第10話 完全無欠、とか無理だと思います
「いいわ、魔術師の厳しさを教えてあげる。覚悟なさい」
だそうです。
「あー、具体的にどうするんですか?」
「オリジナルの魔術を見せるって言ってんの。それくらい察しなさい」
そりゃすいませんね。
「はあ、ではどうぞ」
「なんかやる気がそがれるわね。まあいいわ、そんな余裕でいられるのも今のうちよ」
凄い自身。
「土よ、撃ち落とせ、【石の弾丸】」
空中の塵を集め固めて石を作り、それを直線に放つ。基本的な土属性魔術、オリジナルでもなんでもない。
「何のつもりですか?」
簡単に避けながら問う。だがアンは笑みを浮かべていた。
「激しき雷よ、我が思うままに、【雷磁誘導】」
その時、避けたはずの弾丸がこちらに向かってきた。だがそれだけなら問題ない、右へとステップをして避ける、が。
「……へえ」
僕が動いた瞬間に弾丸が曲がった。誘導弾の類ならば直前で避ければいい、はず。
「がはっ」
結果、避けられなかった。いや、それどころかまともにくらってしまった。下級魔術だからそれだけでやられはしなかったが、直前で曲がる弾丸を避けるすべを僕は持っていない。
「これがあたしのオリジナル【雷磁誘導】よ。回避不可の追尾弾、『貫通』を付加すれば防ぐことも出来ない。完璧で最強の魔術。これがあたしの真の力なのよ」
ふふん、と自身満々に言うアン。
「で?」
「で?って何よ。いい、リンの負けなの。今のを本気でやれば戦闘不可状態になるでしょ。それとも何、【雷磁誘導】を避けられるとでも言うの?」
「いいえ」
「だったら」
「でも、やられませんよ」
「はい?」
「ですから、【雷磁誘導】では僕を倒すのは難しいと言っているんです」
「何ですって!」
自分の最高の魔術、万物をも破ると自信をかけている最強であるはずの魔術。魔術師のそれを力不足と称すると言うことは、自身が力不足と言われるのと同義である。アンが怒るのは当然とも言える。
「ならやってみなさい。母なる大地よ、撃ち落とせ、【岩の弾丸】」
【石の弾丸】をそのまま強化した中級魔術、さっきよりも大きい弾丸が僕に向かって飛んでくる。
もちろん僕は避ける。
「激しき雷よ、我が思うままに、【雷磁誘導】」
それにより僕へと方向転換する。だが、
「電よ、引きつけよ、【磁場】」
弾丸は僕に当たらずに逸れていった。
「何、で。【雷磁誘導】は回避不可の弾丸を生み出すはず、なのに」
「僕は回避していませんよ。ただ、弾丸が僕を避けただけです」
勝負は、決した。
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「僕は回避していませんよ。ただ、弾丸が僕を避けただけです」
なんであたしが、こんな魔術師としてまともな経験もしたことのない奴に。
「どういう意味?」
「あの弾丸は僕が動いたらすぐに曲がりました。当たるか当たらないかぎりぎりの所でも直撃したとなると、術者が直接操っている可能性は低いです。ということは自動的に相手を追尾するタイプとなり、電属性であることを考えると磁力を利用したものとなります。違いますか?」
「……正解よ」
それはそうだろう。そうでなければこいつは魔術でできた岩にぶつかっていたでしょうね。つまり、嫌味よ、嫌味。
「S極とN極は引き合いますからね。大方、弾丸と僕の服か何かに逆の磁極をかけたのでしょう。そこで僕は【磁場】を使って磁界を作り、弾丸はそちらに引かれたというわけです」
そう、【雷磁誘導】はそういう仕組みになっている。でも、こいつが言ったことにはおかしな点がある。
「あたしがどっちにどの磁極をかけたか分からなければ出来ないじゃない」
そうなのだ、弾丸と同じ磁極の磁界を作ってもそちらに行くことはない。弾丸の磁極がわからなければ避けられるのは2分の1となる。そんな確率に賭けているようではすぐに死んでしまうだろう。
「どちらの磁極も作れば問題じゃないですか」
「何、ですって」
こいつが言っているのは、1つの魔術で2つのことをしたということ。それはまあ、【雷磁誘導】だって2つの物に磁力を与えてはいるが、こちらは【磁場】と違って中級魔術だ。
その上、弾丸を引きつけたということは、あたしがこいつの服にかけた磁力よりも大きな磁力をもった磁界を発生されたことになる。
こいつの2分割した下級魔術の方があたしの中級魔術より上だったのだ(あたしも2分割したが、やはり中級魔術の方が下級魔術より強い、普通は)
それに、【磁場】なんて魔術は【雷磁誘導】対策以外にほとんど意味はない。きっと、即興で創ったオリジナルの魔術なのだろう。
すさまじい魔術センス、あたしの何重にも積み上げた努力が簡単に越えられてしまった。
「凄い威力ね」
「いえいえ、アンに教えてもらった方法があってやっとましになったんですよ。それまではほんとに弱くて」
それは、なおさら才能の差を感じてしまう。
「やっぱり、あたしって才能ないのかな」
「そんなことないと思いますよ。【雷磁誘導】なんて凄かったじゃないですか」
しらじらしい。
「あんたはそれをいとも簡単に破ったじゃない」
「まあ、【磁場】相手でははどうしようもありませんが、それ以外なら使い方をもっと工夫すればもっと」
「だ・か・ら、あんたに、【磁場】に簡単にやられたじゃない。そのじてんでもう【雷磁誘導】なんてダメなのよ!」
「そうですか?」
何を。
「何にも破られない魔術が強い?それは結構ですが、そんな魔術そんなに、というかあるんでしょうか?」
何を言って。
「それ以外が弱い魔術なら、この世界は弱い魔術だらけですね」
何を言っているんだ。
「どんなに強くとも、相性ってものがあるでしょう。弱点のない魔術なんて存在しませんよ」
何を言っているんだ、こいつは。
「少なくとも僕は、アンの【雷磁誘導】は強い魔術だと思いますよ。ただ、今回は相性の悪い魔術が相手だっただけです」
「気休めなんていらないわよ」
「僕はそのような面倒なことはあまり言いません。【雷磁誘導】は単純に強力だと本当に思っています。もっとも、使い方はイマイチでしたが」
「褒めてるんだか貶してるんだか」
「どちらでもありませんよ。自分が思ったことをそのまま口に出しているだけですからね」
「でも」
「別にどうとってもらっても構いません。しかし、あまりネガティブに考えるのはよくないと思いますよ。どうやら、魔術の威力は自信によって大きく左右されるようですし」
「……そう、ね」
何だ、こいつは。この言いよう、完全に上から目線じゃないか。もしかしたら、魔術の他にもっと凄い何かがあるんじゃないだろうか。
しかし、こいつといるのも面白いかもしれない。
「ねえ、今度あたしと一緒に依頼を受けてみない?」
「いいですけど」
見てみようじゃないか、こいつの本当の実力ってやつを。
割と遅くなってしまいました、すみません。
これからも、2週間に1回くらいのペースになると思いますが、なにとぞよろしくお願いします。