第9話 逆切れ、とかってどうなん
「つまり、魔術とは世界の法則に魔力で干渉することによって、一時的に法則を書き換える行為ということになる」
『カジリス』にある『カリア・レーロの即席魔術ゼミナール』に通い始めて数日がたった。
「先生」
「なんだ」
「魔術と魔法の違いってなんですか?」
「魔術と魔法か、では魔法がどういうものか知っているか?」
「えっと、確か昔使われていたものの、あまり使える人がいなかった。くらいしか分かりません」
「ああ、そうだな。何故だと思う?」
「考えられることとしては、かなりの素質が必要だった。あるいは……コストが高い」
「そのとうりだ。魔法は魔術と違い、法則に干渉するのではなく創り出していた」
「どういうことですか?」
「法則を別の空間に創り出し、そこから生み出した現象を世界へと繋げて発生させる。それが魔法だ」
「なるほど、法則を一から創り出し、なおかつ他空間と繋がなければならないとなると、かなりの魔力が必要になりますね」
「そう、連発などそれこそ勇者くらいの魔力がなければ出来なかったんだ」
じゃあ僕にも出来るかもね。
「だから、魔族は後に魔術を開発し、それが人間にも伝わったというわけだな」
「魔族からですか」
「ああ、昔は魔族と協力していたらしいからな」
「へー」
そんな感じでいつも授業をしているわけだが。
「よし、じゃあ今日の講座はこれくらいにして、実技の授業を始めるとするか」
突如、歓声が上がる。
そう、今日から実技の授業が始まるのだ。今のような講座もいいのだが、やはりあの時魔族に言われた足りないものというのも気になる。
そういうことだから、一応僕も歓声を上げておいた。
〓
「では次の組」
今はどれくらいの魔術が使えるかということで、二人一組の模擬戦をしている。
「あたしの相手はアンタ?」
赤毛の少女が話しかけて来た。ちなみに美少女、この世界って美少女率高いな。
「たぶんそうですね」
「そう、あたしはアンジュリーナ・カルレンよ。あんたは?」
「僕はスプリングです」
偽名だけど。
「長いわね。略してスプ、スプリ、ああもう、プがあると微妙ね。もうリンでいいわ」
……そーすか。
「あたしのことは好きなように呼んで」
そりゃー赤毛でアンジュリーナときたら、
「アン、よろしくお願いします」
「なんとなく嫌な気がするんだけど」
「君達、そろそろいいかい?」
「あ、はい」
「え、まだあたしの呼び方……もういいわよ」
そんなわけでアンと模擬戦をすることになった。
「そういえばリンは魔術を始めてどれぐらいになるの?」
「一週間くらいになりますね」
「はあ、なによそれ。ぜんぜん駄目じゃない」
「そうですか?」
「そりゃーそうよ。一週間じゃよくてもヘタな下級魔術が使えるだけでしょ」
「確かに下級魔術しか使えませんし、ダメ出しされましたね」
魔族に。
「でしょう。まあいいわ、折角だからあたしが魔術というものを教えてあげる」
「アンは魔術が上手いんですか?」
「もちろん。こう見えてもオリジナルの魔術式も持っているのよ」
【火の矢】などの一般的な魔術式は、誰でも扱い易いように創られている。
魔術は三過程を得て発動する。その内、形を指定する第二過程は自由度が高い。
そのため、それなりに熟練した魔術師は自分の扱いやすい魔術式を作り、それを使用する。
つまり、アンは結構経験のあるベテランの魔術師ということになる。
「おい、さっさと始めろ!」
了ー解。
〓
「水よ、押し倒す拳となれ、【水鉄砲】」
水流がアンに向かって流れていく。
「電よ、守れ、【電の盾】」
だが、それは電気の盾でいとも容易く破られてしまった。
「うーん。水よ、貫き貫く貫け、【3連水の矢】」
こんどは連射式を加えた水の矢。
「電よ、貫け、【電の矢】」
アンの放った矢は水の矢にぶつかり、何事もなかったかのように貫いて三本とも破壊された。
「へえ、一週間で連射式を使えるなんて、なかなか才能があるんじゃない。でも、それでは連射式を使ってもあまり意味はないわよ」
「どういうことですか?」
「ほら、例えば重い物を押す時には力を入れるでしょ。そのためには力を入れようとする必要だあるのよ。だって、力を入れようとしないで力が入るわけがないもの。そんなんじゃビクともしないわ」
つまり?
「つまり、リンの魔術も同じ。魔術を発動することだけに集中していて、力がまったく入っていないってわけ」
「あー、そういうことですか」
確かにそうだろう。僕は発動するための手順を踏んでいるだけで、魔術自体については意識していなかった。
「では、やってみましょうか。水よ、押し倒す拳となれ、」
魔術の完成後を強くイメージする。いつもの水流を、いや違う、もっと大きく、もっと激しく、もっと強く。
「言われてすぐできれば苦労しないわよ。あたしだって」
「【水鉄砲】」
今回発生した水流は大きく、凄まじい勢いを持っていた。
「なっ、ちょっ。激しき雷よ、我を守りたまえ、【雷の守り】
中級魔術、アンの周りをこれまでよりも強い電流が包み込む。
ザッバーン
アンを大きな水流が襲った。
「ちょっと!いきなり出来るなんてどういうことよ。あたしだってそれやるのにかなり時間が掛かったってのに」
無事だったようだ。さすが中級魔術、僕もそのうち覚えようかな。あー、でも、下級もまだだしな、やっぱだめか。
「そー言われても」
僕にどうしろと?
「いいわ、魔術師の厳しさを教えてあげる。覚悟なさい」
どうやら僕は逆切れされたらしい、なんだかなー。