおかしい。ギルドだけじゃなく都市自体が何かに備えているのか?
冒険者たちもきっと話していることは同じなんだろう。
少ししか見えなかったが手に持っている紙に書いてある内容が同じだった。
ジオがカウンターのベルを鳴らし、近くにいた受付嬢を呼びつける。
受付嬢は急いで資料を一度机に置いてから駆け足でこちらに来た。
「お待たせいたしました!少々忙しなくて…」
「それは大変ですね。所でなぜミラーナ今この様な状況に?」
「もしや旅の方ですか?それでしたら最初から説明を致しますね」
そう言って受付嬢は先ほど机の上に置いた資料を一枚取って戻ってきた。
そしてその資料をシノンたちに見え易いようにカウンターに置いた。
「今、ミラーナと友好関係にある妖精族が住む常若の森でダンジョンが発見されました」
「なんと、どうりでこの騒ぎなのか」
「「ダンジョン?」」
ダンジョンの一言でジオは理解したようだがシノンとジャンヌは何もわからず首を傾げる。
「ダンジョンとは、簡単に言うと古代の遺跡が異形化したです。
古代からの遺跡で稀に中枢となる場所に強力な魔道具や武器、もしくは巨大な魔石がある場合があります。その場合ですと長い年月で中に入っていた魔力が流れ出し魔物を遺跡の中に生み出してしまうのです」
「それが異形化?」
「そうだねそして冒険者はダンジョンを攻略して元凶ともなった魔道具等を入手ってのが基本だね」
「でも魔力は魔物を生む時に漏出したんじゃないんですか?」
ジャンヌさんの言う通りだ。生物でもあるまいし魔道具や魔石が自動的に魔力を生成できるはずがない。
原理は深く解明されていないが魔道具自体にも魔力がないと効果が発動しないのは立証されている。
装着者の魔力だけではなにも起きない。
そんな出涸らしにも近い物を何故欲しがるのか…
「これがダンジョンの面白い所なんだけどね、ダンジョン内で倒された魔物は魔石が生成されないんだ」
「どうしてですか?」
「元あった場所に戻るからだよ」
「元あったって…そういうことか」
「?」
「遺物自体がダンジョンの核そのものってことだね」
「なるほどそういうことですか!」
そう、つまりダンジョンの魔物は遺物から生成され倒されると魔力は遺物へ吸収される。
そのダンジョンの核となっている遺物を回収か破壊をしない限りこの工程が繰り返されるということだ。
なら破壊が最適解と言いたいところだが、冒険者たちは攻略の見返りとして遺物を欲するんだろうな。
シノンが必死にダンジョン攻略の作戦を考えている冒険者たちに呆れているとジオが資料に一つの違和感を感じ指摘した。
「でもおかしいですね。
発見されてからかなりの時間が経ってる」
「それが…大規模なのと場所が問題でして」
「確かさっき常若の森って…」
「妖精族は交流は良しとしていても武装した人間が大勢来るのにはいい顔しないだろうね。
しかも冒険者は荒くれ者も多い。なんなら噂の数ならそっちのが上なくらいだ。
そんなのが来るとなると…」
「段々状況がわかってきたぞ」
冒険者は今すぐにでも行きたい!でも規模は大きいし妖精族はすぐ許可くれないし行きたくてもいけない!ギルドは冒険者からの圧と妖精族への対応に板挟みでこの忙しさ。
「放置は?」
「絶対ダメ、ダンジョンブレイクが起きる」
ジオが指を交差させて俺の提案を即却下する。
「なんですか?」
「ダンジョンの結界はダンジョンが地下に合って外界とあまり触れていなかったから安定しているんですけど、それが長期間外界と接触が続くと結界が解けてしまうんです」
「おいジオ結界が解ける原理がわからん」
「昔の地上って戦争のせいでどこでも戦場だったからみんな地下に逃げたんだ。
そして戦争が終わると用途に困った地下の居住地を蔵にしたんだよね。
そりゃ蔵だから岩とか木で隠すさ、そして中の構造が朽ちないように結界を張るんだけどその結界設定が外界と触れると効果が弱まるようになってたんだ」
「博識ですねジオさん!でもどうしてそんな設定に?」
「当時あった最低レベルの結界だったからって説が多いね」
「つまりまだ有力な考察はないと」
「その通り!」
やっぱ未解明かよ!
あまりにも説得力に欠ける説ではあるが、歴史を遡れば遡るほど魔力のレベルが上がっているらしいし完全に否定できるわけでもないのか。
それにしてもダンジョンブレイクか…都市中の人が不安そうだったのもそれが原因だろうな。
よし、これでこの都市に来てから感じた疑惑は全て解けた
「じゅあ行こう妖精族の森、常若の森に」
「本気かい?「
「話聞いた感じ、ギルドと妖精族は文通だろ?
効率悪いし話が停滞してるなら尚更時間が掛かり過ぎだ。
じゃあ行こう。たしか妖精族の森は観光なら検問だけで済むんだろ?」
「たしかにそうだね」
あまりにも思い切りが良すぎる計画の作成をシノンとジオが行っている横で、ジャンヌはぽかんと口を開け、受付嬢は目をぱちぱちと瞬きさせていた。
数秒後、受付嬢ははっと飛んでいた意識を戻して音を立ててカウンターを叩き身を乗り出した。
「「!?」」
「なりませんそのようなこと!冒険者様を伝令のようになんて!」
受付嬢の台パンに驚く二人に受付嬢はそんなことはさせないと声を荒げて伝えた。
基本的にギルドと冒険者の関係はwinwinである。
互いが利益を提供し合う。特異な領分で支え合う。それ故に生まれる信頼関係がある。例に漏れる冒険者の少なくないが…
だからこそ自身等の仕事の停滞、その改善を冒険者に任せるようなことはギルド職員として許せないものがあるのだ。
しかし、そんな考えをシノンは軽く一蹴した。
「じゃあこれギルドからの依頼ってことで」
「え?」
「僕たちのやりたいダンジョン攻略に繋がるクエストがあるなんて!これは受けるし無いなジオ!」
あからさまな演技を始めるシノン、これに乗れとジオへ視線を飛ばす。
それに感づいたジオはシノンの芝居に乗り出した。
「なんと!それは受けるしかないねシノン!
ミラーナのためにも何として受けるべきだ!」
そしてジオが受付嬢に目線を送る。
自分たちが望んでやろうとしている。だからそちらが何を思う必要もないと、そう伝える視線を送る。
受付嬢はこの演技が彼らの誇張された思いだと理解し、少し考えてから口を開いた。
「わかりました。それではこの依頼をあなた方三名にご依頼します。
依頼内容は妖精族の国王との交渉によるダンジョン攻略の快諾、それでは検討を祈ります!」
直ぐに依頼書をその場で書き、シノンたちに渡す。
「そしてこちらを」
そう言って受付嬢はシノンに一つの羊皮紙の巻物を渡した。
「これは?」
「要求事項に関して書いてある紙です。
そちらを国王様に渡せばこちらの要望は理解していただけるでしょう」
「なるほど、ありがとうございます」
「それはこちらのお言葉です。よろしくおねがいします」
受付嬢の言葉を聞いてすっかりクエスト気分になったシノンは踵を返し、ギルドを出ようとしたがジオの服を掴まれ止められる。
何故かわからず振り返るとジオの手には篠が倒したビュフォンの魔石が握られていた。
ジオがおねがいしますと言って受付嬢に魔石を手渡す。
「君が倒したのに忘れてどうする…」
「早く行きたくて…」
「こちらの魔石はクエストでのものですか?」
「ええ、ビュフォンのです。彼が一人で」
「なるほど…」
そう言ってジオは掲示板に張られていたクエストの紙をカウンターに置いた。
それを受け取って確認した受付嬢はジオの言葉に数秒遅れて反応した。
「ひ、ひとりですか!?」
「まぁ一応」
またこの流れか、ジャンヌさんならまだしも人の多いところでやられると気不味い。
話しはジオに任せて反応だけしておくか。
「お連れの方の手助けはなく?」
「はい」
「僕は傍観、彼女はまだ出会っていませんでした」
「一度冒険者カードを拝見してもよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
シノンは早く終わらせたいオーラを垂れ流しながら受付嬢に冒険者カードを渡す。
受付嬢は受け取った冒険者カードを確認すると目が飛び出るかと思う程見開いた。
「登録が一日前…」
「事実です」
「それでビュフォンをソロで…」
「事実です」
そりゃこの反応になるだろうな。
移動中にジオに聞いたが、ジオは冒険者界隈の中でかなりの害悪魔物として扱われているようだった。
硬化した舌による直撃で即死もあり得る一撃、伸縮する舌を利用した広範囲の薙ぎ払い、体内で作り出した溶解液、俺の時は使わなかったが気門から体内に蓄積させた毒素の排出を行う行動もあるらしい。
全ての行動があらゆるパーティの役割に対応していたり、毒によるデバフを振りまいたりと単純に厄介だ。
ジオはすぐにランクアップも有り得ると言っていた。
あまり実感はなかったが、今目の前で驚く彼女の姿を見れば言っていた意味がよくわかる。
街の人たちが順応していたせいで忘れていたが、他の子どもと比べれば俺は異常なのだ。
「ご希望でしたら、ランクアップの申請も可能ですが…?」
「いえ、結構です」
「いいのですか?」
「そんなすぐにランクを上げちゃ調子に乗りそうなので、あと少しは地に足着けてやってます」
確かに、俺は異常な子供だ。しかしそれは前世の記憶あってこそのものなだけ。
そこで調子に乗ってしまってはいけない。
それに冒険者に重要なのは経験だ。どの世界でも知識はあるだけ力になる。
学ぶことがなくなれば次のランクに行こう。
受付嬢はシノンの言葉に何を言う訳でもなく、ただ黙って引き下がった。
「そうですか。それでは換金とクエストの報酬金を準備しますので少々お待ちください。」
クエストの紙と魔石を持って受付嬢が奥へ消えていく。
その様子を黙って見るシノンをジオはシノンい顔を向けずに言った。
「別にこのレベルじゃランクアップで学べることは変わらないよ」
「心を読むな。それに俺は目立ちたくないんだ」
「シノン君はこんなに強いのに、勿体ないですよ」
「目立ちたがらない英雄志願者か」
二人とも言いたいように言っているが、英雄ってのは何も目立って活躍すればいいものじゃないだろう。
目立つのが目的じゃなく、人を助ける行いが巡って世界に認められるようになって英雄になるものだ。
決して名声から始まって良い物ではない。
シノンがジャンヌの輝きに満ちた視線とジオの何とも言えない生暖かい視線からシノンが目を逸らしていると受付嬢が小さな布袋を持って戻ってきた。
「お待たせしましたこちら報酬金と換金分合わせた物になります」
「「「おぉー!!」」」
受付嬢は持ってきた布袋をカウンターに置くとシノンたちに中身が見えるように開け口をを開いた。
中には当分は路銀に困らないであろう銀貨が入っていた。
シノンたちは想像以上の額に目を見開く。
「ダンジョン攻略の準備にでも使おうか」
「だな」
「そのためにまずは常若の森へ!ですね!」
「そうですねジャンヌさん、直ぐにでも向かいましょう」
「皆さん、どうかよろしくお願いします」
「できるだけ早く戻ってきます。
それじゃあ、行こうか」
シノンたちが動き始めた今、ダンジョンも同じくして胎動を開始した。
ダンジョンの設定むっずいよ




