人のものを欲しがる泥棒猫の肩を持つ婚約者など、こちらから捨ててやります。
「今日という今日は許しません!
今すぐ、その泥棒猫を王宮から叩き出していただきます」
「またか、ケイティー。
いい加減にしてくれないか。
君はエレーヌが可哀想でないのか?
行き場のないものを保護して、何が悪いというのだ」
「行き場のないものなど、貧民街にいくらでもおります。
私が怒ってるというのに、さっきからイチャイチャイチャイチャと!
往来で人目も憚らず、何ということを!
破廉恥ですわ」
「何を言ってる?
何もしてないだろう?」
「腰に手を置いているではありませんか」
「このくらい普通だろ」
「『普通』ですって?!
殿下の婚約者は私です!
私以外、触れるべきではありません」
「それではエスコートもできないではないか。
バカを言うな。
ああ、ケイティーと向かい合ってると頭痛がする。
その点でエレーヌは癒される。
エレーヌと結婚出来たら、どんなにいいことか。
王族に生まれた以上、結婚相手は自分で決められぬ運命。
なぜ王族に生まれてしまったのか」
「またそうやって、はぐらかして私を悪者にする!
悪いのは泥棒猫と、それを庇う殿下ではありませんか!
私は今までのことを忘れていませんよ!
この前も大舞踏会の当日にドレスをダメにされて」
「あれは君が衣装室の鍵を閉めてなかったから」
「何ですって?」
「ドレスくらい、いいではないか」
「よくありません。ペアで誂える意味がわからないのですか?
不仲だと噂が立てば厄介が増えるのです」
「1度くらいで変わりはしない。
また次のドレスはペアで誂えるから、それで良かろう」
「よくありません!
王子の婚約者として着る舞踏会のドレスが、平民の年収の何倍だとお思いで?
そもそも今だってエレーヌのリボンは、殿下の目の色ではありませんか!
それだって殿下が貢いだんでしょう!
そんなことするから私が『貴族ではないメス猫に、殿下の寵愛を奪われた哀れな令嬢』と言われるのです!」
「はぁ……結婚したら、ずっとこれが続くと思うとウンザリする。
ケイティーも、好きなオス犬を捕まえるがいい。
俺は口出ししない」
「ご自分が浮気するために、相手にもそうしろだなんて正気の沙汰ではありませんよ!
だいたいね、殿下の責任で囲ってるのだから、そこのところはきちんとしてください。
昨日だって私が取り寄せた茶葉を使って作ったロイヤルミルクティー、気付いたらその泥棒猫に横取りされていたのですよ?!」
「何だって?! ちゃんと医者に見せたのか?
気をつけてないとダメじゃないか!」
「なぜ私が、そこまでしないとならないのです?
あ! 言ってる傍から膝に乗せるなど!
もう許せない!」
「おい、何てことするんだ?!
ワインをかけるなんて、どうかしてるぞ?!
もしエレーヌの口にでも入ったら、どうする?!
ああ、可哀想なエレーヌ。酷い目に遭わされて」
「もう結構。
そんなにエレーヌがいいなら、エレーヌと結婚なさってください。
私は婚約者を辞退いたします」
「何をバカなことを言ってるんだ。
猫と結婚できるわけなかろう」
「ミャ~」
□完□