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第十一話「冒険者ギルド」

旅に出てから数回目の野営、俺とジオは未だ被曝範囲から抜けておらず荒れ果てた森の中で夜を越そうとしていた。

倒れた木の幹を椅子代わりにし、小さな枝を集めて火を起こした。

その周りに二人で座り、道中で倒した猪の魔物グリボアの肉を焼いている。


数日の時間を経ても、心の中で渦を巻く喪失感は止まない。

未だに歩いた道を振り返り、消えた故郷に思いを馳せてしまう。

剣の手入れを行いながら、剣に反射する自分を見つめながら複雑な気持ちに頭を悩ます。

体にできたほとんどの傷は消えたが、心の傷はまだ癒えない。



「やっぱり、すぐには立ち直れないよね」

「…ああ」



旅が始まってからジオは、こうして落ち込んだ俺に声を掛け励まそうとしてくれる。



「ジオはどうして俺の旅についてくるんだ?」



ジオは今更か、と言いた気な顔しながら焼けた肉を俺に取り分け渡してくれた。

肉を一口食べてから、ジオは話し始めた。



「単純に、君に興味が出たからかな」

「俺に?」

「そう、絶望の中、失意の底にいる君は、それでも尚あの時にあの槍を憎むんじゃなく自分の非力を憎んでいた。

 どこまでも自分を好きになれない君が、ある人に似てたからってのもあるね」



そう言うジオは自身の過去を思い出すかのように空を見上げる。

俺が彼に感じていた親近感はこれか…

彼もきっと、過去に友人や家族、大切な人を失ったんだろう。



「似てたから…か。

 その人はどんな人だったんだ?」

「んーまさに完璧って感じだったね。

 彼に任せれば間違い無いって感じの」



そんなに優秀な人と似てるんなんて言われると、少し疑わしいな。

俺と似てるところあったか?

ジオの言葉にピンときていない俺をジオはニヤッと笑い指さした。



「今、そんなすごい人と自分が似てるところなんてないって思ってるね!」

「っ…」

「そこだよ、まさにそこ。

 自分はどれほどの人間なのかを理解していないそういうところが似てるんだ」



自分がどれほどの人間か、ねぇ…

正直、そんなこと考えたことなかったな。

誰かに認められること、求められること、そればっかりに固執してその人から見た自分の姿なんて想像したことなかったな。



「ま、ジオから似てるなら、それは光栄なことなんだろうな」

「謙虚だねぇ君は。

 そうだシノン、君は生跡の技、あるかい?」



生跡の技…応用を使った攻撃のことか。

応用を先頭に織り交ぜながら使うことはできるけど、技っていうほどのものはないな。

粒子剣も粒剣斬も、技というにはインパクトというか衝撃が足りない気がする。



「今のところは、ないかな」

「それじゃ、今から行く街での目標はそれだね。

 自分の技を生み出す!これを目指そう」

「簡単にいうなよ…」



技を作る。

つまりは新しい生跡の応用を会得する。

簡単にいうけど、それはとてつもなく大変なことだ。

基本的に生跡の応用は使える数で術者の格が決まる。

もちろん、これは練度の格付けであって純粋な強さに直結するわけではない。

前例として、生跡の応用が全くできないものが竜を倒したという記録があるくらいだ。


俺は今使える応用の数は結式も含めて具現と結界の三つ。

二つから四つの応用を使えるものは一般術者レベルであり、戦闘への参加が可能なレベルだ。

俺も、現在はそのレベルにいる。

生跡の応用は会得が難しく、個人個人で感覚も異なるため、自身での成長以外にまともなやり方が存在しない。

それ故に、生跡の応用を多く扱えるものは珍しく、練度に見合った実力とセンスを持っている。


大体、一つの応用を覚えるのに所用する時間は一年程度、俺が最後に応用を覚えたのは数ヶ月前、街に滞在する時間を考えても絶対一年はない。

短期間での習得…課題としては、難易度が高いな。

でも…



「わかった。

 これくらいできないと、英雄にはなれないもんな」

「いいね、君のそういうところ好きだよ」



これからの旅の軽い目標を決めながら俺たちは夕食を食べ終えた。

夕食を食べ終え、ジオは先に寝るとのことだったが、俺はどうも眠気が湧かず近くの川に行って剣を振っていた。

記憶にある父さんの太刀筋を真似ようと剣を振るが、届いている気がしない。

父さんなら、もっと鋭く、もっと速かった。

改めて父さんとの距離を実感し、一度汗を流すために川から水を掬い上げ、顔にかけた。

髪から滴る水が川に波紋を生み、水面に映る俺を揺らす。

水面に映る自分を見て、俺は顔をペタペタと触る。



「俺、こんな暗い顔だったっけ…」



前の俺はもっと笑ってなかったか?

これじゃまるで、あの時の俺じゃないか。



「お前も、こんな感じだったのかな。

 玲奈…」



久しぶりに呼んだな。

今でも鮮明に玲奈の笑顔が思い出せるよ。

あの日、目の前で俺が死んだお前は、きっと俺と同じだったんだろうな。

自分のせいで…そう思ってたんだよな。

あいつは強いから、きっと立ち直って生活してるんだろうな。



「兄として、頑張らないとな」



一ノ瀬シンは死んだが、その魂は生きている。

俺はウィットミア家のシノン・ウィットミアで一ノ瀬家の一ノ瀬シンだ。

玲奈にはもう会えないかもしれないけど、俺は兄としての在り方をやめるつもしはない。

姉さんを失ったけど、俺はあの人の弟で在り続ける。



「見てろよ姉さん、玲奈」



そうと決まれば、もっと鍛錬だ!

ジオの目標を達成するためにも、いつもの倍以上やらなきゃならない。

技の開拓に向けて、まずは生跡の見つめ直しからだ!

自分を見つめ直し勢いづいた俺は、夜通し生跡の特訓に打ち込んだ。



「で、そんなに元気がないわけか…」

「うるせぇ〜」



翌日の朝、当然夜通しで剣を振り、生跡を使えば疲弊する。

そんな単純なことも考えずに特訓していたせいで、俺はげっそりとした状態で朝を迎え、旅を再開することになってしまった。

思いの外、生跡の成長が見られたせいか熱中してしまい気づいたら朝になっていた。

久しぶりだ…あんなに朝日で絶望したのは。



「やる気になるのはいいけどね、動きに支障が出たら大変だよ?」



…ぐうの音も出ない!

まぁ、ここら辺の魔物はあの時の大規模な魔力による爆発のせいで一掃されたし、その時の魔力がまだ残っているのか近寄っても来ない。

つまり、ここにわざわざ来る魔物はとてつもなく強い魔物か、知能が低い昨日食べてやった魔物くらいだ。

しかも強い魔物は俺たちが向かっている方向から逆方向に生息しているからよっぽどのことがない限りはあり得ない。



「でも、感覚は掴んだぞ。

 まず、俺の生跡の欠点、それは必要スペックの高さだ」

「スペック?」



そう。

俺の生跡、再構築(ディフトロシア)は非生態物質を分解して粒子に変換する生跡、実際これは普通の生成系の生跡より魔力効率は破格レベルでいい。

それに粒子同士の結合、粒子の魔力強化など、粒子自体の応用力が高いため戦闘での手札は多い。

しかしその一方、脳への負担がでかい。

生成系の生跡は当然生成後に操作が必要になる。

再構築はその負担が大きいのだ。

一度に数百数千の粒子を操ることは脳に大きな負担をかける。

そのため俺は一つ一つで考えることをなくすために粒子同士を結合させて剣や斬撃にして使っているわけだが…



「簡単にいうと、一個体として粒子たちを結合させて作ったものの操作は楽だけど粒子一つ一つを操作しようとすると脳が壊れるってこと」

「なるほど」

「その欠点を補いながら使える新しい技は具現の発展だと気づいた」

「ほうほう」

「そこで考えたのは見に纏うことだ」



昨日の夜試したのは、武器の生成ではなく防具の生成。

全体に纏う形ではなく四肢を覆う装備の上に被せるように纏おうとしたのだが、これがまた難しい。

防具の関節が多いせいで一つの個体として考えても分割して考えなければならない。

これを戦闘で使うのなら俺は纏うだけで何もできないだろう。

使用後にその場から動けない生跡、今の所使い所は一切ない。



「でも、進展はあったじゃないか」

「そうだけど…」

「剣術は順調に成長してるだろう?」



まぁ確かに?剣術は成長してはいるが…

それは記憶にある父さんの動きを模倣しているだけだからな。

必ずどこかで詰まってしまう。

これ以上の早さでの成長を見込むにはやっぱり必死の戦い、これしかないだろう。

それこそ、生跡を発現させたあの時のような…


自身の命が危機に瀕した時の爆発的な成長、体中のリミッターが外れるあの感覚がまた訪れれば、なんて考えてはいるけど、そう簡単には訪れない。



「焦りすぎかなぁ…」

「確かに、君にを急速が必要かもしれないね。

 街に着いたら少しゆっくりしたらどうだい?」



次の街って確か、南に行ったところにある穀倉都市ボルナックだよな?

大陸の下の方に位置する自然豊かな国リスティアの西に位置する穀物の栽培を行っている都市だ。

長閑(のどか)な風景に囲まれた自然の国、確かにゆっくりはd軽そうなんだけど…

この世界やることがなさすぎて鍛錬してないと本当に暇なんだよな。


本でも読みながら過ごすか?

国も違えば本屋や図書館に置いてある英雄譚も違ってくるかもしれない。

なかったなら英雄譚に拘らず他の本でも読むとしよう。

ボルナックについた後の予定を立てていると丘を先に登り切ったジオが丘の上から俺を呼び名がら丘の向こうを指差している。



「ほらシノン見えてきたよ!」

「ほんとか!?」



俺の気分は一気に高揚した。

やっと見えた目的地、最初の国がこの先にある。

俺の足は力を取り戻し、丘の頂上へと駆けていく。



「うおぉー!」



丘を登った俺の目の前に広がるのは視界一面に広がる麦畑、そして畑に囲まれるように中心に置かれた都市、あれがボルナックか。

リスティアの中では最大の規模を誇る領地だが、その大きさは農業のためにあるもの、王都はここではなくボルナックとミラーナの中心にある。

この国は国王の不戦の方針のおかげかこのリオナス大陸で最も安全な大陸と言われている。

もちろんアヴォラーヌもこの国と戦った戦歴はなく、同盟すら結んでいて麦を多く輸入させてもらっている。



「何恥じぬ麦畑の規模だな」

「すごいだろ?

 この都市の麦は一年の収穫量で2年はどうにかできるからね。

 余分な小麦を各国に売ればガッポガッポだ」



ガッポガッポって、言い方嫌だな…

確かに、この規模の畑から毎年収穫するとなるとそれぐらいの利益は普通だよな。



「聞くの忘れてたけど、なんでボルナックなんだ?」



ボルナックを見て感じたが、ここは平和そのものだ。

あまり旅の中で目的を持っていく場所ではない気がする。

森があまりないから、魔物も生息していなさそうだし…

ジオは何か目的があってここに俺を連れてきたのか?



「ちゃんと理由はあるさ。

 なんと、この都市にあるパン屋にものすごく美味しい場所が、」

「真面目に言え」

「はい」



いらない会話が入ったが、ジオ曰く冒険者ギルドに冒険者登録を行うために寄ったとのこと。

冒険者ギルドは世界中の街にあるが登録ができる場所は国の主要都市以外ないらしい。

もちろんサリオンにもあったのだが、あの街はもうない。

最も近い都市がここだったとのこと。



「じゃあ本当に少し寄るだけなんだな」

「そりゃね。

 君も思っていると思うからいうけど、ここまで平和だとつまらないだろ?」

「うん、つまんない」



危険やスリルを求めているわけではないが、こうも長閑だとなんと言うか…物足りない。

俺とジオは平和そのものの麦の道を歩きながら、都市へと向かった。

辺り一面どこを見ても麦が広がっていて、まさに陸の都市だ。

ボルナックと反対にあるリスティアの都市ミラーナ大きな湖を囲む形の都市らしく正反対の自然で栄えたに大都市でリスティアは繁栄してきたとか。

冒険に出てから数日は荒れた土地しか見ていなかったせいか、今はこの景色がすごく新鮮に感じる。

ちなみに都市までは歩いて行こうと言っていた俺たちだったが、景色に飽きたので途中からは荷物を運ぶ馬車を捕まえて、荷台に乗せてもらい運んでもらった。


馬車に運んでもらい市壁を越えると、外の景色とは打って変わって多くの露天商が並ぶ街が広がっていた。

市壁の入り口から、街を一直線に貫く大きな通りは故郷の広間への大通りを彷彿とさせた。



「急に賑やかになったな」

「僕も驚いたよ。

 平和な都市なだけあって人口は多いみたいだね」



俺は大通りの中をかき分けながらジオの案内を受けギルドへと向かっていく。

大通りに並んでいる露天はやはり食べ物系が多いな。

それも穀物を使ったものばかり、あの大規模な畑も国が管理というよりは農業を営む人々が区画を分け、利益を貰いながら管理しているのだろう。

そしてなんと言ってもこの画期の良さだ。

露天の前を通るものなら店主が必ず声をかけてくる。

なんという商売魂、恐ろしい。

そうして人混み揉まれ、時には抗いながら俺たちは冒険者ギルドにたどり着いた。



「はぁはぁはぁ、ついたよ」

「はぁはぁはぁ、そうだな」



あまりの人口密度による移動のし辛さで俺たちは息を切らしたが、なんとか冒険者ギルドに到着できた。

その外観はまさしく思い浮かべるギルドそのものだろう。

白い壁に数個の窓、階段を登って入る扉に茶色の屋根、まさに想像していたギルドそのものだった。

そんな感動も、人混みでの疲労でなくなったが。

俺たちは荒れた息を落ち着かせギルドに入った。

ギルドの大きな扉を開けると大通りにも負けず劣らずの賑やかな声が耳に入った。



「活気がすごいな…」

「いい雰囲気だろう?」

「まぁ、静かよりはな」



ギルドの中は白い壁に木造の机や椅子、窓口や階段の数々が置かれており、多くの冒険者が集い賑やかに話していた。

ギルドにいる冒険者たちは千差万別でそれぞれ持っている武器や魔力、装備が違うが全員に自信やプライドのような堂々といした雰囲気を感じた。


ギルドに入った瞬間に視線が集まるとかじゃなくてよかった。

俺とジオはギルドの窓口まで机と机の間を通り向かっていく。

横切られた冒険者たちもチラッと俺たちを見てからすぐに視線を引っ込めた。

あまり干渉しあったりしないのだろうか?

俺たちは窓口に到着し受付をしている女性に話しかけた。



「すいません冒険者登録をしたいんですけど」

「はい、本日は貴方様のご登録でよろしいでしょうか」



受付嬢の質問にジオは俺を指差した。



「いえ、今日は彼のです」

「かしこまりました。

 失礼ですが、ご年齢をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「10歳です」



俺が受付嬢に年齢を伝えると、ギルドがしんと静まり返った。

振り向かなくてもわかる程の視線を俺は背中で感じ取った。

もしかして、この年齢だとギルドで登録できないのか?

そういえばジオに俺の歳入ってなかったし、街を出れるならギルドにも当然登録できるものだと思っていたが…

すると、背後から小声で話しているのか小さな話し声が聞こえてきた。



「あの子もしかして…」

「ああ、そうだな」

「あの歳で…」



あ〜なるほど理解した。

これは間違いなく家族を失い、これでしか金を稼ぐ方法がない子供だと憐れまれているな。

確かにそれはそうなのかもしれないがちょっとイラつくな。

俺は好きで冒険者になろとしてるんだかた憐れまれる筋合いはない。

心なしか受付嬢の人の表情も慈愛に満ちているように見えるし。

これ以上面倒くさくなる前に釘を打っておこう。



「あの、やりたくてやってるのでそういうのやめてください」

「え!?あ、その…本気、ですか?」

「本気ですよ。

 確かに、家族も故郷も失いました。

 でも、冒険者になるのはもっと前から決めていたことです」



俺は受付嬢の目を見つめて迷いなく答える。

それも後ろでヒソヒソと話している冒険者たちにも聞こえる声量で。

俺の言葉を聞いた受付嬢と冒険者は、すっかり黙ってしまい受付嬢は少し困った様子を見せた。

そんな状況を見かねたのかジオが一度俺を下がらせ前に出る。



「申し訳ない。

 彼は元々英雄願望の強い子供でして、まだまだ若いですが実力は確かです。

 その証拠に彼はサリオンの元騎士団副団長から剣鋭に認められているのですから」

「そっそれは、本当でしょうか!?」



受付嬢は驚いた様子で身を乗り出す。

後ろの冒険者たちも話し声は収まらないが話す内容は明らかに俺を憐れんだものではなくなっていた。

ジオこの野郎、状況をどうにかするためとは言え、俺が話した情報をこんなにつらつらと話やがって…

俺がジオを睨むとジオはこちらに目配せをしてからウィンクでアイコンタクトを取ろうとする。

俺は渋々了承し、溜息を零してからジオの策に乗ることにした。



「事実です。

 なんなら誰かと手合わせして見せましょうか?」

「い、いえ結構です。 

 でしたら登録の方に移らせていただきます」



そう言って受付嬢は一度窓口を離れた。

俺は緊張を解き、手を剣から離した。

なんだ、実力を証明しなきゃいけないと思ってたんだけどな。

でも、まだ疑いの目は解けてないな。

これはもしかして、クエストで実力を証明しろ的なことなんだろうか?

ま、それなら話が早いな。

今の状況への推測をしていると受付嬢が戻ってきた。



「お待たせいたしました。

 それではこちらの紙に情報の記載をお願い致します」

「はい、わかりました」



受付嬢が渡してきた紙には本名、出身国、種族、生跡、などなどの本人と分かるような情報の記載を求められたいた。

俺は貰った紙に従い、サラサラと書いていくが最後の欄でペンを止めた。

希望のクエストランク…これはなんだ?

俺が紙と睨み合っているのを察したのかジオが紙を覗いてきた。



「ああ、クエストランクがわからないのか。

 クエストランクっていうのは危険度的なものだよ。

 したから順にGからSまでがあってね。

 今のシノンだと、いけてFかな」

「それってどのくらいなんだ?」

「うーん道中で倒したルガウルフいたでしょ?

 あの群れがそのくらいかな」



ルガウルフって…ああ、あの狼の魔物か。

言っても普通に雑魚の類じゃないのか?

群れになったところであまり驚異の感じはしないだけどな…

しかし、俺は初心者だ。

先人であるジオの言う通りにして悪いことはないだろう。



「よしわかった。

 まずはそのくらいでいこう」



俺はジオの言う通りに記入欄にFと書いて提出した。

紙を貰った受付嬢は再び窓口を離れ裏に消えていった。

紙に書いていたが、記入したランクに応じてクエストを受けられるようになるらしく、記入したランクより二つ以上上のクエストは受注でいないとのこと。

そして受注可能なクエストランクを上げるには一つ上のランクのクエストを三回達成することが必要らしい。

結構しっかりとした作りだな。

入り口のところでチラッと見えたがクエストの羊皮紙にクエストの報酬金のところに手数料一割と書いてあった。

おそらくだがギルドの収益は各地から集めたクエストを冒険者たちに与え、紹介料としての金をもらうことで利益を得ているんだろう。

まぁ、他にも冒険者から回収した魔物の素材とかも金にして入るんだろうが、主な収益はこれだろう。



「これで、シノンも冒険者だね」

「ああ、こっからだ。

 こっから強くなる」



そう、冒険者になることは言わばスタートラインに立つことでしかない。

これからどうしていくかが重要なのだ。

一つ、また一つとクエストをこなして実力を伸ばしていこう。

これからの決心を固めながら装備のガントレットを握る。

裏から受付嬢が戻ってきた。

窓口に戻った受付嬢は俺に一つの薄い鉄の板を渡した。



「こちらが冒険者登録を終えた人に渡す冒険者カードです。

 こちらはどの国でも身分証として使えますので無くさないようにお願い致します」

「わかりました、ありがとうございます」



鉄の板を見ると、そこには名前やランクなどが書かれていた。

身分証になるのは嬉しいな。

一々手続きをしないでいいのはありがたい。

俺とジオは用を終えたので適当にクエストを選んでからギルドを出ようと決め後ろを振り返ると、大勢の冒険者が俺たちを取り囲む形で待機していた。



「…」

「…」



…何この状況?

なんで俺たち囲まれてるの?

さっきまで静かだったじゃん。

ていうかなんで受付嬢の人は俺たちが背後で囲まれ始めてたのにあんな真顔で接客できたの?

それとも俺たちが振り向くこの一瞬で皆様こんな綺麗な円陣を組まれましたの?



「えっと何か誤用が…?」



俺がそう言うと一人の女性冒険者が前に出て突然俺の手を取った。

女性の手は震えており、状況がわからず動揺していると女性はバッと顔を上げた。



「あなた、私のパーティーに来ない?」

「…へ?」



女性の言葉は皮切りに他の冒険者も口々に俺を勧誘し始めた。



「それなら私のところに!」

「こっちにも」

「俺のところに!」



…わからない。

この人たちなんでこんなに俺を勧誘してくるんだ。

俺が動揺してジオの方を見るとジオは忘れてたとでも言うように説明を始めた。



「シノン、言い忘れていたけど冒険者は基本パーティーでクエストを受けるんだよね。

 そして、君は今パーティを組んでいないし家族を失い旅をする可哀想な才能溢れる子供、つまり…」



最悪だ。

つまり今この人たちは俺のことを憐れんでいるのが少しと、若さに似合わない実力を持っている俺を今のうちにパーティーに引き入れようとしているのだ。

やはりと言うかなんというか、冒険者は自身の欲に忠実なんだな。

嫌いではないが、自分がいざその被害を受けるとなんとも言えなくなる。



「申し訳ないですけど、僕はそこの胡散臭い人と旅をしてるんです。

 どこかのパーティに居続けることはできません」

「シノン僕の説明おかしくない?」



俺の言葉に俺たちを囲んでいた冒険者はがっかりしてトボトボと席に戻っていった。

パーティでのクエストもいいかもしれないが、パーティーに入れば当然単独での行動も制限される。

それはなんとしても避けたい。

俺は英雄になるために各地で偉業を為さなければならないし、世界中を見て回りたいのだ。

俺のこの方針についてきてくれる人がいればいつか自分でパーティを作ろう。

包囲を解かれた俺たちはギルドの掲示板に向かいクエストを探すことにした。



「ジオはどんなクエストがおすすめだ?」

「そうだね、これなんかどうかな?」



そう言ってジオが見せた羊皮紙に書かれたクエストにはラグナベアという熊の魔物一体の討伐と書かれていた。

熊の魔物か…道中じゃ一対一での戦闘が少なかったし有りかもしれないな。

ランクもFだし、俺でも受けれるな。



「よし、これだな。

 初クエスト決定だ」



冒険者としての初クエストを決め、掲示板から羊皮紙を剥がし受付嬢の元へ持っていく。

クエストを受注すると受付嬢からは細長い試験管のような瓶を三本くれた。

なんとクエストを受注した人に無料で回復効果のあるポーションを渡しているらしい。

ギルドはかなり太っ腹らしい。

そうして俺たちはギルドでやるべきことを全て終えギルドを後にした。

クエストに向かうのは翌日、今日は街を回っていいとのことだったので、俺は街を回ってから宿に向かうことにした。



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